白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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洞察者

〜0083年3月8日 サイド7

 

サイド7その数少ないコロニーの中から、1隻の白亜の船トロイホースが、宇宙を駆けるかの如く出航している。

普段通りであれば、指定された航路の通りに進んで行くのだが、その日の様子は少しおかしかった。

 

直ぐ様にガイドビーコンから抜け出すと、コロニー周辺を周る様に航行し始め、徐々に加速していく。その航行は、サイド7が周回する宇宙の安定区画、グランジュポイント3からの離脱を行う為の加速を続けグングンとそれから離れていく。

 

「第一加速終了、第二加速に入ります。」

 

「サイド7からの管制、〘貴艦の航行の安全を願う〙です。」

 

艦橋での通信と、操舵士からの報告を聴くとブライトは

 

ヨシ!

 

と、小さく呟きながら首を満足そうに縦に振る。

 

「コレより本艦は、月への航路へと入る。前大戦でのデブリが漂う昨今だ、くれぐれも監視を怠るな。

残留ミノフスキー粒子も存在している宙域もある、レーダーのみに頼らず目視での監視を厳と成せ!」

 

発令するとともに、艦橋内のスクリーンを展開自らも率先して索敵を行いつつも、有事の際の行動を頭の中でグルグルと反復する。

だが、ブライトという男はそう言った型にはまったものと同時に、アドリブも効く男である。様々なものに的確に判断しつつも、やはり何処かリラックスしていた。

 

「月か…」

 

自然とそんな言葉が口から漏れ、その言葉に艦橋員は少しだけ耳を傾ける。

その一言の中に、どれだけの思いが詰め込まれていたのだろうか?それは本人ばかりが知るが、大凡の人間はこの時だいたい同じ事を考えている。

 

どうして、戦いは終わらないのだろうか?と…

 

「ガディ大尉は、ワイアット中将の部下だったそうですね。どの様な人となりであったのか、覚えていますか?」

 

ブライトの直ぐ近く、隣立つようにしている男ガディ・キンゼーはその聡明な感覚とは裏腹に、物腰柔らかく指示を細かく出しながらその質問に答えた。

 

「中将は、私の恩師です。良く教えて頂きましたよ、尤も少し貪欲であるところが玉に瑕ではありますが…。」

 

「そうですか…、なに私はあった事が無いもので。直接話したことがあるとすれば、故レビル元帥かゴップ大将ですから。」

 

少し場を和ませようとブライトは、手を少しヒラヒラとさせながらも戯けて見せる。心からの余裕か、それともから元気か?これから実戦へと赴くというのに、その姿勢は軽い。

 

「それは凄いですね、同じ戦場に立った者同士今回もまた生き延びられたらと、そう思っていましたがやはり貴方は頼もしい。」

 

「そう言って貰えると、こちらとしても肩の荷が降ります。皆動揺していますからね。」

 

口に出せば、ビクリとする艦橋要員。一度戦場に立ったからといって、結局宇宙と地上とはまるで感覚が違うのだろう。

想定通りの動きが出来るのか、今からでも心拍数は鰻登りだ。だからこそ、ドッシリと構えている2人の姿はやはり輝いて見えた。

 

 

 

モビルスーツデッキに構えている機体群は、出撃の時を今か今かと待ち構えているかのように、まるで勇ましく屹立している。

しかし、それに乗るパイロット達の心情は複雑なものがあった。

 

そもそも、実験隊と言うものは実戦を想定して様々な戦術の研究と機体の性能を追求するための組織だろう。

しかしながら、この部隊の実態とは結局のところアムロ・レイと言う、ニュータイプと言う物を如何に都合良く使い、その力を軍事的にアピールするかという点に、比重が置かれているように思えてくる。

 

実際、地上戦に於いても急遽作戦に加えられ軍事作戦上、最も危険とすら言える奇襲攻撃を担当していた事から、この部隊の本来の姿は正しく強襲部隊と言えた。

損害を度外視されているという、プロパガンダ的に死んでも利用出来る人間達で構成されていたとすら言える。

 

「どうかしたの?難しい顔しちゃって、何か不味い事でもあった?」

 

その中で、駐機されている機体を見据えるアムロの顔は誰よりも険しく、それでいて誰よりも戦士たらんとするものだった。

この中で誰よりも戦場を知り、死を知り、生を知り…そして未来を知っている男である。

だからこそ、地上とは違う宇宙空間という戦いの場においてそれがどれだけ危険であるのか、身を持って警戒している。

 

「いえ、皆の事を信頼していない訳ではないんですが、少し心配で。マッケンジー大尉は、宇宙で直接戦闘に加わった事はありますか?」

 

アムロのその言葉に一瞬ハッとした顔をしたものの、直ぐに頭を切り替えて過去を思い出す。

 

