白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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諍い

〜0083年1月18日

 

グリーン・ノア、軍需研究所

 

太陽の傾きもないその日の午後。多くの技術者が集う格納庫、その中は、ピリピリとした空気が漂っていた。

 

その中心にあって、対立するように立ち上がっている二人の女性がいる。

片や連邦軍の技術者としてパイロットとしてこのプロジェクトの初期から深い位置で関わっているクリスチーナ。

対するは、昨日このサイド7・コロニーグリーン・ノアに到着したばかりの、アナハイムからの出向技術者である、ニナ・パープルトンである。

 

2人がどうしてこのように対立したのか、経緯を詳細に記していこう。

 

 

 

ガンダムℵと、その付属装備の開発は連邦軍主導の元、各関連企業のバックアップを受けての開発である。

だが軍主導であると言っても、その枠組みの中に一般の企業が参入していない訳ではなかった。

例えば、ヤシマ重工等の銃器関連の技術者であったり、タキム重工の様な核融合炉関係の技術者も勿論いる。

 

其れ等の企業無くして、連邦軍のモビルスーツの開発は進むことも無い。よって量産化を視野に入れるのであれば、民間との合弁事業を行う為の施設も必要となってくる。

それが、サイド7グリーン・ノアでのトロイホースの目的地となった、最大の理由であった。

 

ただ、そんな関連企業の中には別口での、モビルスーツ開発プロジェクトを担っている企業の名も存在していた。

 

アナハイム・エレクトロニクス社

 

この企業は所謂多角経営を行っている企業であり、この宇宙世紀に於いて尤も多くの事業に手を伸ばしている、所謂大企業の1角である。

そんな彼等であるが、一年戦争後ジオン系の技術者を吸収する事により、モビルスーツ開発部門を設けた。

勿論、一年戦争中は連邦軍のモビルスーツ開発に携わっていたが、その関連度はビック・ウェリントン社程ではなかった。

 

モビルスーツ関連への投資の拡大を背景に、燃焼機関エンジン等の技術を多く持つハービック社の買収や、ガンダムℵも使用しているビームライフルの開発元であるボウワ社等も買収しており、ここ近年ではその部門の拡大は日に日に増している。

 

そんな企業の拡大を背景に、軍需に対してライバルであるウェリントン社を意識してか、連邦軍の一部官僚並びに武官に対して粉を掛けるように、話の場を設けそして…一つのプロジェクトを引き出した。

 

ガンダム開発計画

 

所謂GPシリーズと呼ばれるモビルスーツの開発計画がスタートし、意気揚々と開発に乗り出した。

しかし、現実というものはそれ程甘いものではないと言う事を、彼等は改めて突き付けられる結果となった。

 

まず、ジオンから買収した企業の殆どに於いて、連邦軍と同等水準のフィールド・モーターを開発出来る技術が存在していなかった。

コレは致し方無いことで、元々重機等を中心に保守的な技術でモビルスーツを創り上げてきた、そんなジオン側の事情が反映されている。

 

結果として、其れ等の技術を使用する事は非常に難しく、結局のところパテントを買っていたジム系列機のモーターを一部流用する形での、ガンダム開発はスタートした。

 

ニナは、そんな苦境から始まったアナハイムのモビルスーツ開発の初期からのメンバーであった。

元々はモビルスーツに対する研究等は、学生の領分から行っていただけに、次第に彼女が其れ等の中心的役割を担う様になっていった。

 

そんな彼女の心境は、正直に言えば穏やかなものではない。

ガンダムをして、彼女はそれが戦争の道具等ではなく、自分達技術者の良き子供であると評する。

それは、戦死報告のあった恋人…その影響を受けてか、そういう思いが強かった。

 

彼女が初めて中核となり開発された、試作0号機はそんな彼女の主義主張とは裏腹に、開発途上で半ば強引に戦場に駆り出された挙げ句、戦闘による大破と言う結果を齎した。

バラバラになった機体を見た彼女は、とても悔しい思いをしただろう。

 

そんな最中、ガンダムℵの情報がアナハイム上層から齎された。

 

自分達よりも後発であるにも関わらず、既に実戦での経験を積んだ、新しいガンダムの姿があると言う。

そんな触れ込みであったその機体。パイロットは有名人であるようだが、そんな事はどうでも良く寧ろその機体にこそ意識が向いた。

 

既にニナ自身には、ガンダム開発計画に於いて首班となって設計、製造に関わらなければならない機体があった。が、現状アナハイムの機体に足りない部分が有るのは事実であると、素直に受け止めていた。

