〜0083年1月17日
「何?入渠出来ないだと?どういう事か!?」
サイド7に到達したトロイホースは、港湾内へと入港したところ思わぬアクシデントに見舞われた。
この突然の出来事に対し、艦橋にトロイホースの階級上の幹部となる、クリスやフランクリンもそこにはいた。話し合いと言う名の、ある種の恫喝である。
会計監査局の人間は少し萎縮していた…、無理もない軍人にぐるりと周囲を囲まれているのだ。
しかもサイド6の様な、大きな経済圏を持つような大規模なサイドとは違い、新規建造された新しいサイド…。自治能力等皆無である。
「いえ…ルールはルールなので…。書式が違っている物は受け取ることは出来ないのです。
連邦軍へと連絡をしますが…、上との協議となりますので早くとも3日は掛かるかと…。」
その言葉に対してブライトは苛立ちを隠せなかった、と言うよりも何故こんな単純なミスが起こるのだろうか?と、心底呆れていた。
宇宙世紀も始まって早80年と言う年月が経過しているものの、未だに重要な案件に対する要件は、書類を通さなければならない。
そもそも、紙媒体というものはこの世界に於いてもまた、最強の偽造防止策であるから、未だに現役なのだ。
ただ、コレが戦時中というと話は変わってる。緊急の用の場合は、それこそ迅速な対応を行う場合もあるものの、今は戦争が終わった後の話。
そもそも、戦時中にルナツーにホワイトベースが入港出来たのも、奇跡的なものなのだ。
翻って平時、更に言えば緊急の用ではないし、軍機であるもののそれは軍事行動そのものが軍機であるから、特別視はされない。
「では…」
「ブライトキャプテン、私から提案があります。」
イライラが積もる中、艦橋内に響くのはクリスの声である。ブライトも流石に若いし、士官学校の先輩に当たる彼女に関しては思うところもある。
自分の方が階級は上だが、人生経験においては向こうのほうが上だからだ。
「なんですか?マッケンジー大尉」
「どうせ入れないのなら、サイド7の空域外でモビルスーツのテストをしたいんです。
時間が勿体無いですし、入港まで時間がかかるならそれだけテストの時間も取れるでしょ?まだまだ試さなければならない事は山程あります。
領空外での軍事活動の許可は可能なのでしょう?案内人さん?」
「…?え、ああはい。まあ、領空外であれば…直ぐに許可は下りるかと…。くれぐれも民間航路の邪魔をしないので有れば…。」
「話の途中済まないが、何人かで良いんだ。コロニーに入る事は出来ないだろうか?」
フランクリンが口を開くと、その目は不快感に溢れていた。いや、ある種の焦りだろう。
何かとソワソワとしているのだから、早く新しい研究所に行きたいというのが本音だろう。
彼にとって、ガンダムℵは作品であり未だに発展するもの、それを強化する為の研究所が、拠点がここに創られたのだからワクワクしないわけがない。
「数名程度であれば…、ランチで直ぐにでも許可は下りるでしょう。ただ、入港までの間はくれぐれも問題の無きように…。」
「わかっている。キャプテン!良いだろうか?」
それを聞いて、呆れながらもブライトは答えた。
「良いですよ…、ですが気を付けてください?」
そう言って事態は丸く収まるものの…、やはりトラブルというものは付き物だった。
まず一番の問題であるが、サイド7の役員会議はすんなりと通り、結果その日の内に結論が着いた。
問題は、連邦軍の責任であるのだから許可証を持ってこさせろと言うことで、係留と乗員の乗り入れの許可は降りるものの、入渠までは最低でも1週間は必要となってしまったことだろう。
そして、その問題の影響で二次的な問題も起きていた。
それは、艦内に貯蔵されている糞便である。
ペガサス級ともなると、それだけ多くの人間が寝食を行う。その中で溜まっていく糞便は、どうするかと言えばそれこそ貯蔵タンクで保管され、コロニーでの入渠によってそれを丸ごと搬出するのだ。
それを怠った場合、艦内に其れ等の臭いだけでなく最悪硫化水素が発生するだろう。
勿論、フリーズドライとして乾燥してあるが万が一は必ず起こる。それだけに、艦艇の保全というものには慎重に期する。
ブライトの頭は頭痛に苛まれ、腹はキリキリと痛んだ。
〜0083年1月18日
仕方も無しに、1艇のランチが発進するとそのままそれとは逆の方向にトロイホースは動き出す。最低限の推進力を割いて、サイド7の領空外へと飛び出すと、そこからはモビルスーツ隊を発進させる。
