〜0083年3月20日 ズム・シティ
とあるホテルの一室、そこに幾人かの人影が会った。
歳若い少女達と、それと共に随行している大人の男たち。彼等は身を寄せ合うかのように、その一室にいた。
そんな集団の中にいて、壁に背をもたれながら一際目立つサングラスを目深に掛けている男、シャア・アズナブルは思考の海に沈んでいた。
『まさかアムロ・レイが、あのような場所にいるとはな。我々が接敵した相手が、このズムシティにいるのであれば、厄介この上ない。
いや、まさか私を監視するためにいるのか?
彼は強力なニュータイプだ、それだけの事が出来て当たり前なほどに…。』
シャアはアムロに対してそのように評していた。かなり過大評価とも言えるものだろう。
ニュータイプと言うものが、特別な存在人々を導くものであるというのが、彼にとっての評価である。
即ち、嘗ての宗教での預言者の様な存在とすら言えるだろう。
アムロ自身に言わせてもらえば、そんな事はないと実際否定するだろうが、シャアにとってのアムロとは、そう言うある種の憧れの存在でもあった。アイドルとでも言えば良いだろうか?
ララァを殺した憎い奴であるが、それでも憎みたくないのだ。ララァが信頼した彼を…。
『そう言えば彼は連れの女性がいたな…、年齢からすれば私と同じくらいか?だとすれば何ということだろうか。アルテイシア…私はアムロくんならと思っていたのだが…、やはり間違いだったか?』
クリスに対しても、アムロと肉体関係があるのではないか?と疑っている。男女の仲でああ言うレストランに行くのだから、決して悪い関係でもない事は確かだが、やはり考え過ぎである。
「大佐…シャア大佐!!」
思考の海に溺れていたシャアを、誰かが呼んだ。
いや、知っている人間である。
年格好からして、シャアとそう変わらない男。ニヒルなジョルジョと言う男が、シャアに声をかけたのだ。
「ああ、済まない少し考え事をしていた。どうかしたか?」
「少し厄介な事になりました。」
ジョルジョ曰く、裏取引によってとあるジオン残党部隊に横流しされるはずのモビルスーツ。その輸送船が、連邦の傍受に引っ掛かったのだという。
それを援護したいのだという事であった。
「私も出よう。ものの序だが、共和国に駐屯する連邦軍の戦力の詳細が知りたい。この数週間のうちに寄港したものも含めてだ。作戦を練る。」
「わかりました!準備させます!!」
(アムロが出てきた場合、今度は万全の状態での出撃も考えられる。そうなれば…、私は死ぬかもしれんな。)
そう言いながらも、何処かしら嬉しいと思う自分がいる事に、シャアは納得する。
自らの生命が心底どうでも良いと、そう思っている部分がある。ここで絶たれれば、ララァに再び相見える事が出来るかも知れないと、何処かで思っている。
「大佐…、お気をつけて。」
幼くもシャアを励ますように、ハマーンは彼の元へと歩み寄ると少しニコリと笑う。
それにはにかむ事で返答しつつ、彼女の言葉に表面上答える。
「大佐…、帰ってきてくださいね?」
もう一人、彼に声を掛ける者がいる。ナタリーと言う名の彼女は、シャアに心配の言葉と共に戻って来ないのではないか、死ぬつもりなのではないか?と、声をかけたのだ。
シャアにとっては、ハマーンの言葉よりもナタリーのその言葉が心に響いた。
ハマーンのシャアに対する憧れの言葉と、ナタリーの同情する言葉とでは、ナタリーの方に分があったのだ。
「分かっている、2人ともありがとう。」
そう言いながら、シャアはジョルジョと共に部屋を飛び出す。彼のその行方には、迷いとそして何より期待に応えたいと言う、欲があった。
〜同日 トロイホース
アムロとクリスがトロイホースへと帰還を果たした頃、面倒事を抱え込んでいながらも有意義な時間であったと、そう確信していた。
だが、それとは別の問題が起きていたことに、2人は帰るまで気が付いてなかった。
「では、我々はこのドックから出てくるなと。そういう事ですか?」
艦橋の艦長席に座りながら、ブライトは画面の中に映るジオン共和国駐留連邦軍の司令部から、一つの連絡を受けていた。
それは、コレから起こるであろう一連の戦闘に対して、トロイホースは一切口を挟むことを禁ずるという、なんとも一方的なものであった。
「そうだ、貴官等はまだこの地に来て日が浅い。幸いにも我々は、貴官等と同様に
それは嘘だ…、ブライトはそう確信した。その根拠が何であろうかと、そう問われればその説明をすることは難しい。
