白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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語り

コロラド・スプリングス

 

そこは19世紀からなる、新進気鋭の都市である。当時合衆国へと組み込まれる形で、文明というものを受け入れたこの大地はその後ゴールドラッシュに沸く白人達とは対照的に、ネイティブ達を追い出す形で創られたという歴史を持つ。

 

一年戦争当時、ジオン軍による攻撃を受ける東西の北米大陸の都市部とは裏腹に、さほど重要な軍事施設がある場所でもなかっただけに、その被害は軽微な場所であった。

また、コロニー落着の余波もこの都市には、食料品という意味での被害以外は然程大きなものは無かった。

 

人々の暮らしも、ジオンという脅威も感じられるところもない。何とも穏やかなものであり、同時に戦争という風を感じられない、長閑な情景が広がるばかりである。

 

また、宇宙開拓時代に於いては率先して宇宙移民を推進していくと言う、そんな性格の人間も多くその大地から頻出している。それ故に、最盛期ほどの人口は無い。

ただ、宇宙移民者に対する感情は然程悪いものでもなかった。

 

そんな街中を一人の女性が歩いていた……。キョロキョロと辺りを見渡し、何かを探しているのか?

赤髪のロングヘアを靡かせながら、凛々しくも美しい女性をナンパするような、そんな者はいない。寧ろその立ち居振る舞いから、軍人だと分かっているのだろう周囲の男達は肩を竦めながら通り過ぎていく。

 

その女性が何かを見つけたのか、そこへと駆けるとそこにあったものは…タクシー乗り場である。そこに到着するや、その女性はタクシーへと乗り込み一つの住所を運転手へと告げた。

タクシーへと乗り込み一つの住所を運転手へと告げた。

 

「わかりました…。あの屋敷に向かえばよろしいので?」

 

「屋敷…かどうかは知らないけれど、それでお願い。」

 

少し年老いた運転手は、美しい女性に見惚れながらも、笑いながら対応する。それに女性は不快感を見せないようにしながら、街中を見渡した。

 

「お客さん、あまり見ない顔だけど何処の人間なんです?」

 

「元々はサイド6に住んでいたのよ、今は仕事でコッチに転勤してるってだけよ?」

 

「ほお……、そいつは驚いた。スペースノイドねぇ…、なあ宇宙の暮らしってどんなもんなんですかね?俺は行ったこと無いもんで。」

 

興味本位なのだろう、口の軽そうなその男はクリスにそう問いながらも、運転を気軽にしていた。

 

「そうねぇ…、こことあまり変わらないわよ?強いて言うなら、あまり砂っぽくは無いって感じね。初めて地球に降りたときは、困ったものよ?何せ天気予報が100%で当たらないんだから。」

 

「ハハハ、そりゃそうでしょう。俺達はこの大地に生かされているんです。そこいらを歩く、蟻とそうは変わらないですからね。でも…、俺も行ってみたいもんですよ宇宙。」

 

当然の事を言いながらも、男は願望を口にした。

一年戦争の余波か、地球連邦政府は宇宙移民プロジェクトを一部延期する形で止めていた。

先に地球の復興を優先すると言う建前であるのだが、順番待ちをしていた人間にして見れば、あまり良くない兆候だろう。

この運転手の男も、そういう物に振り回されていた。

 

「俺もね?順番待ちをしていた質なんですけども、急に戦争でしょ?それで、今度は延期だってんでこんな仕事をしてるんですよ。本当に…、全く余所でやって欲しいもんですよ。」

 

戦争なんてものは、当事者でなければ分からない苦痛がある。逆に言えば、当事者でなければどうとも思っていないのだろう。

この街の人間は、そうした者達が多かった。

 

「そうよね…、戦争なんて色々と困るだけよね。」

 

戦争をしていた当事者である彼女としては、男のその言葉に歯痒さを感じたものの、納得するしか無かった。

実際、サイド6でも似た様な場所はあったのだ。地球と言うこの広大な大地において、そんな人々がいない訳がなかった。

 

暫く車に揺られていると、彼女が指定した屋敷が見えてくる。郊外の外れにあって、人目に着きやすいそれは豪邸と言えるほどに大きな庭と、屋敷があった。

彼女はそれに呆気にとられ、目を白黒させた…。

 

そんな彼女を見て、男はニヤニヤしながら金を請求すると、彼女を降ろして車は何処かへと走り去っていった。

 

「こんな大きな屋敷なんて…、アムロ君。大丈夫なのかしら?」

 

グルリと屋敷一帯を囲うように、棒状のフェンスとコンクリートの壁が林立しその姿はまるで城のようである。

尤も、それは果たして外からの侵入を拒むためのものか?はたまた。

 

