〜0083 3月29日 イズマ・コロニー
チチチと、小鳥のさえずりが静かに沈みながら、周囲へと拡散し、それに連動して他の鳥たちが声を上げる。
中空管の中に浮かぶ雲、その中心を突き抜ける天井の街並み。
そんな街の1角、小さな公園の中の腰掛け用のベンチ、そこに1人アムロはただ俯き気味に座っていた。
彼がここにいる大きな理由など、存在はしない。
ただ、それがあるとするならば、気分転換。ただその一言に尽きた。
サイド3での一件以来、様々なコロニー・サイドに多くの反連邦を掲げる者たちがいるという、そんな実態をまざまざと見せつけられた。
それだけでなく、今のジオンの置かれている状況と、其れ等を吟味した結果、セイラ=アルテイシアに利するものがあるだろうか?という、そんな思考を彼は続けていたが、
フッ
と笑うと呟いた。
「柄じゃない事やってるなぁ。」
政治運動だとか、そういうものにアムロ自身興味はさほど無い。けれど、セイラが絡むとどうしてもそういう方向を考えなければならないという、そういう連鎖があった。
愛していない訳では無い、しかしそういう側面が無いとは言えない。彼の彼女に対する想いとは、複雑なものだった。
「ねぇ、何してるの?こんなところで。」
そんな時彼を指して声が聞こえた。まだまだ幼さの残るその言葉は、彼の耳を通して何のためにここに来たのかと、ただ純粋に問いているのだと、そう理解した。
「仕事さ…。どうしょうもなく、自分だけでは無理なそんな仕事だよ。」
その純粋な言葉に安易に真実を言う。彼が何者であるのか知らない人間がコレを聞けば、この男は何を言っているのかと、頭を抱える事だろう。
だが、その声の主はそれに妙に納得したようだ。
「ふぅん……。ねえ、お兄さんは連邦軍の人なんだよね。」
「そうだよ?そういう君は、この辺に住んでいる子だね。僕の顔を見ても、どうも思わないのかい?」
互いに互いの出自を話した訳でもなく、しかし互いのそれを何となく理解し、汎ゆる言語を圧縮していく。
その話は連続性なく、しかしより深く互いを知るのだ。
「別に?連邦軍の強い人なんだって、それだけだよ。ただね…なんていうか」
「苦しそうに見えるかい?そうだろうな、実際苦しい事もある。でもね、その苦しみはきっと産みの苦しみなんだ。
だから、我慢してみせる。」
そういう彼は苦笑いをしながら上を見上げ、それにつられて彼女も上を向く。天井は住宅街が広がる大きな空。
しかし彼はその先を見据えたように、彼女の好奇の目がその見つめる先に何があるのかというのを知る。
「行ってみたいのかい?」
「私さ、産まれてから一度も
純粋な興味の果ては、単なる夢かそれとも理想か?
少なくとも、アムロにとってそれは失われた自分自身の未来と、重なっているように思えた。
「理想ってのはさ、見てる時が一番輝いているものなんだ。だからまあ、行ったら幻滅すると思うよ?
ただまあ、見るだけならご両親に相談してみると言い。
君のお母さんなら、案外ワガママを言えば叶えてくれると思うんだけどね?」
と、アムロはトロイホースにやってきていた、一人の監察官の姿を思い出す。
十中八九このコの母親だろう彼女は、子供のためならと一生懸命に働いている。
勿論、仕事が楽しいと言う面もあるだろうが、何よりも子供に楽をさせてあげたいという、そんな純粋な気持ちなのだ。
だから、親と子の案外不器用な部分をアムロは指摘した。
「本当?あんまり家だとそんな顔見せないけど…」
「自慢の娘なんだろう……さて、そろそろ行くかな?」
ベンチから立ち上がると、彼は一つの方向に向かって歩き出す。
「何処行くのって…。」
急いで彼女は彼の後ろに張り付いていく、その姿は歳の少し離れた兄妹に見えなくもない。
アムロの童顔も手伝って、怪しいことは無いだろう。
「お墓さ……、このコロニーは僕の故郷に何処となく似せて作られているんだ。だからまぁ、少しでもと思ったんだ。」
彼の歩く方に向けて静かについていく、歩いていくのだろうか?しかし、公園の直ぐ近くにはエレカが停めてあって、彼がそれに乗ってきたのだと、そういう事が一目で分かった。
マチュは少し興奮してきていた。身も知らぬ男と一緒に、ドライブをしに行くのだ……。
字面から見れば、なんてことはない事案だろうが、それは立派な未成年者の誘拐である。
彼が車に乗るのを見て、彼女がそれに合わせて自然と助手席に乗るも、何のぎこちなさもないその姿に、ただ助けられているだけなのだ。
普通であれば、この様事は滅多に起きる様な事でもない。にも関わらず起こっているのは、偏に彼女もまた普通ではないのだろう。
「俺の生まれ故郷は、地球の北緯35度前後東経132度で辺りの島でね、まあ君に分かりやすく言うなら、日本という地の山陰と呼ばれる場所なんだ。
このコロニー、イズマの第一世代の出身地は、殆どがそこ。日本からの移民だ。だから、ルーツとして見れば一応家族ではあるわけだ。」
運転しながら彼は、自分とこのコロニーの関係を話していく…。果たしてそれは真か?嘘か?
