白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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彗星と流星

〜0083年3月9日

 

砂を散りばめたように、美しくも寂しい宇宙空間。その中を、ただ只管に目標へと進んで行く小艦隊が存在していた。

艦隊の要目を言うならば

マゼラン級1隻

サラミス級2隻

を瀕する艦隊であり、随伴に係留されている物を含めたモビルスーツの数は大凡24機を数える、それなりのものである。

 

其れ等は真っ直ぐに月とサイド3 ,5の間に漂うデブリ帯へと進みその目的を自らが示すかのように、威容を放っていた。

 

「トロイホースの動きはどうか?」

 

艦隊司令の席に座るのは、この艦隊を任されたグリーン・ワイアット少将である。

彼はこの座乗艦から、自らが手の内に把握する戦力をもって、一つの目的に邁進していた。

 

「サイド7・ルナツーの軌道を離れ、現在空白地を航行中…。本艦隊との合流まで大凡7時間と少しと、予想されます。」

 

「ほお…流石は英雄の指揮艦というところか?」

 

ワイアットは報告を受けると、嫌味無しに感嘆の声を上げる。実際にその目でホワイトベース隊の活躍を目にしていたこの男、ブライト・ノアの顔はあまり知らずとも、故レビル将軍が推していただけは有るのだと言う事だ。

 

「モビルスーツ隊の準備はどうだ?」

 

「はい、目標地点まで充分な時間があります。パイロットへと過剰な訓練は慎むよう言い聞かせてあります!!」

 

狭苦しい艦橋の中で、パイロットスーツに身を包んだ男…ベン・ウッダー中尉は敬礼をしながら、自らの指揮する部隊の状況を簡潔にまとめた。

その言葉に感心を示しつつも、敵の小規模基地を叩くには些か大げさなこの艦隊の真の目的を達するには、コレは寧ろ少ないのだと…、胸中穏やかではなかった。

 

「基地には残党軍に関する情報があると思われる。

可能な限り、コレを無傷で手に入れたいとの司令部からの命令だ!

だが、激しく抵抗するようであればコレを砲撃によって粛清する。」

 

強い怒気を孕んだその言葉に、周囲の緊張は俄に上がるものの、寧ろ軍事としてならばその程度の覚悟をしなければならず、彼の言う事は正しいのだろう。

 

「各員には充分な休暇を取りつつ、下心の無いよう細心の注意を払え!!」

 

「ハッ!了解しました!!」

 

敬礼をして再び艦橋から退室するベン中尉を他所に、ワイアットは眉間に皺を寄せながら顎に手を置くと考える事に没頭する。

そもそもの事の発端である、ジオン公国軍残党の掃討戦。それを不可能にしている連邦の財政的な危機と、それを良い理由に軍内部で横行する職務怠慢に辟易している。

 

派閥争いと言うものは、本来であれば平時にこそ活発化されるべきもので、金が無い現状それこそ財界に太いパイプの無い者は淘汰されると言うべき現状。

軍は財界の奴隷ではない、暴力装置は金に振り回されるべきではなくもっと独立していなければならない、と言うのが彼の持論である。

 

その為には、ジオン残党と言うものは非常に邪魔でありだからこそ、より積極的に事を成すべきなのだ。と

 

そんな思考の間にも、艦は進んで行く。チラリと横目で見ることが出来る、戦況予想図。

後詰めとして、忌々しいゴップより譲り受けたあの第13実験隊。

部隊としての特性と、宣伝効果と言う特殊な特典付きの華々しい彼等を如何に上手く使い分け、自らを政治中枢へと押し上げる事が出来るのかと、下心を満載しつつ正面の宇宙を睨んだ。

 

 

〜同日 アムブロシア グリニッジ標準時16時頃

 

ワイワイガヤガヤと、住民達の喧騒の中その中に混じるように、歳若い青年と少女達がショッピングや、施設を中心に周っている。

案内人であるイリヤ・パゾムは、ハマーンやナタリーを連れて自らの故郷たるこの小さなコロニーを、案内していた。

 

「料理も美味しいし、皆優しいし…ほらヘア・メイクのお陰で髪の毛もツヤツヤよ!」

 

何たる微笑ましいものである。

戦場を知らぬ子供達、ジオン本国に元々住んでいた彼等彼女等は、本土決戦等と言うそんな物を夢とも知らずにただ今を生きている。

その殆どが、アムロよりも幾分か若いのだから仕方の無い事なのかもしれない。

 

イリヤもまた、そんな戦場を知らない者の内の一人である。ただ、彼女はモビルスーツの操縦センスだけは高く、大人達に混じって実戦さながらの訓練を受けているが、それでも実戦経験はない。

 

まあ、だからこうしてハマーンの護衛と称した歓待を行えるのだろうが…。

普通という生活を知っているからこそ、普通と言う生活を知らないハマーンにとっては、より良い風情であったことだろう。

 

「えっと…次は……!?っく????ナニコレ?」

 

急にズキリと、頭に何か大きな物が落ちてきたかのように、強烈な痛みが一瞬イリヤを襲った。

俄にフラついたものの、直ぐに態勢を立て直すと、ふと周囲の面々が一人の人物を見ていることに気が付いた。

 

