〜0083年4月2日 サイド6近郊
サイド6周辺には、一年戦争終戦から良くデブリが流れ着いてくる。
このデブリは、所謂他サイドの残骸というのが早いだろう。そのため、様々な物が其れ等に混ざってきている。
トロイホースとグレイファントムの統合演習に於いても、これらのデブリが転用されており、これらのデブリには様々な副産物がついているものだ。
例えば、コロニーの外壁部分であったもであったりとか、岩礁の一部であっただろうものだとか、雑多なものだ。
ただ、今回のこれには想定しているものとは明らかに異なる構造の物体が付随していた。
そもそも計画されていた数よりも、幾分か余分に浮かべられているのだから怪しく見える。
だが、例えそうだとしても結局は岩礁であるだとかそういう誤認をするのが、当たり前の思考だろう。
特に、戦後少しずつ平時の形へとなっていた連邦軍や、そもそも戦争とは縁遠いサイド6の住人からすれば、そんな事は些細な事である。
連邦側から見れば、サービスで着けてくれたのだろう。とでも思う者もいた事だろう。
ただ、これらの増設された岩礁にはその内部をくり抜く事によって、モビルスーツ数機を格納していくだけのスペースが確保されており、数時間の隠ぺいが可能なものであった。
これは直前になってコロニーと連邦の目を盗んで増設されたものであり、彼等の肝煎りである。
餞別の品と、そう言われて増やされた其れ等は中にモビルスーツを隠しながら、淡々と待ち続けた。
彼らの立てた計画はこうだ。
まず第一に、サイド6コロニー側から何機かのモビルスーツが飛び立ち、其れ等が注意を引き付けている間に、敵を包囲殲滅してやろうという、そんな魂胆があった。
ただ、その目論見は淡くも崩れ去る。
アムロ・レイとブライト・ノアの目は、それらの事態に対して直ぐに最適解を導き出した。
これには、敵モビルスーツの数があまり分からなかったことに加え、艦長の練度が高かったことに起因する。
ブライトは彼の判断ではなく、アムロの判断を優先した事によって、数に対処しようと考えたのだ。
アムロはニュータイプとして多くのものを見ている。
それは洞察であり、直観であった。
敵の数を瞬時に判断して敵の主攻方面を判断、然るのちにまず敵の本体を叩くために、トロイホースから出撃した直後、存在を確認できないはずのそれが、まるで精密なレーダーのように機能しジオン残党の主力とぶつかった。
それに続くように、トロイホース隊は敵中に対して強襲を仕掛けるのだ。
にわかにパニックに陥るジオン残党軍、しかし彼等の立て直しは非常に早かった。
強襲に対して、瞬時に自らの位置を固定化する事により、岩礁は防御主体の所謂『蛸壺』の役割を果たし、頑強に残党軍の防御を強める。
対してアムロ率いるトロイホース隊は一転して、攻撃の手を緩め攻めあぐねいていた。
それは実戦不足からくるものか?それとも何か大きな原因があるのか、そのビームライフルの光の軌道は僅かに敵から狙いを逸れていた。
「連邦の連中の腕は良くねぇ……、ガンダムったってこの程度かよ。」
残党の誰かがそう口にする。
しかし、当たらなくてもビームライフルはビームだ。
メガ粒子の厚い濃度は、簡単に装甲を貫き即死の威力を誇るのは誰しも知っていることだ。
ゆえにおちおち出ていくことも出来ない。
数の上では残党軍が勝るものの、一撃の威力に関してはトロイホース隊の方が遥かに上回っている。
岩礁を上手く使うことによって、ジワジワと近付いていくことがベターな判断だろうと、そう誰もが判断していたが……
ジョバンニだけは違った。
「おかしい……、聞いたガンダムの動きと明らかに違う…これではまるで、攻める気がないようだ。」
ジョバンニはサイド6に於いて、非常に真面目に働いていた。きちんとした資金もある。生活は決して楽ではなかったが、連邦軍の重税も、思ったよりはそれ程の事でもなく、どうしてか様々な情報を収集する上で役にたった。