複数機による戦闘機動パターンを準備運動と称し、幾度と行うと、最後には必ずと言っていいほどに1対6の模擬戦へと突入する。
戦術を変えながら、たった1機に対して行うにしても過剰と言えるほどに連携を繰り返し、そして暫しの間の交戦の後、必ずと言って良い程にトリコロールの機体が全てに撃墜判定を下すのだ。
「ふ〜ん、やっぱり駄目ねぇ…。アムロ君、手加減無しでって言ったけど、コレはコレでキツいものがあるわね。今回も良く練った作戦だと思ったんだけど。」
「いや、実際上手く機能していたと思いますよ?大尉の動きも伊達じゃないっていうのも分かります。けど…」
アムロが言い淀むにも無理はない。というのも、対ニュータイプ用の戦術などこの当時確立されていない。
特に、専用機に搭乗した存在を相手に、オールドタイプが互角に戦える戦場など限定的だった。
それをデータとして、この実験部隊は確立しようとしている。
クリスの駆るGキャストは、その性能とは裏腹にオールドタイプが振り回されない程度に制限が加えられている機体である。
と言っても、彼女の努力の賜物でアムロの機動に大凡三割の具合で追従できていた。
「機体に振り回されないようにリミッター掛けてるけど、それが足枷になってたら世話ないわよねぇ…。」
人が物を扱う時、時としてその人は潜在能力以上の力を発揮することがある。クリスのパイロットとしての技量は高く、時折制限されたそれよりも動きが早いこともある。
つまり、ソフトの面に於いてそれを制御するシステムが必要となる。
「ここからが私の本来の仕事、本当ならサイド7の研究所で組んでいるデータと整合性を併せようと思ったんだけど…、この状況だとねって。」
クリスのそう言う言葉とは裏腹に、アムロはこの現状に対して何かを感じているのか?渋い顔をしていた。
「大尉僕は思うですけど、今回僕らがサイド7への入渠を予定されていたのを…妨害した人がいるんじゃないかって、そう思うんです。」
「考えすぎじゃない?其れ共…勘?」
その言葉に対する彼の答えは、沈黙であった。
〜0083年1月24日
「嫌に周到じゃないか、こんな物まで用意するなんてさ。」
シーマは数名の供回りを連れ立って、スーツ姿を下しながらその場へと着いていた。
サイド7グリーン・ノア、一年戦争の終盤。シャアの襲撃によって途中で建造が止まったコロニー群、そのうちの1基である。
主に産業の中心となるようにと都市開発が進められており、このサイドでの極めて重要な役割を担う予定となっている場所だ。
「アタシらみたいなのに連絡を寄越すなんて、よっぽどそれが欲しいんだね…あんたらも。」
彼女はそんなサイド7に入港する、1隻の連邦軍艦に民間協力者として乗り込んでいる。
その襟首には、アナハイム・エレクトロニクス社を現すバッヂが煌々と輝く。
その直ぐ傍らには、目を合わそうともしない若輩者の女技術者の姿があった。
「ニナ・パープルトンです。アンタじゃありません。そもそも、私たちは別に技術を盗む為に行くのではなく、協力企業として参画するだけで」
「わかってるよ…、実戦経験の多い海賊に色々と聞きたいんだろう?上が本当にそれを望んでいるのかは、置いておいてね。」
ニナは、嫌々ながらも目の前にいるジオン崩れの女、との距離感を測りかねていた。
元ジオン軍人との説明を受けながら、それを信用に値するかどうかと見極めかね、そして結果的に好きになれない。
ただ、シーマ達が言われたものとニナの説明されたものの内容は、極めて大きな食い違いがある。
例えばそう…、場合によっては機体の強奪も視野に入れろというのが、シーマ達が依頼を受けた内容である。
連邦軍の新型機、その試作機がそのコロニーへと搬入されるのだから、それを狙えというのが鉄板である。
ただ、シーマからすればそんな無謀な事をしてまで、自由を手に入れたいとは思えていない。
完全に使い潰す気満々なのが、アリアリと目に映る。
そもそも、アナハイムのバッヂを襟元に取り付けているが、それを敢えて与えていると言うところが味噌である。
要はアナハイムも被害者ヅラする魂胆であるのだ。
ジオンの残党崩れが、アナハイムの役人に扮してガンダムを襲撃した…。
なんて事を大々的に宣伝して、各企業の連合体を創り上げられるよう連邦を説得出来れば、晴れて自由に技術を吸収出来る。
軍事に企業機密など、関係ないのだから。
「そんな辛気臭い顔しなさんな、ほら見てみなよアレを。」
