白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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教導

 

「始めまして、私はクリス、クリスチーナ・マッケンジー中尉、貴方の監視と手助けの為にここに配属されたの。」

 

基地での訓練、その養成教官の真似事をやらされていたアムロであるが、そんなところに一人の女性士官が現れ、単刀直入にそう言い放った。

その言葉に嘘偽りはないと、アムロは何処で判断したのだろうか、彼女を信じられる人だと思ったのだろう。

だから本心を口にした。

 

 

「始めまして、アムロ・レイ少尉です。監視が仕事なんですよね?なら、どうしてそんな事を言うんですか?僕の周りの人間は、皆口には出してないけれど、似た様な人たちばかりですけど?」

 

彼は彼女に対して敵意を持っているというわけではなかったが、その言葉にはいちいち棘があった。

彼はここに来る数週間前には、地球連邦軍のプロパガンダに大いに利用されていた。

 

戦争終結から僅か一ヶ月、気も休まる間もなく周囲を洗いざらい詮索された後、汎ゆるメディアの矢面に立たされた。

有名人と言えば聞こえは良いが、要するに生贄の様なものだろうか?地球連邦軍にとって、アムロ・レイという人物はとても危険極まりない人物であったからだろう。

 

ニュータイプ…ジオン・ダイクンの提唱した、宇宙環境に適応した人類。そう呼ばれた人々がいたホワイトベースという艦の生き残り。

そして戦争において尤も多くの戦場を渡り歩き、その中での人々の暮らしと生と死を見てきた彼は、連邦にとってとても大きな障壁であった。

 

彼の語る話は荒唐無稽で、それ故に人々に受け入れられるものではないが、不思議と何かを感じさせられる麻薬のような物があった。

特に宇宙移民者達にとって、真のニュータイプ論の提唱者とも言える彼である。一定の信者が現れるのも時間の問題であった。

 

彼の周りには人々が集まり始まる。そして、その事実に連邦は恐怖した。また、同じ事を繰り返すのではないか?

アレルギーにも似たそんな拒否反応、それが内部に伝播していくのも早かった。

どうにかして、彼に勝手な動きを辞めるようにしなければならないと考えた末に、一つの辺境地に彼を抑留する手立てが考案され即時に実行された。

 

シャイアン基地は、怪物を閉じ込める為の檻として、そしてその周囲を看守達が彼を監視する為に動いているのだ。

 

唯一の救いが有るとすれば、彼は一人ではなかった事だろう。共に暮らすことは出来ていないが、基地近くにはセイラも暮らしていた。

籠の鳥を監視するならば、一箇所に集めた方が効率的だ。そんな官僚的な考えが、二人を縛っていた。

 

そんな最中の生活が始まって、既に2ヶ月が過ぎ流石に彼も嫌気がさして来ていた。

そんなところに、馬鹿正直に自分が貴方の監視ですよと言われれば、嫌味の一つでも言いたかった。

 

だが彼のそんな心情を知ってか知らずか、クリスは彼に切り返して言った。

 

「監視だけじゃないわ?手助けも、私の仕事なのよ?だから、これからよろしくね?アムロ少尉?」

 

全く悪意の無い、そんな暗い色が無い言葉。

彼のここ最近の交友関係の中で、彼女のような人はいなかった。唯一いるとすれば、偶に会うことの許された近所に住まうセイラ・マスくらいだろうか?

 

「そうですか…、じゃあよろしくお願いします。中尉。」

 

ただ、まだまだ心を開くには至らない。彼女が果たして、どれだけこの場に留まっているのか?彼にも分からないから…。

 

 

 

 

この日から彼の生活は一変したと言っても過言ではない。

 

まず、何をするにも周囲に配られた監視の目が、クリスが介在する事により若干緩和されたところから始まった。

 

「隣の席良いかしら?」

 

「え?まあ、良いですけど。」

 

と、食堂ではアムロの隣の席に座ると、食事をしながら他愛のない会話をする。

 

「案外レパートリーがあるのね、因みに何かお勧めの物とかあるかしら?」

 

「別に味わっているわけじゃないので、まあパスタは結構良いものを使っているらしいですけど…、味は気にしてませんし。」

 

別に一人で食べることに苦を感じていないアムロであったが、一言一言になにか意味があるのかとそう想いながらも、楽しくなかった訳では無い。

 

昼食休憩から始まり、移動する先々に至るまでクリスはアムロと共に行動する。

流石に仕事終わりには彼女が近くにいる事は無かったが、それでもかなりの時間彼女と共に時間を過ごすこととなった。

 