しかし、実際目の前にいる相手を見てそう思うのは、彼の直感が語りかけてくるのだ。
『所詮は目の前にいる奴は、派閥争いの事しか考えていない。我々を、単に敵として見ているのだ。』
そんな彼の考えと同じように、相手である防衛司令部の長である男は、ブライトを若造と断じ実戦経験と乖離するその幼さを見て、上から物言いをする。
戦いの中学んだ事は、座学ばかりの演習と訳が違う。そう、それはコンプレックスなのだ。
目の前に座る男は実戦を戦った経験もなく、ただジャブローで椅子を温めていただけで、実際派閥争いだけは一丁前である。
ジオン共和国に派遣され、そして現地の連邦軍の司令官となっている最大の理由も、優秀な内政能力を買っての事だろう。
だが、その判断とは裏腹に中央から左遷されたとそう思い、中央から派遣されてきた第13実験隊に対して、そう冷遇する。
「では、見学させて頂きます。」
ブライトのその言葉に自尊心を膨らませた男は、一方的に通信を切断する。
それと同時に、ブライトは溜息を漏らしながら連邦軍と言う組織に一抹の不安を感じた。
「外部衛星との通信確保出来るか?」
「すこ〜し待っていてください…、あはいオールドグリーンです。映像出します。」
艦橋内の大型スクリーンに映し出される宇宙のその姿、更にその中にはブライトとしては想い入れのある、その後ろ姿が映し出されていた。
ホワイトベースⅡ等と言う大それた名を冠するその船は、今まさにジオンの影を打ち払おうとしているのだ。
「パイロット達は?」
「全員艦内にいます。レイ中尉とマッケンジー大尉も戻っている様です。」
ブライトはその言葉を聞いてパイロット全員に呼集をかけた、艦橋に来るようにと。
これから始まる一連の戦闘、その総合的な評価と戦術的なその動きを見させる意味で…。
〜同日 地球
湖畔の辺に木々が生え渡り、生命と地球の神秘的な調和と言う物を間近で見られるこの場所は、不自然にも人がいない。
幾人かの人影が見えるが、その姿はまるで宇宙服を着ているかのように非常に厳重に気密を施されている。
彼等の歩く場所は元々は何であったのだろうか、周囲には幾つかの建物の残骸が横たわっている。
クレーターレイク、所謂隕石の衝突などで出来上がった大きな陥没の中に水が溜まり、湖となった場所を指す。
だが、残念な事であるがその湖畔には生命の姿はなかった。
いや、この言い方には語弊がある。マス科であろうか、魚達がプカプカと浮かんでいる。1匹だけではない、それこそ無数に…。
よくよく見れば、湖の表面は真緑になっている。
「淋しいものですね…、もしコレが地球だと紹介してもコロニーの中の人達には分からないかもしれない。」
人影のうちの一人、クスコはその光景を見て正直な感想を発した。確かにその地はコロニーの中の環境によく似ているが、コロニーと言う場所には決してあり得ない。
周囲を黒黒と何かが飛んでいる。まるで、その場にいた全てを飲み込むかのように、其れ等は動いているのだ。
それを啄むように、無数の鳥達が大挙して訪れている。
「そうね…、貴女は物心ついた頃には既にコロニーにいたのでしょう?だったら尚更、この風景は目に焼き付けておいた方が良いわ。
地球というものは、外から見ればとても美しい宝石のように見えるけれど、内側のその姿は残酷な創造主よ。」
クスコは地球という一つの巨大な生命と、人という矮小な生物のスケールの違いと言う物をまざまざと見せつけられている。
一方で、セイラはと言えばきちんと物を分かった頃、既に地球に住んでいたからこそ、その残酷な力を見てますます思うのだ。
人がどれだけ地を穢そうとも、地球にとってそれは死ではない。
星の死を人というものが定義するのは、烏滸がましい事だろうと。
それは、アムロとともに有るからこそ彼女にとってのその姿というものがあった。
「ここは元々セントアンジェと言う街があった場所、コロニー落としの被害でこんな姿になっているけれど……。ほら見えて来たわ。」
暫く歩いて行くと、その湖に程近い場所に、幾つかの無事な姿の建物があった。
そこからはモクモクと白い煙が立ち昇り、誰かが火を起こしているのだろう。
セイラは人影を見つけると、大きく手を振る。それに呼応するように、その人影の方も両手を上げて手を振るのだ。
「お〜いこっちだ〜。」
少し嗄れた大声が聞こえるも、その声は決して恫喝するようなものではない。寧ろ、歓迎を伝えたいのだろうか?
