白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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走馬

〜0083年4月2日 サイド6近傍中域

 

広大な宇宙、その中を進む一隻の船グレイファントムは、急いでいた。

いや、正確に言えば船外の動きはあまり見えず、寧ろ船内が急いでいたというのが正確なことだろう。

 

「さっさとマガジン切り替えろ!グズグズしてるとやられちまうぞ!!」

 

モビルスーツ格納庫では、模擬弾とラベルを振られている弾倉が宙を舞い、実弾と書かれている物が急いでモビルスーツの元へと届けられている。

皆一様にノーマルスーツを着ていながらも、己のやろうとしていることがわかっているのか、的確に仕事をこなしていた。

 

彼らが大いに急いでいるその理由は、連邦軍のレクリエーションサイド6での、親睦を深めるべく進められた、かの英雄たちを交えた実戦形式の模擬戦。

それも、視覚的に分かりやすく観客となる見物人がいるという、衆人観衆の基に行われる。言わば大きな催し物でおる。

 

そんな最中、突如としてミノフスキー粒子濃度が戦闘濃度にまで上昇したかと思えば、トロイホースからは実戦が始まるという警告とともに、モビルスーツが次々と出撃していく。

そして、いつの間にいたのやら岩礁からはジオンのモビルスーツ達がワラワラと湧いて出て、それと交戦を始めたのだ。

 

誰もが状況を理解し得ない状況の中、艦長は迅速に指示を飛ばし、トロイホースの部隊が時間を稼いでいる間に、グレイファントム隷下の部隊。即ちスカーレット隊が、実戦を今か今かと待ち焦がれていた。

 

かつて、0079でのコロニー内での戦闘で多大な被害を出したこの部隊は、あの日から来る日も来る日も訓練を重ねてきていた。

あのときは、コロニー内での戦闘要項があまりにも部隊を雁字搦めにして、尚且つ敵は市街地から発砲してくるという非道を行っていた。

 

市民を傷つけることに対して、サイド6側からの強い圧力があったということもあり、スカーレット隊は成す術なく全滅したのだ。

今こそ雪辱を果たすと息巻いている彼等の士気は、有頂天であった。

 

「スカーレット隊出撃準備完了!!」

 

艦橋にその言葉が通達されると同時に、艦長からは出撃の言葉を出すと共に、トロイホースに対してレーザー通信でひと言入れた。

 

「ブライト君、よく頑張ったスカーレット隊これより出撃する!」

 

その言葉には強い信念が宿っている。

 

トロイホースの部隊、が交戦を続けているがやはり時間の経過とともにジリ貧となっていた。

使用できる武装は、完全に火器管制ロックがかけられてまともに使用出来ず、レーザーロックによる敵に対する牽制にしか使えない。 

 

ヘッドバルカン内部にあるのは、所謂模擬弾だ。ペイント弾式のそれは、観客への視覚効果のための言わば見せ物、そんなものでまともに戦いができるわけがない。

 

しかし、彼らも精鋭である。ペイント弾をうまく使い、敵のメインカメラに対する妨害に使用するくらいなら、容易に考えつく。

唯一の頼みの綱である、Gキャストとジム・キャノン2の火力線に囮として自ら率先して突っ込んでいく。

 

ただ、ジオン残党の数は雲霞の如く、数倍の敵を相手に武装無くして長時間の戦闘など、何方が先に息切れを起こすのかなど、明らかだ。

次第に包囲されていく部隊、時折トロイホースからメガ粒子砲が飛んでくるが、それもモビルスーツを落とすほどの密度を形成するわけでもない。

 

唯一包囲を突き抜けるのは、アムロの駆るガンダムℵであるがそっちもそっちで問題がある。

いくら機動性を高めていようとも、多勢に無勢の味方の損害を0にする為には、些か武装が足りない。

 

正規の装備があれば余裕もあるだろうが、残念ながらここにあるのは模擬戦用の玩具でしかない。

敵コックピットを手刀で貫き、火器管制を逃れたジオンの兵器を簒奪して、それで応戦する。

 

だが、ジャイアントバズもザクマシンガンも、さほど火力が高いわけでもなく、ザクマシンガンが数発命中したとして、ザクも基礎耐久でそれを持ち堪えるし、ドムに至っては殆ど効かない。

 

一点に複数の弾を当てれば良いのだが、それでも弾数には限りがある。

どれだけアムロが優秀なパイロットであろうとも、彼は魔法を操る様なお伽噺の主人公ではないのだ。

 

対してジオン残党は、この一方的な展開に少しほくそ笑んでいた。

してやったりという者が大半の中、ジョバンニはその戦闘への疑念に苛まれていた。

果たしてこんな事が、ジオンの牽いてはスペースノイドの為になるのかと。

 

勇み足で戦いに参加したのは良いものの、自分は彼女の傍らにいた方が良かったのではないか?と、迷いの中ゲルググのビームライフルが、ガンダムを睨む。

引き金を引く寸前、ガンダムが跳ねるように回避しそのまま引き金を引いたにもかかわらず、それは見事に逸れていく。 

 

