白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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ポケットの中
ポケットの中


 

〜0083年3月26日 サイド6 リボーコロニー

 

ジリリリリリ

 

ベルの音が鳴り響く。

とあるジュニアハイスクールの、とある教室の中央後ろ側の席、そこには真面目に授業を受ける、一人の少年の姿があった。

 

その少年は、癖のある髪を短く切りそろえただ黙々と授業を聴きながら、きちんとノートに文章を書き綴り、その終礼の音を聞いた他の生徒たちとは違い、黒板に書かれた其れ等の文章を一字一句書き続けた。

 

「おいアル、俺達先行くからなぁ!!」

 

彼の友人であろう太り気味の少年が、その少年の事をアルと呼んだ。そして、別の細身の少年達と一緒にバタバタと廊下を駆けていく…、彼等は恐らくノートを殆どとっていないだろう。

そもそも、ノートに文字の文体として書き写す人間は、この学校でもそうはいない。

何故ならば、其れ等のデータは既に別媒体として、取り込んであるのだから。

 

「うん、先行ってて。」

 

少年…アル。アルフレッド・イズルハは、そう言うと黒板に書かれた自らの名前と、そしてそこに隣り合うように書かれた名前、ドロレス・ヘイズに目をやり。

前の席に座るその名の少女が立ち上がるのを、少しだけ眺めた。

 

嘗ては馬鹿にしていたその少女の姿は、見違えるように大人びて来ていた。

正直に言えば、彼にとっての好みであろうその姿。昔、かなりの頻度でちょっかいをかけていたいたのは、どういう理由だったのか、知るのは彼だけだろう。

 

「アンタ書き終わった?なら、掃除当番始めるわよ。」

 

「そうだねロラ、俺は黒板消すよ。汚れると嫌だろう?」

 

そう言うと2人は、自らの席から離れてそれぞれに掃除を始める。自主的行動を重んじる、サイド6では全ての学校で生徒による掃除を義務付けていた。

それはその昔、とある島国の伝統的文化的なものであると言うが、当事者たちがそれを知っているかは別である。

 

大凡にして10分間、時間にしては短くもやっている人間としては、長くも感じる時間。

しかし、2人は黙々とそれを続けていた。

 

「アル……アンタ、今週末暇?」

 

ドロレスがアルに問いかけるように、掃除をしながら言うと、それを聞いたアルは、少し考える素振りをしながら答えを捻り出した。

 

「う〜ん、まあ暇かなぁ。なんで?」

 

ドロレスはアルがそういう事を分かっていた。なまじ小学校から同じクラスにいるのは伊達ではない、だいたいのこの男の性格は理解していたし、興味の無いことに対してはあまりにもむとんちゃくな事も織り込み済みだ。

 

「そそれはそのぉ…あれよ!週末に港の方に軍艦が入ってくるらしいから、見てみたいのよ!!」

 

嘘である。実際観に行きたいなど、露ほど思っていない。寧ろ、そんな物はどうでもいいのだ。

正直な話を言えばアルのことが、心配でしょうがないというところだろうか?

 

というのも、3年程前のニューイヤー。U.C.0080・1月。所謂学校の冬休みが終わってから、アルの学業に対する態度が急激に変わり、当時の彼女は、それを大いに心配したところからだった。

 

大好きな戦争の話や、モビルスーツの話に突っかかりもせず、同じくミリタリーが好きであった、チェイやオルコット、その他の男子たちから少し浮き始めたのだ。

あんなにも好きだった物事に、見向きもしない彼は、まるでそれから逃げ出そうとするかのように、そんな話題から自ら遠ざかっていた。

 

それは、ジュニアハイスクールに入ってからも変わることがなく、結果掃除を投げ出そうとすらしない。

そんな彼の姿に、流石に限界が来ていた。

そんな折に、不意に連邦軍がサイド6の報道に混ぜた、ペガサス改級強襲揚陸艦トロイホースが入港するという話、それを幸いと彼女は彼に言ったのだ。

 

「……、ペガサス級ならもうグレイファントムが常駐しているだろ?だいたい、そんなの見にいっても良いこと無いだろ。」

 

アルは決して、兵器や武器に対して興味が無くなっていた訳では無い。ただ、その方向性が他の子供達と決定的にズレていただけだった。

例えばそう……、その兵器が何のために造られどんな所に使われ、どれだけの犠牲が出たのかとか。

そういう人の生死に纏わる部分を深く、より深く求めるようになっていた。

 

そんな彼の事情を知る由もないドロレスは、彼女の言葉が発端となって、昔のような彼が目の前にいる事に少し嬉しく思うと、矢継ぎ早に次の言葉を言ったのだ。

 

「展示飛行でガンダムが見れるそうよ?しかも最新鋭の、連邦軍の機体が。少し期間置いちゃったみたいだけど、アンタ好きだったじゃない!」

 

