白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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惑い

〜0083 3月29日 リボーコロニー

 

午前5時

 

ドンッ!!

 

薄暗い小部屋、小さなコンピューターがブラウン管の光を発して周囲を照らす。

幾つもの本、そして雪崩を打って崩れたようなプリントの山、その中心にある椅子に座る、初老のタキシードの男は拳を強く握りしめ、机へと叩きつけた。

 

その男の手に握られていたものは、たった1枚の書類。男は忌々しげにその内容を改めて目を通し、そして怒りに身体を震わせた。

 

「今更……、こんな物を送りつけて来たか…。」

 

息を荒げるも、男は怒鳴り声を上げるようなことはせず、ただ淡々と己を納得させる為に言葉を紡いだ。

いや、それしか出来ないのだろう。声を荒げれば、薄い壁を通して、外に声が漏れてしまう。

男はそうやって怒りを抑えるしかなかったのだ。

 

男の手に握りしめられているその紙にはこう記されている。

 

来る4月2日

我が総力を持って

敵モビルスーツ

並びに敵母艦に対して

総攻撃を実施せんとす

方々に散らばる同志達よ

我とともに作戦に身を投じ

華々しく戦果をあげられん

 

要するに自殺に協力し、一緒に死のうという意味である。

と、男は直ぐにこの言葉の意味をそう解釈した。

マトモな軍人であるならば、今更こんな状況になってまで戦争を継続しても、連邦に良いように言われるだけでよりジオンの肩身を狭くするばかりである。

 

男は胸ポケットから煙草を取り出すとそれを口に咥え、そして少しの間そうして考えて、火をつけずに灰皿へとそれを崩した。

亡き友が彼と話す時も、そうしていたようにイライラとした時、彼はそうして心を落ち着かせる。

 

どうする?放置すれば、民間人にいらぬ犠牲が出るかもしれない?しかし、コレを通報すれば自分はジオン軍人として、スパイとして情報を吐かす為の、様々な拷問が待っているかもしれない。

そうなれば、このサイド6に身を寄せている。数百とも数千とも分からぬ、多くの同胞達に迷惑をかけることは確実だろう。

戦闘が始まれば、恐らくは大規模にはならない。

 

出来たとして、犠牲者の数は行っても数百…多く見積もっても、コロニーが崩壊するような事にはならないはずだ。

見知らぬ人々か、それとも嘗て鞍を並べた輩か?

男は迷う、今更こんな物を送りつけたものに対して嫌らしく思う。

 

「私に選べと、これが報いか…。」

 

だが、迷えば迷う分だけ時間だけがただ過ぎていくのだ…。

 

 

 

〜同日 サイド6 とあるコロニー

 

暗がりの中に幾人かの人影があった。

その姿は単なる工員や、土木作業員、清掃員のそんな肉体労働者の姿に見えなくもない。

一人は髭面で、一番背が高く何よりガッシリとしていて

 

一人は作業服に身を包んでいる。意外なほどにスラッとした体型をしていて、帽子を被っていて顔が見えないが、その肉付きは起伏がハッキリとしている。

 

清掃服はスポーツマンの様な筋肉の付き方をしていた。

 

ただ、全員が一様に何かを目の前にして声を殺しながらも会話をしているのが異様であった。

 

「じゃあなんだ…?プリチオ、お前は行くって言うのかよ、今更こんな事に命なんてかけたくないぜ?」

 

清掃服の一人がそう言うと、反論するように作業服の者が返した。

 

「だけど、見殺しにはできないだろ?だいたいフィリッポ、お前だってここに来た頃は、死にたいだの何だの言ってたじゃねぇか!!」

 

2人は喧嘩を始めた。顔が全く同じに見えるこの2人は、取っ組み合い互いにもみくちゃになりながら、互いの顔を殴ろうとする。ただ、やはり清掃員のフィリッポの方が筋肉のつき方のおかげか、善戦している。

 

「やめないか!!こんなところで争って何になる。」

 

一番大きな男が、2人に割って入る。

 

「おうおう、ジョバンニ。じゃあお前はどうなんだ…?え?優等生さんよ!」

 

ジョバンニと呼ばれた髭面の男、その男が仲裁するとプリチオが、彼に聞いた。

3人の直ぐ側にはやはり1枚の紙切れがあった…。その紙切れには、やはり30日の作戦を決起を呼びかける文言があるのだ。

だが、どれだけの人数がコレを見ているだろうか?それは、連邦ですら把握できていない。

 

「俺も正直行きたくない…、ただ見捨てたくないという心もある。だがな、行きたくない人間を無理を言わして連れて行くのには、大いに反対だ!