蹲るように頭を抱え、地べたに頭を垂れるのは紛れもなくハマーンその人である。

彼女は痛みに耐えかねて、悲鳴にならない物を感じ取っていた。

 

嫌な感覚だ、特にそれは誰かから見られているとすら思える程に、強烈な悪寒が身体を駆ける。

 

彼女の心象風景を言葉に表せば、虚空に拡がる星空の中急に薄暗い青い瞳が、ギョロリと彼女を無視するように誰かを見ている事だろう。

彼女はその気持ちの悪いものを観ながら、恐怖に駆られながらもその視線の先を見据えたった一言、声を荒げた。

 

「大佐!!避けて!!!」

 

彼女の思念の籠ったその声は、店舗中に響き渡るもただそれだけで終わる。しかしながら、その声を発するとともに彼女の意識は遠い彼方へと持ち込まれるように、地面にしなだれた。

 

「ハマーン…?ハマーン!!しっかり!!早く救護班を呼んで!!」

 

ナタリーが直ぐ様異変に気がつくと、彼女を極力揺すらぬ様にと額と後頭部に手を添える。

幸い頭を打ったわけではない、しかしながら彼女の叫んだその言葉に果たしてどの様な意味があったのか…、それはナタリーには分からぬことであった。

 

 

時は少し遡って、グリニッジ標準時14時頃

 

アムブロシアより宇宙船で7時間程航行した宙域にある、ヴァールシカと呼ばれるジオン公国軍残党基地に於いて、戦闘が勃発していた。

 

コレは、グリーン・ワイアット少将率いる残党狩り部隊と、基地保有戦力との戦闘であり、この小規模な基地は無残にも宇宙の塵に消える筈…であった。

しかし、事態は非常に混迷の中にあったのである。

 

ワイアット艦隊は、斥候のモビルスーツを戦線に投入し、基地の戦力の把握と最低限の無力化を行おうというした。そして、基地内部にあるデータをサルベージする事により、ジオン残党軍のより詳細な位置を割り出そうと画策していた。

 

対するジオン側はと言えば、アムブロシアから遥々やって来た援護の艦隊。其れ等を率いるは、歴戦の猛者とも言えるシャア・アズナブル大佐であった。

この艦隊には、彼の乗機となるパーフェクト・ジオングが搭載され、改修型のゲルググ等の戦力すら保有するという、意味の分からない財力によって生み出された其れ等が存在していた。

 

力押しであるならば、通常ワイアット艦隊に分があるのだろうが、ここは流石にシャアであった。

出撃するや否や、瞬く間に連邦のモビルスーツを見事に蹴散らしていく。

 

ジオングの有線式アームを用いたオールレンジ攻撃は、ジム改等の死角という死角から攻撃を加え、連邦部隊は瞬く間に窮地に追いやられていくのだ。

 

先行する部隊が壊滅したとの情報を受けたワイアット艦隊は、直ぐ様、第二第三の部隊を展開

正面戦力を厚くした連邦部隊であるが、それもやはりシャアの手によって阻まれる。

 

だが、流石に連邦の数が多い分のシャア一人で全てを支えるのにも限界があり、ジオン側は連邦のラッキーヒットにより、基地に小規模ながらしかし致命的なダメージを負ってしまう。

重力制御ブロックを破壊されたヴァールシカは、安定性を欠いていく……。

 

それでも、シャアの駆るパーフェクト・ジオングはモビルスーツ隊による波状攻撃を捌き、モビルスーツ戦においては連邦側劣勢となる。

ただ、秘匿されていた基地は見つかればその役目を終えなければならない、見事に自爆した基地。

 

そして、そこから逃げ行くジオンの艦隊を追うように、ワイアットは艦隊を動かそうとしたものの、破壊した基地の残骸によって足止めをくらい、追撃を諦める他無かった……。

 

しかし…、この逃走していた3隻のジオン艦艇の真正面から、まさかトロイホースが現れようとは、誰にも想像がつかないものであった。 

 

 

〜0083年3月9日 グリニッジ標準時16時頃

 

 

「前方!!連邦軍艦艇、識別……改ペガサス級!!」

 

「木馬型だと?フッ…全く縁のある事だな。」

 

忌々しげにするシャアであるが、正面に存在する敵に対して戦闘を回避する術は彼等は持ち合わせていない。

早々に戦闘を決断し、シャアの艦隊はモビルスーツを幾つかの直掩を残して、前線に投入された。

 

「敵の数は…6機か、並程度だな。数の上のコチラを見て、逃げてくれれば良いのだが……?何故だ、この違和感は?」

 

一人コックピットの中で自問自答する彼であるが、レーダーは勿論ミノフスキー粒子の影響により使いようのない状況である。

シャアは、この状況を何処かで見た覚えがあった…。それは一つの戦場であり、当時は自らが追う側で対するペガサス級は追われる側であった。

 