「前、アレックスをサイド6に搬入する際護衛任務に付いていた位で、直接戦闘には関わってないわ。直接戦闘を行ったのは、コロニーの中だけよ。

ここのトロイホースの皆だって、地上戦で初めて実戦を経験したみたいだし、宇宙と地上は勝手が違うのは知っている筈よ。」

 

そう、この部隊のパイロットの面々の実戦経験は地上戦闘か、コロニー内での戦闘のみ。

それ以外での戦闘行動は、訓練ばかりを行ってきていた。

つまりは、艦橋要員の半数もさることながら、経験値としてはたった一度の戦闘だけしかない。

 

勿論その中にはブライトを筆頭とした、実戦経験豊富な者もいる。それでも、宇宙空間での戦闘というものは地上以上に神経をすり減らすものなのだ。

一撃貰えば、何処かしらのノズルが破損すれば機体の制御は困難となり、コックピットがひしゃげれば空気が完全になくなる迄に修復が間に合わなければ、窒息死。

挙句の果てには、吹き飛ばされて宇宙の塵と成る者も0ではない。

それが分かっているからこそ、アムロは少し心配なのだ。

 

「僕らが今から向かっている場所は、ゼブラゾーンというサイド5の残骸が漂っている暗礁宙域です。

そんなところに何が有るのか、正直に言ってきな臭い事この上無いです。

何より、あのアステロイドベルトから入って来た物が、そこにいるんじゃないかと…。

 

ワイアット中将直々の命令ですから拒否する事も出来ず、かと言って急ぎ過ぎるなと言うその言葉に何が有るのかなんて、僕には分かりません。

けれど、危険だということは嫌ほど分かります。特に今あの場所には何かが…いや、僕の知っている誰かがいる…。そう思えるんです。」

 

「そうね、確かにあそこは色々なものが漂っている。けど…、私たちも軍人よ?少しは安心して?

貴方と言うその誰かと言うのが、何者であるのかは分からないけれど、そんなにも危険だと思うの?」

 

クリスの問いかけに対して、アムロは僅かに身動ぎをすると今から自分達が使うべき場所に対して、睨みつけるように目を凝らす。その相手を、まるで見据えるかのように……。

それに倣うように、クリスもその方向を向くものの何かを感じ取るような事は出来なかった。

 

「この感覚はよく知っています。僕達が、嫌と言うほど相手になったその人の感覚と、まるで同じですから。」

 

「まだ月から結構遠い筈だけれど、分かるものなの?」

 

サイド7と月との位置関係は、鏡写しのように正反対に位置する。コレはラグランジュ点と言う、ある種の物理的要因によって引き起こされる事象で、必然的にその位置が尤も安定したものになるのだという事だ。

その為、対角線上に作り出された其れ等から月まで到着するには、全力航行を行っても24時間はかかる。

 

それでも、アムロからしてみれば狭い範囲なのかもしれない。彼が見ているそれは、普段のニュータイプ的な直感力とはまた違った、ある種のを辿ったそれであると言える。

要するに、ララァがアムロに道を示している様なものなのだと。

 

「いえ、そんな気がするだけですよ。

話は変わりますが、ルートが変更になってしまってあまり良くない事でもありました?」

 

アムロはその話を切り上げた。どれだけ説明しても、あまりにも宗教チックな話し言葉となって、理解の範疇を飛び出すのは目に見えていたからだ。ニュータイプと言うものの感覚は、オールドタイプに分かり辛いものだから致し方ないしかもしれない。

 

尤も、クリスにも多少ではあるが、その才能の片鱗はある筈だが、だからと言って無理矢理にそれを拡げようとは、アムロは全く想像しない。それでは彼女を強化人間に仕立て上げるようなものだからだ。

 

「あ、誤魔化したわねぇ…?ま、良いけれど。

 

そうねぇ…あまり良くないって事は、ないわ。ただそうねぇ、私ねサイド6の生まれって言ったでしょう?それでね、パパとママがいるのよ、折角会えると思ったのにってそんな感じなの。」

 

それは確かに本心であったが、しかしアムロは別の何かを隠していることを、直感した。そう、例えば…それは期待だろう。

 

クリスは、サイド6に帰る事によって自分の知っているであろう、とある男性の事を探ろうとしていた。

パイロットを引退した元軍人、と言っていたその彼の事を彼女は良く知らない。

幼少期に遊んであげた少年、アルフレッド・イズルハが言っていた、兄弟なんだよと言う嘘を飲み込んで無理に納得したその青年の名前を、今でも時折思い出している。

 

バーナード・ワイズマン

 

彼の事をもっと詳しく知るには、この機会を於いて他になくあったとしても、もうそれを忘れていってしまうだろう。と思いつつ、最後の最後に調べ上げようとしている事など…。

