白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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望郷
侵入者


〜0083年3月7日 サイド7 連邦軍工廠

 

格納庫にいる整備兵達は肩を組みながら、一様にその目の前に広がる光景をみて笑っていた。

彼等の前に立っていたのは、ジム・カスタム達連邦軍の高水準量産機。

現時点で第13独立実験隊が保有する戦力の全てが、そこに存在していた。

だが、其れ等のどれもこれもが僅かに通常とは異なる仕様の変更をされていた。

 

その近くに屹立している、ガンダムℵやGキャスト等の試作機とその肩の形状や脚部のスラスターの位置など、胴体以外の全てが、同様の形状をしているのだ。

 

量産機への改修作業という名目上行われた、大規模な機体の改造。

追加された物は、モノコック構造の腕部と脚部を完全に内部フレーム型のそれへとそっくりそのまま取り替えられたのだ。

 

アムロによる急激な操縦への対応こそ難しいところがあるものの、通常の戦闘操縦。通常のパイロットが行う戦闘機動への対応へは、必要充分な性能を満たし尚且つ、より安価な調達を目的として暫時切り替えが行われていたのだ。

 

その作業がこの日、全て完了したのだ。

残っているものは、予備パーツとして艦内への保管がなされるだろう。

 

大凡戦力としては1割増しという程度ではあるものの、機体のより自由な動きへの制約が消えた事により、スラスター等の推進剤の消費を抑える事に成功していた。

 

そんな目出度い日にあって、あまり面白くない話題を聞きにブライトとクリス。

そしてモビルスーツ隊の戦闘隊長として、アムロが。

艦橋クルーである副長のガディ・キンゼー大尉も共に、連邦軍指令部へと来ていた。

 

「まあ座り給え」

 

5人が到着するのを待っていたかのように、基地司令官であるジェラルド・ホーキンス中佐が、彼等に命ずる。

各々は敬礼をした後、その割り当てられた待合用のソファへと腰を掛けると、その柔らかさに驚く。

なぜ、自分達がここに呼ばれたのかとブライトは嫌な予感に、胃をキリキリとさせながらその答えが来るのを待っていた。

 

ジェラルドがブラインドを下げた窓の前に立つと、彼等を一瞥すること無く口を開いた。

 

「諸君等をここに呼んだのは他でもない。第13実験隊の当初の予定を、大幅に変更しなければならない事案が発生した為だ。」

 

その言葉には、僅かながらに声が震えている…緊張感が現れていたのだろう、司令は片手を顎に当てながらも後ろ手を固く握り締めていた。

 

「今朝未明、地球圏の外、火星と地球との中間点に存在するアステロイドベルト方面から、未確認の人工物体が地球圏へと流れ着いたとの情報を受けた。

地球連邦軍としては、直ちにこの物体の正体を突き止め然るべき後に破壊、若しくは回収を行わなければならないと判断し各方面軍への情報伝達を図った。」

 

淡々と述べられる説明に事の重大性を認識する事は、非常に簡単な物があった。

実際、この訓示を述べる司令官は決して部下に目を合わせようとせず、淡々と命令を下すだけなのだ。

和やかな雰囲気など一切なく、有るのはコロニーの反射板から覗き込む太陽光だけだろう。

 

「また、この事態に際し幾つかの外周警備艦隊所属の艦艇との連絡が取れなくなっている。との情報も存在する。

貴官等には、ワイアット司令からの直属の命令が通達された。

第13独立実験隊は、本日を以て実働部隊としての任務遂行を行うべし、各員は即応態勢を維持し速やかなる機動を保つべし。との事である。

何か質問はあるか?」

 

司令官からの言葉に対して、真っ先に手を挙げたのは他でもないアムロであった。

 

「敵の目的は何でしょうか?争うためなら姿を表そうなどという愚策はしないと思うのですが…?」

 

「そこは未だに調査中だが、一切の敵意が無いと断言する事は出来ない。十分に警戒していても、無駄な事は無いはずだ。」

 

ジェラルド司令としては、この事態は寝耳に水であったのだがそれでも、一年戦争を経験した彼である。

それなりに肝は座っているし、何より冷静に物事を見ることが出来ている。

 

「では、ジオン関係の可能性が高いと…そう見ているんですね?」

 

アムロにしてみれば、昨今あったジオン軍人と言えばシーマだけであるが、彼女が果たしてそんな軽率なことをするようには見えなかったので、彼女と本件との関係は薄く感じていた。

