白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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分かれ

〜0083年3月25日 ズム・シティ

 

そこは、奇妙な空間であった。

片やジオン公国軍のエースにして、連邦軍から最も恐れられたパイロットの内の一人、シャア・アズナブルと、そのシャアが身を寄せる、ジオン公国軍残党基地が一つ、小惑星基地アクシズ。その総督の娘たる、ハマーン・カーンが一つのソファに腰をかける。

 

対するは地球連邦軍のエースにして、ジオン公国軍から悪魔だの死神だのと、そう恐れられたガンダムと言う機体のパイロット、アムロ・レイと、そのガンダムの開発陣に名を連ねその動作を叩き込んだエンジニア。

そして、テストパイロットとして極めて優秀な、地球連邦軍の秀才クリスチーナ・マッケンジーが対面している。

 

そして、その部屋を貸しているカムジが居心地が悪そうに口を尖らせ、アムロ等を睨見つけるような、そんな構図となっていた。

 

アムロは自らが持っている彼等に対する情報を少し開示すると、尖ったナイフを突き立てる様に、言い放った。

 

「今直ぐとは言わない、ジオン残党を纏めて降伏してはくれないか?」

 

彼は、連邦とジオン。その2つの間にある今の状況の打開を提案した。尤も、その言い分は連邦軍側に立っている人間の言葉であり、これに反するジオンの人間は山程いる。

だからこそジオン公国軍の残党は非常に多く、今も尚牙を研いでいる。

 

そしてこの男、シャアもまたその残党の一人である訳で…

 

「君は連邦の肩を持つと言う、ならば犬にでもなったか?彼女はその監視と言ったところか?」

 

挑発するように言うのも、勿論アムロの神経を逆撫でする為だ。直情する方が、精神的揺さぶりとなり却ってやりやすいのだろう。だが、そんな魂胆など見え透いている。

 

「確かに首輪を着けられているかもしれない、だがそれに鎖が着いている様に見えるのか?

連邦に士官したのは僕の…、いや俺の決心の果てだよ。彼女はその一歩を指し示しただけだ。」

 

「そうか…では益々了見は受け入れ難い。君は私の同志どころか、半分敵になったようなものだからな。

特にこの宇宙においては。」

 

シャアは話しながら手を少し拡げて見せる。如何にもこの宇宙全てが、自らの味方をするかのようにアピールするところだろう。だが、アムロにしてみればそれは明らかに滑稽であった。

 

「亡霊に取り憑かれ、あまつさえ自らを宇宙に住まう人々の総意と言う。それこそ、笑えない冗談だ。死人に引っ張られていると何故気が付かない?」

 

シャアにとって公国軍の残党は、ある意味最後の寄る辺だろう。アルテイシアと別れたときから、彼にはもう生きる気力等無い、強いて言えばアクシズにいる事こそが、彼の生きる活力だと。

アムロは、幾つかの言葉でそう判断する。

それでも、彼を敬愛しそして愛そうとする人々が多い事は、まだ救いと言えよう。

 

故に、アムロの言ったその一言は当事者である者、特にハマーンにはあまりにも鋭く感じた。

 

「ニュータイプであると噂されている貴方が、どうして連邦なんかの味方をするの?」

 

その言葉には、ニュータイプと言う存在。シャアが認め、絶賛し嫉妬する程にまである彼の才能、そう言った物に対する対する少しばかりの理想と、安易に降伏を発言する彼の現実とを見ての言葉だった。

 

アムロもこの2年間に様々なものを人を目にして、連邦もジオンも双方で問題を抱えている事を理解し、その上で彼は連邦の側に立っている。

実際は、ほぼ軟禁状態に置かれる寸前まで行ったのだが、一部の連邦軍内における、所謂クリスの様な穏健派や、ゴップの様な武力を用いない謀略家。其れ等を目にしている為に闘争だけが、戦いの道ではないと言うことを、彼は身に染みていたのだ。

 

ただ、ハマーンにとっての世界とは今目にしているこのコロニーの中だけであって、宇宙だけである。

地球側の言い分等、単なる言い訳にしか聞こえないのかもしれない。それが例え、アムロの様な人物が言った言葉であったとしても、偏見故にそれを受け容れざる。

 

「それが一番血を流さないから…、そんな理由では駄目かい?

