白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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別れ

 

 

〜0083年2月18日

 

アナハイムからの出向という形でのニナとシーマの派遣期間がこの日に終了するが、研究所の中では忙しなく今日も作業が続けられていた。時間いっぱいまで其れ等を有効活用しようと、活発に動く技師達。

外部からの技術者を受け入れる事は、内部の空気を入れ替える事に繋がり結果、少なくともガンダムℵの開発は少し前進を見せた。

 

フレーム強度問題や、モノコック構造の限界。

そして、古く枯れた技術のより良い使い道など、内部のそれこそ連邦系技術者だけでは出てこない発想。

そういった物は別角度から物を見ている人間がいてこそと、良好な関係を築けたことだろう。

 

ニナにとっても、このℵの開発に参画した事には大きなメリットがあった。

試作0号機ブロッサム、その開発において機体への技術の過度の詰め込み過ぎという、物を解消する為の創意工夫。

 

流石にガンダムℵそのものを丸ごと取り入れる訳には行かないにせよ、それぞれのコンセプトに合わせた機体と言う物を造るに辺り、必要充分な経験値を得ることが出来た。

 

彼女が中心となって開発が予定されている、試作1号機のコンセプトは完全汎用型のモビルスーツ…。つまりはℵの様な機体であるのものの、ℵ程の機体そのものの汎用性は求められていない。

それこそ、宇宙戦闘特化仕様も含めて改装が可能なものとなるだろう。

 

試作2号機に関して言えば、やはり其れ等をサポートする機体となる予定だ。

 

互いに得るものを得て、満足な終わりを迎えられれば上々であるが、それでも一人だけ何も得られていない人がいた…。

アナハイムからの依頼を受け、機体の奪取それが不可能であれば破壊をと秘密裏にされたシーマである。

 

生命に変えても全てを成すことが出来れば、それこそリリー・マルレーン以下、シーマの率いる艦隊の面々は月面への居住権を検討される。

ただ、それが履行されるかは分かるものでもない。粛清される可能性も有るのだとすれば、こんなものにならざる終えなかったシーマは今、瀬戸際に立っていた。

 

表向きテストパイロットとしてこの場へと来ていた彼女であるが、やはり単なる海賊である。流石に色々と不味いものを知られているが故に、それが弱みである。

最終日であるが故に、最後の最後は自由に行動せよと言われれば、一人で何処かカフェに行く事も別に珍しい事には映らなかった。

 

「お隣失礼します。」

 

優雅な一時をぶち壊すように、額縁メガネをキメた一人の男が姿を現した。

シーマはその男が誰であるのか知っている。

自分達に連絡をつけに来た奴である、それはこの男がアナハイムの人間である事を現していた。

 

「じゃあ何かい?契約は不履行ってことになるって?」

 

「そうです。我々としては実機そのものが有れば…と言う、前提条件の上での契約ですから。それが無いのであれば、我々としても受け入れる事は叶いませんね。」

 

最終日となり、新たなアナハイムからの出向の人間と入れ替わる為に、情報の伝達を行おうという建前上、上層からの連絡を行なってくる相手に、怒りがこみ上げてくる。

しかし、相手は涼しい顔である。何せ、周囲には人も多くこんなところで傷害事件等起こせば、確実に通報されるだろう。

 

「アンタ等、アタシを舐めてんじゃないだろうね?そもそも情報が少なすぎたんだよ、どうして連邦のエースが紛れ込んでるような現場に入らせるんだい?馬鹿じゃないかねぇ?」

 

「なんとでも?我々は、我々の仕事をしているだけですので…。それでは、失礼します。あ、お代は払っておきますのでごゆるりと。」

 

男はそう言って席を経つ…、昼下がりのカフェのど真ん中でそんな話をする理由がないと、周囲は別れ話を切り出されたカップルが喧嘩しているようにしか映らなかっただろう。

残されたシーマは深い深い溜息をついた。最初から、アナハイムに嵌められていたのだろう事、それを考慮に入れても自分の行動は浅はかであった。

 

それでも時間というものは過ぎて行く…一つ一つ秒針が進むごとに、色々なものが記憶を過ぎる。

今ここで逃げ出しても、誰も文句は言うまい。ただ、彼女はシーマ艦隊の頭領、シーマ・ガラハウである。

背負った仲間の生命を無碍にするほど、彼女は薄情ではない。

 

いざ決意を固め、その席を経とうとしたその時だ。

 

「こんなところにいたんですね。」

 

と、聴き知った声が彼女の思考を中断させた。

 

「何のようだい…、アンタは今日も色々とやる事があるんじゃ無かったのかい?」

 