クリスは連邦軍士官の中では、それなりに有名な人材である。

連邦軍士官学校を首席で卒業した者は、同期に関わらず古参の士官の中でも一時期話題となるのだ。

名前と肩書と言うものは、こういった時役に立つのだろう。クリスという極めて優秀な人材が、怪物を繋ぐ鎖のように彼の近くにいるという状態が、一番望ましい形で発揮されたのだ。

 

彼女は事あるごとに、いや事が無くてもいつもアムロの側にいるのだから、火を見るよりも明らかである。

 

そんな事が続いたある日の事、アムロは一つの相談事をクリスに持ち掛けた。

 

「あの僕…、新米達に操縦とか教えるの苦手で、何かコツとか有れば、是非参考にしたいんです。」

 

彼なりに仕事に対する方向性は何かを感じていたのだろう、それなりにクリスを信用しているという証でもあった。

 

「じゃあ、私と模擬戦をやってもらっても良いかしら?」

 

と、そんな提案も受け入れアムロとクリスは戦いをする。

クリスも自分の腕には自信があったし、実際アレックスの様なピーキーな機体でもなければ、並大抵の相手には負けない自信もある。

 

「取り敢えずハンデはどうしますか?」

 

「私を、舐めてるの?大丈夫、落胆はさせないから。」

 

「でも…実戦経験、あんまり無いんですよね?」

 

「それを言っちゃうの…?確かにそうだけど、ガンダムの操作は私が叩き込んだのよ?それでも駄目?」

 

気さくに声をかけてくる彼女は、そんな言葉を紡いではアムロを調子に乗らせると、システムを起動する。

そんな二人の戦いが始まると基地全体に拡がると、自ずと周囲に人集りが出来ていた。

 

聴衆は、二人の戦いの結果を賭け事にしようとする者もいる。

ただ、そのレートは圧倒的にアムロ寄りでありクリスの方に入れる人間は、それこそ大穴狙いであろうか?

 

データ上ではあるが、互いに機体を調整し戦闘状況開始の掲示が挟まると、直ぐ様操作を開始する。

クリスの戦い方は、まるで教科書通りの立ち回りだ。

まず敵に自らの射線と攻撃地点、そして進路を予想させない為にジグザグと、ランダムに回避を刻む。

 

対するアムロの動きはと言えば、見つからずに動こうなどというそんな手を講ずることも無く、単調に突っ込んでいく。

決して教本にはない、単純に最適解を進んでくるという…人間離れした動きである。

無論、普通ならばそれで攻撃されて撃破されるのだが、普通でないからこそ激戦区を生き延びてきたのだ。

 

そして、普通の戦いと化け物の戦いはあっさりと決着が付く。クリスの戦い方も無論玄人なのだろうが、回避行動の先を読まれて撃墜される。

何度も、何度も、何度も何度も同じ様な事の繰り返し、ただその中に有ってクリスは自信を無くすどころか、寧ろそれに納得をしていた。

 

アムロに対しては完膚なきまでに負けた。それこそ、彼の強さがわかってしまう程に。

だが、ここからがクリスの本領であろう。

 

彼女は模擬戦の中から得られたデータを元に、アムロの戦闘データと反応速度そして、その判断の元となっただろう事柄を事細かに纏めていった。

それこそフィッティングマンは、汎ゆる状況を類推するのが仕事であったから出来たものだ。

 

それを利用して、教材を次々と作り上げるのだから彼女も決して凡人では無い。

 

そこから、アムロが指導する事に関しても、彼女は口を出した。

パイロット候補生達への授業でも、彼女は非常に優秀でありアムロが感覚で覚えていることを、特に座学においてはそれを噛み砕く事に長けていた。

 

例えば、アムロの戦技は言うならば圧倒的な実戦経験の蓄積から裏打ちされた最適解の動きであるのだが、それを常人が身につけられるのかと言えば、まず持って不可能に近い。

そのため、アムロという人物に対して自分達とは違うという事を敢えて教える事により、彼に対して周囲が距離を取る様に仕向けていた。

 

だが、彼女が来たことによりそれは変わる。

そもそも、連邦軍のモビルスーツの操縦系を創ったのは、彼女の所属していたチームである。

教本に乗っている以上に、モビルスーツの限界等に詳しい。

その限界を把握して操縦していたクリスですら、アムロの動きは凄まじく、よってガンダムの限界を超える結果となった。

 

