白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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恋する者達

〜0083年1月13日 

 

深々と深く降り積もった雪。

それも多くの熱によって溶かされ、トロイホースの船体に其れ等の名残は無く、既に蒸発した後である。

 

「各種チェック完了しました。離床始めます。」

 

「ミノフスキークラフト出力上昇…5,8,13,出力20%で安定。」

 

「トロイホース、微速前進。」

 

「微速前進…ヨーソロー。」

 

ゆっくりとその巨体が宙に浮かび上がり、雪を熱で吹き飛ばしながら、其れ等は高度を上げていく。

制限高度解除空域を脱すると、船体は更に高度をゆっくりと上げていく。

 

それを基地の展望デッキから見上げる人々の姿があった。研究職の人間もさることながら、乗組員の親族の姿もあるを

皆一様にその姿に手を振る中で、一組の家族がそこにいた。

 

「おとうしゃ、行ってら〜」

 

まだまだ歯も生え揃わず、舌足らずでそれでも自分の脚で歩いて手を降っている。

幼くもしっかりとしたその少年の後ろには、彼の母親である女性ミライの姿があった。彼女もまた、手を振りつつその横に並ぶ様にいるセイラは、そんな彼女の姿に少し羨ましいという思いがあった。

 

「セイラも手を振らないの?」

 

「こういうのあまり好きじゃないのよ、色々とね…。」

 

思い出すのは、最後に別れを告げる母の姿や自らに背を向ける兄の姿ばかりか…。

使用人等はいたが、そんな彼等に対しても結局はあまり多くに会えてはいない。そういう点で見れば、別れというものはセイラにとってはやはり良いものではないのだろう。

 

「そうね…貴女も苦労しているしね。それならいっそのこと、アムロを引き留めれば良かったんじゃない?」

 

「そんな事出来ないわよ。彼ああ見えて頑固で、それに甘えてばかりでは居られないから。そうでしょ?」

 

言い訳じみている。ミライはセイラに気を遣っているとは言え、セイラにとってそれは何時もの去っていく人達と同じに見えた。

最後の別れ…、塔に幽閉されそれでも自分達の安否を気にしていた、愛すべき母も、自分に優しかった厳格な父も…そして、優しかったキャスバルも、彼女の周りからいなくなってしまった。

 

彼女を取り巻く人々も、いつどこでいなくなるのか…それが心配で堪らない。

一人になるのは寂しい、悲しい。それでも本心を言えない、自分という人間の弱さ脆さそういう物が目に見えているようで嫌である。

 

「でも…アムロなら、きっと大丈夫よ?あの子は決めた事は最後まで貫き通す。そんな人でしょ?あの人が帰ってくる場所と、貴女の事を決めたのなら、必ず帰ってくる。」

 

「それは何か根拠はあるの?」

 

セイラの問いかけにミライは首を横に振る。ただ、その瞳の先にあるトロイホース、その後ろ姿を観ながら微笑んだ。

 

「無いわ、勘…みたいなものかしら?でも、彼を信じてみせるのも私達の器量というものじゃない?」

 

「そういう物…かしら?」

 

「ええ、そうよ。なら、ね?貴女には貴女のやるべき事がある、それをしながらでも彼を待っていれば良いのよ。

私も…いつもそうしているから。」

 

ミライの言葉は助け舟だろう、それを受け入れることができるか?セイラには余り深くは分からないが、信じてみたほうが良いような、勘がそう告げていた。

 

「さてと、私は帰るわ。チェーミンが起きちゃうと困るでしょう?ベビーシッターはいるけれど、私の役割はこの子達を護る事だもの。」

 

そう言うと、まだイヤイヤとするハサウェイを担ぎ上げ、確かな足取りで歩いていく。

その後ろを姿を見ながら、セイラは何かを決めたのか同じ様に歩き始める。

今はただ、この施設の子供達に救いを求めて、我武者羅に仕事を世界を見つめる覚悟を。

 

 

同じ頃、アムロはトロイホースの後部展望デッキにいた。

大気圏離脱まで、まだまだ時間がある。何より、このホワイトベース級の最大の特徴である単独での大気圏離脱能力は、速度を急激に上昇させるロケットの様なそれではなく、寧ろ緩やかなものであるから、パイロット達。特に出撃待機のないメンバーは、暇をしている。

 

流石に加速中にモビルスーツを弄る事も出来ず、メカニックマン達も資材を固定し終えれば、ただ離脱を待つのみだ。其れ故にアムロはただ、見送る人々が見えなくなるまでそれを見つめていた。

 

「こんなところで黄昏れちゃって、どうしたの?恋人が恋しい?」

 

優しげな女性の声が聞こえてくる。

 

「別にただ暇を持て余しているだけですよ。マッケンジー大尉も、こんな所に来てどうしたんですか?」

 

振り返らずにそう返す。手摺に身体を預けているアムロの横に、クリスは並ぶ様に立つ。

 

