白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

38 / 91
ワイアット

〜0083年3月9日 グリニッジ標準時17時頃

 

ジオンの巡洋艦ムサイのとある一室。

 

シャアは一人ひっそりと、その自室へと入ると士官服に皺が入る事も厭わず

 

はぁ~

 

と深くため息をつきながら椅子に腰をかけた。普段人のいるところでは殆ど見せない、無防備なその姿を見た人間は、きっと心底落胆する事だろう。

目元を憂いに濡らし椅子に背をもたれながら、ただ天井を見上げ

ている。

 

椅子の肘掛けに置かれたその腕の両の手は、今当に小刻みに震えていた…。

それは果たして武者震いか?それとも…、己の恐怖を隠すためのものなのか?

 

しかし、彼の呼吸は確かに震えている。

 

「フッ……、動いてる方が怖くなくて良いな。自覚している辺り、俺もかなり無理をしているのだろうな。」

 

彼は人の目を気にする必要もなくなったからなのか、一人虚空にそう語りかけると、先の戦闘。そのデータを取り出して、冷静な分析を行い始めた。

 

アムロ・レイが搭乗しているであろう、あの機体。名を知らぬガンダムの機動は、シャアが知っているそれよりも遥かに柔軟でありながら、そして無理のない挙動に見えていた。

実際、もしもRX78-2であったのであれば間違いなく、今のシャアの駆るジオングであれば撃墜していた事だろう。

 

だが、先の戦闘での結果は概ね互角。それどころか、後に気が付いた事だが、あのガンダムは長距離用のビームライフルらしい物を手に取っていた。

それを記録から引っ張り出し、目にした時は愕然とした。

 

いや、そもそも最初の一撃。声の導きが無ければ、きっとアレを避ける事は叶わなかったかもしれない。

あの時の声が、誰の物であったのかシャアには分からなかった。

だが、ララァの導きであったのならそれは嬉しい事だと思う反面、そうでは無かった場合自らのこの行為に反吐が出る。

シャアは、己のそういう部分が嫌いであった。

 

いっその事死んでいた方が良かったかもしれないと、そう自嘲気味にガリっと奥歯を噛んだとき……。ふと、最愛の妹の事を思い出す。

 

今の今まで、心配するようなことすらしなかったその妹の事を。今彼女は何をしているだろうか、最後にあったのはア・バオア・クーの、あの場所である。

それを誰に託しもせずに、まるで何かから逃げるかのように、彼女の前に姿を表そうともしなかった。

 

アムロ・レイ、妹に最も近いだろうと言うかのニュータイプ。ララァを殺し、そしてララァと共に何かを見た彼こそ妹に相応しいとの思いがあったが、そんな彼が宇宙にいると言うことは、彼女は一人地球にいるのかもしれないと…、別の方向に考えを始めた。

 

果たして妹は本当に、幸せに暮らしているのであろうか…?と。

 

この男、今の今まで妹の事を殆ど気にもかけず、のうのうとジオンの中にいた男である。

本当に大切であるならば、自らの素性を明かしてまで彼女の傍にいてやるのが、唯一の肉親としての役割であろう。

だが、そんな事をすることも無くジオンにおいて、未だに諦めもせず武装勢力を行っている連中を束ねる柱となっている。

 

彼がいなければ、纏まらない事はごまんと有るだろう、故にザビ家ジオンが滅ぶ事のない理由がここに居た。

 

にも関わらず、アムロに対するヘイトが高いのだ。

ララァとすら未来を見通すほどに強力なニュータイプ、世界を変えてくれるかもしれない、そんな救世主的存在であるにも関わらず、アムロ・レイは未だに軍人をやっているのだと…。

何故、彼がそんな事に身を窶しているのか、それこそ過大な評価を押し付けている。

 

アムロの年齢は現在19歳である。そんなガキと大差の無い年齢の人間が、果たして政治のリーダー足り得るのか?

それこそ、石器時代ならば或いは可能であろうが、様々なものを観ていない間は、オールドタイプの間での信頼というものはあまり高くはない。ニュータイプ的思考によって、オールドタイプを測ろうとした場合、それは単なる失望に変わるのは目に見えているのに、彼はそれに気がついていない。

 

寧ろ、マス家とダイクン家の血を引き、尚且つシャアとしてジオンの纏め役と成れる彼こそが、宇宙と地球の架け橋には一番役立てるのだが、潜在的な自己評価の低い彼に、そんな事は考えられないのだ。

 

「鍛錬も大事だが、休む事も大切だと言うのに…。にも関わらず目の前に現れてくるとは…、コレは文句の一つでも言ってやらねばな。」

 

自分のことは棚上げである。

寧ろこの男が正当にジオン共和国に現れていれば、色々と世界は違った方向に進んでいたのではないだろうか?