その声に従って行くと、その村?とも言える場所から幾人かの人々が姿を現した。
「いや〜待っておったよ。連邦からの連絡がなかなかに取れなくて、未だにミノフスキー粒子が有るのかと…。」
代表の男が心配していたかの様に声をかける。その声を聞いて、セイラは着ていたスーツのヘルメットを外し…、代表の男は驚いたように目を見開いた。
「あ…アンタいや、君はホワイトベースの管制をやってた…確か……セイラ…とか言っていたか?」
「ええそうです。セイラ・マスよ、改めてお久しぶりですね皆さん。」
村にいる幾人かが、その顔に驚きつつもその事情を知らない人間からしてみれば、いったいどういう事なのか?と疑問の声を上げた。
それから数十分すると、幾つもの車両が村の中に入ってきては物資を降ろしていく。それは、多くは食料品等の生活必需品である。人々は挙って其れ等を卸しては、綺麗に分配していくのだ。
家の中に案内されたセイラは、歓迎を受けていた。
と言っても、出てくるのは一つの飲み物と小さなお茶請け程度であったが…。
「本当に良くご無事で、私たちが降りた後ホワイトベースがどうなったのか、心配でした。私達だけ逃げ出したから……」
セイラの相手をするのはペルシアと言う女性である。力仕事には女手は足手まといにになると、こうやってセイラの相手をしているのだ。まあ、適材適所とでも言うべきだろう。
「もう別に良いのよ、過ぎたことだから。それよりも、お子さんはお元気ですか?」
「元気過ぎるくらい、でもね…最近は手がかかって。」
既に7歳程になったであろう彼女の息子は、大人たちのお手伝いと称して遊びに興じている。
実際微笑ましいものだから、大人達の目の保養となっているのだからそれは良い。
「それにしても、政府には困ったものよ。魚の養殖をしろと言ってそのまま放置して、大きな水溜りで食料なんて作りようが無いのに。」
素人に対して殆どの指導なく、連邦の役人達は幾人かの人間を置いて、ここに養殖場を作ろうとしたのだろう。それこそ、ここいら一帯に住む人々の食料を自給させられる程度には…。
実際、真水で養殖しようとするならば充分なほど大きな水溜りであったからだ。
しかし、所詮は付け焼き刃である。結果、見事に水質汚染が始まり、このざまである。
「連邦も色々と苦労しているのよ。コロニー落としに、気候変動…何よりそれによる食糧難でしょ?連邦だけのせいには出来ないわ。だから、素人すら動員する。今は寒い時代だから。」
連邦がどれだけ力を入れようとも、優先順位と言うものが存在する。つまりはこの地はそれ程価値が高くないのだろう。
元よりジオンの招いた災禍である。セイラはそれに対する、ある種の負い目と言うものがあった。だからこそ、今彼女に出来る事をと各地に様々な事を行っていた。
それこそ、これこそが彼女に出来る唯一の贖罪だったから…。
「でも…、あの人たちのおかげで何とか生活出来ているんです。」
「あの人達?」
セイラが聞き返すと、ペルシアはハッとして口を噤んだ。何かを、いや誰かを匿っているのだ。
コンコン
と、ノックが為されて人が入ってくる。
「ペルシアさん、とりあえず荷物の配給は終わったよ。コレはアンタの分だ。」
2人の男がそこにいた、無精髭で何より少し無骨だが、決して悪そうな男ではなかった。
それがペルシアへ親しみを込めて荷物を運んできたのだから、この男達が彼女が庇おうとしている相手だと、セイラの直感は閃いた。
「貴方達……、元ジオン兵?」
いつの間にかセイラは声を発していた、ハッとしてペルシアの顔を見るも、男達はその後一言告げた。
「……、お嬢さん。ペルシアさんは関係ない、俺達が勝手にこの村に住み着いただけだ。連れて行くなら、俺達だけにしてくれないか?」
男達は何かを観念したのだろう、ペルシアを庇った。ただ、セイラとしてはそれは誤解だと説かねばならない状況であった。
「…、ごめんなさいね。私は、貴方達を捕まえる気は無いわ。けどね、どうしてここにいるのかしら?本国には帰らないの?」
セイラはそう言うや質問を投げかける。実際問題、それが一番の疑問であったから…。
「俺達もね帰りたい。帰りたいんだが、どうもきな臭い。だからこうして、隠れているんだよ。」
連邦軍は、降伏したジオン将兵をジオン共和国へと輸送する事を治安維持と同じく今は主任務としている。
しかし収容所の数は限りなく多く、キャパシティオーバーになっているところもある。
それ故に、意図的に脱走兵を出す所もあった。
生かすよりも殺す方がコストが安く済むからだ。
何より、脱走して野垂れ死にしないように、勝手に生活してくれるのだからコストが更に浮く。
そんな事が有るからこそ、彼等もやはり逃げて来たのだろう。
「そう…貴方のような人達が大勢いるのね?」
「それは解らない、解ったとして連絡の手段が無いがな。そう言えば、自己紹介が遅れた。俺はバムロこっちは元部下で相棒のコムだ。」
握手をしようと手を伸ばし、セイラはその手を握る。そして名乗った。
「始めまして、アルテイシア・ソム・ダイクンと言います。貴方達のお力、少しお借りしたいのです。」
「……その名前は…。」
名前に困惑する彼と、ペルシアは何のことか理由のわからない状況に困惑していた。
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