ジョバンニはその光景に目を見開き、連邦軍の宣伝が決して嘘ではないということを確信したが、もうそれを気が付いた頃には手遅れだった。

 

ビービービー

 

というロックオンアラート共に、連邦軍の新手が現れたのだ。

よく見慣れた、連邦軍のコロニー駐留軍の装備をしたその部隊は、しかし卓越した機動で包囲下にあるトロイホース隊を助けるべく突貫してくる。

 

急いで迎撃しようとするが、悪寒が背中を駆け巡る。

 

反射的にフットペダルを思い切り踏み込むと、ものの見事にビームライフルが断ち切られている。

それを確認するに、ザクのトマホークがガンダムから放たれ、ビームライフルを断ち切ったのだと理解するのには時間はかからなかった。

 

と同時に、自らとガンダムのパイロットの圧倒的な力量差を前にして、彼は恐怖した。

そう……、彼は死を恐れたのだ。

本当に今更になって怖くなってしまった。でも、ここで止まれば結局のところ、テロリストとして極刑は免れず生き残れば、彼女へと被害は向くだろう。

 

それはなんとか避けなければならない、どうしてもここで死ななければならないのだ。

しかし、どうしてか彼の指先は震え冷や汗が額を濡らした。

 

 

 

スカーレット隊の到着によって、戦況は劇的に変化した。

まず一番大きかったことは、アムロにスカーレット隊が所持していたビーム・ガンが渡ったことだろう。

ビームライフルよりも射程が短いとはいえ、決して近距離での破壊力が劣るわけではない。

 

ガンダムがそれを手にした瞬間、敵は次々と落とされていく。

1射1殺と言わんばかりに、キルカウントを増やしていく。

第二にスカーレット隊の奮戦は並大抵ではなく、彼等の強襲によって、トロイホース隊は解囲され受け渡された兵装により、反撃が加速する。

 

数の上ではそれでもジオン残党の方が多いが、彼等には残念なことに、スーパーエースは存在しなかった。

いや、いたところでアムロと戦わば大抵の相手は討死する事だろう。

それでも被害は少なく済んだかもしれない。

 

余裕が一転恐怖に駆られる彼等は、成す術なくただ狩られる側へと変化していく。

次第に数を減らす彼らのなかにあって、唯一の希望はゲルググを持っていたジョバンニであった。

 

「貧乏くじか…身から出た錆だな。」

 

彼はそう口にすると、ゲルググのビーム・ナギナタを展開して突貫する。狙いはただ一つ、見なれた機体。

連邦軍の象徴にして、この戦場の最中でなお戦場を踏みとどまらせた、まさしく英雄的機体…。

だからこそ、試してみたかった…。今自分がどれだけの力を振り絞ることが出来るのかと。

 

多方向から迫る攻撃の嵐を掻い潜り、ゲルググは加速していく。まるでぶつけに行くかのように、自爆プログラムを作動させ声を荒げた。

 

「ジオン公国!バンザ〜〜イ!!」

 

彼の瞳の先には、そんな顔も知らない思想家などではなく。ただ愛して彼女のその微笑みだけが映る。

ゆっくりと流れる時間のさなか、いつの間にかガンダムが左腕にビームサーベルを握りしめ、ナギナタを見事に潜り抜けシステムの中枢、コックピット目掛けて左腕のみを突きこむ。

 

それは吸い込まれるようにコックピットに叩き込まれ、ジョバンニの身体は一瞬の熱に滑られるも、直ぐにその意識は宇宙に霧散した。

 

と、同時にゲルググの自爆プログラムが作動するも、ガンダムはそれを見越してか直ぐに機体を蹴落とし、そこから離れていく。

 

 

その光景を、アルは一途始終を目に焼き付けていた。

一体どれだけの人が、今ここで亡くなったのだろうか?それぞれの人には、それぞれの人の物語があって、きっとバーニィの様に優しかったり、お調子者だったり臆病だったり……するのだろうか?

 

誰も彼もが、一握りの小さな命を掛けてこんな無駄な事に対して命を張って、それでも何かをなそうとしたかのように、ただ一つ一つが光となって溶けていく。

その中に一体どれほどの喧騒があり、憎しみが喜びがあったのか、アルにはわからない。けれど、けれどね?生きていたということを記し人がいた方が、きっとその人も報われるのではないだろうか?

