〜0083年4月3日
戦闘終了後、速やかに地球連邦軍サイド6駐留軍の本隊が、駆けつけ、事態の収拾に奔走した。
彼等が駆けつけた頃は、戦闘終了から大凡6分程。
本来即応部隊である、グレイファントムの部隊が戦闘行動を速やかに行っていたことから、初動は決して遅いものではなかった。
しかし、サイド6内部に残存するジオン残党の姿が明らかになったとき、住民の怒りの矛先は、戦闘が起こる原因を作り出した連邦軍の方へと向いてしまっていた。
連邦軍自体には、なんの落ち度もない。寧ろ、あんな奇襲的な物事に対して、サイド6の自治権を尊重しながらも、なんとか対応してみせた事に、自信を持ったほうがいい。
しかし、一般市民にしてみれば、こんな軍事行動まがいな物事をやるから、ジオンの過激派が浮き出るのだと猛反発が起きていた。
この件に関して勘違いしてはならない事は、本来このようなテロ組織に対しては、自治権を持つサイド6側こそ積極的に取り締まらなければならないものなのだ。
自治権というものは、地球連邦に対しておんぶに抱っこで全てを管理されているわけではない。
必要最低限、自身の身は自分で守ることが出来なければ、自治権を話す権利すら無いことを理解しなければならない。
それを、サイド6の住民は理解しているのだろうか?連邦軍を非難するならば、まずは自分たちを顧みる事を、それを拒んではいないだろうか…?
さて、政治向きの話はこれくらいしてこの戦闘において巻き込まれた者達。
即ち、グレイファントムやトロイホースに乗艦して艦内見学を行っていた人々に関しては、充分な健康被害に対処する為に、一旦のところ、軍病院の方で重点的に検査が行われていた。
特に体調不良を訴えた人物に対しては、精神鑑定も含め汎ゆる検査を行い不調の原因を調べたのだ。
戦争後PTSDを患うのは、決して軍人ばかりではない。寧ろ慣れていない状況にいきなり放り出された民間人は、余計に発症のリスクがあるのだから。
そんな一般市民のうちの一人である、アマテ・ユズリハもまた軍病院へと強制入院させられていた。
アマテにとって、病院というものはあまり馴染み深いものではない。
例えばそう、コロニー内で風邪が流行っているだとかそういう時くらいにしか、お世話になることは殆どない。
そもそも地球上とは違い、コロニー内部は検疫がしっかりとなされていて、基本的な感染症への対策としてワクチンの接種が基本義務付けられている。
特に大規模な感染症でも起こってしまえば、出口のないコロニーはパンデミックへと陥って、死屍累々となる事は確実だろう。
そうならない為にも、スラムの住人ですらそう言った物を接種していない人間は殆どいない。
だから、本当に病院の世話になる人間は重篤な患者や、骨折等の外傷者が殆どである。
そんな珍しい場所に、まさか自分が入院する羽目になるとは、彼女も思っても見なかった。
特に、入院すると聞いた時の母であるタマキの慌てぶりは笑えない物があった。
血相を変えてて、アマテの事を本当に気にして安堵している姿を見ると、自分が充分に愛されているということを、充分に理解出来てしまう。
それだけに、少しだけ申し訳ないところもあったのだ。
しかし…、入院すると言っても何かするわけでもなく、ある程度の検査をしたら普通は通された部屋で大人しくしていることが殆どだという事らしいが、アマテへの対応は少し違う物があった。
「本当なの?彼女がニュータイプかもしれないって…?」
疲れた顔をしたクリスに、トロイホースの医務長が軍病院の医療スタッフに混じりながら彼女に伝えたのだ。
本当であれば、これらの物事は艦長であるブライトや副艦長であるガディの受けるべき仕事だろうが、生憎2人とも書類仕事に忙殺している。
そして、ニュータイプと言えばアムロこそが適任だと思われるが、彼もまたクリスがかなり疲弊していることを気にしてか、彼女の書類を引ったくってさっさと仕事を始めていた。