そんな結果を知って尚、まずクリスは自らの基本となったモビルスーツの操縦を見せながら、アムロのそれと対比をする事により、アムロがその判断を下す理由を少しずつ引き出していった。

どんな挙動にも理由があって、それを扱うにはどんな制約が付き纏い、どんな構想を描いたのか。

 

アムロが苦手とするもの、他者に簡潔に伝える力。これはまだまだ子供であるアムロには、非常に難しいものであったが、クリスに言わせれば朝飯前である。

 

そう言うところから、アムロというパイロットに対する畏怖を少しずつ解していき、彼が一人の人間であって決して怪物ではないと、尊敬へと上書きしていくように……。

 

そうしていると、徐々にだが輪が出来ていった。たった一ヶ月である。たった一ヶ月で、彼の周囲には多くの人が集まっていた。尊敬だけではない、彼の人となりや境遇を知る者も多くなり、同情するものも…。

いつの間にか、彼は一人ではなくなっていた。

そんな生活が続いて…アムロは一つ決心を固め、ある日クリスと二人きりで教導をしている時に声をかけた。

 

「クリスさん、次の休みの日…僕の家に来ませんか?」

 

どうやって誘おうか?そう考えたあげくでてきた言葉は、単調で単純な言葉。

その言葉の中に下心などは無いのだが、クリスはどう受け止めるだろうか?彼女は決してNT等と呼ばれる人間ではない、だからアムロのその言葉に下心が無いと気が付く様な要素は、あまりない。

 

「それって…デートのお誘い?」

 

「い…いえそうではないんですけど……、合わせたい人がいるんです。」

 

クリスは内心ホッとした。自分に歳下趣味はないし、少し歳が離れ過ぎていると感じていた…。それに、まだ彼の事が脳裏にチラついていたのだ。サイド6、実家で出会ったあの青年バーニィの事が。だから告白でもきっと断っていた事だろう。

だから、合わせたい人がいると言われれば、断る通りは無かった。アムロは今、1人で暮らしていると言うことをいつも言っているから…。

 

「あら?確か…アムロ君って一人暮らしよね?同居人がいるって事でもないのでしょう?」

 

「あ、そうなんですけど……何ていうか、一応恋人というかそう言う人がいまして…、その人にあって欲しいんです。」

 

「会ってどうしたら良いの?正直言って、私が行っても恋路の邪魔をしに行っている様な気がするのだけど?」

 

誂うようにクリスは彼に言葉を帰す。実際、付き合っている相手に会う必要はないのだから。

 

「いえ…その。僕と同じ様な境遇と言うか、もっと複雑というか…。そう、その人の友達になって欲しいんです。」

 

「成る程ね…。まぁ、私も1人だし良いわよ?」

 

「あ…ありがとう御座います!!」

 

彼のその言葉は確かに心が籠もったものであると、クリスはそう感じていた。

こんなにも人の事が分かっている彼が、どうしてこんな境遇を受けなければならないのか…。

そう疑問に思う事も増えていた。

 

ただ、同時に彼女はゴップ等が自分に求めているものが何なのかが、朧気に見え始めていた。

彼を一人にさせないようにしているのだろうと、それが彼等にどれ程の恩恵があるのだろうかと、そう想いながらも一つの決心をするには充分な出来事だった。

 

自室に戻りゆっくりと考える。彼をどうすれば、こんな籠の中から解き放つ事が出来るだろうか?と。

 

「レビル将軍が生きていれば…、こんな事にはならなかったかもしれない……。タラレバね…。」

 

浴場で湯に浸かりながら、天井に着いた水滴を一つ一つ目で数えながら、彼女は亡くなった元上司を恨めしく思う。

あの人ならば、きっとニュータイプをもっと良い方向に考えていたのではないか?と、

 

アレックス、戦技研究の過程でホワイトベース隊のガンダムのパイロット・アムロの為にと改めてカスタマイズの指示を飛ばしたのは、レビル将軍なのだから。

 

たった一隊で、彼等がどれだけの戦果を上げどれだけの功績を残したのか。

彼等のために、将軍がどれだけ骨を折って資材を掻き集め、命令を飛ばしていたのか…。

その背を見ていたクリスには、そんな大きな将軍が生きていればと…。

 

「皆バラバラなのよね、フフ私達も同じ様なものか…。」

 

そんな中、バラバラにされたのは自分達も同じだと言う事に改めて気付かされていた。

RX計画、その賛同者は今…連邦の内輪揉めに分割されていた。

 

 




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