白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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遠くへ

 

〜0083年 3月27日 サイド3 

 

シャアは一人…、宿泊施設の展望室に入り景色を眺めていた。

しかし、サングラスによって隠された彼の瞳の行く先には、決して街の趣き等映ってはいない。

あるのはただ一つ、たった一人の人間の気配を意識しそれを感じ取ろうとしている事実であった。

 

シャアにとって、アムロ・レイという男は(かたき)であり(友人)のような存在であった。

一年戦争も終盤、ララァ・スンというパイロットとシャアは、恋仲…と言えなくもない間柄であった。

シャアが彼女に感じていた感情が、果たして恋であったのかという事はさておき、決して悪くはない関係であった。

 

しかし、そんな関係も突然終わりを迎える。

ニュータイプであった彼女と、もう一人敵方のニュータイプであるアムロが互いに惹かれ合い、そして意志を混じり合わせ感応した時、彼はそれを疎ましく思ったのだ。

 

そして、結果彼を庇おうと彼女は生命を落とした。

その時の瞬間を、シャアは片時も忘れたことは無い。

憎みたいと思う反面、ララァが認めた彼を、ニュータイプという父が夢見た存在を彼は否定するほど強い意見を持つことが出来なかった。

 

故に今回出会った中で、彼という存在が未だに連邦軍にいること。しかし、アルテイシアの事を思いそして思われている事を、彼は実感しつつ、己のこの現状を憂いていた。

 

結局のところ彼は、ジオンという重荷を背負いながら、それから逃げる為にシャアを演じ、シャアと言う重荷に耐えなければならないのだと。

正直に言えば苦痛だった。

 

それに引き換えアムロはどうだろうか?アムロ・レイは、今や連邦のニュータイプと言うことで有名だ、そしてシャアと同じく撃墜王と呼ばれ、周囲に持て囃されている。

にも関わらず、積極的に広告塔になっていて非常に目立っていると言えよう。

 

特に彼が今何処のサイドにいるのか?等は軍事機密ですらなく、連邦軍の広報活動に利用されている。その典型例が、シャアも参加したあのホワイトベースⅡとの戦闘や、連邦によるジオンの基地への強襲作戦での一連の戦闘だろう。

 

宇宙に住む人々にとって、ニュータイプは本来であれば希望の象徴でなければならない。しかし、彼がやっている事はニュータイプが決して希望や夢などの偶像ではなく、単なる一人の人間という形をとっているのだと。

 

シャアにとって特別である筈の彼は、民衆にとっては決して特別な存在ではないと言うことなのだ。

 

そんな現状にシャアはあまり良い思いをしていない。だが、それはきっとアムロの望むべき現実なのだろうと、理解は示す。

そんな現実に、彼を感じながら苦悩している…。そんな感情をグルグルと際限なくしている彼の心情を知ってか知らずか…。

 

コンコンとノックの音が響き渡りその扉の先から声が聞こえた。

 

「大佐入っても良いですか?」

 

その声は未だ幼さの抜けない少女の声であり、彼もよく知っている女の子…ハマーンのそれであった。

 

「ああ、入っていいぞ。」 

 

つい口調が強くなったのは、思考を中断させられたからか…彼は少しイライラとしていたものの、自分を落ち着かせようとしていた。

 

「失礼します…。大佐、何か考え事をしていたんですか…?かなりお辛そうにしているなと思って。」

 

「うん?そうか…、君には分かってしまうという事か…。まったく、ままならんものだな。」

 

シャアは何に気がついたのかと思うと、サッとハマーンの目の前に立ち、彼女の両の肩に手を置いて瞳を覗き込む。

ハマーンはそれに顔を赤くしたものの、それは流石に嫌なのかシャアを拒絶した。

 

「君は何を見た…?」

 

イライラと感情が高ぶっていく、シャアとてわかっているのだ、その感情はあまりにも理不尽にすぎると。

ただ、彼女のやってしまった事は人のプライベートに土足で踏み込んでくる事に等しいと、そう思っていたのだ。

 

そしてそんな感情のシャアを知ってか知らずか、彼女は正直に答えて…それを聞いたシャアは一瞬頭に血が登るも、アムロの事を思い出した。

 

どうしてアムロに言われればイライラとしないのに、彼女に、そして他の人に言われればイライラもするのだろうか?と。

そこで彼は一瞬考える時間を稼ぎ、一つ大きく深呼吸した。

 

「なに、怒っている訳では無い。ただ、君を心配して言っているのだよ。アムロ・レイは強力なニュータイプだ。彼の一言は、我々にとっては、千の意味を持っていたとしても何ら不思議ではない。」

 

実際シャアにとって、アムロ・レイという存在は神にも仏にも思えるものなのだろう。ある意味、ニュータイプ教の教祖がジオンであり、実際に降臨した神がアムロやララァと言った具合に…。そして、シャアは自らがその信者的体質を持っているとは露とも思っていない。

 