それでも、ジオン公国絡みのものではあろうとも考えていたし、シーマ等以外にも多くの潜伏ジオン軍がいるのだろうという、結論に達していた。

 

「ブライト少佐と、ガディ大尉。貴官らは確か地球出身だったな?」

 

「はい、自分等は地球出身であります。それが、どの様な関係が…?」

 

ガディとブライトは所謂同期である。

戦時中、士官学校で学び候補生となって繰り上げで前線に投入された彼等であるが、この数年間人手不足も相まって階級は年齢に見合うものではなかった。

それでも、実戦経験という点においては互いに多くの経験をした。

 

そんな2人に、何を問いたいのか?ジェラルドという男は、出身地に括る男であった。

 

「私は、サイド2で生まれ育ちそして連邦軍へと入った。コロニーには多くの友もいたし、家族もいた。

だが、それのどれもこれもがジオンの手によって、破壊されたのだ。

 

ジオン・ダイクンという人間がどういう人間であったのかはさておき、私個人としては決して悪い人間ではなかった、と考えている。

死んだ後、思想だけ利用された哀れな男だ。

 

彼の考えていることは、コロニー出身者であれば誰もが、胸に秘めている事ばかりだからな。

だから、恨むことはしない。

憎いならばそれは、戦争を起こしたジオンの指導者層に対してだろう。

 

そこで、地球出身である2人に問いたい。

今回の件について、君達はどの様な判断をコロニー出身者に感じるのか…?」

 

その質問に対してすぐに答えたのは、ガディ大尉であった。

 

「もし残党を匿っているのならば、極刑は免れないものでしょうが、恐らくは同情しての事だと思われます。情状酌量の余地はあるかと。」

 

軍機に則った人間であるが、そこはやはり実戦経験のあるところからか、周囲の目も広く観ていた。

 

「自分は罰せずで良いと考えています。どれだけ抑圧しても、結果は同じ事の繰り返しです。匿った者に対する罰則は、それこそ必要最低限の物以外やってはならないかと。」

 

対してブライトはそう答えた。

一見すれば同じような思想であるが、ガディの方は引き算の刑法であり、ブライトのそれは足し算の刑法である。

その感覚は思った以上に深い溝というものがある。

 

「各々の考えは分かるとも、それは大切にしていけば良いが、互いに修正し合う事も忘れないでくれよ?

戻って良し!!」

 

その言葉によって5者は各々の仕事へと戻る事となる。

ただ、その命令の中で一人だけ何やら考えている者がいる。

それはクリスであった。

 

予定では、サイド7での大枠の調整が済み次第、サイド6の方へと入港する手筈となっていた。

 

クリスにとって、サイド6は家も同じようなもので、実際彼女の両親はそこに住んでいる。

残念だと思う反面、きっちりと仕事をこなさなければ、そんな家族に危険が及ぶリスクもあるのだと、改めて戦争のことが嫌いであると感じた。

 

そんな思考の海に入るにふと…、とある人物の事を思い出す。戦時中、近所に住んでいるアルフレッドという少年と一緒に、その人とあった日のことを。

 

「……まさかね。」

 

クリスにとってその人との出会いは、恐らくは初恋の様なものだったのかもしれない。たった数回、下手をすれば24時間も出会っていない筈の彼の姿が、妙に脳裏に焼き付いている。

戦後一度たりともない会いに来たこともなければ、手紙1通寄越さないその人物を。

 

そして、そんな彼に対して一つの疑問が降って湧いた。

もしかすると、彼もまたジオン軍人だったのではないか?という、推論である。

それならば辻褄が合うのだ。元ジオン軍人で、所在不明で何より音信不通…。元ジオン軍人であるならば、そうなってしまっても致し方ないし、もしそうならば自分が彼を助けなければならないとも思った。

 

今や連邦軍に逆らっている元ジオン軍人達等、犯罪者以外に他ならない。もし、そんなものに身を窶していたのなら、それこそ頬をひっぱたいでやらねばと、固い決意を示していた。

ただ…、一つの結論だけを考えないようにしてもいたが…。

 

 

 

同日、とあるペントハウスにて

 

太った老齢の男がソファへとドカリと座り、ワインを片手にその他大勢の人間と語らい合っていた。

決して食事会という雰囲気でもなければ、剣呑な空気を醸し出してもいない。

その尽くが、燕尾服やスーツに身を包み軍人の様な強張った顔ではなく、柔和な笑みを浮かべている。

 

その中には、1月のとある日にセイラと出会っていた老人の姿もそこにあった。

 

