白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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普通の生活とはどんなものを指すのだろうか?衣食住の足りたもの?遊ぶ余暇が有ること?それとも忙しい毎日か…?
明確な指標という物は存在せず、それは時代により変動する物である。

では…、戦争が終わった時。或いはそれに準ずる場合に置いての普通と言うものの定義は、如何にすれば良いのだろうか?
負けた側からすれば、衣食住が担保されていれば御の字か?それとも、闘争に明け暮れるのが普通か?

では勝った側からすればどうか?
豪勢な食事や、家族との平穏な時間だろうか?それとも、戦場に囚われた生きたかをするのか?

これが分からない。



日常

ぼっふぅ

 

そんな音と共に、クリスは寝間着姿で自室のベッドへと倒れ込むように身を投げると、枕を掴んでそれを両腕で抱えて見せた。

少し疲れが有るのだろうか、彼女はそれを抱えたままボーッと天井を眺める。

ふと、窓を眺めるともう暗く、皆寝静まる頃合いだろう。明日もまた休みではあるが、気疲れを取るには何かをやっていたほうが気楽だろうかと…ふと、そんな事を思いながら今日の出来事を思い出す。

 

激動と言っても差し支えない様な出来事だった。ジオンの忘れ形見、そんな存在があまりにも近い場所にいる。

戦争は確かにジオン公国が仕掛けてきたとして、彼女には何の関係もないのだということは、クリスには分かっている。だが、周囲の人間からすればどうだろうか?

 

大虐殺を行ったジオン、その国の象徴たる人物その忘れ形見が現れれば、被害に遭った人間は瞬く間に彼女を襲うのは当たり前だろう。

特に、コロニー落としで家族を喪った人間からすれば、その矛は仕舞う事等不可能に近い。

 

例え戦争がザビ家によって主導されたものだとしても、そのザビ家が出てくる舞台を整えたのはジオン・ダイクンだからと…そうやって正当化するのは目に見えている。

 

まあ、だからだろうか?戦争が終わり、ザビ家の人間もその尽くが討ち取られた今でも、偽名を使って生きている…。

何とも窮屈な事だろうか、自分の本当の名前を口に出すどころか友人となっても、きっと知らない人間の方が多いだろうに。

 

クリスはそれを哀れんでもいたが、同時に連邦が何故そんな彼女を隔離するか等ということを、改めて理解できてしまった。

危険人物は目の届く範囲に、最低限の人員で監視する。それが、連邦の方針であり同時に、彼・彼女等を保護する役割も有るのだと。

 

「話してみれば普通なのに、周囲からは敵視される……。難儀ねぇ。」

 

色々と疲れたのか、ウトウトとし始めている。微睡みの中、突如として目を見開くクリス。一つの事柄に対して、答を得た。

 

 

そもそも、訳がわからないから怖いのだ。例えば初めて見る食べ物に興味を抱く人がいる一方で、それに及び腰になる人もいる。

いや、及び腰になる人のほうが大多数なのだ。

ならば、逆に考えれば良い。

 

当たり前に普通の人なのだと、相手を慣らして仕舞えば良いのだと。

 

逆転の発想だった。彼等が普通に振る舞う必要はない、寧ろ常識を上書きすれば良いのだと。

その考えに至った彼女は早速、それを机を前にしてノートに書き連ねると、一本の電話をアムロへとかけた。

 

「あっ!もしもしアムロ君、ごめんなさいねこんな時間に。明日またそっちに行っても良いかしら?

そう、ありがとうね。それと、セイラさん?も一緒にいてくれると助かるのよ、良いかしら?

うん、じゃあお願いね。」

 

矢継ぎ早に要件を言うと、目を閉じて直ぐに布団に入って寝息を立てた。その顔は悩ましい事柄を解決できると、満足げでありながらそれでいて何か自信に満ちていた。

 

翌朝…、クリスは飛び起きると同時に軽く食事を済ませ、いつものルーティン通りに家事を済ませると連邦軍の制服と、幾つかの資料を持って家を飛び出した。

因みに鍵は掛け忘れた。

 

駐留軍のいる街だ、軍服姿の人間も別に珍しいものではないし、寧ろ皆見慣れている。

しかしながら、そんな軍服を着た人間が息せき切って走っている姿は、割と珍しい事だろう。

寧ろ、軍人だろうか?とても美しい女性であるから、余計に目立つ。

 

そうして直ぐにタクシーを捕まえて、彼女はアムロ達の居る場所へと赴いたのだった。

 

連邦軍の軍服を纏って着たのだから、アムロ邸の門番も一瞬たじろぐ。何か、重要な事柄でもあるのか?と、そう思う者もいる事だろう。

だからこそ、屋内の監視の目もそれを際立たせるようにより強く輝いていた。

 