いつも流れてくる、ガンダムの事。
雑誌や新聞。様々なメディアからガンダムの情報が流れ、連邦軍の宣伝と実際の戦闘映像を見るに、ガンダムへの攻撃は自殺行為だと、心のなかで形成されているほどに。
目の前にいる、連邦軍のモビルスーツ部隊。その先頭にいるガンダムの動きは、まさしく連邦軍がプロパガンダで流していたそれと似通ったもので、決して偽物ではない。
という、ある種の意地があった。
そして同時に、そんなパイロットが果たしてこんなチンケな攻撃を仕掛けてくるのだろうか?という、そんな思いがあったのだ。
映像に出てくるガンダムは、それはもうスレスレの中をまるで優雅に泳いでいるかの如く、悠然と弾幕を避けて行くのだから、その姿を当て嵌めていた彼は、当然のように疑問を抱いたのだ。
そう思ったら最後、彼の行動は完全に決まった。
「これより突貫する!援護を頼む!!」
「おい!!てめぇ!持ち場を離れるな!!」
スピーカーから流れてくる音声に耳もくれず、彼は突貫する。グングンと近づいてくる傍ら、ビームの奔流がまるで彼を避けていくように後ろへと流れていくのを横目に、もはや目と鼻の先というところまで来て、遂に……コックピット周辺への直撃弾が炸裂した……、筈だった。
ゲルググのコックピットハッチに当たった瞬間、其れ等はジジジという音を立てて表面装甲層を解かそうとするが、なんとあろうこか、そのまま装甲に焦げ跡を残すだけでその光を失わせてしまったのだ。
「やっぱりそう言うことか!」
ジョバンニはそう口に出すと、ニィっと口元を歪ませた。
彼のその姿を見た瞬間、残党軍は決壊したダムの水のように、トロイホース隊になだれ込んで言った。
「気取られた!全機散開して機動戦、直線軌道はドムに勝てない巴戦を仕掛けろ!!」
アムロはその言葉を発していの一番で敵部隊の雪崩へと打って出ていった。
コレは一体どういう事だろうか?ジオン残党に対する連邦軍のアドバンテージであるビームライフルが、全く効果を示していない。
艦橋にいる人々もその光景を見ていたが、そのなかで誰よりも歯がゆかったのは、艦長であり攻撃命令を下したブライトであったことだろう。
コレは言わば、デモンストレーションでの模擬戦の形が問題となったところである。
模擬戦用に調整されたビームライフルの出力は、お世辞にも強いものではなかった。確かに人間に当たれば致命傷は免れないだろうが、コロニー外縁部での演習という事により、実弾か若しくは調節されたビームライフルしか使用できなかったのだ。
コレはコロニー駐留隊であるスカーレット隊が、実弾を主軸に置いている理由であり、そして今回その実戦用の備蓄はスカーレット隊が戦う分しか用意されていない。
つまり、トロイホース隊は現有する殆どがビーム兵装であり、それを主体としていたからこそ、切り替える時間を用意する事が出来なかったのだ。
スカーレット隊が防衛を担えば良いという話でもあるだろうが、この時グレイファントム内の人間がデブリに関心を持っていなかったところも原因だろう。
それも仕方ないのかもしれない。
しかし、彼らとてエキスパートである。トロイホース隊が即応に動き、時間を稼いでいる間に装備兵装を模擬弾。
または模擬ビームライフルから一挙に調整し、実践仕様へと落とし込もうとしている。
調整に要する時間は大凡3分、その間アムロ等トロイホース隊は防戦一方を強いられながらも、敵と概ね互角の戦いを繰り広げていた。
残党軍の使用する兵器類は、その殆どが実弾兵装であり主力機は、ザクやリック・ドムが殆どである。
ザクの性能は勿論のこと、直線での速力以外ではリック・ドムですら、ノーマルのジムよりも劣る。
ゲルググ等、それこそ珍しいものでそれに乗っているのはジョバンニ等、1部の腕の良いものたちばかり。