「私も暇なのよ、それよりもセイラさんとは進展どうなの?」

 

「人に言うようなものじゃないですけど、まあまあですかね。正直、どういうところが深い進展だとかは、分からないですけどね。大尉の方はどうなんです?良い人見つかりました?」

 

答えると同時にクリスに問い詰める。実際、クリスはこの2年間独り身だった。ちょくちょく友人としてセイラの元に通ったりしていたものの、割と同期の人間がいないばかりに周囲には仕事仲間ばかりである。

しかも、困った事に変人の巣窟の様な場所にいるからか、恋愛になど発展する余地もなく、あれよあれよと言う内に2年が経過していた。

 

「気になる人はいなかったわよ?まあ…しょうがないけれど。

 

 

まあ……、でもいない事も…ないのかも。」

 

珍しく歯切れが悪い、いつも快活な彼女にしては言い淀みがあった。

 

「その人とは…?」

 

「う〜ん、もう何年もあってないし短い間の付き合いだったから、どういうという事でもないんだけどね…多分アレが恋だったんじゃないかしら?

ま、もうたぶん会えないかもしれないし、気にしてないから。」

 

クリスはサイド6で出会った一人の青年、バーナード・ワイズマンの事を少なからず好意を抱いていた事を口にする。

もう時間が時間であり、既に時を過ごしているのだから会うこともないだろうと、未練がましく思うも本心から気にしていなかった。

いや、こういう時勢なのだからそういう考えになるのも無理はなかった。

 

「色々あるんですね…、人の形とか在り方とか。なんて言ったかな?十人十色って言うんですよね。」

 

「そうよ?さって、そろそろ最終加速に入るから行かなきゃ。アムロ君もしっかり捕まっていたほうが良いわよ?」

 

ウィンクをして去っていく彼女と、その場で立ち尽くす彼。

そんな2人に関係なく、船は加速を続けた。

 

 

 

最終加速を着け、地上から宇宙へと進出したトロイホースは、一路サイド7はグリーン・ノアへとその足を進めた。

宇宙進出から1日、諸々の装備の点検とを滞りなく終えた艦は、サイド7迄の大凡4日間の航路の途上で、ガンダムℵの宇宙機動試験を開始する事となっていた。

キチキチに詰められた日程を消化するために、格納庫は慌ただしくも生き生きとした乗員で溢れている。

 

「オーライオーライ、はい次!!」

 

宇宙空間での運搬は地上とは異なり、作用と反作用のそれをより高度に計算しなければならない。

そのため、一つ一つの装備を点検するだけでも、ネジ1本ナット1個から何処かへと跳んでいかないかという、そう言った注意をしなければならない。

 

トロイホース…ペガサス級のモビルスーツ格納庫は、2つある。嘗てはジオンから木馬と称される程の特異なその形状、左右に分かたれた格納庫の内、左舷側にガンダムℵが格納されている。

しかしこの時、右舷格納庫にはもう1機別のガンダムの姿がそこにあった。

 

背格好はℵと同様で、恐らくは同型機で有ることは容易に想像できるだろう。

違いが有るとすれば、その機体は決してトリコロールではなく、寧ろジムカラーの配色であるところがポイントだ。

更に言うならば、バックパックには増設されたジムキャノン2に採用されているビームキャノンと、4つの銃身が束ねられた130ミリマシンキャノンが覗いていた。

 

どうやら、支援機スタイルとも言えるその機体であるが、いったい誰の乗機で有るのだろうか…。

 

「マッケンジー大尉、気を付けてください?コイツかなりピーキーなんですから。」

 

「分かってるわよ、でも大丈夫。Gキャスト(CST)《common soldier type》はそれを治す為の機体なんだから。」

 

特注の赤いラインの入ったパイロットスーツは、アムロが着込んでいる青ラインとは対を成す。

同型機で有るからこそ、同じようなパイロットスーツが必要なのだろうが、この機体のパイロットの身体のラインを見事に現していた。

 

決して下心がある訳では無いが、双丘もさることながらその臀部もまた、見事に女性を象徴しているだろう。スレンダーな見た目とは裏腹に、しっかりとした足取りが彼女が如何に優秀な軍人であるかという事が見て取れた。

 

コックピットへと入り込む彼女と、それについて来る専属の整備兵。

彼女が機体を立ち上げると同時に、その整備兵もまたコックピットの外から最終確認を行っていた。

 

「操縦しながら書き換えですか、素人には難しいですね。」

 

「私だって難しいわ。本格的な修正はサイド7に着いてからだし、その間に色々とやっておかないと…。

地上だとデータのやり取りは出来たけど、宇宙は未だにミノフスキー粒子が濃い場所もあるから、実際にね?」

 

「はあ…まあそういうものですか。確認完了、何時でも行けます。」

 

整備兵はそう言うとサッサと機体から離れていく、それを見送るクリスはハッチを閉じると、機体の操作を確認しながらカタパルトへと歩みを進めた。

 

