白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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サイド3

〜0080年 サイド3 グローブ

 

その日…彼等は負けた。

否応なしに、自覚するまもなく完膚なきまでに敗戦した。

地球連邦軍の艦隊が、サイド3へと進駐し降伏書の調印式が開かれると…誰もが思った。

 

だが、結果は違った…。

 

「俺達が何をしたってんだよ!!」

 

まるで海のように拡がる民衆の山、プラカードに掲げられる反連邦の反骨精神。進駐する連邦軍に対して誰かが叫び、その手に持った武器を前に、一触即発の空気が流れていく…。

 

彼等が何故抗するのか、それは連邦軍の仕打ちが余りにも理解し難いものであったが故にであった。

 

グローブコロニーは、何処にでもある何の変哲もないコロニーの一つである。

民衆は、中低所得者が多くも慎ましくそして立派に生活を営んでいる。そんなコロニーであった。

 

事態は連邦とジオンの間にある確かな問題によって起きたものだった。

ジオンと連邦が話し合いの場を設け、調印の内容を精査する戦後の時代、グローブコロニーへと進駐した連邦軍の一部が武力による一方的弾圧を行うという事態が発生した。 

 

全ての始まりは、一年戦争時多くの民衆を手に掛けたジオンサイドにも悪い部分が多々アリ、それは因果応報とでも言われるべきものであったが、その矛先が弱者へと向く事は自明の理であった。

 

それはもう、凄惨なものであった。

当時、戦地へと赴いていた生産者世代の若い男達がいない中、女子供老人が大半であろうそこでは、男は殺され女・子供は陵辱された。

多くのものがトラウマを植え付けられ、そして其れ等の行いに対して、武装を持った連邦軍に対して暴徒と化したデモ隊は衝突した。

 

火の中に沈む街並みも、苦しむ民衆の声も皆無視された。

 

ジオンも連邦もどちらも見て見ぬ振りを決め込んだのだ。

 

折角の終戦に水を差したくなかった。

 

彼等は人身御供、平和の代償となった。そして、その記憶を持った人々は双方を恨み辛み、新たなる火種として燃え盛るだろうかと。

 

そんな地獄の中、少女は走る走る走る。

母に手を引かれながら、人の波を掻き分け逃げる逃げる逃げる。

ダーン ダダダ

と銃声が響く、それでも走る。

母の手は強く握りしめられ、彼女を引き摺るように炎の中を進む。

 

と……、母は急に彼女に覆いかぶさると動かなくなった。

 

 

 

〜0083年3月11日 サイド3 イチバンチ ズムシティ

 

そこに1隻の軍艦が入港を希望していた。

 

ジオン共和国となった新たなる門出をし、過去の行いの償いや戦後の多くの賠償を払い、残り物の兵器を持ってして自らを武装するその国は、ジオン公国とは一転して平穏無事な空気が流れている。

 

しかしながら、そんな場所へと白亜の軍艦が入港しようとしている姿に、元公国軍の兵士たちは色めき立った。

ペガサス級と呼ばれた軍艦は、戦争のターニングポイントに於いて、ジオンの出鼻を挫くと瞬く間に地上の勢力圏内を暴れ周り、敗戦の一因を築いたのだから、それは仕方の無い事だろう。

 

一瞬にして厳戒態勢に組み替えられるのは、流石に練度の高い元公国軍兵士たちである。

入港中も監視を続ける彼等の目線の先には、何時でも撃沈出来るぞと、そんな殺気が籠もっていた。

 

「居心地……、良くないですね。」

 

「ああ、殺気立っているな。コレならニュータイプでなくとも、誰でもわかることだろう。」

 

艦橋のガディとブライトはそう口にする。実際、彼等は決して歓迎されていなかった。

元は敵国、それもより象徴的な艦艇に有名な軍人が乗っているとなれば、その答えは自ずと見えてくる。

銃口こそ向けられていないが、迎えの人間すらいないのだから。

 

十数分程経った頃だろう、ジオン共和国軍の軍人等が姿を現した。一人の壮年の男を先頭に、その護衛だろう者達が後ろに連なっている。

それを確認した後、ブライト達も艦外へと足を踏み出した。

 

接舷した港の桟橋の上で、その軍人達と対峙するようにトロイホースの乗員達は見事に整列する。

互いに警戒の色を残しつつ、最高責任者であるブライトと先頭に立っていた男とが、答礼をした後握手をした。

 

「始めまして、ブライト・ノア少佐であります。短い間では有りますが、よろしくお願いします。」

 

