プルルルル…プルルルルと呼び出し音が鳴り響く、誰に電話を掛けているのであろうか?フランクリンはデスクの前で受話器に耳を傾けながら、窓を眺めていた。
既に外は暗く、しかしながらそれでもサーチライトや赤青黄色等の様々な電飾で飾られている周囲が、綺麗に彩られていた。
そして看板にはデカデカと言葉が綴られる。
〘Happy New year〙
そう、今は年始。それもグリニッジ標準時で言うところの午前6時頃。フランクリンにしてみた場合は午前0時数分である。
呼び出し音が5度続いてだんだんと、フランクリンの眉間には皺が寄ってくる。
もしかすると誰も出ないかもしれない。
そんな一抹の不安が過ぎるものの、それは直ぐに杞憂であると現実が教えた。
『はいもしもし、どなたでしょうか?』
可愛らしい女の子の声が聞こえる。はて?自分は家に電話を掛けた筈なのだが、妻であるヒルダはカミーユと過ごすと言って、取り合えず一足先に、向こうに帰っていた筈である。
それにしても可愛らしい声だ。
「あ…ああ、そちらにカミーユ・ビダンはいないかな?父親のフランクリンが話があると言っていると、伝えてくれないかな?」
『カミーユのお父さんですか?私ファ・ユイリィです。直ぐに変わりますね。カミーユ、カミーユ!!お父さんから電話よ!!』
受話器から口を離して大きな声でカミーユを呼ぶ、そんな声にカミーユも罪な事をするものだと、心底口元が緩む。
やはり俺の子だな、女を誑し込むとは見上げた根性だな…等と、内心思っている。
『わかったよ、直ぐ行くよ!!』
小さな声であるが、そんな言葉が聞こえてきた。
何やらイライラとしているのだろうか?不機嫌そうなその声の主はバタバタと、ファから受話器を毟り取った。
『もしもし、父さん!?』
「や…やあ、カミーユ。Happy New year、母さんはどうしてる?」
『寝てるよ、昨夜は遅くまで仕事で起きてたみたいだけど…。母さんも珍しく帰ってきて、父さんも電話なんて掛けてきてさ。どうしたんだよ、そんな風の吹き回し。』
一見すれば彼は少し怒っているのかもしれない、ただ久し振りに聞いた父親の声に対して嬉しいだけなのだ。
対してフランクリンは、そんなカミーユの声に怒気が混じっているのではないかと、少し申し訳無さを感じていた。
「いや……、ただ少し声が聞きたくなっただけだ。それよりも、次の休みなのだが家族で過ごせる。何処か行きたいところはないかと…そう思ってな。」
『そんな事に気を使わなくたっていいよ、第一父さんはグリーン・ノアの事詳しく知らないんでしょ?お店は僕達の方で探しておくから、何かお土産お願いね。』
カミーユは、言いたいことを言い終えたのか受話器を降ろそうとする。
「ああ、期待して待っていてくれ!身体に気をつけるんだぞ。」
と言うフランクリンの言葉を聞いているかどうかは兎も角として、通話は切れた。
ツーツーと言う音が鳴り響くものの、フランクリンは自分の不甲斐なさを実感していた。
そもそも、父親として果たして面前と向かってらしくする事が出来るのか?