この屋敷の主の事を心配するあまり、ふとその名を口にすれば何処からとも無く彼女を迎えに来る人影があった。

見たこともない、恐らくはボディガードなのだろう体格の良い男が現れる。

 

「何の御用で?所属は?」

 

そうも問われると、彼女はその言葉に対して教えられた通りに返した。

 

「私はクリスチーナ・マッケンジー中尉、部下で友人でもあるここの家主に面会がしたいの。」

 

面会等というセリフ、普通ならば言うことはない。だいたい、一般的にそんな言葉が使えるのなら、それこそ有名人やどこかの企業の取締役。または、囚人くらいにしか使われない事だろう。

 

「ああ、それでしたらこちらに。正門はいつも閉め切っていますから…。」

 

恭しく先導する男に着いていく。その道すがらチラチラと目を周囲に配ると、あるわあるわ。監視カメラがところ狭しと設置されていて、外部からの人間を何とか撮影しようと躍起になっているようだ。

それだけではない、内側には入れば同じ様に。寧ろより執拗に死角を無くそうとしていることが分かるだろう。

 

そんな光景を見て、クリスはやはり嫌気を覚えた。たった一人の青年の私生活を、こんなにも監視しなければ連邦は安心出来ないのか?

と、最近頭を擡げてきた連邦への不信感が、よりしきりにイキリ立つ。

 

そうこうしている内に、目的地に着いたのか先導の男はそこで立ち止まる。何やら小さな建物があってまるで看守が詰めている場所のようだ。今度はそこから女性が現れて、クリスの汎ゆる場所…勿論秘所に至るまで、徹底的に身体検査を始めた。

 

「あの…本当にやらなければ駄目なんですか?」

 

「はい、上からの指示ですので勿論我々に他意はありません。これも命令です。」

 

この屋敷にいる人々は、基本的に連邦から差し向けられた人のようで、こんな中で生きていては気が滅入ってしまうだろう。

暫くして検査が終わり安堵すると、そこにはまたゲートの男が立っていた。

 

「お疲れ様です、ではコチラへ。」

 

「………。」

 

いい加減にクリスは呆れていた。ここまでするのならいっその事、ジャブローの中で監禁していたほうがよっぽど効率的だろうに。

尤も彼等にはこの屋敷の主が、宣伝の良き材料になることを知っているからこそ、こうなっているのだろうが…。

 

そうして到着して約20分、寄り道を食わされてやっとの想いで一人の人影が彼女を待っていた。

 

「お待たせ……、こんな事ならもう少し早く来るべきだったわ。」

 

「いえ、僕のせいです。詳しく教えていれば、こんな事にはなりませんでしたから。

マーカス、君は下がってくれ。」

 

「了解しました。」

 

何事もなかったかのように去っていく男の背中、そしてそんな背中にしてもその歩きは一介の使用人ではないことが、如実に現れていた。

 

「どうぞこっちです。」

 

アムロの先導の元、屋敷の中へと入っていく。きっとここにも、色々と仕掛けられているだろうと、クリスは考えた。

外であれほどまでに厳重なのだから、その考えに至るにはあまりにも単調だった。

 

「思っている通りですよ…、ここはいつもこうなんです。」

 

慣れたように言ってくる彼の言葉に、クリスは更に同情する。こんな事が許されてしまって良いのだろうかと、そう思うには充分すぎた。

 

廊下を歩き一つの扉を開くと、そこには大きなリビングが広がっている。それこそ、1人で住むにはあまりにも広すぎる。

そんな中に、一人の歳若い女性がソファに座り、一人カップを口へと近づけながら、ティータイムに耽っていた。

その絵になること、まるでドラマや映画の中のお姫様のように、きめ細やかな肌と黄金の錦糸の様な髪、そして済んだマリンブルーの瞳がより神秘性を孕んでいた。

 

そんな光景に、一瞬ポ〜っとしてしまったのだが直ぐに気を取り直す。

そんなクリスの反応に、アムロは勿論のことその女性もそれ程気にしていない。

気がつけば、女性の方からクリスの方へと歩み寄ってきた。

 

「アムロ、この方が?」

 

「はい、この人が今の俺の上司…の、クリスチーナ・マッケンジー中尉です。

でこちらが」

 

「わたくしは、セイラ。セイラ・マスと言います。以後お見知り置きを。」

 

その口調も何処か良いところの出だと思わせるもので、何よりクリスの様な中流階級とはまるで違う雰囲気を醸し出す。

 

