白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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偶然(必然)

 

〜0083年3月12日

ブライト等が帰任すると共に、アムロとクリス他、他の部署の主要な者達が一つの部屋へと集結し、ブライト等の受け取ったメモリーに記録されている映像を見始めた。

 

中にあった其れ等は、所謂スプラッターなものである。内臓が飛び出る物や、銃を乱射され脳が飛び出る物。果ては、殴打によって原型が分からないものなどなど。

果ては、より醜悪な物まで映っていた。

 

これらの映像を観た面々は皆一様にして顔を顰め気分を害していた。

 

「こんな物を見せつけていったい何をしろと、まさか連邦を見限れと?」

 

「それは無いだろ、連邦もジオンも双方が握り潰した奴だぞ?公表してみろ、ただでさえ奇跡的なバランスの上の平和が、確実に吹き飛ぶぞ?」

 

そんな言葉を口々に言い始める面々を、手を挙げることによってブライトは制した。

 

「皆の意見は多く有るだろう。この映像に対して、自分も確かに不快な物を感じたし、連邦の闇もジオンの闇もその一端を垣間見た気もする。

今でこそ直ぐにではないが、除隊したいものはサイド7か地球に帰ってから言ってもらいたい。

 

そして、もしコレを公表した場合のリスクも心得ておいてほしい。」

 

「艦長、言ってはなんですが、コレを連邦軍の上は知っていたんでしょうか?」

 

自然な疑問だろう。それも気になってしまうことであるし、何より生理的に受け付け辛い内容に、信じたいものを見出そうとするものでもあった。

 

「少なくとも、現連邦宇宙軍の面々は知っていると思いますよ?」

 

アムロはそうはっきりと言った。彼からすれば、ホワイトベースを当たり前のように囮に使い、議会工作を行いながらアムロの身柄を片手間に確保し、この部隊を新設する事すら容易い力を持っている。そんな彼が、この程度の事を知らない筈がなかった。

 

「特にゴップ将軍なんかはよく知っている筈です。良くも悪くも、あの人はそういう人間ですから。」

 

「でも……、信じたくないじゃない。これじゃあ、私たちも同じ土俵に立ってしまう事よ?連邦軍がジオンの非道を真似る必要はない。」

 

アムロの言葉に対して、クリスはそのように感想を述べた。彼女の言っている言葉は、一般的な常識でそして同時に戦時の非常識である。

奪われたものは、自らの存在を保つ為に必ず何処かで贄を欲する。それが何であるのか等人それぞれだが、少なくとも映像に映る連邦軍兵士たちは、そう言った物によって完全に狂ってしまっているのだと。

 

「ここで多数決を行いたい。」

 

副長のガディ大尉が声を上げた。

要するに、この艦の残りのクルー全員にコレを見せるか否かと言うと言うことだった。

秘密にすればそれはいつか公然となる。誰もが口を閉ざしても、別の誰かがそれを言うかもしれない。

ならばいっその事の艦全体が共犯者となり、その後を判断したほうが良いだろうと言うものだ。

 

トロイホースの部署、その長は13名。棄権さえなければ、確実にどちらかが可決される。

 

「責任は艦長たる自分が取る、各々の考えのもと投票して欲しい。」

 

紙片を配り、そして用意されたブリキのビスケットケースの中へと、収まる。まず最初に、ブライトが一枚を投じそして副長と順番に一枚一枚、それが溜まる。

そして缶の蓋を閉じ、それを上下に大凡20回程振ると今度は中の紙を一枚一枚拡げていく。

 

「一度目の投票は、白票が3枚,賛成が4枚,反対が6枚…。」

 

棄権が出てしまった。これではいけない、全員の意識がその白票へと向かう。この中で唯一、アムロだけが誰が白票を投じたか知っている。

少し躊躇いのある人員を一瞬だけチラリと見るも、彼は無理強いを嫌った。故に声をかける事をしない。

 

一人壮年のユダヤ髭の男シュロモ機関長が手を挙げた。

 

「コレを艦内に流布することは、言ってしまえば風紀を乱す事に確実に繋がる。私は、それを抑える自信がない。故に反対を投じたが、各々はその自信がお有りなのか?」

 