確かにアルはモビルスーツ、しかもザクなどのそれは大好きだった。

ただ、漠然と戦う姿が格好良く見えるから好きなだけで、決して新しいから好きだとか、そういうものでは決してない。

 

そして今の彼にとって、モビルスーツの展示飛行と言うものは別に目を引くものではなかった…。

ただ一点を除いて。

 

ガンダム、そうガンダムだ。ガンダムと言うものは、彼にとって浅からぬ因縁のある存在だ。

もしガンダムがあの時、サイド6にいなかったらもしそれを追ってきたジオンがいなければもし…、自分がバーニィに出会わなければ。

もっと楽に生きていたかもしれない…。

 

だが、そんな現実はもうない。

 

ガンダムは、彼の心を大きく傷つける物を作り上げた。瓦礫になった建物、押しつぶされた人たち。そして…、死んでしまった彼の事を。

だから、ガンダムなんて見たくもなかった。

 

ただそう…、連邦軍が良く宣伝していたホワイトベース隊、そのガンダムのパイロットの事を知った時。

サイド6にいたその機体のパイロット…クリスの様な、優しい人なのか?だとか、どうして戦場になんて行ったのかとかそういう事が気にならないというのは嘘になる。

 

だけれども、果たして今近くに来ているガンダムは、どうなのか?

 

「パイロットにはね、アムロ・レイが乗っているんだって。大人たちが言ってたわよ、連邦軍の英雄なんでしょ?」

 

「……くよ」

 

アムロ・レイ…地球連邦が宣伝する英雄。ガンダムのパイロット。クリスとは違う、全くの他人。もし会うことが、その可能性が1ミリでもあるのなら、一度会ってみたいとそう思う事もあった。だからそう…彼の名前がアルを動かした。

 

「行くよ…、当日港に集合で良いか?」

 

それを聞いたドロレスは嬉しくて口をニンマリと、弧を描く。だが、決して彼女の思惑通りにアルが動いた訳では無い。

アルは自身の過去と向き合う為に、その人に会いたいと願って動き出しているのだから。

 

 

 

〜3月28日 サイド6・イズマコロニー

 

簡素な作りの部屋の中、リビングの白い壁紙と簡素な観葉植物。そして大きなリビングテーブルが中央に置かれ、窓の外には夜景の広がるマンションの一室。

 

シ〜ワシ〜ワシ〜ワシ〜ワ

 

と、加湿器が動いて部屋中に蒸気を充満させて、空調のよく効いた部屋の中の湿度を保つ。

リビングテーブルの直ぐ側に置かれた、人が一人寝そべるくらいに大きなソファに、少女が一人だらけるように寝そべっている。

 

恐らくは風呂上がりなのだろう、髪の毛の水分を取るためにしっかりと頭髪をタオルで巻いている。

そこから幾らか飛び出た髪が、しっとりと濡れていて光に反射し艶めく。

少女は寝そべりながら、手にタブレット端末を持ちチョコ菓子に手を伸ばす。

大きな部屋の中、たった一人でその空間を独占しているのだ。

 

彼女を邪魔する者はいない、そしてそんな彼女が俄にピクリと動きを止めた。

 

もうそろそろ帰ってくるかもしれない

 

そんな何時もの感覚が、彼女の脳裏を駆ける。だとしても、彼女がそれに対して何か行動を取ることはない。

何故ならば、これがいつもの光景でありこれそこが日常であるからだ。

 

次第に大きくなってくる気配に対して、頭の中でリズムを刻む。

 

5,4,3,2,1, ガチャ

 

彼女の刻んだリズムとともに、家の扉が開く音が聞こえる。そしてタタタと、薄っすらと歩く音が聞こえてくるのだ。

 

「ただいま〜、遅くなってごめんね〜。直〜ぐ夕飯作るから。」

 

「……う〜む、おたゃえり。大丈夫だよ、皆で食べて来たから。」

 

現れたのは、タマキ・ユズリハである。

そう、ソファで寝そべっている少女は彼女の娘であるのだ。父親はどうしたのか?と言えば、サイド6自治政府の外交官として、日夜仕事をしていて殆ど帰ってこない。

だから、この家にはタマキとその娘である少女しかいないのだ。

 

「ええ〜?!それ先に言いなさいって、何度も言ってるわよね?まったく…、どうしてそんな子になっちゃったのかしら?