そう言われても、ハマーンは何時もの快活とした言動からして一変、何やらモジモジとしている。

恥じらいや、そう言った類いのそれだろう。そしてそんなハマーンを見て、シャアはふと…彼女の違いに気がついた。

 

「美容院に行ってきたのか?髪を少し切ったのだな、良く似合っているぞ?」

 

その一言を聞いて、ハマーンはパァァァと明るい表情を見せた。どうやら彼女が言ってほしかった事はそれのようだ。

セイラの面影を感じていたその髪型とは一転して、彼女の髪の毛は直毛という特性を生かし、ストレートにセミロングにしたらしい。

翻って、どちらかといえば若々しさを感じるのだ。

 

そして、シャアは改めて彼女の幼さを知りつつも、その姿に少しだけ…微笑ましさを覚えた。

そこからは他愛のない話が続いた。やれサイド3にいたときの昔話をしてくれだの、思い出話やアクシズとの違い等々。

ハマーンのシャアの知らないところを。

 

そして最後に一言、ハマーンは言った。

 

「アムロ・レイには、一言だけ言われたんです。大佐を…キャスバルを護って上げて欲しいって…。大佐、大佐は本当にキャスバル・ダイクンなんですか?」

 

「………、そうだと言ったら?」

 

ハマーンの純粋な質問に彼はそう答えると、空気がピシリと響くようなそんな冷めた感覚が広がる。

しかし、意を決してハマーンは彼に言った。

 

「なら、やっぱり誰かが貴方を支えないと。だって、可哀想なんだもの。」

 

「私が可哀想…?可哀想だと?何がどう可哀想なのか…。」

 

ハマーンは幼き頃母を失いそして数年前に姉を失った。そんな彼女は、シャアをキャスバルを自分と重ねていた。

それはアムロのたった一言、それだけでハマーンはシャアへの憧れというものを覆し、シャアの置かれている旅をひしひしと感じたからこその言葉だった。

 

それから会話が続いた。しかし、何時もと違うところがある。それは、ハマーンはきちんとシャアの瞳を見据えて会話を続けたという事実であった。

 

 

 

 

〜同日、グリニッジ標準時16時20分 サイド3〜6間宙域

 

トロイホースは、星々の海原を進んでいた。

係留されたサイド3から、久しぶりに出港した彼等は一路サイド6に向けて航行している。

そんなトロイホース中央格納庫デッキにおいて、一つの大きな物体が予備的に駆動を開始していた。

 

大きさは大凡ジムヘッド並みであるが、モビルスーツに搭載して使えない程でもない、確かにケーブルなど幾つかの部品を取り付ければガンダムℵに取り付ける事も可能だろう。

ただ、最大の問題はそれが一体何であろうか?と言うことであった。

 

簡易的に取り付けられたヘッドギア、カチューシャの様な見た目のそれを格納庫のそのスペースの中で一人、アムロそれを装着して簡易的に作られたコンピューター施設でそれを覗いている。

 

そこに映し出されている波形は、彼が何かをすると波の形が変わり、何かを考えると形を変える。

そしてかれは、それを自由自在に変化させると手元にあった飲み物をチューと吸い上げた。

 

「どう?進捗は、私は門外漢だからなんとも言えないんだけれど。」

 

クリスがふわりと近くに寄ると、そう声をかけて来た。アムロはそれを知っていたかのように振り向くと、難しそうな顔をしながら再びディスプレイをのぞき込んだ。

 

「僕もサイコミュと言うものに触ったことがないから何とも言えないですけど…、少なくとも連邦の作っているそれよりかは負担が少ないらしいですよ。」

 

そう言って彼は使用マニュアルを片手にいろいろと試していた。

 

サイココミュニケーター…略してサイコミュと呼ばれるそれは、ニュータイプの特殊な脳波を受信、増幅する事によりミノフスキー粒子下においての無線通信可能にするデバイスである。

 

本来予定されていた工程であるそれよりも早く、彼等はサイド3から其れ等を受け取り、艦内で試験的に動作させているのである。

それ故か、動作試験用の乗員を積み込む筈であったサイド6に到着するまでの間に、何とか取り扱い説明書を暗記しなければならないのだ。

 

整備員曰く

 

「俺達は学者でもなければ、脳科学者でもない」

 

と言うことで、ある程度の知識のあるアムロと、アレックス計画に参加していた経験もあるクリスも駆り出される事態であった。

 

「これ着けたら機体の追従性が上がる、って話だけど本当かしらね?」

 

「どうでしょうね、正直大きすぎてデッドウェイトにしかならないと思いますよ。着けるならもっと小型化して、例えばリニアシートに収まる程度の大きさじゃないと、割に合わない。」

 

アムロのその言葉に同意しつつ、やはり機材を弄り始めるアムロとは別に、クリスはガンダムℵのジョイント箇所に不具合が無いか等、整備員と共に機体各所を隅々まで調べている。

 

機体の部品の互換性があるとは言え、その箇所だけは特別製の機体である。

本格的に壊れた場合は、それこそオーガスタから部品を調達しなければならない。

 