確実に動揺が拡がるだろう事は、想像に難しくない。ただそれが暴動に繋がるかは、未知数だった。

 

「だからと言って、我々が隠し事をしていたとしても何れはボロが出る。特にCICの人員はこう言った痕跡を探すのが得意な奴もいる。逆に公表した方が、後腐れは無いと私は思う。」

 

ガディ大尉の口からそれが語られる。彼にとっても懸念事項であったのだろうが、どちらにせよ動揺が拡がるのならば不信が無い今しか方法は無いのだと。

しかし、コレは劇薬である。使い方を間違えれば、様々な問題を創り出すだろう。それこそ彼等だけの問題ではなく、より国際的な大きな問題に帰結する程に……。

 

幾つもの議論を行うも並行線を辿ろうとした時、医長であるパロディ女医がアムロに問いかけた。

 

「さっきから沈黙を保っているようだけれど、ニュータイプと呼ばれている貴方の意見が聞いてみたいわ。」

 

全員の視線がアムロの方へと向かうと、流石に黙しているだけでは駄目だろうと肩を竦め、アムロはハキハキとした口調で言葉を紡ぎ始めた。

 

「僕がニュータイプかどうか、というのは別に大した問題にはしませんが。僕が誰かの答えを否定した場合、皆さんは僕の意見に左右されない、という保証がないのであまり喋りたくは無いのですが、聴かれるのなら仕方ないですね。

 

…、この場は反対の意見が大勢を占めているので、それで良いと思います。

今直ぐに決断しなければ、全てが悪い方向に行くという結論なら話は別ですが、今は平時です。考えられる時間は沢山あります。考えが変わったりする事だって、多い筈です。

 

それで良いじゃないですか。」

 

アムロの言葉は問題の先送りでしかない。ただ、ここで多数決で強引に進めたところで、確実に不和の基になる。

ブライトやガディも、無理強いをしたい訳では無いとアムロの判断だった。

 

「では、この場では反対が大勢と言うことで可決だ。皆、こんな事に時間をかけて済まない。」

 

「確かに考えなければならないことでは有りますから、艦長も副長もまだお若い、反対賛成の違いは有れどまた話し合う機会で宜しいでしょう。」

 

その場でコレは妥結となった。

コレが後にどの様に尾を引くのか、アムロを含め誰にも予言は不可能な事だろう。ただ、各々が嫌な気持ちを抱えて過ごす事は防げたのでは無いだろうか?

 

協議が終わった時、既に昼となり皆で食堂に移動する。

少しでも気が晴れればそれで良かった。

 

 

 

〜0083年3月20日

 

アムロは、クリスと連れ立ってズムシティのとあるレストランにその姿を現していた。

有名人と言っても、似たような顔つきの人間はこの世の中ごマンといる。そっくりさんであれば、まあそれで通るだろうと山を張り、案の定周囲にはそう思われていた。

 

そもそも、トロイホースが入港していると言う情報を知っているのはジオン共和国の中でも共和国軍の者か、はたまた連邦軍関係者くらいのものだった。

そう言ったものも手伝い、彼等がこんなところにいるはずが無いという、そんな空虚を創り上げていた。

 

「人の記憶という物は、案外好い加減なものですね。」

 

並べられた料理を口にしながら、アムロはポツリとそう零した。

 

「まあ、幼い頃の記憶だろうし余計に足を引っ張っているのもそういう事よ。でも…、楽しいじゃない。」

 

クツクツと笑うクリスに対して、アムロは苦笑いをする。

彼等が何をしているのかと言えば、セイラの記憶を頼りに、彼女に程近い関係があった人物達を、探していると言った方が良いだろう。元ダイクン派または、それに準ずる人々の中でより彼女に近かったベビーシッターや、屋敷の使用人等の人々を探している。

 

思った以上に広いここズム・シティでは、そんな人々の事など等の昔の話とばかりに、彼等の所在は依然として掴めていなかった。

 

かれこれ1週間、便りの無い人物を探す事は非常に骨が折れる。更に言えば、ブライト等と共に会ったあのジオンの将校に聞いたところで、彼すらも知らないというのだから手に余る。