後背より迫るように、そして覆いを被せるように進路を遮断され、挟み撃ちにする事により木馬を…ホワイトベースを無力化しようと試みた、あの戦場である。

結果はどうなったか…、まさか3隻艦隊キャメルパトロール艦隊は、無残にも宇宙の塵となった。あの軌道上海戦である。

 

今回の状況は、当にその真逆とも取れ今度はコチラ側がやる番かと、さも思案しているところに…状況は動いた。

 

『大佐!!避けて!!!』

 

宇宙に言葉が走るように、その言葉は彼を導いた。

一瞬の思考の隙もなく、彼はフットペダルとレバーを最大限に動かし、急速回避を取ると…一瞬前までいた場所に正面とは別方向から、一条のビームが機体を掠めた。

 

一瞬にして、ジオングの装甲の一部が焼け爛れる様に蕩け、そして機体は危険信号を発した。

機体側は未だに敵を発見出来ていない、しかしシャアは己の勘が信じられないかの様に、その方向を見つめた。

 

「アムロ……レイか…!!ガンダム!!」

 

ノズルから出る光が明滅し、さながら白き流星の様にその機体は羽搏いている。

急速接近してくるその機体を眼前に留めながら、シャアは矢継ぎ早に命令を発した。

 

「各機散開!逃げの一手だ、アンディ、ファビアン少尉!艦隊の直掩を任せる、逃げる事だけ考えよ!!」

 

珍しくも荒々しく声を発するシャアに、一同はただ事ではない事を察すると命令通りに逃げの一手を取るべく、艦隊は速力を上げて行く。

グングンと縮みゆく距離と、それを気にする間もない状況。

相対速度は非常に速く、交戦の機会はそれこそ1回限りとなるだろう。

 

「また会うことになるとはな…アムロ・レイ!!」

 

シャアが吠えるとジオングのアームが宇宙へと旅立ち、そこから5条のビームの奔流が繰り出される。

その一撃一撃が致命打と成りうるものであり、掠りさえすればガンダムと言えども破壊は免れない。

 

しかし、まるでビームに隙間が存在している事を知っているかのように、その隙を縫うように避けてくる。

次第に接近していく両機、オールレンジ攻撃を見向きもせずに回避していくその姿は、人間のそれとはまるで思えない動きである。

 

対するシャアの動きも、全盛期のそれを彷彿とさせて少なくともガンダムの動きを捉え続けている。

 

シャアの艦隊は数の利を活かしつつ、前進を続ける。対するトロイホースは、ムサイ級の弱点である下方へと進路を定め船体下部からの攻撃を仕掛けるように、潜り込んでいく。

 

それを避けるように、艦隊はバレルロールを行い互いに艦橋と艦橋が相対するような格好となると、一瞬のすれ違い。

トロイホースは、巧みな操艦によってメガ粒子の嵐を抜ける。一発翼端へと被弾するも、それ以外の被害は皆無である。

 

対するムサイ級の内の1隻は砲塔への1発の直撃をくらい、巨大な破孔を開けるも巧みなダメージコントロールで、黒煙を吹き上げつつも戦闘を続行可能な程度に被害を抑えている。

 

ガンダムとジオングの戦闘が続く中、宇宙用ケンプファーを駆るファビアン少尉は、赤色に塗られたガンダム。

それも、ジオングと戦っているそれによく似た機体との高機動戦を行っている。

 

「この機体に着いてこれる機体が、連邦にあるのか!!」

 

一人叫ぶが、その気持ちを吐き出したいのはGキャストを駆るクリスとて同じ思いである。

機体をスラスターでブン回すケンプファーの機動力は、AMBACで機動力を補うGキャストとほぼ同等のそれである。

 

クリスとて一級のパイロットであるから、己の機体の特性である柔軟な機動を行いつつ細かな回避を続けていく。

スラスター消費の激しいケンプファーは、宇宙での継続戦闘と言う点では、Gキャストに劣る。

 

シャアの艦隊がトロイホースとすれ違い、互いに距離が離れて行く…。

 

「このまま前進を続ける!!砲戦ではコチラ側が不利だ…。」

 

ブライトは決断を下す。敵に背を向けて離脱する決意を、それはより良く生き延びその次に活かす為の逃げの戦術。

無理な戦闘を行って、やられてしまえばモビルスーツの帰る場所は無くなってしまう。それこそが最善手という判断だった。

 

互いの母艦が離れ行く姿を、ジオングとガンダムは見受けると最後の交戦を行う。

ガンダムは長距離用の大型ビームライフルであった事も災いし、適正な戦闘距離で無かったことが、ジオングを撃墜出来ない大きな理由であるが、シャアはその事を知らない。

 

「お互いに引いたほうが良いぞ?アムロくん」

 

「その様だな、シャア…。」

 

シャアの方が余裕があるようであるが、実態としてはガンダムの方が推進剤の余剰は多い。

戦いが続けば、やられていたのはジオングだろうが…本人達には分からない。

 

「次に合う時は敵でなければ良いが…。」

 

「それはこっちの台詞だ!!」

 

互いに言葉を交わすと、お互いに母艦へと戻って行く。

それは戦場の光景としては、ある種特異なそれであった。

 

 




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