そんな不安が脳裏を過ぎる。
「はあ……、我ながら不器用な事だ。もっと話すことが有るだろうに、全く。」
そんな自分に嫌気がさしていた。
それが一段落した彼は、休憩を終えると自らの仕事へと没頭する事となる。
ガンダムℵを見上げ、そのバックパックに増設されたジムキャノンⅡのそれと同等の砲身を見上げる。
着脱式ラックの機能を確かめる為の再チェック中、其れ等の装備は流れるようにトロイホースの中へと納められていく。
自慢の息子に、この自慢の機体を見せつけてみたいという…、そんな淡い期待を胸に今日も彼は、調整を手掛ける。
不具合があればそれは一大事、この機体が完成するまでこの技術進歩を見守る責任感があった。
「休む事もパイロットの仕事って言うけど、こんな強制的にしなくたって良いじゃないか…。機体のチェックとかしたいんだけど、入るなか…。」
忙しなく機体を見ているフランクリンとは対照的に、アムロは休暇を言い渡されていた。いや、強制されていたと言っても過言ではない。
そもそもパイロットの仕事というものは、専門的なところ以外は整備兵に任せなければならないものだ。
なまじホワイトベースでの経験からか、自分の機体は自分で整備するという、良くも悪くも癖のような物が彼には染み付いていた。寧ろ実益も兼ねているから、万々歳であるのだが、どうやらブライトはそう言うアムロの姿勢に思うところがあったらしい。
『有事ならば兎も角、今は人手も足りているんだ。お前が行かなくたって現場は回る。
本当に必要な時だけ、お前は前に出てくれば良いんだ。その方が整備も誇りというものを持てるだろうさ。』
とは、ブライトからの言葉である。
一利有るとのアムロも渋々納得し、オーガスタ基地の備え付けの寮にて横になる。
結局は暇なのだから、何かを組み上げたいと3台目のハロの組み立ての、最後の工程を仕上げ始めた。
みるみる内に時間は過ぎていく。朝目覚めてから昼の1時に掛けて、飯抜きで没頭するその姿はまるで昔に戻ったような、そんな感覚すらある。
それでも、誰かにあげる為にと言う事で組み上げているのだから、作業は急ピッチで進んだ。
チラリと時計を見ると。そろそろ待ち合わせの時間だろう。アムロは最終確認を終えるといつも通りのスイッチを、青いハロの両目を3秒間押す。
するとパタパタと耳が動き、その中から腕がニョキニョキと生えてくる。
「ハロ…オ前誰?オ前…誰?」
「ぼくはアムロだよ。君のお友達さ、もう一人も紹介するから大人しく着いてきてくれ。」
手元から床へと降ろすと、ハロはコロコロと転がりながらアムロの後ろを着いてくる。
内装は見知ったものばかり、寮と施設はそれ程離れていないから、自ずと外を歩く事となる。
雪深い中、周囲の人間は、アムロに健気にも着いて行く球体のそれを見て目を丸くする。
そもそもパイロットがそんな物を自作するなどと、考えようもないだろう。
オーガスタ基地とは言え、その施設の中には憩いの場とも言える公園がある。
ロマンチックなそれではないが、そこのベンチに腰を掛けて読書に耽るセイラのそれがあった。どうやら、お付の者は
「セイラさん、すいませんお待たせしました。他の人は?」
「彼女なら施設の子達と遊んでいるわ。別に良いのよ?私も早くき過ぎてしまっただけだから…、それよりも私に渡したいものが有るって…それの事?」
アムロの後ろにピタリと着いてきている、丸い青ハロは自分が呼ばれたと言うことをきちんと認識したのだろう。
アムロの目の前に出てきて、耳をパタパタさせながらセイラに問いかけた。
「ハロ…オ前誰?オ前…誰?」
「あら、自己紹介してくださるのね。私はセイラ、セイラ・マス。よろしくね?オチビさん。」
セイラはその可愛らしい姿を見て、少し腰を下げるとまるで頭を撫でるかのように、ハロを撫でる。
それに対してハロは、何故か照れ臭そうにしながら耳を更にパタパタと羽ばたく。
「今度は宇宙に行くことになりましたから…、また当分会えません。だから、僕の代わりと言ったらアレですけど、コレをと。」
「ありがとう、アムロ。でもその話なら知ってるわ。有名人ですものね。」
セイラの言っていることは、つまりアムロ達が今後どの様な動きをするのかと言う、大まかな概要のことであった。
「じゃあ、最終地点も何処か知っているんですよね?」
「ええ、サイド7を抜けてサイド6を経由し、最後はサイド3…ジオン共和国に行くのよね?
