白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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前哨

〜0083年4月2日

 

ブーーン

 

という、なんとも間抜けた鈍い音が響く。

重低音でもなければ、甲高いエンジン音でもない。しかし、その音は確かに周囲に響き、辺りに染まる人集りは満足しているかのように、その音の発信源を見ていた。

 

巨大な身体、特徴的なノーズヘッドを持ちながら、ジオン特有の灰色と緑のスカートを着たそのモビルスーツ・ゲルググは、今正に出撃の時を今か今かと待ち望んているように見えた。

周囲の人集りは、一人一人が作業を続け時には推進剤を注入し、時にはアクチュエーターの目視確認をしている。

その手慣れた動作は、まるで素人のそれではなく、寧ろ玄人とでも言うべだろう。

 

そんな人々の力によって今動き出そうとしているゲルググ、そのコックピットの中では、一人外の様子を実況映像付きで眺めていた…。

 

ゲルググコックピットの座席、その真正面には人が良く視認出来るように大型のモニターが付加されていて、自ずと目が引かれるようにできている。

 

そして、そんなモニターに映し出されるその映像。そして、その映像の中にいる、所謂ニュータイプと言われる人物が、ただ堂々と話を続けている映像が流れた…。

そして、その姿にこのゲルググのパイロット、ジョバンニはまるでグスコーブドリになったかのように、ただ真剣にその言葉に耳を傾け…そして、ひと言だけ発した。

 

「連邦軍人がジオンを語るか……、ふっ時代だなぁ…。」

 

彼は決して若くはない、30代後半に差し掛かった彼は、その言葉に何を抱いていたのか?

ただ良く言うジオン残党が輝くような、そんな時代は来ないのではないか?それこそが自問自答の結論である。

 

ただ、この男はその事を理解しながら戦う道を選ぶのだ。

それはこの間受け取ったプリントが、彼の思考を変えたのではない。思考した結果、その答えというものだろう。

 

果たしてどれだけの残党が現れるのか、そもそも戦って勝つと言っていたとしても、それは局地的なものでしかない。

どれだけ彼らが頑張ったとしても、連邦軍の阻止すら難しい現状、これで戦いに行くことなど無謀以外の何物でも無かった。

 

彼はそれを聞いて外部マイクと近距離通信回線を開く

 

「皆ありがとう、後は俺たちに任せてくれ。」

 

その言葉に片腕を上げるもの、頷くもの様々な反応が返ってきた。

それとは別に、一人の女が彼へと口に出し周囲から反対されている姿が見えた。

 

「おい!ジョバンニ!俺も行く!だから…だから!!」

 

「プリチオ……、言ったはずだ。新しい生命を、贄になんて俺には出来ない。」

 

彼女は妊娠していた。

ちょうど、昨日の出来事であろうか?急に口元を抑えたかと思うと、彼女はそれを吐き出したのだ。

身体の異変など前からあった、だがそれのどれも決して妊娠であろうとは思わなかった。

何故ならば、彼女は不妊症を患っていたからだ。

 

しかし、ここにきて何の奇跡か?何の因果か、彼女の胎内には今確かに小さな生命が宿っているのだと…。

ジョバンニは、決して残酷な人間ではない。だからこそ、彼は決断していた。一人で行き、そして必ず返ってくると。

そうすれば、きっと将来わが子の顔を見ることができるのではないか?と、楽観的に。

 

そして巨人は歩き出す。サイド6、そのコロニーにいる全ての人々(ジオン)の為に…。

 

 

 

同じ頃、トロイホースは宇宙空間へと飛びだし、僚艦であるグレイファントムの出航を今か今かと待っていた。

艦内にいる、見学客達は初めて乗る宇宙戦艦のその威容と、同時にシャトルでは決して味わうことのない、ある種の安心感というものを肌で感じていた。

 

「ねぇ、艦橋にも入って良いんだって!言ってみましょうよ!」

 