それでもジム・カスタム等の新しい機体に対しては劣位を下すのだから、それだけ3年という時間の流れは残酷である。 トロイホース隊は、近接戦へと持ち込もうとランダム回避を行いつつ、ビームライフルを突きつける。
ビームライフルを突きつけられると、残党軍の機体はあろうことかそこから出てもこないビームの奔流から逃げようと、機体を急激に吹かすのだ。
コレは機体を動かすパイロットの腕が確かだと言うことでもあり、同時にそう言った本能によって回避する選択肢が染み付いている事の証しであった。
勿論、戦時中新兵だった者達もこの中にはいたが、そう言った者達は積極的にトロイホース隊へと突っ込むのだが……、その後ろからやってくる太いビームの奔流が、その機体を真正面から貫き大爆散する。
「次!動きを正確に…予測しないと!!」
クリスの搭乗するGキャストと、ジム・キャノン2。この2機には、固定武装である大型のビーム・キャノンが装備されている。
このビーム・キャノンの火力の調整は、機内で行われこの残党軍との防衛戦の主力の火力となっているのだ。
新兵であった者達は、回避が非常に甘い。
それも実戦を経験したのも、それは末期戦であり殆どがそれ以降戦闘という戦闘をしていないのだから、その回避はお世辞にも上手いものではない。
狙われればいとも容易く撃墜される。
クリスは、そう言った者たちから先に落とし、少しでも数を減らす事によって、部隊全体の負担を減らそうと必死の抵抗を行った。
この戦闘を、トロイホースの艦橋で見ていた子供達のうちの一人、アマテはこの苦しい戦いの中で、人々の叫びを耳にしていた。
いや、耳にしていたのは叫びではない………。高濃度ミノフスキー粒子下における、ニュータイプの共鳴現象。
人の死、残留思念によって広がる痛みや妬みの残る断末魔。生きたいという強い意志が、彼女の心を深く深く抉る。
「……っく、うゔ。」
「アマテさん大丈夫!!」
苦しむ彼女の事を気遣う用に、友人達は彼女の肩に手を置きそして背中を擦る。
それでも、彼女にその気遣いを感じ取る余裕など無い。
戦争の断末魔を間近で経験したことの無い彼女にとって、この事態はあまりにも悍ましいものであった。
直接心を抉るような、その光景が脳裏を駆け巡る。
光の奔流に飲み込まれる瞬間、熱いと言ってつかの間その意識が完全に溶けていく。
同時に食道からこみ上げてくるものを必死に堪えつつ、戦場を彼女は見据えた。
これに対してブライトは、彼女がおかしい事を見抜いていた。
「衛生を呼べ!君たち、後ろに下がっていなさい。コレは『子供が見るようなもの』じゃない。」
彼の言葉の後、直ぐに衛生兵が駆けつけて彼女を医務室へと連れて行く。
そして子供達の内の幾人かは後ろに下がるか、身を隠すように艦橋から出て行ったが、ドロレスが手を引くのもお構いなしに、アルはそこから断固たる意志で離れることはなかった。
矢継ぎ早に指示を出すブライト、援護射撃と味方の動きを計算し牽制するその行動。
そして、クリスが戦っている姿を見ながらも、彼の目に焼き付いているのは、ガンダムの姿である。
大混乱の戦場の最中に置いて、この機体だけが華麗に舞い。
まるで踊っているかのように弾幕をすり抜け、次々と敵に接近して武器を奪い取り、その武器を活用して落としていく。
それはまるで他のモビルスーツが玩具の用に固まっているかのように見えてしまうほどに、別物であった。
「君はいいのか。」
「ぼくは見届けなきゃならないんです。」
トロイホースの副長であるガディ大尉は、怖がっているドロレスを後ろ手に、目の前の光景を焼き付けている彼に対して質問し、返答に彼の決意を感じて首を僅かに縦に振った後、目線を前に戻した。
『ブライト君、よく頑張ったスカーレット隊これより出撃する!』
「了解しました!急いでくださいよ!!」
この間、僅かに3分の出来事であった。
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