だが、それも既にタラレバである。

 

シャアは一呼吸しつつ、其れ等の思考を放棄し先程の戦闘とその後の顛末を詳報に書き記し、深い眠りへとついた。

 

 

 

〜同日 グリニッジ標準時19時頃

 

ジオンのヴァールシカ秘密基地の破壊という結果を受け入れつつあったワイアットは、自らが逃した敵勢力の進行方向より現れたトロイホースに対して、驚愕の色を示した。

 

24機ものモビルスーツを擁した基地への攻撃と、それにより負った損害は存外大きいものであった。

確かに基地の破壊は完全なものとなり、採点の上では上々の成績ではあったものの、敵を取り逃すというのは実に痛いところもあった。

自らの手柄を逃した反面、そんな敵が進行した方角から来たトロイホースを見て、1個の希望を見いだした。

 

尤も、それも簡単に水泡に帰すのだが…。

 

直ぐにトロイホースを自らの艦隊へと組み込み、座乗艦からトロイホースへと自ら移動した彼は、より洗練されたその艦内の手厚い歓迎を受け入れ、意気揚々と艦橋へと乗り込んでいった。

 

そして、艦長のブライトに幾つかの質問をした後…落胆の色を見せた。

 

「それでは何かね?みすみす敵を見逃したと、そう言えことか?」

 

「現有戦力と予想される敵戦力、並びに艦の性能から考え、自分は適切な判断の下敵との戦闘を避けたと…自負しております。」

 

ワイアットの言葉に対して、ブライトは現実がどうなっていたかは兎も角として、自己の判断の正当性を強調した。

 

「艦長の意見に賛同いたします。もしあの状況で指揮をせよと言われれば、自分も同様に判断をくだすと。」

 

ガディ大尉は、ブライトが謂れのない判断ミスを疑われている事に対して、ブライトの肩を持った。

自らのよく知るワイアットという軍人は、戦闘においてはそれなりに優秀な部類の人物であるから、そこは決して間違えないだろうという、そういう意識もあったからだろう。

 

「ガディ大尉、君がそう言うのであればそうなのだろうな。だが、ホワイトベース隊であればその戦力差をも覆して見せた君の手腕は、今回は奮わなかったという事かな?と、私は伺いたいのだよ。」

 

「ホワイトベースは特殊な事例です。あの艦と、その乗組員がいたからこそ、当時はそれを可能にしました。

何より…、敵にニュータイプが操縦するモビルスーツは存在していませんでしたので。」

 

ホワイトベースが低軌道上に於いて、ジオンのキャメルパトロール艦隊と、ザンジバルからの追撃を掻い潜り、艦隊を文字通り全滅させた事例は、軍史上他の例外なき物であった。

ワイアットは、戦後其れ等の戦果から導き出された、ホワイトベース隊というそのものに対してある種特別な物を観ていたと言えるだろう。

それこそ、彼の同期であり上司でもあったレビルと同様に、彼等を特別視していたとすら言える。

 

だからこそ、ニュータイプと言うものに対しては人一倍に警戒していたし、何よりブライト・ノアという人物をかっていた。

 

ブライトの発する、ニュータイプ専用のモビルスーツと言うものが何を示すのかと言えば、やはりモビルスーツ部隊に大きな損害を与えた、件の大型機の事だろうことは言うまでもない。

 

しかしながら、戦力的に圧倒的不利な状況でありながら、敵艦に損傷を与え、尚且つそのもモビルスーツと交戦の際には、1機足りとも損害のなかったトロイホース隊の異常性もまた、彼は気になった。

 

「ほお…ではアムロ・レイがいたからこそ、損害は無かったと…?」

 

「その点に関してはそうではありますが、彼だけの功績ではなく、寧ろそれ以外の人間の働きも大きかったと…。本人の口から聞いたほうが早いと思われますが…。」

 

気がつけば、トロイホースの艦橋に先の戦闘より帰還したパイロットのうち、余裕のあるアムロが報告へと現れていた。

他の面々はどうしたのかと言えば、やはり疲労が蓄積していた。

性能的に概ね互角のゲルググ相手に、ジムカスタム改とは言え、倍する敵を相手に良く戦っていたのだから、誰も文句は言えまい。

 