「アンリ・シュレッサー准将だ。こちらこそ、貴官等を歓迎する。

と言っても、私も出所したばかりでね、世情には疎い。

貴官等とはあまり差は無いようなものだが、よろしく頼む。」

 

一見して硬そうな男であるが、物腰は柔らかくどちらかと言えば外向的な風である。

 

アンリ・シュレッサー、この男は最後のダイクン派と呼ばれた男である。

ザビ家の食指が汎ゆる役職に伸び、議会政治も須らく傀儡となっている中で、唯一軍内での将校として本土の防衛に就いていた男でもある。

 

その為、守備隊からの信頼は厚く、終戦間際に当たっては軍を動かしザビ派を一掃しようとクーデターを起こした。

しかし、ア・バオア・クーでザビ家の主要人物が軒並み退場した事によって、彼は大義を失い自ら進んで投降した。

 

軍事法廷によって彼は裁かれる予定であったが、ここで連邦側から待ったの声がかけられた。

0080年初頭当時、ジオン共和国を維持する為に再軍備が進められていたが、殆の将校がザビ派の息がかかった者達であった。

その為、連邦は再びの武装蜂起を懸念してか、幾つかの人物に白羽の矢を立てた。

 

そのうちの一人が彼である。

元来ダイクン派であった彼は、どちらかと言えば穏健派の人物であり、連邦としても都合の良い人選であったのだろう。

短期間の謹慎後、こうして表舞台で仕事をしていた。

 

「君達がここに来る事が分かってから、軍内部は蜂の巣を突付いたかのような有様でね。

過激な連中を抑えるのは一苦労と言ったところだよ。」

 

シュレッサーは愚痴るように言うが、実際忙しいのだろう目元に幾つかクマが出来ていた。

 

「それは、申し訳ない事をしました。しかし、我々もコレは任務なのです。受け入れてもらわなければならない。」

 

ブライトが申し訳なさそうにしている。

 

「わかっておるよ、何かと入り用だろうからな。私の息のかかった者達で対応しよう。

間違っても、連邦の制服で出ていかないでくれ給えよ?」

 

「息抜きの観光をと……、と言う訳ではないようですね。」

 

「……」

 

 

数刻後、数日ぶりの半舷休息へと入るトロイホースの者たちのうち、幾人かは私服へと着替え街なかへと繰り出していく…。

勿論、案内人と付き添いが付いてのそれとなるが、一様に観光客に扮していかなければならない程度には、やはり連邦軍人は狙われるのだろう。

 

それをトロイホースの艦橋から見下ろすのは、アムロの姿であった。

 

「不思議ですね…、ああやって出ていくことは出来て、お互いに出自さえ知らなければ、争いは起こらない。

人というのは、何を基準に争っているのだろうか。」

 

「難しいこと考えてると、早く歳とっちゃうわよ?それよりも、行く場所は決めてあるの?」

 

隣で共に見下ろすのは、クリスであった。

互いに暇を持て余している。ちょうど艦橋に詰めていた人員も休息に入ったのか、ブライトの姿もそこにはなかった。

 

「決めるも何も、最初から行く場所は決まってますよ。」

 

「それで、お花を買ってからって話ね。因みにだけれど、私も行ったことはないけれど、あまりそういう献花台みたいな所は無いって話よ?

特に、ジオン・ダイクンの事を語っているところなんて、博物館くらいでしょうし。」

 

アムロは懐から手紙を取り出す。

差出人はセイラであった。

内容としては、アムロの体調を気遣いつつつも、一つのお願い事について記述されていた。

自分は今は地球にいるから、アムロに託すしかないそれは、言ってしまえば単純なものだ。

そう……墓参りである。

 

「別にダイクンの墓でなくても、寧ろお母さんのお墓の方が気になっているみたいですけどね。」

 

2人の遺体が何処に安置されているのか、それは検討もつく。当たり前であるが、ジオンやアストライアの遺体はそれこそ重要なものであるからこそ、その場所は誰もが知り得る場所である。

従って探す事は簡単なのだ。

最大の問題は、アムロの身分の事である。

 

「でも、アムロ君が行ったら…目立つわよ?」

 

「僕の顔はサイド3でも有名でしょうかね?それとも、生命を狙われたりして…、少し怖いですね。」

 

それだけではない。

アムロは、連邦の勝利の立役者その一人である。そしてジオンの野望を打ち破った、生粋の連邦軍人でなければならない。

しかし、そんな彼がジオンの墓の前で祈りを捧げるのは、背信行為に限りなく近い。

そういった意味でもかなりの危険を伴っていた。

 