 

試作0号機たるブロッサムが、様々な新機軸の技術を採用し人間が操縦するキャパシタの限界を超えたものであったが故に、パイロットがそれに振り回されてしまった。

そして…大破した。

 

ガンダム開発計画は、その為に幾つもの機体を組み上げ、その中で正規に製造たる機体をと…、ニナはゼフィランサスサイサリス両機の開発に注力しなければならなかったが、ゼフィランサスに関して言えばニナは少し不満があった。

 

汎用機動兵器と言うモビルスーツの特徴的な性格、それこそがゼフィランサスの求めたる性能。

そんな機体を創り上げるには、参考にしなければならない情報が山ほどある。

では、その情報は何処にあるのかと言うと、上手い話が転がり込んできた。

 

件のモビルスーツ、ℵと言うコードネームを与えられたガンダム。その機体の製造過程において、アナハイムも1枚噛むことが決定したという。そして、それに伴い技術者を交代で派遣する事が決定した。

 

ニナは両手を挙げてコレに飛び付いた。

 

結果、彼女は自らの仕事を他者へと移管し、その計画への参加を行いつつそれを参考に、機体に反映しようとしたのだ。

 

「始めまして、ニナ・パープルトンです。一ヶ月と言う短い期間ですが、皆さんとともに本計画に参画出来る事を嬉しく思います。」

 

研究所到着後の発声第一の言葉がこれである。

ドキドキとしながら、その瞳にそれを焼き付けんとするばかりに、その瞳は輝いていた。

 

いざ、その機体を目にした時……、

 

拍子抜けした。

それはもう、ものの見事に。

カタログスペックとその外見は既に知っているものがあった。だが、それに見合わぬ多大なる戦果を残すという、脚色されたかのようなその鮮やかな動きは、いったいどうやって生み出されているのかと、そう思わずにいられないようなそんな中身だとそう思っていた。

 

だが、蓋を開けたらどうか?

確かにジェネレータ出力は、既存のどの同クラスの機体よりも高いだろう。だが、ニナが請け負っているゼフィランサスの搭載する予定のそれよりも、若干その出力は劣っている。

 

目新しい物が有るのだとすれば、それこそその機体を構成するフレーム構造だろうが、それだって高度な技術が詰め込まれているとは思えない。

解析すれば、簡単に再現可能なのだろうというそんなものばかりが、このガンダムℵと言うものの正体だった。

 

そして、そんな事を感じてしまったがために

 

ポロッと口からある言葉が出てしまった。

 

「つまらない機体ね…。」

 

この時、モビルスーツが置かれている格納庫、直ぐ近くにはクリスとアムロの姿があった。

当然ニナの呟きは二人の耳に届くに至り、当然のようにその言葉に対して反応を示した……クリスが。

 

「つまらない機体って、どういう事かしら?」

 

「…えっ?私、何か言いました?」

 

無意識に口から出た言葉に対して、そう反応を返すのが却ってクリスの神経を逆撫でした。

 

「貴女、私達の造ったこの子をつまらない機体って言ったのよ?何処がどうつまらないのか、具体的に教えてくださらない?」

 

この時のクリスはかなり高圧的な態度だった。いや、何故そうなったのか、本人ですら気が付かない事だろうが、言ってしまえば単純な事だった。

クリスとしては、ガンダムℵは言わば自分の子供のような存在であったのだろう。

男と言う生き物には、あまり良く分からない事だろうが女性という生き物は、時として自らの子供のために暴走することがある。

 

コレはそう言ったものの典型例だったのだろう。

 

それに呼応するように、高圧的に接せられたニナは対抗するように自らを大きく見せるよう言い放った。

 

「試作機ならもっと派手に色々なものを詰め込むべきだと、そう思っただけですが?!」

 

そこからは舌戦の開始であった。

殴り合い等しようものなら、軍人であるクリスがニナを殴殺する事などわけはないのだが、そういう意味ではクリスの理性は残っていたと言える。

 

そしてそれを前にして、渦中の中にいる筈の存在であるアムロであるが、それを感心を持って首肯していた。

何をそんなに冷静にしているのかと言えるだろうが、アムロにして見ればガンダムをそんなにも強く思っていたのかと、クリスに改めて敬意を持ちつつ、ニナに対しては外野からの視点というものをオブラートに包むこと無く提供してくれる、良き人であると捉えた。

 

実際の胸中での二人の機微をアムロは完全に理解していて、かつその状況を楽しんでいたとも言える………。

傍から見れば、女同士の喧嘩を横目にそれを見てニコニコとしているヤバいヤツに見える事だろう。

 

そんな空間に対して、割り込んでくる人物がいた。

 

「おいニナ。よさないか!!」

 

妙齢の女性、それにしても立派な体躯をしている人が、ニナとクリスの間に立ち2人を宥めようとした。

 

「私の連れが何か酷いことを言ったのならば謝ろう。ただこの場で喧嘩をしたところで解決はしないだろう?