それともこう言えば良いか?非生産的な事を行い、外から殴りつけるよりも、内側から変われるのならばその方が良い、連邦には負の人材が確かにいるが、逆もまた然りさ。」

 

アムロは連邦には連邦の欠点も利点もある事を、この数年で理解していた。

逆に言えば、それだけ多くの可能性が有るならばと、より多くの希望を持つに足るものだと言う確信の源泉であった。

 

「であるならば?どうして連邦軍に入る必要がある?軍人ではやれる事も、視野も狭くなる。それが分からない貴様でも無かろう?」

 

「分かっているさ。俺の原動力はララァと共に見た世界の果ての理想だけじゃない、セイラさ…セイラのアルテイシアの見た、平和で穏やかなそんな世界を実現してあげたい…、そんな純粋な心だけだ。

 

だけども、残念ながら俺には政治と言うモノに対しての興味が薄い……、ならば一番の近道は何かと考えた時、軍の上に登ると言う方法しか無かった。」

 

シャアはアルテイシアと言う名前を聞いて目を開き、そして彼女が今地球で何をしていて、何を目指しているのかと言うことを、理解した。

そして、アムロがこうして目の前に座り、キャスバルにジオンから降りろと言う事の即ち、アルテイシアの元に帰って来いと言うその意味であると。

彼の心は僅かにだが、震えた。

 

「あの…、私からも言わせて貰って良いかしら?」

 

逡巡するシャアを傍目に、クリスが人差し指を上げながら手を上げて言った。

それに意を唱える者はいなかった。彼女に邪気が無かったからと言っても良いだろう。

尤も、クリスにしてみれば話が飛び飛びに進んでしまって、理解に苦しんでいるだけだが。

 

「えっとまず、ハマーンさんでしたよね?」

 

クリスのその一言に、ハマーンはキョトンとした。この人は、自分の事を名前しか知らない。

カーン総督の令嬢というそれ以外の情報を持ち合わせていない故に、ただ純粋に確認したと言うのが良いところだろう。

 

「はい…そうです。」

 

だから、自然とそういう反応を返した。ハマーンの周囲には、物心着いた頃から、彼女を特別視する人間しかいなかった。

故に、彼女の機敏や動向に一挙手一投足目が行きがちで、非常に圧迫した中での暮らしが続いていた。

カーン総督の教育方針は、決して悪いものではなかったが、やはり温室育ちの世間知らずと言う部分は抜けていない。

 

ニュータイプが互いに理解し合い、オールドタイプの内心を全てを知っていたとしても、面の皮を着けた人間が、如何にして本音と建前を駆使して世界を維持し続けているのかと言う、そんな根底の部分を知らない。

 

「貴女もニュータイプなのよね?なら、私の考えている事、だいたい何となく理解出来ると思うけれど、どう?」

 

「まあ……そうですけど…。」

 

故に人見知りもするし、何より少し怖がっている。ニュータイプであろうとも、理解し合えていようとも結局人を信じられるか否かは、その人の度量次第であるからだ。

 

 

余談であるが、Zガンダム本編においてエゥーゴのクワトロ率いる1団が、ネオ・ジオン側と接触した際、第一に彼女が頼った人物は、クワトロ=シャアであった。

コレは彼女の、内向的思考と外向的接触の隔絶に由来する、恐怖から来る行動ではないか?と、筆者は考えている。

即ち、彼女は無意識にしろ意識的にしろ、シャアに助けを求めていたのだろうと。

閑話休題

 

「なら、話は早いわね。ねぇ、一度地球に降りてみたいと思ったこと無い?」

 

クリスのその言葉は純粋だった…、本当に本音から彼女に対する提案だった。

その言葉の意図は、唯一…。地球の内情を知って欲しいと、そう思ったからだった。

 

クリスは一年戦争が始まる前から、地球連邦軍の軍人であった。戦技研へと進路を取り、連邦軍の様々な地形と宇宙への関係等の論文を読み上げ、様々な人々と交流を持っていた。