フィリッポには理由があるんだろう…、なあ?」

 

その目は真っすぐだった。彼の言う言葉に対して、フィリッポは、声を小さくして言った。

 

「俺は……俺は死ねない、女がいるんだよ!俺の俺の子供をお腹に宿した、そんな彼女を置いて俺は往きたくない!!」

 

切実だった、そしてそれは事実であった。だからこそ、彼は死にたくないのだと、そういうのだ。

 

「死ぬのが怖いって…?そういう事かよ、てめぇ…よくもまあぬけぬけと恥っていうのがねえのかよ!!」

 

その言葉の何に頭にきたのだろうか、プリチオは反論する。

言い争いをする彼等であるが、彼等の素性を語るには少し時を戻す必要がある。

 

 

 

時は宇宙世紀0079年12月31日

 

ア・バオア・クー、Nフィールド防衛ライン。

 

彼等は小隊を組んでいた。

所謂ジョバンニを小隊長に、プリチオとフィリッポを率いたモビルスーツ小隊。

 

地球連邦軍が物量を持ってしてNフィールドの真正面から、猛烈な攻撃を続ける中、彼等の部隊もまたそれに対する反撃を行なっていたのだ。

 

元来の艦隊からの指示のもと、空母ドロスから発進した彼等は、必死に戦った。

 

幸いな事に、彼等の小隊は新編されたものでありジョバンニにはゲルググを、他2人にはリックドムが支給され、襲い来るジムの波に猛然と立ち向かったのだ。

 

連邦軍による圧倒的な物量、しかし幸いな事に、この時のNフィールドにあった連邦艦隊の練度は、連邦軍内で言えば相対的に低い者たちで固められていたのだ。

 

この時の連邦軍の攻勢は、緻密に計算されたものであり、決して行き当たりばったりの特攻ではない。

 

これはギレン・ザビですら欺かれた、連邦軍の華麗なる策謀である。

Nフィールドを物量のある練度の低い艦隊で、ジオン軍の主力を釘付けし、Eフィールドへと搦手として小規模な艦隊を派遣する。

 

そして、主攻勢方面はSフィールド。

 

連邦軍の主力は物量ではない、新編された部隊でもない。最精鋭の部隊たち。

それを一局の場所に集中的に突入する事によって、敵の防御網を食い破る事にある。

 

ギレンはこれに気がつくこともなく、Nフィールドにドロスを中心に置いた部隊を配置、Sフィールドの部隊を軽視した。

ギレンは決して軍人ではない、軍政家である。もし、ドズルがいたのであれば、コレを見事に看破したことだろう。

 

つまりは、ジョバンニの部隊は烏合の衆犇めく連邦の部隊を相手にしながら、ジリジリと後退していった果てに、いつの間にかア・バオア・クーは陥落していた。

というのが、彼等の運命を決める最初の一歩だった。

 

ア・バオア・クーの陥落時、各々の判断の元散り散りになっていくジオン残存艦隊は、一部はアクシズへと針路を取り、一部はデラーズ少将と共に戦線を離脱し、一部は殿を担当した。

そして更にその中で、どれとも取らない行動をする者たちがいた。

 

そのうちの一つが、このジョバンニの小隊である。

彼等は目敏かった、そして何より姑息だった。要塞を背に、破壊された様々な機体のバックパックの中から使用可能な推進剤と酸素ををしこたま掻き集め、三人はそれを元に自らを死体に偽装した。

 

その後、推進剤をと慣性を利用してサイド6の宙域に逃げ延びたのだ。

この当時、拡散していくミノフスキー粒子の影響は、非戦闘宙域でも凄まじく、地球圏一帯はミノフスキー粒子の雲の中とでも言える状態である。

 

勿論彼等の機体はスペースデブリの様に映っていた事だろう。

まんまと逃げおおせたからこそ、彼等は今こうして取っ組み合いをしていたのだ。

 

 

時は戻り現代

 

2人を仲裁するジョバンニは、互いの腕を取り関節技を決めていた。

 

「落ち着けプリチオ、熱くなったところで我々の現状は変わらない。所詮はジオン崩れだ…、戦っても無駄死になるだろう。相打ちすら難しいかも知れない。」

 

彼は非常に冷静だった、誰よりも条文の中身を理解していた。

 

「やってみなきゃわかんねぇだろうが、俺達はあのア・バオア・クーを生き延びたんだぞ!!」

 

それは過信か、それとも己を奮い立たせる為の方便か?然れども、彼らは知らない。

あの当時のNフィールドの連邦軍等、彼等が相手をしようとしているトロイホースと比べれば、カスだと言うことを。

 