少なくとも、アマテにとっては真なのだろう。理由なき自身によって、彼を心から信頼していた。
「へぇ…案外身近なんだね、あっ…」
暫く乗っていると見覚えのある人影がある事に気が付き、ヤバいと直感が告げていた。
この姿を見られれば、彼女が何か如何わしい事でもやっているのでは?という、そんな噂が流れるだろう。
どうしようか?
修羅場というものを知らない彼女は、こう言う事に対するアドリブがまだ弱かった。
「堂々としていれば大抵のことは何とかなるよ?」
だとしても、気まずいのに変わりはない。顔を隠して、その場をやり過ごす。
それを横目に、アムロは微笑ましく思いながら、車は郊外へと出ていき…、集団墓地へと至る。
エレカを降りて、目的である墓地に着けば、そこは霊園とは名ばかりに。人の名前が刻まれた墓石もなければ、十字架すらない。
あるのは、液晶が備え付けられた画面のある、陳腐なモニターだけである。
そこに供え物等何一つ持ってきていない彼は、幾つかの文言を入力するとそれだけで満足していた。
「お墓参りなんてやらないから知らなかったけど…こんなに味気ないの?」
「地球なら土葬とか、火葬とかそういう物をやって人の痕跡がわかるけれど、ココはコロニーだ。そんな土地何処にある?
最後の手続きはココじゃないと出来ないらしいからね、ココのコロニーは親父の故郷に似てるから。」
コロニーでの死体の処理はどうなるのか?
腐敗した場合有毒なガスが発生する為、殆どの場合は火葬となる。そして、墓という概念に対して、土地の面積はそれほど広くないために、特にイズマの様な商業特化のコロニーは、余程の事がない限り、遺体はリサイクルされる。
だから、遺骨など残ってなどいない。
墓石を前にして彼は俯く。
「階段から落ちたんだってさ…、呆気ないものだよな…。コロニーの外に吸い出されても生きていたのに、そんな事で死ぬなんて…。
でもね、内心思うんだ。死んでくれて良かったって。」
「そんなに悪かったの?」
彼女は聞き返す。そして彼を見る。
英雄なんて呼ばれているけれど、そこにいる彼はきちんと息をしていて、過去に苦しんでいるのだと。
彼が彼女の質問に答えることはなかった。
それから、2人は終始無言で帰りそして別れた。
そして、アマテは家に帰り母の帰りを待ってから、大きな声で言うのだ。
「お母さん、私地球に行ってみたい!!」
精一杯のワガママを、親への甘えを…。それこそが限りある時間の中で、今自分が成すべき使命であると。
一方のアムロは港へと到着すると、すぐさまコロニー間移動用のシャトルに乗って、軍港の方へと向う。
自分が尾行を一度巻いて、彼女に合っていた事を他の乗客は知らない。
今頃、追跡者はパニックに陥っている事だろう。
「ああ言う子がいる事が救いか…。」
アムロは少し笑った。
〜0083年 4月1日 リボーコロニー
エイプリルフールという古い文化は、世界を席巻しこの世界のこ日にもそれはやってきた。
ただ、その冗談は決して人の不幸を下して良いものではない、という条件の中で行われなければならない。
従って例えばそう…死んだ誰かがここに来た、なんて言ってはならないのだ。
ただそう言った節度を守らない人間も中にはいるわけで…、喫茶店の中で暴力沙汰が発生していた。
ちょうどその時、クリスはその喫茶店にいて一人の友人と合っていた。
取っ組み合いの殴り合い、そんな姿を見かねたクリスがそれに介入した。
「あなたたち、迷惑だから余所でやってくれない?」
腕っぷしは男等よりも強い、それがこのクリスチーナである。決して筋肉質に見えないが、その威圧感は誰よりも強かっただろう。
それを友人である、ボブヘッドの女性がおっとりとした目をしながら眺め、喧嘩を止めさせたクリスを見てフフと、不敵に笑った。