彼女の目に入ったのは、アムロの姿だった。飄々とするその姿からは、焦りだとかそういう物は見えない。どちらかと言えば、彼女を心配していましたと言う、そんな風体である。

 

「ええ、色々とありましたよ?それでも、その用は貴女の為の用でしたからお別れにと思いまして…。

さっきのが…例の人ですか。」

 

「さあ?どうだかね、アタシの相手なんかしているよりもよっぽどアンタ等のアレのことが気になっているみたいだよ。

それでも野放しにしているってんだから、アンタ等も真艫じゃないね。」

 

この期に及んでシーマは呆れていた。連邦内の施設の中で、アナハイムは、堂々と技術を盗んでいるのだとそう思われていても仕方がない。

にも関わらず、官公庁の所管である研究所がそれを取り締まらないのは、何か意図があるのかと勘ぐる。

 

「ああやって盗んでも、何れは開示される技術です。それなら、向こうで勝手に研究してくれたほうが、お金が掛からないから良いんだそうですよ。」

 

「ハハ…、じゃあ何かい?こっちのやってた事は殆ど無駄ってことかい?」

 

シーマの質問にアムロは笑みを浮かべて答えると、懐から徐ろに一つの封筒を取り出すと、彼女の目の前に置いた。

かなり薄っぺらい、何か紙が入っているのだろうか?それにしても殆ど重さはなかった。

 

「コレはなんだい?」

 

「僕からのまあ…プレゼントみたいなものですよ。尤も役に立つかどうかは…扱い次第、と言うものですけど。帰ったら開けてみてください。」

 

その言葉に僅かに訝しむが、それよりも更に質問を投げかけた。

 

「アンタねぇ…、コレは連邦への背信行為ってやつじゃないのかい?捕まって幽閉されるだろう?」

 

「心配しなくても僕を逮捕して幽閉した…、なんて事を公表したら連邦の権威は地に落ちますよ。

自分達で神輿に担ぎ上げておいて、用が済んだらハイさようならなんて言う、そんな事を黙ってみていられるほど、僕も大人じゃありませんよ。」

 

やり方があまりにも素直すぎて、シーマは引き気味である。寧ろそんな度胸があるからこそ、戦争を生き残ってこれたのだろうが、少しばかり異質だ。

 

「そうかい…、まあそう言うの嫌いじゃないよ。ありがたく受け取っておくとするよ。」

 

「ええ、そうしてください。…そろそろ時間ですか?」

 

壁掛け時計の時刻は、シャトルの発着時間を表している。

シーマも徐ろにそれに目をやり、諦めがついたように席を立つ。

 

「ありがとね…、世話んなったよ。色々と」

 

「こちらこそ。次に会う時は、もっと別の形でお会いしたいと思います。」

 

2人は握手をして、シーマは席を後にしアムロはそのまま食事を注文した。

2人が再びその場で会うことは、金輪際無いだろう。

 

 

 

シーマがシャトルに到着し指定された席に座るが、ふと違和感に気が付いた。

同乗者であるはずのニナの姿が無いのである。

 

「彼奴どこいったんだい?子供じゃあるまいし、まさかまだあっちにいるんじゃないだろうね…。」

 

一抹の不安が過ぎる、しかしてその不安は見事に的中した。

急ぎ廊下を走るその姿は、キャリアウーマンとしては有るまじきあまりにも焦っているような形相で、パスポートを拝見する係の人間から見れば、あまりにもな姿であった。

 

「早く入れてください!!乗り遅れちゃうんです!!」

 

「規則ですのでお待ち下さい…。」

 

カウンターの人間からすれば、だったら何でこんなに遅くに来たんだよと、突っ込みたいところであろうが彼もプロである。それをお首にも出さずシャクシャクと仕事を全うする。

 

息せき切って走る走る、ドタバタと言う擬音が良く似合うほどにニナは走りきって、なんとかシャトルの出発5分前に中へと入ることが出来た。

 

「お客様落ち着いてください、まだ発進いたしませんので。」

 

「はあ、はあ、はあ………。」

 

額に浮かぶ汗を拭い、なんとか間に合ったと安堵しつつ自分の席を見つけようとすると、一際目立つ長身の女性の姿を見つけ力無く溜息をついた。

なお、溜息をつきたいのはキャビンアテンダントの方だろう。サッサとそこをどいて、席に座れよという圧を発していた。

 

「ごめんなさいね、遅れそうになっちゃった。」

 

反省の色はない。寧ろ、自分のせいではないとすら思っているだろうその顔に、シーマは心底殴りたい気持ちになったがコレでも千人を超える人数を指揮する司令官である。

その程度のことで暴力を振るうことはなかった。

 