それ故に、戦争が始まった当初それほど多くの犠牲は出ないと、楽観視していたところもあった。

 

蓋を開ければ、大虐殺が行われ多くの罪もなき一市民が犠牲となる厄災である。

次々と舞い込んでくる、戦局情報。そこから対策を練り上げる日々。そして、それだけ多くの犠牲を払っているという事実に、軽く鬱になろうとも、現実は襲い来る。 

 

V作戦実行時、殆どの同期は戦場へと派遣されていく中、彼女の手元には訃報ばかりが溜まっていく…。それを、血塗られた戦訓を前に、進んでいくしかなかった戦時中…。

 

そして、そんな時代の節目に多くの血を見たセイラやアムロと出会い、まだ軍にいてやるべきことが有ると実感した日々を。

 

ハマーンは、彼女の心を見てしまった。

コロニー出身者として地球連邦軍の首席となり、コレから連邦軍は変わって行くだろうと、そう言う彼女への期待の眼差しを浮かべる人々の視線。

 

突如として戦端を開いたジオンへと当初あったコロニー出身者としての同情と、多くの同胞を葬り去ったその行為への怒り。

 

そして、戦後。セイラやクスコの監視の名目で向かった、多くの戦地その姿。

 

身体中に硝子が突き刺さり腐り切った肉体や、蝿が集り蛆湧く急病人…。

 

瓦礫の山々…。

 

そんな中にあってもなお、必死に生きようとする人々と笑う子供達の姿……。

 

そう言ったものを観てしまった彼女は…、自然と瞳から何かが零れ落ちる。

 

「私や、アムロ君やそこのキャスバルさんのように、擦り切れて灰色のようにしか見えない私達とは違う、貴女なら色々と目に映る情景が有ると思うの。」

 

「駄目、ハマーンを連れて行かせナイ。アナタは、信頼出来るですけど、他の人信用出来なイ。」

 

涙するハマーンに変わってカムジが、クリスに口を出す。それでもクリスは、その視線を交錯させ真っ向からそれを受け止める。

 

「貴女も貿易会社を経営しているなら、もっと世界を見たほうが良いわ。1面だけで毒されるのは勿体ないもの……、今直ぐじゃなくても5年後10年後でも遅くはないわ。

ごめんなさいね説教臭くて。私が言いたいのはこのくらいかな?」

 

クリスの言葉が終わり、沈黙が部屋を包む。

気まずい空気が流れるも、クリスは自分の言ったことに対して満足そうにしている。

 

「兎も角…、俺たちはまだ連邦にも人類に絶望していない、だからキャスバル。貴方も絶望しないでくれ。」

 

アムロはシャアと直接に出会う事で、彼の機敏を良く理解した。シャアと言う人間は、自分に似ているところもあるがもっと繊細で、傷つきやすく同時に自分を現すことが苦手な人間なのだろうと言うことを。

それはララァ・スンが、確かにシャアという人物を知ってしまった時と同じ様に、その人の本当を知ってしまったと言うことだった。

 

自信に満ち溢れているように見える虚像と、実際は自信という虚勢の中で小さく震える実像を見ているように……。

ただ、それ故にその大きな力と価値を理解して欲しいと、そう言う話なのだ。自らを偽る力が、彼にはある。

それは、アムロには到底出来ない器用な振る舞いが出来ると言うことで、実際先導者としては優秀なのだろう。

 

それ故に、人が被るペルソナを簡単に見破る事が出来る。だからこそ、人を信じられないのだ。

 

 

アムロは席を立つと、クリスと共に扉の方へと歩き部屋を出て行こうとした。

 

「待て、最後に一つだけ聞きたい。貴様にとってニュータイプとはなんだ?」

 

それはシャアにとって、潜在的問題へのアプローチである。父の理想だとか、そういうものをシャアは完全に理解出来ている訳では無い。

だからこそその答えを、五里霧中で探している。アムロは、ララァと共にそれを見ているはずだとそういう考えだった。

 