実際、もし連絡先を知らせあっていたら、最悪彼自身も立場が危うかった事だろう。

そういう意味では、互いを護るための施策だったとも言えた。

 

そう言った事があり、行き詰まってしまったからと、アムロは何かに吸い寄せられるように、このレストランへと入ったのだ。

正直言えば、そんなにお腹が空いていた訳では無い。寧ろ、何故かこう言った場の方が、案外情報収集には向いているのかもと思っていたくらいだ。

 

「こう言ったレストランは地球とあまり変わりませんね。」

 

「そうでしょう?サイド7じゃまだ無いし、コロニーだからって地球と違う訳では無いの。ま、私も故郷でくらいでしか知らないんだけどね。」

 

大衆料理という、なんとも言えない食事である。ディナーの中でメインディッシュを食べている間に、何やら諍いが聞こえてきた。

 

「何処もかしこも、酔っ払いはたちが悪いか…。」

 

「行くつもり?」

 

アムロが席を立つと、それを見てクリスも立ち上がる。恐らくは殴り合いに発展する事を想定して、2人とも腕を捲りながらその諍いの方へと姿を現した。

 

そこには2人の男がウェイターに対して、いちゃもんを付けていた。かなり酒を飲んでいる。ほぼ酩酊状態と言っても良い程に出来上がっており、コレは流石に由々しき事態であった。

 

群集がその周囲を取り囲み、酔っ払い達に対して罵声を浴びせかける。どうやら、連邦の軍人らしいその二人はウェイターを殴り飛ばした。

 

「お前ら連邦軍人だろうに!店に迷惑だと思わないのか!!」

 

アムロは怒鳴りつけるように酔っ払い達に声を浴びせた。と、その言葉に対して売り言葉に買い言葉で、その男達が声を発した。

 

「何だと!?軍の人間?貴様何処の隊のだ!俺達を誰だか知っているのか!!」

 

フラフラとした足取りをしながら、アムロに殴りかかってくる。そんな千鳥足の攻撃など食らうはずもなく、アムロは見事に避けると殴る価値すらないと思い足を払う。

すると、面白いようにすっ転ぶものだから、より情けなさが際立っていた。

 

もう一名はクリスに飛び掛かったが、それこそ格闘も優等生である彼女である。瞬く間に関節技を決めて、そいつを無力化した。

 

そうこうしているうちに、別の部屋から諍いを聞いたのだろう者達が、その光景を見に扉を開けた。

 

「酔っ払い同士の喧嘩は他所でやってもらいたいものだけどな。」

 

屈強な歳若い男が姿を現すと、アムロとクリスに無力化されている男たちを一瞥し、出ていく必要はないとそう思ったのだろう。愚痴るように言葉を残す。

 

「済まない、俺たちの同僚が悪いことをした。相応の補填はさせてもらいたい…。そうだな…、今ここにいる人達全員の食事代は、自分が払わせてもらいます。」

 

「アンタも軍人なのか……、若いのに。」

 

そんな言葉が何処かから聞こえてくる。謝る必要がない相手が謝り、本来咎を受けなければならない者が咎を受けていない。

しかし、軍人であるのなら、この出来事はあまり宜しくない査定になるだろう。そう、別枠の2人の軍人の手によって。

 

内輪で解決してくれる。それだけで、大衆は少しホッとする。が、苛まれる者も必ずいるものだ。

 

連邦軍人なんて、こっから出ていっちまえば良いんだ。

 

その言葉は余計だったが、アムロはそれを受け取ってその場を後にしようとした。

 

「クリスさん、行きましょう。僕らは招かれざる客人のようですし。」

 

「でしょうね…。ほらっ、アンタ等もちんたらせずにサッサと歩く!!」

 

嫌々ながら酔っ払いは店の外へと歩く、アムロはその最後尾で監視をしながら、店を出ようとした時…。

その男の姿を目の端で捉えた。

 

「終わったのか?」

 

