〜0083年4月2日
暗い中、瞼を上げれば見慣れた天井が目に入り、自然と視線は目覚まし時計の方へと動く。
ボンヤリとした意識と、そしてある事柄を思い出してアルフレッドは飛び起きた。
「あっ!!まずい!」
少年はバタバタと慌てて掛け布団を蹴飛ばすと、それは天へと昇り少年は急いで着替え始めた。
すると、コンコンと言うノックが鳴り響き、母親がそこから顔を出した。
「どうしたの、そんなに慌てて。」
「どうして起こしてくれないんだよ!これじゃあ寝坊になっちゃうじゃないか!!」
慌てるアルと、母親の温度差はあまりにも大きかった。
「どうしてって…、大事な予定があるなら前日に言わなきゃ駄目でしょ!」
それもそのはずで、彼は両親に今日自分が誰と何処に行くのかという事は、話していなかった。
別に、家族として会話が成り立たない程に、関係が冷えている訳ではない。
単に彼が、今日という日をドロレスと一緒に、催し物を観に行くのが恥ずかしいだけなのだ。
両親の事だ、きっと何かを誤解して非ぬ疑いを振りかけてくるかもしれないと。
「ドロレスって子が待っているけど、それと何か関係があるのかしら?」
母親のその言葉で、彼は一瞬思考が止まったが、一気に恥ずかしさが増していき顔が紅潮していく。
その姿をみた母親は、何か微笑ましいものを見たような顔をして、ニコニコとしている。
「良いから早く出ていけよ!!」
と、彼は着替えながら怒鳴った。
着替え終え、リビングに行くといつものような朝食と…、妙に着飾ったドロレスの姿があった。
春物のワンピースドレス、それもいつもの彼女に似ても似つかない、何処か清楚でいて何より……そう、美しいと心の中で思ってしまった。
そんな彼が、固まっているのをドロレスが見つけると、不満を露わにした。
「ちょっと、約束の時間に来ないから私がここまで来なきゃならなかったんだから、反省してる?」
その言葉には何処か棘があったが、申し訳なさが勝ったのだろう。アルは素直に謝る、その姿を見た両親はやはり微笑ましいものを見ているようで、その視線が少し煩わしく感じるアルであった。
0083年4月2日 その日は、サイド6の内である種の転換期とでも言えるものが行われていた。
一年戦争、その勝者である地球連邦が、その力を誇示するために、戦争当時中立的立場を表明していたサイド6リボーコロニーで大きな、一般公開のデモンストレーションを行ったのだ。
コロニー内に存在する、地球連邦軍関連施設。その周囲にある射爆試験場では、今ではすっかりこのコロニーに馴染み深くなった、サイド6の守護者となっている改ペガサス級グレイファントム所属の、『スカーレット隊』が自らのモビルスーツ部隊を使用して、コロニー内戦闘を模した訓練を行っている。
嘗てサイド6内での戦闘と、その教訓から、彼らはより洗練した動きをしている。
まず、コロニー内という重力区画と無重力地帯の完全に異なる空間において、彼等はあまり高高度への飛行をせず、寧ろ地面スレスレに飛行と、回避機動をする。
コレは0079年のクリスマスの戦闘を元に、当時ジオン公国軍の強襲モビルスーツが取っていた戦闘高度から着想を得ていた。
当時のスカーレット隊は、コロニー内での戦闘という特殊な環境下に完全に適応できず。なす術なく全滅するという、戦訓があった。コレは当時、敵が非武装の住宅街繁華街を、基本的に侵入してきたゆえに、射撃を躊躇したのが大きな原因であった。
そして当時のスカーレット隊は、高高度から撃ち降ろす形で敵を仕留めようとしたものの、二次元的に高度に移動するその動きに翻弄されたのだ。
それをふまえ、敵と同じ土俵に立つことによって、民間人被害に対する脅威に対して、敵も同様に動揺するという
『人間の盾』
効果を期待しての訓練である。
多くの人々がその光景を観に行く中で、特に軍関係の情報に対して知っている。所謂ミリオタと呼ばれる人々は、それよりも遥かに興味のあるものを観に来ていた。
リボーコロニーから突き出した中央シリンダー区画、宇宙港とされているそこには、カメラを持った人々がごった返す。
アルとドロレスの姿も、そこにはあった。
地球連邦軍の最新鋭モビルスーツ、最新のガンダムℵ。その姿を一目見ようとして集まった人だかりの中には、余所のコロニーからの見学者も多く、既に人集りが出来ていた。