「何がニュータイプで何がオールドタイプなのか?俺にも分からない…。ただ、サイコミュが反応するからとかビット兵器が使えるとか、そんな見え透いた物がニュータイプではないと、そう思う。」

 

その言葉を発し、アムロはハマーンの方を見た。

それをキョトンとした顔で見つめ返すハマーンだが、徐ろに彼は彼女の方へと歩き出し、一言発した。

 

「貴方が最後に言うのだから、俺も彼女にだけ忠告しておくよ。少し良いかな?」

 

そう言うと、彼はソファに座るハマーンの肩に手を置く。デリカシーのデの字もないやり方だが、決してハマーンはそれを振りほどこうとはしなかった。

 

「似合っていると思うけれど…、僕としてはもっと別のものの方が良いと思うよ。」

 

その言葉にはいったい何があったのか、ハマーンは顔を赤く染め上げ、湯気が出そうなほどに緊張している。

シャアは隣に座る彼女のその姿と、彼女の肩に手を置くアムロを交互に見て、何がなんだか良くわかっていなかった。

 

「それじゃあお身体に気をつけて。」

 

「今度はまた別の機会でお会いしたいですね、それじゃあさようなら。」

 

と言って、クリスとアムロは部屋を後にした。

部屋に残ったのは、大きな溜息をつくシャアと顔を真っ赤にして恥ずかしがるハマーン。

そして、何やら難しいことを考えているカムジであった。

 

事務所のビルからアムロ達は姿を現し、人の波の中へと流れて行く。

 

「アレっ、最後なんて伝えたの?」

 

クリスは興味があった。

ニュータイプ特有の圧縮言語は非常に解り辛く、慣れているはずのクリスですら苦労に堪えない。

故に、頭の中に辞書を創り上げているのだが、今度のそれも詰め込みたいのだ。

 

「恋心って言うのは盲目なんです。良かれと思った事が、実際空回りだって事に気が付かない事は多いんですよ。」

 

「それだけ?」

 

「まあ…あとは、彼女のプライベートなので…。」

 

等とアムロははぐらかし、その日は終わりを告げていた。

 

 

〜同日・トロイホース

 

艦橋にてブライトは、焙煎された本物の珈琲を口につけていた。

 

ワイアットから贈られてきた物の中には、地球上の汎ゆるところから取り寄せたと言う紅茶の茶葉が、大量に在庫があった。

故に朝昼晩と、艦内の食事には必ずと言って良いほどに紅茶が出てきて、味気ない食卓に多少の色を付け足していた。

 

だが、世の中紅茶ばかり飲んでいる人間だけではない。

例えばブライトの様な人間にとって、紅茶は嫌いではないが好きでもない、寧ろ珈琲派の人間がいるのだ。

 

そんな形で、心を落ち着かせる為に彼は今日も珈琲を愛飲している。

と、その時だ定時連絡と搬入物の積み入れ時刻に目を入れた。

 

「やっとこれで出航できるな…、時期が変わればしょうがないが…、随分と待たされた。」

 

「それはしょうがないものです。なんせ、我々は1ヶ月以上後にここに来る予定だったのです。

寧ろ、この時期に受け渡しできるのですから、工場にどれだけの皺寄せが入っているのか…恐ろしい。」

 

ガディ大尉と共に目下運び込まれているもの資料に目を通している。

 

「サイコミュ……、これが例のニュータイプの脳波を伝える装置ですか…、全くジオンには驚かされますな。そう言えば、艦長は何度か交戦経験がお有りとか?」

 

「実質的に戦ったのはアムロですよ、我々は後ろから見ているだけでした。」

 

そう謙遜するブライトに、それでも生きているのだから貴方方は本当にタフだったのだなぁと、改めて感心していた。

 

「やはりホワイトベース隊は別格ですよ。戦果だけでもお釣りが来る」

 

「我々は必死だっただけですよ、あれ以外に我々は生き残れなかった。それ以外の答えが見当たらない。」

 

等と雑談を交えつつ、彼等の就業は終わりを告げ人々は寝静まる。

 

そして、出港の日が刻々とやって来ていたのだった。

 

 




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