 

あの亡くなっていくジオンの兵隊たちも、きっと何処かで生きたい生きたいってそう思っているかもしれない。

アルは、ただそれを目に焼き付けることしか出来ないが、それでも何もしないよりはマシだと思った。

 

いつの間にか、彼は恐怖に震えるドロレスの手をしっかりと握りしめながら、その光景を見ていた。

 

 

そんなアルとは対照的に、アマテは医務室に横になっていた。急激な頭痛と吐き気、そして何より人の死というその現象が、彼女を蝕んだ。

それは単に彼女の心が弱いだとかそういう問題ではない、普通の人間であるならばそんなものに耐えられるわけがない。

 

彼女の見ている世界を知っている人間など、この世界にはきっと数えられる程度しかいないのではないか?そう彼女は思えてならない。

 

しかし、そんな彼女と似たような感覚を持っている彼は、あまりにも鮮烈に戦っている。

それは、決して彼女が弱いということではない。それは至って普通のことで、だから逆に彼の異質さは語るまでもない。

 

そして同時に悟ったのだ、彼は決して折れない。そしてその固い決意を、真似できる人間などそうそういない。

そして自分は、そんな彼とは違う。だからこそ、自分の生きる道は自分で生きるのだと、何ものにも縛られないと言う彼女の硬い決意の誕生であった。

 

 

数分後世界は再び静寂さを取り戻し、ただ幾つかの残骸を残すだけで平和へと回帰する。

 

スカーレット隊の活躍と、トロイホース隊の奮闘が功を奏し、今回のこの騒動の被害は、その殆どがジオン残党のものであり、連邦軍側の戦力は殆ど軽微なまま。実質、連邦側の勝利という形となった。

 

ただ、この騒動の話はこれだけで終わりではない。

最大の問題はこの騒動の前の、アムロ・レイ彼の会話の内容であった。

 

 

 

〜同日・ジャブロー

 

 

ジャブローの司令室、普段は何一つ使われず埃の被っていたはずのその一室で複数名の将官が椅子に座り、一人の男を待ち侘びていた。

防音のよく聞いた部屋、中の声はきっと外に漏れることはない、しかし誰も一言も発してはいなかった。

 

その時、扉が開き一人の将官が現れた。

 

カッカッカッ

 

という音が響き渡り、その男が悠然と自分の椅子へと歩いていく。固唾を飲み込む音が、空気を重く圧する。

 

理想的な軍人とは全くと言っていいほどにかけ離れた、その太った体躯、しかしその襟首には大将を表す星が燦然と輝いていた。

その男がゆっくりと椅子に座り…話を始めた。

 

「さて、遅れて済まないな。しかし、こんな事で私を呼び出すとは思いもしなかったよ。」

 

「ゴップ元帥、それはこちらの話ですな。この話真実であるならば、連邦軍としてはきちんと対処しなければならない。」

 

皺くちゃで頑ななその顔を顰めながら、ジーン・コリニー大将は自らと同じ格を持っているゴップに対して、あるものを突きつけた。

それは同日、行われたというサイド6での事である。

たった一人のパイロットの独白、それもスペースノイドに対して、まるで有利になるかのようなそんな会話文。

 

それの内容を、ゴップは既に知っているが、特段気にした素振りもなく、ただ平然としている。

まるで当然のものもを見ているかのように。

 

「これに何か、問題となるような事があるかな?所詮は1兵士の戯れに過ぎない。

何よりだ、政治的信条を彼のような年齢で確固たる信念のもとに持つことは、別に悪いことではないだろう?

それとも何かね、君達は彼の言う事に何か不満があると…?」

 

ゴップのその問いかけは、一見すれば真っ当であるが多方危険も孕んでいた。

 

元来文民統制というものは、現役軍人の政治への横槍を防ぐためのものだ。最も、地球連邦ではそれは殆ど行われず、現役武官が普通に政治に参加しているのだが…、それは将官に限った事である。

 

「ああ、確かに貴方の言う事は正しい。ただな、これではスペースノイドは増長し、新たなる火種を生み出す根源に成りかねない。保護者である君にも、そうなった場合の責任はついて回る。」

 

「わかっているよ?まさか、私が何も知らずに、彼に力を貸しているとでも思っているのかな?」

 

嘲笑うように、ゴップはそう言う。ここに彼等が来ている事も全て、彼の掌のうえでの出来事であるかのようだ。

実際、アムロの動きを見ていてゴップはこのようになる可能性を0だとは考えていなかった。

 

汎ゆる可能性を吟味して、様々な物を大局的に見る。からはいつもそうしてきた。

 

ジオン・ダイクンの直系の娘だったり、ニュータイプだったりと、そんな者が現れたとしても、彼の地盤は揺るがない。

唯一揺らぐとすれば寧ろ、ジオン・ダイクンの娘だとか1兵士の話などよりも、よっぽどブライト・ノアの伴侶。

 

ミライ・ノアの方が強烈である。

 

それ故に、彼は余裕綽々と言った表情で目の前に座る将官達に、笑みを浮かべながら、その蝦蟇の様なその口を大いに動かし、鞭撻に説き伏せた。

誰も彼に対して、政治では勝てないのだ。

 

 




誤字、感想、評価、等よろしくお願いします。


新しい戦記物を書き始めました。
https://syosetu.org/novel/397335/
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