「始めてお会いするな、君があのアムロ・レイ中尉か…。幼いな」

 

「はい、自分がアムロ・レイです。確かにこの中では一番年少ですからね。」

 

ワイアットの正直な声に対して、アムロは嫌味も無く返す。

そして、一つ一つ話し始めたのは戦闘したモビルスーツの特徴と、それがア・バオア・クーで戦闘したニュータイプ用モビルスーツと酷似した相手であるという事だ。

 

それが意味することは、ジオン残党は今も尚モビルスーツの開発を辞めておらず、闇の部分で暗躍し財力を蓄えていると言うことだと、そういう事でもある。

 

「最後になりますが、アレのパイロットは間違いなくシャア・アズナブルであったと…そう断言します。僕は何度となく奴と戦いましたから、癖も全て見てきましたから。」

 

「赤い彗星か……、テロリストになってもまだ脅威とはな。よく分かった、諸君等に対する処罰は無しだ。

寧ろ、よく退けた。」

 

ワイアットは、アムロの話を誠実に聞きそして自らの権限の中で、彼等に対して少しでもと思い労いをかける。

 

「今後の動きであるが、貴艦はこのままサイド3へと入港となる。時期は早いが…、サイド6へと向かうには燃料も心許ない事だろう。」

 

「示威行動…ですか、我々は凶器と言うことで?」

 

ガディ大尉が、臆面もなくワイアットへと疑問を投げかける。それを涼しい顔をして、彼は肯定しそして言い直した。

 

「示威行動ではない、貴重な同盟国に対する支援だよ。駐留軍がいた方が何かと事が上手く行くこともある…、そうだろう?」

 

裏もなく堂々と言われる方からすれば、却って清々しい事だろうが、彼等にとっては送られる先は元はと言えばジオン公国の本土である。

そんな場所に果たして本当に実験隊が行っても良いことだろうか?何か、小細工でもされるのではないか?と一部に不安が過ぎる事を他所に…アムロはその言葉に対して、不安を払拭させる為に一言付け加えた。

 

「踏み絵と言うことですね、我々を害するような事があれば、連邦は全力を持ってサイド3を攻撃する口実が出来る。

尚且つそれが無ければ無いで、共和国は連邦に従順に従う国家である事を改めて示す事が出来る。

対外的にも、それは悪いことでは無い。そう言う事ですか?」

 

彼のその言葉に、ワイアットは満足そうにすると答礼をし、艦橋をトロイホースを後にする。

残された面々は尚も、自らが置かれているその政治的駒と言う役割に、嫌気が差している面々も多かった。

 

トロイホースはゆっくりと、そして確実に加速を始め艦隊から離れて行く…。

不安の過ぎる旅路の中で、アムロは一人手紙を手に取りそれを流し目で読みながら、その旅路の果てを見据える。

 

「いつかは必ず来られるように…、僕にはどれだけ出来るだろうか?」

 

徐々に胡麻をまぶしたように、小さな点々となっている大きな建造物群が姿を現していく。

 

サイド3・ジオン共和国は、地球が建造したサイドの中で3番目に創り上げられた居住区である。

その開発の歴史は古く、建造から既に80年近くが経っていると言うのだから、その密閉型コロニーと言う構造から当時の技術的問題も伺えた。

 

サイド1,2で当初使用されていた開放型コロニーは、技術的難度が高く工事に際し多くの困難を極めた。そのため3番目に起工されたサイド3では、密閉型構造とすることで剛性を担保し、建造コストを大幅に抑える事に成功した。

反面、密閉型構造ということにより内部の照度の確保には、円柱型の大型照明が必要となり、必然的にコロニーの開放感は壊滅的となる。

 

そんな外の見えないコロニーであるが故に、他のサイドと彼等の心象風景の中には大きな違いがあった事は確かだ。

それはそうだろう、外界から遮断されているのだから、ここを自らの故郷とするそんな思いが大きくなるのは必然だったろう。

 

だから、彼等は国を欲した。自分達の故郷とする拠り所を…。

 

トロイホースはそんな、閉ざされた島へと向かうのだ。先住民と言える彼らと、さながら外国からの侵略者のような、そんな関係性すらあるそんな場所に…。

前途多難である事は容易に想像出来た。何より…、乗組員の安全の確保は必然的に難しくなる事など…。

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。