「いやはや大変ですなそちらも、ダイクン殿。」

 

「票田は安定してはいるものの、倅の失態を尻ぬぐいしている気分ですよ。まあ、ああ言う男でしたから、上手いこと利用されて名前だけで世界をこんな混沌に叩き込んでしまったのですから、扇動家としてはかなりの腕だった…、惜しい事をしたよ。」

 

男の家名はダイクンという。

元は、西暦の時代での爵位を持った貴族の出である家柄を持っていて、連邦議会が設立されてから今まで、その票田を元に安定的な支持を得ていた人であった。

 

彼の息子であるジオンもまた、当初は連邦議会の文官であり理想に燃える一人の若者であったが、硬直化した連邦議会に嫌気が差し自らバッヂを外した。

彼が地球から離れたのはそう言った経緯もある。

 

しかし、議員としての彼の立場を誰かに奪われるのを危惧したのか、結局は今の今まで老齢の身となってなお、政界に足を浸けていなければならないという事態になっていた。

 

「この前、孫娘にあって来ましたよ。いやぁ、美しく育ったものだよ。アレは母親似なのだろうなぁ、言葉はかなり硬いものがあったが、そこは父親譲りだった。アイツも、口が悪いところがあったのでね。」

 

思い出話に花を咲かせているが、周囲もそれに聞き入っている。これではまるで老人ホームであろう。

だがそれもしょうがないところだ、何せこの場にいる人間の殆どは、そう言った年齢の人物ばかりだからだ。

 

「さて、孫の話はこのくらいして本題に入ろう。ゴップ大将、最近の連邦軍の動き、正直に言って度が過ぎてはいないか?

幾ら戦力の拡充をと言っても、数個艦隊分の予算は流石に面倒見切れぬ。」

 

「そうでしょうなぁ、実際連邦軍も設立当初よりも遥かに肥大化している。特にここ数年、戦争からというものその計上される予算の額は右肩上がりにとどまらず、天井を突き破るばかりだ。

私としても、軍拡は最低限に留めたい…だが」

 

と言ってゴップは立ち上がり、ペントハウスに似つかわしくない大型のディスプレイの前に立ち、それを点ける。

映し出されるのは、地球を象った惑星とその周囲にある7つのコロニーサイド。

 

そして、付け加えられたようにバラバラと散らされている、デブリの姿。

ゴップは其れ等を一瞥し、指示棒を手に取りそれを指差した。

 

「現在、元ジオン公国軍による収奪、海賊行為が行われている。実際の損害は経済上問題となっている程ではないものの、幾つかの部隊が大兵力を持ったままに、潜伏している可能性も捨てきれない。」

 

「では何故、其れ等を早期に駆逐しようとしない?これではまるで、意図的に残しているようではないかな?」

 

現在連邦内での、元ジオン公国軍による残党は殆の場合をもって存在しないこととなっている。

安定的な経済を取り戻すべく、そう言った物事にばかり資金を捻出したからというところも大きいが、一番の要因となっていたのは…。

 

「いや、やはり兵員が不足しているのですよ。特に、練度を持った部隊が、先の大戦を通して完全に払底し、今では佐官の殆どが20代の若者ばかりだ。

一部老齢な連中もいるが、そう言った者達は政争ばかりしている。

色々と要因はあるにせよ、連邦軍もギリギリで回しているのです。」

 

「だからと言って、予算は無限に存在しない。戦時ならば国債を発行すれば何とかなるが、平時ではそればかりを行えば財政は破綻する。

待っているのは、戦争以上に悲惨な餓死の焼け野原だ。」

 

周囲にいる連邦議員も其れ等の言葉に同調するものの、それを聞いてゴップは首を僅かに首肯するに留め、分厚い瞼の奥にある瞳が怪しげに煌めいた。

 

「であるならば、向こう10年の予算の捻出をお願いしたい。その間に、様々な問題を解決する時間を欲しているのです。でなければ、宇宙空間での航行に更に支障をきたす危険もあるということを、充分に承知していただきたい。」

 

「それは尤もだ。だが、その言葉忘れるなよ?10年だ、10年の時間しかないのだとな。それ以上は事業に支障が出る。」

 

地球連邦最大の理念、それは地球から人類を宇宙へと完全に移住させること。

それこそが地球連邦の存在理由であり、積年の大事業である。

ここにいる彼等は、その事を忘れてはいない。

 

互いに握手をしながらも、薄っすらと光る眼光は人のそれとは思えないほどに、剣呑なものであった。

 

 

 




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