……アマテ…聞いてる?」

 

「は〜い」

 

気怠げに返事をする少女の名はアマテと言うようだ。よく見れば、2人の髪色はそっくりでその瞳の形も色も、母親譲りだと言うのが良くわかる。

しかし、一児の母が仕事で遅くなるのはあまり良い傾向ではない。

 

ただ、アマテはそんなタマキの仕事の事を理解していて、仕方の無いことだと納得もしている。

ただ、親に対して言うことではないが、アマテにして思えばタマキは勘が鈍いのだなぁと、そういうところである。

 

「もお〜……、お母さんここ1週間遅くなると思うから、ご飯作っておくからチンして食べてよ?」

 

「ん??遅くなるの?あぁ、例のアレね。地球連邦軍の精鋭だとか、英雄さんが展示飛行するって話の。

学校でも噂になってた。それ関連でしょ?」

 

しっかりと疑問に思った事を聞く、良く躾けられている。きっと素直な子に育って欲しいと、そういう思いで今まで育ててきた、そんな教育方針の賜物だろう。

 

「それはノーコメント、お母さん仕事のことあまり喋れ無いの知ってるでしょ?」

 

「ふ〜んわかったよ。ま、私たちも観に行くからすぁ〜」

 

と言って口に再びチョコ菓子を入れると、ゆっくりと味わうように、ビスケット部分をポリポリと食べていく。

最後に持ち手がなくなり、もう1本と言ったところで、手が伸びてきて箱の中から1本が消えていく……。

 

「なにぃ?アンタああ言うの好きだっけ?お母さんにも頂戴、コレを好きなのよねぇ。」

 

僅かにだが指が触れる、当たり前のように、彼女のおやつがタマキの手中へと収まっていく…。

その様子を見ながら、自らの母親の仕事の何たるかを何となく理解した。

 

それと同時に、この退屈な日々を紛らわせるスパイスが向こう側からやってきてくれたという、そんな淡い期待を胸に秘めた。

 

「好きじゃないけどさぁ、学校の先生が観といて損はないってさ。」

 

半分は嘘である。教師が言ったのは、そういう事があると言っただけだ。

決して、何処の誰がどう言う感じでどうしてここにやってきた、なんてことは口にしていない。

サイド6の広報部の仕事であるから、タマキにも流石に内容はわからない。部署の縦割りだ。

 

「気をつけなさいよ…、アレって良いものじゃないから。」

 

アマテに言う言葉には少しトゲがあった。タマキにとっての連邦軍は、横暴の塊である。

それがそういう事をするということこそ、完全にプロパガンダ戦である事は言うまでもない。

 

外を知らない若い世代に、そういう事を見せて連邦の力を示そうとするのだろう。それに自分の子供が巻き込まれるのが、非常に不快だった。

それだけに、タマキによる連邦の組織評価は高いものではない。

 

ただ……、トロイホースのクルーの個人的評価だけは、悪いものではなかった。

 

心配しすぎるのもアレか…アマテ〜、あんまりお菓子ばっかり食べてると、太るわよ〜」

 

「……成長期だから〜!!」

 

と、そう言いながらアマテはもう一袋開けようとしていた手を止め、露骨に其れ等をしまうのだった。

 

 

 

 

〜サイド6 パルダコロニー 連邦軍駐留ドック

 

トロイホースは繋留され、そこへと幾つかの備品が入れられていく…。その列は決してパレードのそれではない、必需品の補給とろ過装置等の点検器具も多い。

そんな中に紛れるように、まったく事情の異なったコンテナがシャッターの奥から運ばれてくる。

 

外装に備え付けられるナンバーは、ℵ01。

あからさまに、ℵの文字が輝きその備品が何のための装置であるのか、一目でわかる。

そんなザルなものでいいのかと、そう思うものもいるだろう。それは当然だ。最重要の物は、目に見えないようにするのが常識。

 

しかし、敵などどこにいる?それは連邦の驕りであった。

 

連邦軍の公式見解としては、決して最重要の機密ではなく、寧ろ其れ等を堂々と出す事によって、地球連邦軍の意図を示し、コロニーに対する抑止力とする。

プロパガンダにはもってこいの人材というものは、こう言う行為に役に立つのだろう。

 

そんな思惑を知ってか知らずか、アムロやクリスは自らの機体の総点検をしながら、其れ等が運ばれてくるのを見守っていた。

 

「まったく…、面倒臭いですね。デモ飛行なんて、僕らの仕事なんですかね。」

 

「まあアムロ君は有名人だから、しょうがないと言えばしょうがないわよ。私達はとばっちりを受けてるんだから、一蓮托生よ?」

 

そう言って笑いながら作業を続ける。

あいも変わらず、ガンダムℵの外装のトリコロールカラーはよく目立っている。

宇宙空間で着いた汚れも、綺麗に拭き取られたその姿はロールアウトの時のままである。

 

外装に一切の歪みなく、機体のコンディションは最高であった。

 

「何も……なければ良いんですけどね…。」

 

アムロのその言葉だけが…宙に消えて行った。

 

宇宙は泣いているように、静かにコロニーをつつんでいた。

 

 

 




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