それは幸運な事だ…。無知とは時に、心を救うことがある。

だが今は違う。それが変な自信を生んでいるのだと。

 

「何と言われようとも、俺は行かないからな!!良いか…?良いな!!」

 

フィリッポは渾身の力を振り絞って、ジョバンニの拘束を解くと駆け出した。2人を置き去りにして、彼等に目を合わせようともしない。

プリチオはその後を追おうとしたが、直ぐにジョバンニがそれを止める。

 

「姉弟がうらやましいと思っていたが、コレは悲劇かな…。まあ…祝福してやれば良い、それが姉弟ってものなんだろう?」

 

苦虫を噛み潰したような顔をするプリチオは、ジョバンニを見あげたその瞳は、男のそれよりも遥かに長い睫毛が整えられ、悔しそうにしている。

 

「祝福か…、私はどうせ子供を産めない身体なんだ…。お前が一番よく……わかってるだろう?

だから、もうこんな惨めな思いは嫌なんだ。」

 

それが彼女の本音であった。

ジョバンニはそんな彼女の言葉に何を思うか、少し目を閉じ考えた挙句、一つの結論を出した。

 

「プリチオ伍長!!ジョバンニ・アウストラ少尉より貴官への命令!3月30日より行われる秘匿作戦への参加し、敵モビルスーツ並びに母艦を撃沈せよ!!」

 

「ハッ!謹んでお受けします!」

 

それは2人の最後の共同作業となるだろう。だが、それでも2人は何故か満足していた。

互いを想うのならばと、それが彼らなりの愛というものだった。

 

 

 

〜0083年3月30日

 

街なかを走る車、道行く道を人々がゾロゾロと歩いていく、そんな中を子供達が何の考えもなしに走り、何かを落としたのだろう車道へと足を踏み出そうとした時…。

 

誰かの手が、その子供の首根っこを捕まえて歩道へと戻した途端に、一瞬遅れて車がそこ横切る。

もしも止められていなければ、子供はきっと撥ねられていた事だろう。

 

「おい、お前らもっとちゃんと前見て遊べよ?」

 

はぁ〜い

 

という無邪気な声を出しながら、子どもたちは何処へとも走っていく。

子どもの命を救った人=アルは、ため息を吐きながらとぼとぼと歩いている。内心感謝を求めたいところを、ぐっと抑えていたのだ。当然のことをしただけと。

 

ただ、そんな姿を見ていても時折思い出す。

もしもあの時、自分が加担したあの暴挙の中で、あの子達が巻き込まれていた可能性だってあるという事を。

そう思うと、彼は動悸と目眩が襲ってくる。

 

バーニィ…、僕はまだ思い出す。あの12月の出来事を…忘れることなんて出来ない。

深く、深く、深く、心に刻みつけられたその罪過が、彼の目の前を暗い帳となり、世界をセピアに落とすのだ。

 

学校帰りのそんな日常の中でも彼は、苦悩を積もらせる…、そんないつもの日々。

 

そろそろ家に着く頃だろう、毎日見慣れた家並みの中に、ふと…1台のオープンカーが止まっているのが見えた。

誰だろうか?そう思っている彼は、見慣れたような長い髪を流す女性の顔を見て、誰であるか思い出す。

 

ポツ…ポツポツポツ

 

コロニーは、雨天モードへと移行し街中に雨を降らせる。

女性が慌てて荷物を、アルの家の隣の民家に運んでいるが、数が多いのだろう次第に濡れていく。

 

「コレ!家に運んでおけば良いんでしょ。」

 

「お願い、濡れちゃうと大変だから……ん??」

 

アルは自然とそれに近付き、そう言葉を発していた。

女性は背を向けて、その声に条件反射的に返しているが、何かを一瞬思ったのか、振り向いた。

 

「もしかして……アル?アルでしょ!!」

 

「久しぶりだねクリス、でも急がないと荷物濡れちゃうでしょ。」

 

アルが、クリスにそう諭すとクリスはハッとして荷物を再び家へと運び始めるのだった。

 

暫くして荷物を一通り家に運び入れた2人は、雨に濡れてぐっしょりとした服を着ながら、クリスの実家マッケンジー家の中にいた。

 

「風邪引いちゃうから、シャワー浴びていったら?」

 

「いいよ!!恥ずかしいし、僕はもうジュニアハイスクールだよ?全く…いつまでもガキじゃないって、はっ、ハクシュン!」

 

言わん凝っちゃないという顔をするクリスに、アルは鼻水を拭きながら、それでも嫌なようである。

 

「もう…強情ねぇ。着替えなら……、ほらっじゃ~ん。これ、地球からのお土産。軽くて嵩張らないのはこれしか無かったけど、タイミング良かったわぁ〜。」

 

と自画自賛している彼女の手には、服とズボンがある。

どちらも紳士用の様であるが、果たしてどうやって採寸したのか?……まさか、男でもいるのだろうか?