『1番機出撃まで待機してください。』

 

「了解……、さてとアムロ君。貴方の動きをじっくりと観察させてもらわなくちゃね…。」

 

待機していると、幾つかのブザーが鳴り一番機が左舷カタパルトから射出された事がアナウンスされる。

 

『2番機発進どうぞ!!』

 

「クリスチーナ・マッケンジー、Gキャスト行きます!!」

 

グッと加速によって背中が押さえつけられる。

しかし新型の座席、試験型リニアシートによって幾分かそれが抑制されると、その効果は絶大である。

いつもよりも呼吸がしやすい事に、クリスは満足を示した。

 

真っ暗な星空の中に吐き出されたその機体を持つかのように、先行出撃したℵの姿が、全天周囲モニターに表示される。

幾つもの機器が正常に動作している事を確認すると同時に、次々と出撃する他の機体達も一様に、その宙域へと集結した。

 

「コレより宇宙空間における実験機のマニューバテストを開始します。各機は周囲の警戒を行いつつデータ収集に務めてください。

また、有事の際はアムロ中尉の指示のもと迎撃戦闘に移行します。」

 

「自分で良いんですか?」

 

クリスの号令とともに、各機が持ち場へと移動していくが、その内容に対してアムロは疑問を呈した。

 

「この中で一番経験値があるのは君だし、何より誰よりも戦場を俯瞰して見ることが出来るのも君よ?

まあ、直ぐ近くに母艦がいるからそんなに心配することも無いと思うんだけれど…。万が一よ。」

 

「了解しました。善処します…。」

 

クリスにしてみれば当たり前の事だが、彼女には幾つか気掛かりな事がある。

現状、宇宙でのジオン残党軍の動きは低調であった。幾つかの海賊行為を行なっている者達の情報はあるものの、表立って堂々と何かを使用という、そんな風刺は聞こえてこない。

 

だが、もし過激派がいるのであれば、隙有らば必ず何処かで襲撃してくるだろう事は容易に想像できた。

相手は敗残兵であるが、だからこそ新たな戦力を欲する。

 

もう一つは…、アナハイム・エレクトロニクス社に対して連邦軍が出資している、もう一つのガンダム開発計画。

その計画を遂行するために、自分たちを何処からか見ている可能性がある。そうなれば、血の滲む思いをして創り出したそれを、誰とも知れない相手に創り上げられてしまうかもしれない。

そういった部分での警戒を、彼女は解くことができなかった。

 

 

 

同日 

 

薄暗い宇宙船の中、ポツポツと電飾が光を発しその空間を僅かに照らす。

一人の女が深々と中央に腰掛け、その場にて目を瞑る。

時折、ビクリと震えるように、その指が座椅子の手摺を力強くに握り締め、深々と刻み込まれた眉間の皺が顔を歪ませる。

 

フッと力を無くしたかと思えば、女は目を見開き

 

はー……

 

と力無く溜息を零す。

艦橋には彼女一人、今は多くが非番であろうか?誰も近くには居ない。

 

「駄目だねぇアタシも…、こんな時に居眠りかい…。もっと気合を入れなきゃ行けないってのに…まったく。コレじゃあ新兵と大差ないじゃないか…。」

 

自嘲気味にそう言う彼女であるが、10人が10人見ても彼女の顔は遥かに疲れ切っていた。

その襟元にはジオン公国軍で中佐の位を示すシンボルが燻し銀の光を放つも、そんな階級章を忌々しげに見る彼女の目には、そんなものにプライドなどないかのようである。

 

そんな彼女の事を知ってか知らずか、この艦橋には誰一人いないのは船員の気遣いなのだろうか?

艦橋の外へと出てみれば、外で哨戒をしている数機のザクがチラホラと見える。

 

彼女の目が覚めたことを察知したかのように、幾人かの要員が艦橋内部へと入る。

皆一様に『失礼します』と言ってから入る辺り、確信犯だろう。だが、彼女はそれに対して応ずるだけで叱りつけもしない。昨今はこのような事が度々起きているのだろう事が、有り有りしていた。

 

そして幾時間か経つと、艦橋の中へと如何にも荒くれ者だと見える男が入室してくる。男はその厳つい見方からは想像も出来ないほどに、その動きは様になっている。

 

「シーマ様交代の時間です。」

 

「ああ、コッセル。済まないな、頼むぞ。」

 

女性・シーマは、席を経つとゆっくりと廊下へと通じる戸を開けようとしたその時…、一本の通信がその艦橋へと届けられた。

 

「シーマ様!!通信です…発信地は、月面!!」

 

「………?どういう事だい?」

 

届けられた一本の通信は、果たしてどういう理屈であるのか、その内容にシーマは一言告げた。

 

「状況が旨すぎる」

 

と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。

なお、Gキャストに関しては以前投稿したガンダムℵのページに加筆しています
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