「良いよ…、それよりもさ格納庫の方見に行こう?艦橋行ったって、そんなに面白いもの無いぞ?」

 

アルはそう言って彼女の手を握ると、そっちの方へと案内看板を頼りに進み始めた。

この時、ドロレスの頬が少し赤くなっている事に彼は気が付かなかったが、ドロレスは満更でも無かったようで、少しニヤけていた。

 

暫く進むと、非常に大きな空間へと辿り着く。

この強襲揚陸艦とも言われる艦は、その名の通り敵中に突入し部隊を強制的に放出、敵陣に対して大きな楔を撃ち込むことを前提に設計されただけに、陸戦隊やモビルスーツ運用に関する機材が豊富に置かれていた。

 

そして何より、重力下運用での整合性を担保する為に、わざわざモビルスーツを立たせて駐機するスペースもあるのだ。

ジオンで有れば決してその様なことはしないだろという、贅沢な艦艇なのだ。

 

さて、並べられているモビルスーツの中には、お目当てのガンダムℵの姿があって、デモンストレーション用の装備への換装が急がれていた。

そんな姿を間近で見られるのだ、マニアとしては冥利に尽きるだろう。

 

少し前へと進もうとしたら。

 

「これ以上先にははいらないでください。」

 

先程聞いた声が、直ぐ側で聞こえた。

パイロットスーツに身を包んで、少し気怠くしているその姿は、果たしてアムロ・レイであった。

 

「看板は無かったんですね、全く…用意しておかないから。ここから先は軍機です、軍属でもない限り入ることは許されない。

それと、減圧操作が始まるのでノーマルスーツを着ていないと…、君ならどうなるかわかるよな?」

 

「はい、すいません…。オイ、戻るぞ。」

 

アルは、謝罪するとドロレスを連れて、元来た道を逆に進んでいく。

もし、小学生であったなら、何かに着けて居座ろうとした事だろうが、残念な事に彼はもう半分大人だった。

 

その後姿をみたアムロは、彼が何か重いものを背負っているのではないか?と、勘ぐって声をかけようとしたが、注意した手前それを行うのは筋違いだと思い、辞めた。

 

「最終点検、急いでくれ。」

 

整備兵に対してそう声をかけながらも、自ら外見をチェックしていく。

ガンダムℵ、彼の乗機であるそれは、いつも以上によく磨かれていてトリコロールカラーが非常によく目立つ。

戦場でこんなもの見つけたら、真っ先に狙われること確実だろう。

 

それでも、彼にはこの色と配色にある種の括りがあった。いや、一種の願掛けだろうか?

嘗て、仲間達と歩んだその日々は決して色褪せることなく、彼の心の中に仕舞われている。

 

「総員、微速前進する。」

 

短いアナウンスが、太い声で行われる。

手慣れたものだ。ホワイトベースでも、民間人だらけであったから、そんな事をやらなければならなかった。

幸いなことに、昔よりかは遥かに心の持ちようはあった…、だがこの時アムロは何か少し、ほんの少しの違和感を感じ始めていた。

 

トロイホースの艦橋には、十数人の見学客が訪れていた。

見学者の中でも、特に若い人間にのみ許された行為。連邦軍によるスカウトや、そういった類いの志願者募集の為の宣伝工作であるが、実際これは上手く行くことだろう。

若年層を対象にすれば、心に深く根ざすことは請け負いだ。

 

艦橋窓からは、僚艦であるグレイファントムの姿が見え、全くの同型艦である両艦は、ゆっくりとだが、サイド6近郊に設けられたデモ用の、簡易的な暗礁宙域へと進んでいた。

 

「皆さんあまり近づかないように、計器の数字が少し変わるだけで、艦の走行に悪影響が出ますので。」

 