「取り敢えず、立っているのもなんですからあちらに掛けていただいて?」

 

「え、はいではお言葉に甘えさせていただきます。」

 

堅苦しく、何やら緊張で肩が凝る。そんな感覚にとらわれるも、クリスは彼女が座っていたソファの対面に座すと、その前に入れたての紅茶が並べられた。

その匂いは、良く知ったもので寧ろ好みの物である。

 

「こちらでよろしかったかしら?一応、珈琲も揃えてありますけど。」

 

「いえ…大丈夫です。寧ろこの紅茶の方が、馴染み深いので…。」

 

お茶菓子に軽いビスケットやクッキーが並び、何故かそこにも品性が見え隠れする。

そんな二人の光景だが、セイラの隣にアムロが座ると彼もまた用意されたカップに紅茶を注いだ。

 

テーブルにやや固めのナプキンを置いて。

 

「アムロから話は聞いています?」

 

「ええ、ただ貴女を紹介したいと言われただけですけれど。」

 

その言葉をしてセイラはアムロに少しきつめの視線を送る、どうやらそれ以外の事らしい。

 

「すいません。ただ、基地の中ではあまりに人目に着きやすいものだから。」

 

「そうね、ごめんなさい。」

 

二人の距離感はクリスには少々奇妙に映った事だろう。恋人にしては何か他人行儀だし、では友人としては近すぎるだろうし。

ただ、男女の仲なのだろうと言うことは…、何となく分かってしまった。

 

「それで、どうして貴方の彼女を私に紹介したかったのかしら?もしかして、自慢?」

 

「い、いえ。そうではなくて…、いやセイラさん、彼女の友人になってもらいたいと言うか…。」

 

「アムロ…!それはお節介ではなくて?私にもそれくらいの交友関係はあります。」

 

「だけど、周囲には監視の目がある。その友人達だって、どれだけ信用出来るか…、それに比べれば中尉は秘密を打ち明けるには、ちょうど良い立ち位置だと思うんだ。」

 

人は誰しも秘密を持っているだろうが、この2人の関係でいったいどんな秘密があるの言うのだ?

ふと、そんな事を想いながらもセイラの後ろの方にあるものを見て、クリスは彼女が医者の卵であるのだということが、見て取れた。

 

「そう…。アムロ、貴方がそう言うなら信頼出来る相手と言うことね。わかったわ。」

 

「そんなに簡単に信じてしまっても?私が、裏切るとかそんな事は考えないの?」

 

「裏切るならとっくに裏切ってますよ、そう言う手合いには…良くわかってるつもりですから。」

 

その言葉に、この2人がこれまでどんな目にあってきたのか、人生という人それぞれの道に障害が多すぎると感じていた。

ただ、その言葉を聞いてからやけに緊張が張り詰めていた。

 

「私は先ほどセイラ・マスと名乗りましたが、実のところまだ名前を持っているんです。」

 

その言葉に対してクリスはただ沈黙を貫く。その後に続く言葉も、きっとこれから歩むだろう道の先へと通ずる助けとなるだろう。ただ、その道はきっと険しい…茨の道かもしれない。

ただ、その道を選ぶ事は決して悪いことでは無い。

 

「私のもう一つの名は、アルテイシア…アルテイシア・ソム・ダイクン。」

 

「ダイクン…!?と言うことは、貴女は。」

 

「そう…、ジオンの子です。」

 

ジオンダイクンの忘れ形見、彼には2人の子供が居たという。若輩のクリスにはあまり記憶に無いことだが、それでもそんな人物がこんなところにいるとは思いも寄らない。

 

ただ、決心を心に持った人々の顔というものはいつも、何か人と違う物に映るのだろう。

その顔には幾つもの不安と、そして願いが有るのだと。

そして同時に思うのだ。

 

「そう…、アルテイシアさんね。心に刻んでおくわね?その名前。

でも、今はセイラ・マスなんでしょ?私としては、セイラさんとお話したいわね。例えばそう…、今通っていらっしゃる医療学校の事とか、将来の夢だとか…。

そんな素朴な話を。」

 

前向きにそう語る姿に、セイラは改めて安堵を吐くとそれを見ていたアムロは、当然の帰結だと顔に出ている。

 

クリスは思うのだ。人は名前なんかじゃない、もっとその人なりの生き方でその人は形作られているのだと。

決して、国のそれに左右されて良いようなものではない、だからもっと普通で居て良いのだと。

 

この悩ましい2人を支えるには、少しばかり苦労が有るだろう。

ただ、人が背負えない程の事ではない。

二人三脚が三人四脚になるくらい、別に変わりはしないのだからと。

 

 

 




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