と勘繰ってみるも、強引に其れ等を手渡されシャワールームへと押し入れられた。

 

その後、アルが出たあとクリスも入り、2人ともさっぱりとしていたが、ふとアルは彼女に聞かなければならない事を思い出していた。

 

「クリス…あのさぁ。どうして帰ってきたの?」

 

アルは率直に聞いた。クリスの前では、昔のアルのようなそんな接し方を出来る。ただ…、その疑問は大きかった。

 

「なに?私が実家に帰ってくるのは行けないの!?……なぁんて、冗談よ。

別に帰ってきた訳じゃないわ。そうねぇ取り合えず家から通える距離に、職場が有るからってだけね。

尤も2週間くらいしかいられないけども。」

 

その話を聞いて、アルはクリスを目の前にして目を大きく見開いた。

アルが思っていることはこうだ。

この前までいなかった人が、連邦軍のトロイホースが入港して直ぐに、家に戻ってきた。

 

コレは、あの戦いの時と同じ。

全く同じなのだから、笑える要素がない。

つまりはそう…また今回もなのだ。つまりは彼女がガンダムのパイロットなのかもしれないと…勝手に解釈したのだ。

 

フラッシュバックするのは、あの日の光景…バーニィが乗ったザクのコックピットがビームサーベルで焼かれ、仰向けに倒れている。

対するガンダムのコックピットから、クリスが救出される…その姿。

 

「もしも、もしも〜し。もお、アルったら自分から聞いたくせに何ぼ〜っとしてるのよ。」

 

「あっ…ああごめん。クリス。クリスはさ、連邦軍の軍人…なんだよね。」

 

アルは何を思っているのだろうか、クリスに質問した。こみ上げてくる物を抑えるには、これしか無いとそう思っていたからだ。

 

「じゃあさ、戦争で色んな事を見てきたんだよね…、相手を殺したりとかさ…。苦しくないの?」

 

アルのその言葉に、クリスは真剣な顔をする。険しい表情をする彼女は、嘗て無邪気に話をしていた彼とは、明らかに違う事を確信しつつ、機密に触れない程度に答えた。

 

「勿論、相手に手をかけたことはあるわ。勿論苦しい。でもね、色んな正論とかあるかもしれないけれど、皆言い訳になっちゃう。そりゃそうよね、戦争に良い事なんてない。話し合いで解決出来ればそれでいいの、でも世の中そんなに甘くない。

誰かが必ず、誰かを護るために手を汚さなくちゃいけない…。今のアルなら、良く…わかるんじゃない?」

 

諭すように言う彼女の瞳を覗きながら、アルはその瞳の奥にある真実を見通そうとして……、不意に目を逸らした。

自分のほうがより疚しいことが有るのだと、そう己に言い聞かせて…。

 

その葛藤する彼の姿を見て、クリスは自分への隠し事はとても大きなことではないか?と感づいた、しかし無闇に聞こうとはしなかった…。何故だろうか、聞きたくないようなそんな気がしたからだった。

 

 

〜同日

 

アマテは家の近所を歩きながら、その手に持っている端末にアクセスし、週末の日程を見ながらため息を吐いた。

4月2日、学校の始業式が始まる前と言うタイミングで、イベントが起きる。

それもかなり大きなイベントが。

 

その日、友人からの誘いで行かなければならないのだと、ただ非日常的な出来事であるが故に、内心ワクワクしていたがどうも嫌な予感が拭い切れずにいた。

 

論理的な思考と直感で言い表すのなら、アマテのそれは正に直感の類いであり、論理的な構築は殆ど意味を成さない。

ただ、漠然とした不安が過ぎる中に、ふと…いつの間にか家を出て近くの公園に来ていた。

 

なぜ公園に来たのだろうか?良く分からなかったが、ここに来ればきっと素敵な出会いがあるのでは?と言う、そんな導きに遭ったような、そんな感じがした。

 

ブランコに滑り台……そして砂場、地球の極東にあるという日本列島と言う地域によくあるのだと言うそれらの遊具。

しかし、誰も使っていない中で妙な男性が、公園のベンチに腰を掛けていた。

 

天然パーマに、ジャケット姿の固い印象を持つ男性…。背はそれ程高くなく、年齢もアマテとそれ程違わないように思えた。

その男を目にした瞬間、何かが波打って彼女の中にあった違和感は確信へと変わる。

 

この人は……、普通じゃないと。

 

 




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