「でも、彼女が出来ないことは僕の出来ることですから。お互いに、助け合っていたほうが良いんですよ。」

 

「はあ…、はいはいお熱い事。私も一緒に行ってあげるから、くれぐれも面倒事にならないようにしないとね。」

 

ハハハと、乾いた笑いを上げつつアムロはその視線をより鋭いものへと変えていった。

彼にはわかるのだ、このコロニーの何処か。

民衆の声心のざわめき、喜怒哀楽の中にたった一人の人間シャアのその影を見ている。

必ずここにいる、彼の勘は確かに冴えていた。

 

 

一方その頃、ブライトはと言えばガディ大尉と共に、シュレッサー准将の屋敷へと招待されていた。

彼等は軍服ではなく、スーツ姿という珍しい出で立ちであった。

 

「ここならば寛げるだろう?ほら、取り合えす床にでも座ってくれたまえ。」

 

クッションを投げ渡し、ブライトとガディはそれを受け取ると床に座らざる終えず、准将もまた直ぐに床に座った。

 

「は、はあ…、確かに威圧的な感覚というか圧迫されているような気は、薄らいだかと…。しかし、何もないですね。」

 

その屋敷の中を見るに、驚きが勝っていた。

立派なのは見掛けだけで、内装はほぼ無いそうだ。その代わりと言っては何であるが、男女問わず多くの使用人がその姿を露わにしていた。

 

「もっと俗物的とでも思っていたのかな?私も苦労してきたのだよ…。ザビ家との戦いで資産はすり減り、食い扶持を維持する為に多くの調度品を売った。

使用人は最後に残して、後はこの屋敷かと…そう思っていた時に、クーデターを決行したのだよ。

民衆の為と声高々に言ったものの、今では連邦の鎖に繋がれた犬だよ。」

 

「それでも、軍人としての行いを全うしている貴方は尊敬に値する。残党となっているジオン軍将兵達が、何を捨てているのか分かっているのでしょうか?」

 

意外にも同調したのはガディの方であった。

実際、ガディはブライトよりもどちらかと言えば軍人気質が強いと言えた。連邦も軍人の力が強いと言う、ある種の伝統的な部分があったが、それでもその心に来るものがあったのだろう。

 

「彼らには彼等の信念があろうが、こうやって生きている民草を差し置いて、のうのうとテロリストをやれる程、我々は暇ではない。ここには暮らしが有るのだ。未来を守る前に、まずは今を護らなければならない。

 

と、前置きはこれくらいしよう。お二人には、一つ見て頂きたい物がある。」

 

唯一と言っていいほどの調度品である執務机の引き出しの中から、一片の情報端末が姿を現した。

それが何であるか、2人には想像もつかない。

 

「まあ、見てもらった方が早いが、手短に話すとそれは…とあるコロニーの記録だ。

そして、何故民衆が諦めの色を表に出すのかと言う、その帰結だよ。」

 

そう言うと、パンパンと手を叩く。するとカーテンが自動的に閉まっていき、扉から2人の使用人の姿が現れた。

一人は幼い少女、顔に痛々しい火傷の跡がある。もう一人は、老年の紳士然とした執事であった。

少女は徐ろに、服を脱ぎ始める。

 

 

「……!?何をしているんですか!!」

 

「見てみなさいコレを、酷い行いだろう?」

 

少女の皮膚は左半身に掛けて、何かの棒を押し当てられたかのように、真っ直ぐに左足までケロイドが広がっていた。

痛い素振りは見せないことから、だいぶ時が経っているのだろう。だが、決して喜ばしい事ではない。

 

「もう良い、服を着て部屋から出ていきなさい。」

 

そう言われるや、直ぐに服を再び着るとチョコンと、愛らしくお辞儀をしてその扉から出て行った。

まるで人形のように、彼女からは生気が感じられなかった。

 

「あの子の母親は、そのファイルに入っている事件によって殺された。

その結果、言葉を話すことが出来ない。悲しいことではないか…?それが、連邦もジオンも隠している真実だ…。

なぜ、残党が今なお存在するのか…。それは決して、私欲の為だけではないのだろう。

それだけは、覚えておいてほしい。」

 

その言葉に、2人が何を思ったのかただ沈黙が空気を冷やした。

 

「さて、細やかながら歓迎のあいさつをと。何が良いかね?と言うより何があるかな?」

 

「紅茶と珈琲、後は緑茶等もございます。お茶請けもご用意しておりますので。」

 

老執事が答えると、ブライトとガディは思案に沈んだ。

 

 




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