「それで…どういう要件で?」

 

ソファに座るアムロとセイラがいたが、どうやらセイラはこの家に泊まったらしかった。まあ…、きっと男女の営みをしたのだろうがそういった事をクリスは気にするような人間ではない。

だから、ズケズケと家の中に入るのだ。

 

「単刀直入に言うわ。アムロ君…貴方、士官学校に入りなさい。」

 

「……?士官学校?…ですか?どうしてです、僕は」

 

「アムロ、少し話を聞いてみましょう?別に何か大きな物事に引き摺り入れようとしていると言うことは、無いはずです。」

 

セイラがアムロを制するように前に出ると、アムロは押し黙るしか無い。ただ、それに対してクリスは自ら持ってきていたデータを渡し、それを紙へと印刷してみせた。

この頃の紙媒体は重要な事柄や、不正を除く為に使われるものだったから、それは重要な内容なのだろう。

 

その紙に書かれているものを覗くと、アムロは眉を顰めた。

そう、そこにあったものは問題集…。筆記試験に用いられるもの、それをテスト形式にしたものだ。まるで学校のテストのようで、アムロはそれに懐かしさを覚えるもののクリスの意図を疑問視した。

 

「貴方がどれだけ出来るのか見せてくれない?」

 

「僕が受ける前提で話を進めるんですね。まあ、別にコレをやれって言われれば、やらないとは言わないですけど。」

 

渋々ながら、それを前にしてペンを取る。

書かれている問題を次々に解いていくのだから、それに慣れているのだろうか?

だが、それを見ているクリスの顔は渋いものであった。

 

語学・地理・歴史・科学・物理・数学

 

それぞれを解いた後に、クリスはそれら一つ一つを照らし合わせ答えを見る。

それはそれは、大変良く出来た答案であった。

ただ一つの問題に目をつぶれば。

 

「凄いわね、本当に。お世辞抜きで凄いと思うわよ、だってこんな…あなた学校は長く通っていた訳じゃないわよね?」

 

「だって暇ですし…、そんな簡単な問題見せられても困りますよ。」

 

アムロがそう口にするがそれに対して黙ってみていたセイラは、怪訝そうな顔をしてアムロに寄ると、信じられないものを聞いた様に口に出した。

 

「アムロ、貴方本当に言っているの?」

 

「ええ…何か問題でも?」

 

高得点を叩き出しているのだから批判されるようなものは無い、唯一法律だとかそういう物を苦手にしているようであるが、それは別に良い。

問題はその得点の高さからだ。

 

「コレ、連邦の大学の筆記試験の問題よ?それも、かなり高等な。」

 

「……、そうなんですか?でも、簡単じゃないですか、こんなの。」

 

「いるのよねぇ、そういう人偶に。アムロ君、あんまり勉強とかはしたくないタイプよね?それでコレって、勉強楽しくなかったんじゃない?」

 

そう、アムロ・レイという人物は基本的に頭が良い。

頭が良いなんてレベルではないので、どれくらい頭が良いのかと言えば、ハロを根本から設計し直して独自の規格を作る程度には頭が良い。

電気系統の電圧すら計算に入れて、尚且つ怪我をしない程度の力を加えられるような、そんな四肢を取り付ける程だ。

例えるのなら、並の人間がパソコンを部品単位から、設計できるか?出来る訳無い。

 

兎も角数学に関して言えば、既に高等レベルにまで知識がありプログラミング言語も習得し、物理学等にも精通している。

お世辞に言って天才だろう、寧ろそうでなくてはならない。

 

「楽しいか楽しくないかで言えば、楽しくなかったですよ。だから家でハロを組んでた訳なので…。

それよりも、これがわかったからって士官学校に何の意味があるんですか?」

 

「いえ、コレなら学習に関しては暇しても良いって結論が出るのよ。

アムロ君、貴方に士官学校を勧めるのは…もっと交友関係を拡げて欲しいって事なの。こんな狭いところで腐って良いような、そんな人じゃないのよ貴方は。」

 

「煽てても良いことは無いですよ?」

 

「アムロ、この話受けたほうが良いと思うわ。この人の言いたい事、何となく分かるような気がするもの。」

 

クリスの言葉に、アムロはあまり乗り気では無いもののセイラはそれに乗ったらしい。

それがどういう意味なのか悟ったのか、アムロは渋々と言った体で話を進めた。

 

「コレで本当に自由になれると思います?いや、貴女はそう睨んでる訳だから、態々僕にコレをやらせる訳だ。」

 

「将を射んとする者は、まず馬を射よってね。貴方にとっては小さい目標なのだけれど、周囲にとっては大きな課題よ?