本来であればサイド6で其れ等を調達し、帰る形でサイド3に寄ってサイコミュを受領し、地球へと戻る予定であったが順序が逆転したことに寄って、機体に無理が蓄積している。

無論、理論値での耐久性と経過後の摩耗の限界値を探る試験もしなければならない為決して無駄ではないが、しかし何が起こるかわからないところでのそれは緊張感が漂う。

 

ただ、アムロがそれなりにリラックスしていると言うことは、敵は近くにいないのだろう事を、周囲は何となく理解していた。

これは正直に言ってあまり宜しくないことである。実際、一人の人間にかなりの責任がかかってくる可能性も有り得る。

 

艦内がそんな状況に陥っているのではないか?と、ブライトは危惧していた。

実際、ア・バオア・クー攻略戦の前段階において、ホワイトベース隊の士気を維持する為に、アムロが嘘をついてまで言っていた事を、後日談で聞いたからこそ、彼はアムロに過度な負担が増え過ぎないように、シフトを若干ずらしているのだ。

 

アムロがいなくとも、せめて自分だけは彼と同じ様に周囲の負担を軽減する事が出来る唯一の存在だからだ。

ホワイトベースという伝説的な艦艇の艦長という、そんな立場を利用した運用だった。

 

 

〜3月28日 サイド6

 

数日間の航海を無事に終えて、トロイホースはサイド6リーアへと到着した。

歓迎のムードもなければ、出迎えの艦艇もない。

それは冷めているとも言えるし、本来の有るべき姿とも言える。

 

サイド3のような現地軍の将官が出迎えたりすることも無く、リーア防衛隊は連邦軍からの正式な書簡の下、粛々とトロイホースの入港手続きが進んでいく。

ただブライトにとって、ある意味あまり会いたくない相手が会いに来た。

 

「お久しぶりです。カムラン監察官」

 

会計監査局の局長、カムラン・ブルームである。彼はもう一人、自らの同僚である女性を引き連れて、トロイホースの艦橋に上がり込んでいた。

ブライトが艦橋内に入ってきたカムランに対して、敬礼しつつそう言うと、カムランは懐かしそうに周囲を見渡すも、ミライの姿を無意識に探してしまった。

 

「お久しぶりですね、ブライトキャプテン。お元気そうで何よりです、ミライ…奥さまはお元気で?」

 

「はい、と言ってもここ数ヶ月会えていません。彼女は今地球なので、最近2人目が産まれまして育児にかかりきりでした。」

 

何気ない会話であるが、2人はミライを挟んで所謂恋敵の関係である。尤も、ミライの本命は嘗てはもう一人いたのだが…既にその男は鬼籍である。

 

「しかし貴方が出てくるとは…、事態としてはかなり重いのですね。」

 

「それはそうでしょう。なにせ連邦軍の軍事機密を扱うのですから…それなりの信頼の無い人間には出来ません…。あ、そうだ紹介します。私の同僚の」

 

カムランが、言うや否や女性は一歩前に出てきて言った。

 

「タマキ・ユズリハです。よろしくお願いします。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。

我々としては、正直静かに速やかに事を済ませたいのですが…そうも行かない様で。」

 

監察官が2人も入ってきているのだから、トロイホースはかなり厳重に取り締められていると言ってもいい。

同じ連邦に所属するとしても、軍関係である。コロニー側も何をされるか分かったものではないという、そう言う考えもあるのだろう。

 

戦争が終わっても中立宣言が無くなった訳では無い、完全な独立下に無いとは言え、サイド6にも一定の自治政府がある。

ジオンの残党からの攻撃があれば、サイド6側として正式に表明することも出来るという。そう言う腹黒い政治的な駆け引きが見え隠している。

 

そして担当官である2人はそれを承知の上でここにいるだろうことも。

 

「ええ、ジオンがコロニー内で戦闘を行った事例は、やはり無視できませんから。くれぐれも…」

 

それは精一杯の威圧でもあった。

 

「それでは、短い間ですがよろしくお願いします。」

 

ブライトもそれは良く分かっていた。

 

艦橋から退室する2人、トロイホース内の廊下を無重力に従って進んでいく。 

 

「カムラン監察官、彼とはお知り合いで?」

 

「ええ、一年戦争で少し。ただ、悪い人ではないのは保証します。」

 

タマキ・ユズリハ、サイド6会計監査局外交3部の部長である。本来であれば三等書記官で、文書の作成が仕事の主だった仕事であるのだが、そんな彼女が出てこなければならない事態は、そう多くはない。

今回の件はそんな書記官の中でも、部長級の人間が出てこなければならない事態であると、上が判断したと言うことだろう。

 

つまりは、カムラン外交監察官というサイド6にしても上の人間、外務次官級とブライト等との明確な記録を言い渡されていると言うことだ。

それだけ、連邦軍に対する不満というものが、サイド6自治政府にはあった。

 

 




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