大々的に宣伝しているから、軍も貴方とブライトを利用しようと、色々と手を回しているみたいだから。」
そう言うセイラであるが、徐ろに手にした手提げバッグの中から何やら小さな物を手に取ると、アムロへと手渡した。
それは小さなロケットペンダント…、中身は恐らくは写真だろうとアムロはそう思った。
「コレを?」
「ええ、渡してきて欲しいの。ものの序だけれども、お願い出来るかしら?」
アムロは少し考えるものの、すぐに了承しそれを忍せるように、軍服へと入れるとセイラの手を両手で包むように取る。
その手は、一年戦争の頃触れたことがある時から変わらない。一見すればか細いが、それでもしっかりと自立している手だ。
「2人とも寂しがっているでしょうし、何より2人に残せるものなんてそのくらいだもの。
それと…気を付けて?」
「気を付ける?何に?いや、アイツがいるとでも。」
セイラはその言葉に軽く頷くと、セイラに触れている両手をその上から包むようにもう一方の手で掴む。
2人は向き合い、それこそ仲睦まじくまるで恋人のようなそんな距離感であった。
「兄は必ず生きている、そして必ず彼処に戻ってくるはず。そうなったら…。あの人が何を考えているか分からないけれど、もしそう言う方向に走っていたとしたら、力を貸して頂戴。」
「わかってます。だからこうして、僕はここにいるんですから。それに、悲観したって始まらない。奴だって、良くわかっていると思いますよ。」
二人の影が重なろうと、その時だ。
「よう、お二人さん。お熱いところ悪いんだけど、ちょっとお話しませんか?」
気軽そうに話をかけてきた、軽薄そうな声が2人に届いた。
2人は驚いた様に口を離すと、その声の主の方向を向き少し気まずそうにした。
「「カイ(さん)、どうしてここに」」
「ハハハ、返事もお揃いで。悪いね、二人っきりの時間を邪魔して。」
そう言う彼はポケットに手を忍ばせて、少しおちゃらけた様に立っている。
「いやぁ…、英雄様の赴任先が何処かと尋ねたら、この基地に案内されてね。まさか、こんなところで出逢うとは思わなかった。なんせ、真冬の夜中に二人きりなんてロマンチストじゃないの、アムロ君。」
「余計なお世話です。それで、どういう了見で?」
アムロが問い掛けると、カイは手元に手帳と音声記録用の機器を取り出す。
取材をしに来たと言い、2人に幾つかの質問を投げかけた。
軍事機密指定されている施設とは言え、その中を堂々と歩いて2人に聞いているのだから、どうやら連邦も本気で宣伝行為を目論んでいるのだろう。
現にカイの動向が監視されているようではなかった。
「最後に、アムロ。お前の乗ってたアレ新型の試作機なんだろう?乗り心地はどうだい。」
「悪くはありませんよ、物足りないところがあるとすれば、やっぱり反応速度ですけど…。レバー操作の限界だからあれ以上は難しい筈。」
アッそ
と、興味なさそうにしつつそしてセイラの方へと向き直る。
「ブライト達の所には行かないのね。」
セイラはジャブローからこの近郊部へと引越してきた、ミライ・ノアことノア一家の事を思い出して問いかける。
それに対して、両手を開いて肩をすくめた。
「家族水入らずの所に昔の好ですって、普通入らないだろう。と、セイラさんも最後に一言良いですか?」
「何を話せば良いのかしら?」
と、言われた段階でカイは真剣な目をしながら、2人を見据えた。
「アルテイシア・ダイクンとして、先のジオン残党軍に対する意思表明をお願いしたい。」
「そう……。私個人としては、ジオン残党軍には思い入れはないわ。ただそうね…、只々残念に思っているわ。
頑固にならずに、サイド3に戻ってくれれば彼等も生命を落とさずに済んだ。
戦争とか信念よりも、家族を大切にして欲しかった。
個人的見解よ?政治的意図はない。兄が…、キャスバル兄さんがいたら、彼等もまた違った運命になっていたのか。
それとも、もっと酷くなっていたのか?何れにせよ、私は悲しいそれだけ。」
「ありがとうございました…と。それじゃあ、俺はこの辺で…お邪魔して悪かったな。」
「待ってください、この後一緒に食事でもどうですか?」
それに対してカイは、ヒラヒラと手を振るだけ振って、サッサとその場を後にするのだった。
それを目にしながら、やはり寒さで段々と身震いし始めたのか、2人は帰路につく。
目指すのは、セイラの仮住まいであった。
一方その頃、ノア一家であるがパーティも終わりまだまだ幼いハサウェイと産まれたばかりであるチェーミンを寝かしつけ、2人はまったりとした時間を過ごしている。
「済まないな、2人を任せっきりで。出産に立ち会うことすら出来ない、俺は駄目な父親だな。」
「いいえ、そうやって考えられるだけでもあなたは立派よ?それに、私の身の回りは色んな人がいる。だから安心して頂戴?それに、育児に慣れていないのなら寧ろ参加しない方が良いと思うわ。貴方は、こうして偶に戻ってきて肩の荷を降ろす。ここはそう言う場所なのよ。」
そう言うミライは慈愛に満ちていた。
そして、ミライのその言葉にブライトは心底救われていることを実感した。
「また、直ぐに発つ。済まないが…。」
「ええ、任せて頂戴。それよりも、絶対に帰ってきてね?2人とも貴方の事が好きなのだから。」
夜は耽け、街明かりは煌々と讃える。いつの時代となっても、人々の暮らしに変わりはなかった。
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