だから、足元から切り崩していくのが一番手っ取り早い方法。

将軍達を説得するほうが、楽かもしれないけど、だとして本当の理解は得られないわ。

その前に寿命で亡くなって仕舞うのがオチ、なのだから。」

 

クリスのその言葉は、現実的でそして誰よりも大人な言葉なのだろう。どれ程の権力を振りかざそうとも、人間は寿命に抗う術は持ち得ていない。

だから、若い頃から接する事で自然と意識を共有することに繋がっていく。

 

ニュータイプの事を思うのならば、それの方がいいのだろうとアムロもそうは思うものの、果たしてそれが彼の願望なのか?

アムロの思想の一端はあくまでもララァの受け売りで、同時に2人で到達した思考の賜物だ。

だから1人で抱え込んで良いものでも無いはずだが、果たしてそれを周囲が許すのだろうか?

 

そんな考えが過ぎるものの、そんな思考に陥っているアムロに対して、セイラは結局アムロだけを見ていた。

戦争中は、深く何かに悩む事など出来なかったのだから今は、深く悩んで欲しいのは、彼女の願望であった。アムロは未だに幼い、16歳の人間が結論を出すにはあまりにも早すぎる。だからこそ、セイラはアムロの側にいたいのだから。

たとえその決断で、2人が離れ離れとなったとしても…。

 

「結論は急がなくて良いわ。誰かに相談しても良いし……、願書提出日までならね…?」

 

それだけ言って用を済ませたのか、クリスはお茶をくれた事に礼を言いながら、アムロの家を経つ。

果たしてどういう結果となるかなど、それはクリスに分かりはしないが、ただ一つ確信があった。

アムロは必ず、士官学校への道を歩む筈だと。

 

残されたアムロは悩んだ。

果たして自分という人間が、軍に居てどの様な人間となるのだろうか?と。

戦場は怖い場所だ、だが誰かを失いたくなどない戦えと言われれば戦う事も出来なくはない…。

ただ、そんな戦場を経験しているからこそ上の人間となった時、自分が変わってしまうかもしれないという、ある種の恐怖はあった。

 

そんな思い詰めるアムロの手をそっと包む人が隣にいる。

セイラは、思い悩む彼の姿を見て無理をしなくても良いとも考えていた。

そもそも軍人どころか、大人ですらない彼は今まで無理をしてまで戦い、皆の心の支柱となっていた。

アムロならばやってくれる、アムロならば出来るだろう。アムロならば…アムロならばと。

 

ただ、共に戦うからこそ視えてくるものもある。パイロットとして共に歩んだその時間は、セイラがアムロの苦悩を完全に理解するには足りないものだった。

だが、恐らくはブライトやミライよりかは、カイと自分はそれを知り得ていると、自負はある。

ハヤトだって、そうに違いない。ただ彼には、アムロに対する劣等感があったようではあるが。

 

そんな中であって、互いに惹かれ合ったと言うこともあるのだろう、セイラもアムロの事は好きであった。

吊橋効果だったのかもしれないが、それでも互いに支え合って生きる事が出来る相手だろうと、そう思う程度には…。

 

ただ、クリスの言った言葉に対してセイラも一つの決断を迫られている。

互いに帰るべき場所の無い2人は、互いが寄り添い合い帰るべき場所となる。それは良い事だ、だがだとしても違う形での関係もまだあるのではないだろうかと云うのも、事実である。

 

「アムロ、私は貴方に幸せになって欲しい。だから、貴方がどんな結論を下したとしても、それは貴方の自由。結論は出ているのではなくて?

だけど、私は貴方のことを…その、好いているのだからそれだけは忘れないでね?」

 

その言葉に、いちいち顔を赤くするところは可愛いと思いつつ、セイラは自分の顔も熱くなっている事に気がついている。正直に言って恥ずかしいのだろう。

 

「わかっています、でも本当にそれで良いのか一晩ゆっくりと考えなきゃ、色々可能性はある訳だし。

尤も、僕がどの選択をしたとしても連邦は絶対に立ちはだかるでしょうけど…。

 

さあ!!気を取り直して、今日はどうします?中尉は帰ってしまったみたいですし…、何かをするにしてももう日も傾いてきていますけど…。」

 

「そうねぇ、ならとっておきのパイを作らない?大丈夫、私が手取り足取り教えるわ。」

 

そこからは何時もの2人になった。

互いに笑い合って、デートをするような間柄で、そして一緒に何かを作るのだ。

牢獄の中、それでも細やかに生きようとする2人の日常、それがどれだけ不自由でも、今その時を楽しもうと。

 

だから、アムロは決断した。彼はそんな細やかな日常を護りたいし、何より目の前にいる人を助けたい。

彼には今、帰れるところがあるのだから。

 

翌日、職場に出たアムロはクリスに結論を言う、その決断の早さにクリスは舌を巻いた。

 

 

 

 

 

 




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