そこに突っ立っている青年も、なんとか言ったらどうなんだい?」

 

「……、血みどろな争いにはならないと思ったので…、そうですね啀み合っても意味ないですし、そろそろ手を取り合ったほうが良いかも知れませんね。」

 

シーマは仲裁しつつも、相手側の同伴者であるアムロに同意を求める意味で言った。

するとアムロはその意思を汲み取ると、クリスとニナに言い聞かせるように答えた。

 

「ほらっ、互いに謝んな。特にニナ・パープルトン、アンタは口が軽いのが難点だね。治さないと災いを呼ぶよ?」

 

「っ!?軽率なことを言って、す、すみませんでした。」

 

「私も少し熱くなってしまったかもしれません…、こちらこそすいませんでした。」

 

それを見てシーマは頷き、下心を隠す。

と同時に、アムロはそんなシーマを見て何かの違和感を感じたのか、この妙齢の女性が何かを隠していることを感じ取る。

しかし、その正体が何であるのかと言うところまでは踏み込まずに、恐らくは大きな苦労を背負っているのだろうと結論づけた。

 

諍いを起こした2人は、その責任と罰をという名目で所長室へと連行され、きっとやんわりと折檻される事だろう。今更不和を起こしたところで、何かが瓦解する訳では無いにしろ、企業と軍の間を取り持つプロジェクトに影を落とすのは良くないことだ。

喧嘩両成敗、それこそ妥当な判断だった。

 

仕方ないという顔をしながら、外へと歩き出す2人を尻目にアムロとシーマは身長差を感じさせるものの、隣立っていた。

 

「貴女も大変ですね、こんな仕事を引き受けて。」

 

「お守りをするためにここに来たわけじゃないんでね、これも仕事さ。そういうアンタは……、事務所では見なかったね。

私はエフェメラ、エフェメラ・マハルってんだよろしく。」

 

親しげにそう名乗る彼女は、右手を差し出し信頼の証として握手を求める。それに対してアムロもまた、手を差し伸ばし手を握ろうとしながら言った。

 

「それじゃあ、改めて。僕はアムロ、アムロ・レイです。

一応ですけど、そこに立っているトリコロールの方のテストパイロットをやらせてもらっています。」

 

二人の手が交錯する瞬間、アムロの脳裏には目の前にいる女性の、その半生が僅かにだが流れる。

コロニー落とし、そして毒ガス…多くの戦犯を抱える日常と逃走の日々…。

そして、部下から告げられる彼女の本当の名、〘シーマ・ガラハウ〙というその名を。

 

それにアムロは目を見開き、同時に彼女がとても優しい人であること、そしてとても深く傷ついていることを知った。

 

呆然とするアムロと同じく、アムロのその名を聞いたシーマは驚きを隠せなかった。

 

アムロ・レイ、その名を知らない元ジオン兵はいない。戦後になって連邦軍が大々的に宣伝した、ガンダムのパイロット。その名は、忌を持ってして覚えられている。

ジオン敗戦を決定づけた連邦の功労者にして、連邦のニュータイプとしても…。

 

シーマは別に、ニュータイプと言うものを信じてはいない。ただ、理想に燃えていた士官学校時代。ジオン・ダイクンの掲げたその思想というものに熱を上げたことがあるのは、事実であるからそんなニュータイプが目の前にいる事に驚きもある。

そして、こんな20にも届かない青年がそんなにも恐ろしい存在であるとは、思えない。

 

それが今目の前にいる。目の前にいるのに、憎しみは出て来ない。寧ろ、自分たちを追い詰めたジオンのギレンやキシリアを間接的に追い詰めたことに、感謝の念すらある。

だが、喜べない。正体がバレれば待っているのは死刑であろう。

 

「とりあえず、機体を見せてもらってもいいかい?家の連中が帰ってきたら、色々と聞かれそうだしね。」

 

「良いですよ?ただ、僕が着いている条件付きで、ですけど。守秘義務ですから。」

 

一方的な探り合い、シーマはアムロを警戒しアムロはシーマを信じようとしていた。

 

 




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