その波の中に、とある少女の姿もあった。
「ねえ、なんにも見えないんだけど。」
「そうだねぇ…。何処かいい場所ないかな。」
その少女アマテは、他の3人組と連れ添っている。
せっかく来たのになんにも見えない、それもそのはずで彼女達の身長は、人のそれよりも僅かに小さいどころか、恐らくここにいる中で一番低いまである。パンフレットを手に持ちながら、途方に暮れる。
それは実際に人種的な問題から来るものであるから、仕方ないのかもしれない。
そんな感じで右往左往しているのだが、ふとアマテは何かを思い立ったのか3人に声をかけた。
「こっち側なんてどうかな?」
彼女は3人を引き連れて、前へ前へと進んでいくとそこにはポッカリと、大きな広間のように空いた空間があった。
突如出現したその空間に、三人は驚きつつもアマテはその場所が何であるのか、即座に理解し、同時にどうしてここに来たのか理解した。
戸惑う彼女らに、何処からか声がかかった。
「ここは発着場だよ。今からここにガンダムが来るんだってさ。」
アマテ等が振り向くと、同じ年齢くらいの少年が恐らくデートなのだろうか、ガールフレンドだろう娘を連れて横に立っていた。
ただ、その言葉はどうやら彼女等に対して言われた言葉ではないらしい。
そんな場所に不満を抱えながら何分か立っていると、コロニー内壁側のゲートが開き、そこから何機かのモビルスーツが入ってくる。
所謂ジム・カスタムやジムキャノンⅡ、そして1機だけ見覚えのない機体があった。
手に持っているパンフレットを開いて、その名前を見る
「Gキャストだってさ、実験機みたい。アレもガンダム?」
「違うよ、ガンダムはあんなんじゃない。あれじゃ、ジムみたいなものだよ。」
となりから聞こえてくるその言葉に、四人はその少年に感心する。かなり物知りなのだなぁと、ただ周囲の大人たちが色めき立った様子はない。お目当てのものではないようだ。
数機はそのまま少し離れたところに降り立つと、そのGキャストの胸元のコックピットだけが開き、中からパイロットスーツに身を包んだ人が姿を現す。
スラッとしていて、身長も高い。
その人が手をヘルメットに向け、被っているそれを外すと、周囲にどよめきが鳴り響く。
その人の髪は靡き、弧を描く。
「皆さん始めまして、私は今回のイベント。モビルスーツの紹介を担当させていただきます。クリスチーナ・マッケンジー大尉です。お気軽にクリスチーナや、クリスと呼んでください。」
彼女はそこにいた…。アルはその姿を見てギョッとし、そしてやっぱりなという思いでいた。
まだクリスは連邦軍のそれもパイロットでいるのだと…。
何故だか、拳に力が籠る。
件のクリスはといえば、この状況下。衆目の的となって、一身に視線を集めていることに、心底嫌気が差していた。
自分は軍人であって、決してパレードの主催者ではない。寧ろこんな役目は、一般的な広報の仕事であるはずだ。
しかし、彼女にお鉢が回ってきたという事は…。
(トロイホース全体が広告塔ね…、自覚しないようにしてたけど、これなら自覚するしかないじゃない。)
と苛立ちながら、それを顔に出さない。出したところで問題が大きくなるだけだと、紹介を始めた。
ジム系列の機体は数多い、マニア達はその機体の中で個別に特徴を知りながらも、トロイホースのみに配属されている少しの違いを、説明を聞きながら理解しているようで、どよどよとしている。
「私の搭乗するこの機体、Gキャストは先進技術実証機という、少し変わった経歴を持った機体です。
後ほど紹介しますガンダムとの違いは、一般パイロットの扱える限界ギリギリの性能だと言うことくらいです。
つまり……、私の操縦はかなり上位のものだと思って下さい。」
全てカンペに書いてあることを、スラスラと彼女は口に出す。カンペを受け取ったのは昨日夕刻。
それから12時間と少ししか経っていないが、彼女はその内容を完全に記憶し、一字一句間違わない。
機密指定されているはずの内容を、良くもまあここまで言わせてくれる。
と、内心キレ気味であるがそんな苛立ちを表に出さず、ただ道化としてその場を温めるのだ。
彼女の話が進んでいくと、次第に周囲の期待がもう一つの機体に集まってきているのを実感し、機は熟したと言わんばかりに、彼女は発した。
「さて…、御託は此処までにしましょう。
アムロ中尉、入ってきて!!」