「遅れそうになっちゃった…じゃないよ!!子供じゃあるまいし、もっと余裕を持って行動しな!!」

 

静かに叱りつけるも、効果があるかは分かったものではない。

そうしているとシャトルはゆっくりと加速を始め、アナウンスが流れる。

次第に離れていくコロニーの港から、宇宙が顔を覗かせ離れていく住処に、少しの愛着を感じながらもシーマは次のことに対して思考を巡らせていた。

 

「はあ…もうちょっと居させてくれても良いのにねぇ?」

 

「アタシはもう懲り懲りだよ、こんなところ二度と来るもんか。」

 

「帰ったら貴女、契約解除なのよね?どう?テストパイロットとして正式に」

 

「勘弁してくれよ、こっちだって色々と生活があるのさ。」

 

2人は窓の外を眺めながら、その短い旅路の中で思い思いにその先を見る。

 

 

遠くへと過ぎ去っていくシャトル、それを他所に今日もトロイホースが出航する。

その船窓から、クリスがその後ろを眺めていた。

 

「本当に渡したのかしら…、まったく面倒な事をするものねぇ。アムロ君も、色々と困った子なんだから。」

 

軍機軍機と言いつつも、クリスはアムロが行ったことに対して目を瞑る。

それが果たしてどういう結末を齎すのか、それはクリスには到底わからないものであった。

 

「さてと…、そろそろこっちの調整も大詰めだもの。新しく入って来た人たちの相手もしなくちゃならないし、本当に中間管理職って大変ねぇ〜。」

 

と背伸びをしながら、彼女はパイロットスーツへと着替える為に更衣室へと入って行く。

今日も実機試験が始まるのだ。

 

 

……

 

「なに…!?それは本当かね?」

 

暗い暗い部屋の中、2人の男が互いにソファに腰掛けテーブルを挟んで向かい合っている。

一人のその姿は、見るからに派手そうな徽章と真っ赤な軍服に身を包んで、拝金主義な金の意匠と共にあまりにも目立っていた。そしてその衣装に彼の金髪もまた、様になっている。

それでもなお、瞳を隠すかのように彼はサングラスをかけながら、自らが聞いたことが信じられないかのように、聞き返した。

 

「地球圏では専らの噂です。連邦軍にあのニュータイプである、アムロ・レイが士官したのだと。私も、最初は眉唾物だと思いましたが、実際彼の素性を検索して見れば、簡単に情報が手に入りましたよ。」

 

一方で、それに相対する男の服装は地球連邦軍の標準的な軍服に身を包んでいたものの、緊張感はなく寧ろこここそが自らの家のようにリラックスしていた。

 

「まさかな…、連邦に侵入し内部から情報を提供してくれていた貴官には感謝しかないが、しかし…信じられんな。まだ、年端も行かない子供だと言うのに。」

 

「連邦も人手不足だと言うことですよ。現に元公国軍の軍人すら、連邦軍への再就職を斡旋されていると聞きます。

向こうにも向こうの事情が有るんですよ。」

 

片手で煽る飲み物を口にしながら、眉間に皺を寄せた。それの味はお世辞にも良いものではないが、ここではそれなりの嗜好品であった。

 

「情報をありがとう。引き続き、貴官の健闘を祈る。」

 

「了解しております大佐!」

 

飲み物を口にしつつ、大佐と呼ばれた男に対して敬礼し退室しようとしたその時、その部屋の扉の先から呼び出しベルが中に響いた。

 

「入って良いぞ。」

 

「失礼します大佐!」

 

入れ違うように入って来たのは、一人の女性であった。その格好は、大佐と呼ばれた男のそれとよく似ていて僅かに違いがあるとすれば階級章の形であろうか?

その女士官が入ってくると、僅かに大佐の口元は緩んだ。

 

「済まないなナタリー、用意はできているのだろう?」

 

「はい、ハマーンの準備も出来ています。」

 

その言葉を聞いて大佐は納得するように首を縦に振る。

 

「コレより航路の変更がある。この長旅の中、彼女の精神にも来るものが有るだろう支えてやって欲しい。」

 

「心得ています。ですが、大佐もお気をつけてください。」

 

男は不敵な笑みを浮かべ、片手を額に当てながら言った。

 

「ありがとう。だが、まさかの接触の後だ。色々と問題が山積みかもしれない、その時は力を貸してもらうぞ?」

 

「わかっています。」

 

その言葉に満足したのか、大佐と呼ばれた男はスイーと重力が無い廊下を急いで進んで行った。

 

 




実験隊編 完

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