 

そんな事をクリスが考えている事を、アムロは心を土足で踏み躙る様な事を行いつつも、一切それを口にしようとしないとした。

 

「そうですか…、それは確かに残念ですね。僕も一度お会いしたいです。えっと…確か僕に年齢が近い子も近所にいたんですよね、是非彼とも会ってみたいです。」

 

「そうね、今回のコレが終わったらそうしましょうか。この際だから、もう何人かも一緒に連れて行こうかしら…?」

 

そんな会話に花を咲かせ、周囲の喧騒もまた少なく、それでも決してダラダラとしているものは誰一人としていなかった。

 

 

〜0083年3月8日

 

月 サイド3 サイド5 近郊部暗礁地帯 アムブロシア

 

アムブロシアは、ジオン公国に残された宇宙拠点の一つである。その運用者は、ジオン公国軍の元軍人からジオン共和国と言う新たな呼び名となった、連邦の傀儡国から逃げてきた民間居住者からなる、それなりに大型のリングコロニーである。

施設内部に、軍民問わず多くの人々が居住出来るだけの多くのスペースが存在しており、その中には所謂ショッピング等を行える複合施設なども存在していた。

 

そんな施設であるが、それを運用するための必要経費と言うものは、ジオン共和国からのものであったり、民間からの募金であったりそして…出所不明の者からであったり。

多種多様な人々からの支援で、その生活環境は賄われている。

 

アステロイドベルトを離れ、地球圏へと潜入調査の為に降り立った人々、シャアが率いる一団はここに一度立ち寄り、英気を養おうとしていた。

 

「大佐!ナタリーをショッピングに連れて行こうと思うんですけど、何処か良いお店がないか調べて貰えませんか!?」

 

客人として、その居住ブロックに案内された面々は用意された部屋の中で、一旦休暇を満喫する予定である。

その中でも責任者であり、最も階級の高い赤い軍服の男シャア・アズナブルは、自らの部下であるナタリー・ビアンキ中尉が自らの引き金で、多くの生命を奪った事によるショックから、軽度のPTSDを発症していることを見抜いた。

 

そして、そんな彼女を気分転換と称して、部隊と共にこの地球圏へとやって来た護衛対象でもある少女、ハマーン・カーンにそれを願い出たのだ。

 

結果として、ハマーンはナタリーを上手く誘おうと努力をし、そして上手く勧誘したところまでは良かったのだが、残念な事にこの街の事をハマーンはよく知らなかった。

 

「なに?そうか、確かにそうだな。誰か案内の者をつけさせよう、年齢は近い方が良いかな?」

 

「はい!お願いします!それであの…、大佐はご一緒出来ないんですか…?その方がナタリーも…」

 

ハマーンは快活ではあるが、やはり年相応である。憧れの人と一緒にいたいという、そんなところがあったのか少し照れながらシャアにそれを聞いた。

シャアは少し困ったように思うが、流石に彼も大人である。そう見えない様にするのは彼の得意分野である。

 

「すまないなハマーン。私には明日やらねばならない事があるのだ。だからこそ、君にそれを頼んだのだ。君ならば、彼女を悩みから救い出せるのだとね。」

 

シャアのその言葉にハマーンは少し残念そうにするが、同時に彼に求められていると思って嬉しくなった。

素直な彼女がそうしていることに、シャアは少し安心した。

 

正直な話、人付き合いは面倒であったのだ。特に、歳が離れ過ぎている相手とは。

 

「それとあの……、コレは個人的な相談なんですけど…。」

 

「どうかしたのか?何かあったか?」

 

ハマーンのその予想外の言葉に、少しだけ興味が湧いたのだろう耳を傾ける。

 

「はい、昨夜夢を見て…。私より少し歳上の連邦軍の制服を着た人が…、遠くから私たちをみているんです。それでその…、怖くなって。」

 

ハマーンこの時16歳、まだまだうら若き少女である。が、そんな彼女が不安を打ち明けた以上に、その言葉に耳を疑った。

まず、その青年が誰であるのか等、シャアは直ぐに理解した。

 

アムロ・レイ

 

彼ならば彼女と年齢はそれ程変わりはしないし、何より童顔気味であったことをシャアは記憶している。

 

「それは……気のせいだろう。大丈夫、私がいるのだからどの様な相手でも対処する。」

 

「本当ですか!!それなら、安心出来ます!!」

 

ハマーンは心から小躍りしたいと思った。彼女は浮かれていた事もあり、シャアの機敏にあまり反応しなかった。

シャアは、ハマーンのニュータイプとしての素質をよく理解し信用している。

同時に、その危険性も。

 

故に…アムロ・レイがもし、自分達を認識しているならばと彼の心には一抹の不安が過ぎっていた。

 

 




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