「相変わらず強いのね、流石は首席。」
「昔の話よ、でも…貴女も相変わらず変わらないわね…。その髪型にその態度。でも……本当に結婚しているとは思わなかった。連絡してくれれば良いのに。」
温和そうな女性はその言葉にニコッとしながら、コーヒカップに口をつけた。
「相変わらず軍にいるの、良い人でもいないの?」
と言って、薬指を見せてくるのはクリスに対する嫌味だろう。その行動を、いちいち突っ込みきれないと思っていたクリスは、ため息をつきながらその姿を眺める。
「お子さんもいるのよね。でも、こうして生きていることが分かるだけで、良い気分よ?同期も…大勢行ってしまったから。」
2人は連邦軍の同期の士官候補生であった。互いに女性と言うこともあり、切磋琢磨した間柄である。
その後クリスは戦技研へ、この女性はそのままパイロットへとそう言った方向に進み疎遠になっていた。
「あの頃は怖かったわ…、いつ誰が何処で亡くなったとか…そんな報告が上がる度に、謝ってた。ごめんって。」
「でも、それが私たちの仕事よ?しょうがないじゃない?時間稼ぎに、被害を抑えよ。遅滞戦闘の援護をと…、皆帰らなかった。でもこうして会えてるんだから良いじゃない?」
前線と後方に別れて、互いに違う目線を持って戦場を見た2人は、この日再び相まみえることを感謝した。
「ここに来てるってことは、あの話は本当なのね。ねぇ…、アムロ・レイってどんな子?」
「どんなって…、まあ年相応の子よ?でも色々背負ってる、たぶん私なんかよりも、ずっと重いものを。だから、余計に大人びて見えるけど。
まだ引きずってるの?今更、ジオンを憎んだって仕方ないわよ?」
クリスは目の前にいる彼女の瞳が、まったく別の何かを見ているように思えた。その先にある者は、果たしてなんだろうか?
「今更?貴女だって同じでしょ?受け入れられるものと、受け入れられないものがある。アレだけ殺しておいて、どうして能天気に生きていられるんだって…!!
結婚して、子供もいるけど忘れることなんて出来ないわ。」
戦争に囚われている。それは、戦場に出た多くの人々が抱える心の病だ。
クリスも勿論、僅かにだが残っている。ジオンが戦争をしなければ、あんなに多くの人々が犠牲にならずに済んだのにと、何より重税を敷かれていたとしても、それはコロニーの維持費が必要だからだ。仕方のない犠牲なのだと、割り切れる範囲だ。
なぜそれを、ジオンが出来なかったのか…?
それを考えればキリがない。
ただ、ジオンとサイド6の違いを挙げれば、自ずとその答えが見えてくる。
サイド3は3番目のコロニー郡だ。
初期型のコロニーが大半で、連邦の宇宙移民計画の初期も初期の人間が多く住んでいた。
そしてその多くが、低所得者層もしくは貧困層だった。
中流が比較的多く貧困層が少ないサイド6とは理由が違う。
更に立地も悪かった。月の裏柄、つまり1年を通して地球が殆ど見えず、初期型のコロニーで密閉型を採用している為に、外界も見えない。
そんな閉ざされた世界にいれば、人も段々と変わってくるのだろうと。今にならなければ分からないことだ。
「正義の怒りをぶつけろ、良く言ったものね。」
多くの人々を失った連邦のプロパガンダ。ありと汎ゆる虐殺を克明に示し、人々に植え付けた成果が、正にコレだった。
人は正義の為ならば何処迄も残虐になれるのだ。
「楽しみにしてるわよ?クリス」
「ええ、期待に沿えるよう精一杯やらせてもらうわ。」
2人はそう言いながら、カップに口を着けた。
感想、評価等よろしくお願いします。
最近Glockちゃんにハマっているが、AI も万能じゃないことがよくわかるし、とにかく楽しい。