ブライトは艦長として、興味深そうに各艦橋員を見物する少年達に微笑ましいものを見ながらも、何処か複雑な心情であった。

果たして、カツ・レツ・キッカは楽しくやっているだろうか?3人が元気であれば小学生くらい…、近場にいればきっと彼の事を『ブライト』だとか、『キャプテン』だとか茶化して言っていただろうにと、昔を思い出す。

 

「アレ…?おかしいな」

 

レーダー員のそんな小さな呟きが聞こえてさえ来なければ。

ブライトは小さく呟くその言葉に対して、聞き逃すことはなく、寧ろ積極的に聞きに行った。

 

「どうした?何がおかしい?」

 

ブライトが直接聞く、副長は艦内の他のところの関して借り出されていた。

 

「いえ…数が。模擬戦用のデブリの数が、予定よりも10…いや15多い!!」

 

その言葉をきいた瞬間、ブライトの脳裏には何が思い描かれたのか、彼は弾かれるように動きだすと、直ぐに艦長席のコンソールを叩き、艦内放送を入れた。

 

「総員第1種戦闘配置!これは演習ではない、繰り返すこれは演習ではない。総員第1種戦闘配置!モビルスーツ隊は直ちに発進させろ!」

 

第1種戦闘配置、これを2度言うことにより、コレが緊急的な行いなのだと周囲に印象づけた。

そして、グレイファントムへの通信を入れさせようとして、通信手から言葉が走ったため。

 

「ノイズ増大…これは……、ミノフスキー現象です!」

 

「ミノフスキー濃度急激に増大する!」

 

レーダー手と通信手のその言葉に対して、一片の迷いなくブライトは檄を飛ばす。

 

「そんな事は良い!光通信、回線開くの!!」

 

彼の即断は的確だった。グレイファントムの方ではこの事態を、デモンストレーションの一環ではないか?という錯覚が起きていたからだ。

これはある意味仕方のない事なのかもしれないが、平和が警戒感をそれも中立のコロニーという環境が、それを薄れさせるには必要十分条件であったのだろう。

 

『艦長、敵の数は多い。20以上いる』

 

勝手にコンソールに挿入された艦内通信、そこからアムロがブライトに対してそう警告する。

だが、その言葉に対してブライトは、ある種の安心を覚えた。

 

「すまないな、戦闘は防御戦になる。時間を稼いでくれ。」

 

『了解した。艦長も気を付けて。』

 

お互い様にな

 

そう言って切ると同時に、グレイファントムに対して光通信で警告を行った。

このミノフスキー濃度の急上昇は決して自分たちの行いではなく、デモンストレーションの一環でもない。

敵による攻撃の一環であるのだと…。

 

 

そんな緊迫した場面において、アマテ達はそれに遭遇した。彼女は、艦内の空気が一瞬にして変わったこと。

そして、張り詰めた宇宙を感じながら、とても寒いという感覚を覚えていた。

その感覚をひと言で現すならば、きっと恐怖なのだろう。

何かとても酷いことが起きる、そんな漠然とした感覚が彼女の心を蝕んだ。

 

いきなりの事に対して、戸惑う友人達。1部パニックに陥る少年達を尻目に、的確にそれらを誘導する誘導員と、きっとそれが間に合わないんじゃないか?という、一つの結論が唐突に現れた。

 

左舷格納ハッチが開き、そこから勢い良くモビルスーツが発進する…。

その姿は、港で良く目にしたあの派手なカラーリングの機体、『ガンダム』

それが出ていく。

 

だが、彼女の瞳にはその外観は映ることなく寧ろ、そのパイロットの姿が克明に見えていて、思わず吐き気がこみ上げてくる。

宇宙空間に出て、ただ戦いを観るだけなのにとてつもなく鋭い感覚が、彼女を襲っていた。

 

そして、出撃した彼は真っ先にトリガーを引き、ガンダムのライフルが淡い赤色の光を発する。

 

戦いはもうすでに始まっていたのだった。

 

 

 




今回は少し短めです。

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