シーマが窓辺へと向い、その景色を堪能するようニナを誘う。そんなものを観る気にもならないのだが、これも仕事の一環と窓辺へと彼女は至る。
そして、その景色彼女は目を丸くするのだ。
モビルスーツに模擬戦だろう、ジム・カスタムとジムキャノン2が見えるがそんな物はどうでも良い。
それよりも、その先にいる同型機と思われる瓜二つの別々の色を施されているその姿に目を奪われた。
「アレがアンタの目的なんだろう?今のうちに目に焼き付けておいても、悪くはないだろうさ。」
そう言うシーマの言葉に、光景に釘付けとなる。
従来機との特徴があまり無いだろうにその機体は、取り囲む各機を翻弄し、一方的な舞台となっているその光景を。
ニナにそれを見るように下したシーマではあるが、その機体のその挙動を見て今回の依頼の内、モビルスーツの奪取と言うものに関して、強硬するつもりが微塵も湧いてこなかった。
なんと荒々しい操縦か。まるで、モビルスーツが意思を持っているように駆動し、それに見惚れてしまう自分がいる。
それだけではない、それが機体の性能がどうであれ必ずパイロットがおり、その機体性能に翻弄されない実力が伴っている。
そんなパイロットと戦場でかち合えばどうなるか、シーマをしてその光景に恐怖していた。
それと同時に、そんなパイロットに会ってみたいと、そう思うのも自然の流れなのだろう。彼女は自然と口角の上がるのを感じざるを得なかった。
「誰かに…観られている?コレは…好奇…なのか?」
模擬戦の最中、アムロは自分に向けられている視線を感じ、それに意識を少し割いた。
それでも機体を狙う攻撃に対して、機体を僅かにズラすと反撃として射撃する。
ビームライフルを片手にシールドを背負い、もう一方にはレールガンを持つ。
宇宙空間での反動テストを兼ねてのそれは、機体に意外な結論をもたらしていた。
レールガンは質量兵器だ。従って射撃の際には、質量と速度に比例した反動が発生するが、アムロはそれをAMBAC機動に取り入れた。
高速で飛び交う機体ガンダムℵ、それを追いかける様に追従するジム・カスタムとGキャスト。
それを援護するように動くジムキャノン2の射撃は非常に正確で、普通であれば直ぐにでも撃墜されてもおかしくはないが、まるで背中に目でも付いているのかと言う挙動で、ℵ見事に回避していく。
そんな時、ジムキャノン2は徐ろに射撃に角度をつけて、ℵへと牽制射を放つとそれを回避するℵへと回避する場所にめがけて、Gキャストからの追撃が放たれる。
コレで撃墜か…と思われたその時だ。
突然、ガクンと直角的に機体が流れまったくの別方向へと、回避せしめると同時に、追撃していたジム・カスタムが大破判定を受けた。
アムロは手に持ちうる兵装レールガンの反動を利用する、操縦の術を編み出していた。コレは開発時の想定とは違う未知の衝撃であり、近距離戦ともなれば、反撃と同時に回避を伴う其れ共合致する。なお、一般兵が扱えるかと言えば……、やはりその点ではビームライフルの方が良いだろう。
そんな機動を駆使するのだから、今までの戦いでなれていた面々からすれば青天の霹靂ともいうべきだろう。
やはりというか、結果的にアムロの勝利であった。
ただ、その中にあってもクリスはアムロの挙動が僅かにであるが、一瞬緩慢になった事を確認する為に状況終了後機体に近づいて行った。
「どうかしたの?何か不具合があれば直ぐにって、言ったと思うのだけれど。」
『……えっ?ああ、大丈夫ですよ。機体に不具合は無いので…。ただ』
「ただ?」
クリスは聞き返す。いつもよりもアムロの歯切れが悪い、それはほんの少しの差位だろうが、それでも上司であるのだからそういう事に耳を傾けるべきだと。
『誰かに観られていたような、そんな気がしたんです。ほら、向こうから輸送船が来るでしょう?あの船の中の誰かが、僕らに対して好奇心を持っているみたいなので。それだけなら良かったんですけど。』
「なに?」
『その感情の中に、恐怖のそれが隠れているんです。』
モビルスーツに対する恐怖を誰もが持っているものではない。特に、連邦軍内部の人間であればジムやガンダムの姿を見て、恐怖よりも安堵を抱く者が多いだろう。
では、そんな連邦軍の機体に対して恐怖を抱く者は誰であるのか、自ずと答えは見えてくる。
クリスは直ぐ様に結論を出した。その輸送船の中に、ジオンの兵士が紛れ込んでいる可能性があるのだと言うことを。
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