『了解しました!』
構内に声が響く。
その声は若々しく、そして屈託のないそんなハキハキとしたもので、衆目はその声に一瞬静になるとコロニー内壁側を振り向いた。
一機の機体が小粒から直ぐに大きくなっていく…。
隙間を難なく通り抜け…、そしてアマテとアル達の目の前のちょうど空いていた空間へと、寸分違わず足をつけたところで観衆が拍手を活性した。
その後、声が収まるのを待ったのか説明は最小限に、機体のコックピットが開き、中から1人が現れる。
通常の連邦軍公式のパイロットスーツと少し違うところがあるそれは、白地に青と赤のストライプが縦に1本ずつ並び、そのパイロットが特別なのだと、皆に象徴していた。
そして、そのパイロットがヘルメットに手を掛け…その顔を露わにする。
アマテは見ていた、そしてそのパイロットのその顔を見て
「やっぱり」
と、小さく声を出した。
彼女の声に反応したのように、彼の視線が彼女と交錯する。どうやら彼もまた、彼女がここにいるのだということを理解していたようだった。
アマテもそれを知っているのか、小さく手を振った
「どうしたのアマテさん」
「ちょっとこっち向いた気がしたから」
と、そう取り繕って事なきを得る
アムロの自己紹介から始まり、ここまでの経緯とこれからの自分の展望を語る。
コレは連邦軍の用意したカンペには無かった。
まずジオンの行ったことに対する反感と、忌避感を話し、ジオン・ダイクンのニュータイプ論に対して、自分なりの解釈と現状との相違と、批評。ここまでは連邦として見れば、反論する余地なしのものだったが、その後が問題だった。
「僕が軍に残ったのは、そこにいるマッケンジー大尉と連邦軍の一部のトップ層の人のおかげなんですが……、この場を借りてもう一人の人物の事を話します。」
彼の語るもう一人の人物というのは、今現在地球にいるセイラの事であり、そして…アルテイシア・ソム・ダイクンの事でもある。
アルテイシアは、ジオン公国の行った事に対して非常に批判的だったと言うところを言いながら、連邦政府の行なってきた重税に対しても批判を行った。
コレは一種の政治的なパフォーマンスであり、アムロの思う最も温和なものではなかったが、これこそが好機だろうと踏み込んだ。
コレは地雷原だ
アムロもそのような事は重々承知であり、逆にここで何も言えないのでは、連邦軍を改革することすら出来ない。
この現状を創り上げ、そしてそれを乗り越えてこそ、その先に目指すものはあるとそう言う思いだった。
デモンストレーションを、見に来たはずなのに、それは一気に政治色の濃いものとなっていたが、彼のその言葉は確実に彼らに浸透していた。
その言葉は、演説はアルテイシアの目指したい未来と彼の理想像だった。
アルはそんな彼を下から見ていた。
地球連邦軍のプロパガンダは、非常に巧みなものだというのを、彼は0079のクリスマスの後からよく知っていた。
特に、連邦軍がガンダムをサイド6で建造していたという物を掻き消すために、ジオン側が一方的に悪いのだということ、大人を通じて子供達に刷り込んだあの日のことを。
アレックスさえいなければ、あの悲劇は起きなかったのだということを……。
そして、そんなアルの思考を余所にアマテは、アムロの本気を知った。
もし何か有れば、確実に彼を暗殺しようとする者たちが現れる。そんな事分かりきっているにも関わらず、彼はダイクンのような己の立場を利用して、ダイクンが挫折した事。
即ち、連邦の内部改革への未来を発していることを。
アマテに難しい事は分からない、ただアムロのその本気だけは伝わってきた。
「長々と話してしまいました。耳を汚した事でしょう。
さて、これよりコロニー内部にいます、グレイファントム所属のスカーレット隊と共に、コロニー外周部でのデモンストレーション模擬戦闘を観覧してください。
また、抽選に当たった人達は、あそこに見えますトロイホースへの乗船許可がおりますから、順番に従って並んでください。」
先程の話は何だったのか、彼は直ぐに切り替え群衆にそう呼びかける。人々の波は、帰路に着くものと乗船するものとで別れ、アルとドロレス、そしてアマテ等はトロイホースの方へと動き出した。
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