金髪でサングラスをかけたそんな男が現れた。変なヘルメットを被ってはいなかったが、確かにその声には聞き覚えがあったし、何より彼が纏う雰囲気は唯一無二とすら言えた。

 

「はい、出番が無くて本当に良かったです。」

 

先程愚痴を言った、屈強な男がまるで上司と話すかのように、その男と話をしている。

一瞬の出来事、しかしアムロはその男の事をよく知っている。そう、シャアがこの店にいたのだ。

 

店から数分程離れた後、問題を起こした連中から聞き込みをした。何故あのような暴挙をしたのかと、怒り心頭なクリスである。

 

「この件は貴方方の上司に報告させて貰います。もし事実を歪曲するような事をしたら、ただじゃ済まないわよ?」

 

普段優しげな彼女とは裏腹にその行為にはえらくご立腹であった。

舌打ちをしながら離れて行く二人組みを見送りつつ、クリスがアムロの方へと向くと、彼は先程出てきた店の方をジッと見つめていた。

 

「なに?お腹すいたの?なら、別のところでもいいじゃない?」

 

「いや、そういう訳じゃないんです。寧ろ、その方が良かったと言うべきか…。」

 

歯切れが悪いアムロの言葉、この場合面倒くさい事が待っている事を、クリスは痛いほど知っている。

 

「シャアがいました。赤い彗星が……。

まさか、あんな近くにいるとは思いませんでしたけど…。いや、薄々気付いていたのかも、だからあの店に入ったか…。なるほど。」

 

「え……?何処にいたの!?」

 

クリスには分からなかった。そもそも、シャア・アズナブル=赤い彗星と呼ばれる男である。

どんな顔をしているのか、依然としてそれを掴めていなかった。セイラの言う兄であるのだから、きっと美形であろうと言う想像以外は。

 

「あのレストランで、僕らが制圧し終えた後一人の男が入ってきたでしょ?あの後、連れの男が来たはずです。それが、シャアですよ。軍服も仮面もつけていなかったですけれど、アレは間違いなくシャアです。」

 

「報告しましょう、一刻も早く。」

 

クリスのその言葉は義務感から来るものであった。現在、ジオン残党と目される人間の中に、確実にいるであろう赤い彗星が目の前にいたのなら、それを捕縛しないと言う道理はない。

寧ろ、治安維持を行う連邦軍人としては当然の行いだろう。

 

だが、アムロはそれを渋った。

 

「僕は反対です。一応の主権国家であるジオン共和国内で、僕らが刑事事件を起こした場合、最悪の結果になりかねない。

それこそ…、あの映像のように。

彼らにとって、シャアは心の拠り所です。それがなくなったら、暴走する人もいる。

 

それに…、セイラさんの依頼もこなすには彼の協力が欠かせない。奴なら、確実に記憶しているはずだ。」

 

アムロとクリスはこの時始めて、大きく意見が割れた。

 

 

 

一方その頃、アムロ等が離れたレストランの方ではと言うと、シャアが大変な面持ちで周囲の面々へと、この場を直ぐに離れるべき旨を指示した。

 

「まさかいるとはな…不味いことになった。」

 

「何を見たんですか?」

 

シャアが率いる一団は、ズム・シティだけでなくジオン共和国の現状を視察するために、この地へと訪れていた。

今回このレストランに訪れたのは偶然で、コレはハマーンの提案であった。少なくとも、善意で行われていた晩餐会をぶち壊しにした酔っ払いたちのせいで、彼等は半分程食事をとれなかった。

 

そこに来て、シャアの発言である。

 

「アムロ・レイがいた。」

 

「アムロ・レイ?連邦の白い奴ですか!?何処に?」

 

シャアもしっかりと見た訳では無い、ただ自ずと確信したのだ。アレは確実に、アムロ・レイであると。

あの酔っ払い達を、あっという間に制圧した二人組のうちの一人であると。

 

「急ぎ目的地に向かう。ハマーン、君の提案を無下にしてしまったようだ、済まない。」

 

「いいえ、大佐は私達のことを心配してくださっているんです。怒るわけないじゃないですか。」

 

ハマーンのその言葉に、感謝を述べつつ一行は足早にレストランを、後にしていた。

 

 




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