クリスは自身の体力は人並み以上にある事を自負していたが、戦闘時の疲弊は並大抵のものではない。
特に、味方を誤射しないように、乱戦の最中照準を着けて敵を狙撃していたところが、精神的にストレスとなっている。
確かに疲れは溜まっていたが、アムロが一番疲れているはずなのに、彼はケロッとしているのだから、慣れというものは恐ろしい。
他の隊員同様、休養を言い渡され彼女は非番となっていたところに、お鉢が回ってきたということだ。
「この波形はわかるだろう?検査の為に艦内でメディカルチェックした時に、偶然見つけたのさ。アムロ中尉のそれと、クスコ少尉のそれに良くにていて、尚且つ…強化人間のそれとも酷似している。
彼女は、戦闘を見ていて気持ち悪くなったと言っていたが、アレは半分真実で、半分嘘だとすぐに分かったよ。
何せ、脈拍が速くなったのは、戦闘後特に顕著だったからね。」
「だとしても、そんな物を発見して何になるの?あんな娘を連れ去って人体実験でもするつもり?」
クリスの眼の前にいる男は、嘗てオーガスタスでニュータイプ研究を手伝っていた経緯を持つ。
率直に言えば、かなりマッドな方向性を持っていてもおかしくはないのだ。
「私とて分別というものはある………。ただ、やはりな?サンプルは多い方が何かと役に立つというかだね…?」
「それとこれのは全くの別問題よ!貴方みたいなマッドサイエンティストがいるから、ニュータイプ用の兵器みたいな物を作って、世の中に誤解を拡げるのよ?
私達だって、本当はサイコミュなんてものを、ℵに搭載したくなんてないのに。」
ニュータイプというものの価値を、その姿を確定させてしまったのは、他でもないアムロとララァである。
その二人が、ニュータイプというものが兵士として、如何に都合が良い存在であるのかと、連邦もジオンもその本質を歪めた。
だから、己の撒いた種をなんとか摘もうとしているのが、今のアムロにできる贖罪であり、同時に限界である。
クリスはその手伝いをしているに過ぎないが、どうしても軍というものは予算が降りるものは大抵、効率の良い兵器のことばかりである。
「とりあえず、証拠は消してちょうだい?出来るわよね?」
「わかりましたよ……、もったいない。」
それを消したことを確認した後、クリスはその部屋を出て件の人物。アマテ・ユズリハの元へと足を運んだ。
「失礼します。」
一般病棟とは違う、少し離れたところにある隔離病棟。
所謂個室と呼ばれるここは、本来であれば重病人に割り当てられる場所だ。
コロニー故に、そういった施設は少ないが、少なくとも肉体は健常である彼女がここに入れられているのは、監視以外の何物でもない。
「はじめまして、貴女がアマテ・ユズリハさんね?お加減はいかが?」
純朴そうな少女を目の前にして、果たしてクリスはその印象を見るに、アムロほどの鮮烈さは感じなかった。
そもそも、アムロ・レイはニュータイプとしてもかなり異端と言えるだろう。
寧ろ普通に生活していれば、この目の前の少女のように何も知らずに済んでいたかも知れない。
「お姉さん、パイロットの人でしょ。病院なのに、こんなところに来るなんて…。私、捕まっちゃうの?」
からかっている風には見えないが、怯えている風にも思えない。寧ろ、彼女は何処となくクリスを信頼しているのような、そんな雰囲気だ。
「捕まったりなんかしないわ、もう少し検査が済めば直ぐにお家に帰れるから、それまで我慢して。ね?」
「ふぅん。ねぇねぇ、モビルスーツを操縦するってどんな気持ち?」
突然であった。まだ初対面である筈の人間に、ズケズケと質問を投げかけてくる。まるでデリカシーが無い。
「どうって……、でもそうねぇ。自分が皆を守れる様になるって気持ちが強くなるっていうのかな?」
「ふぅん。でもさ、あの人達のことは護れないんだよね。」
彼女の言うあの人達というものが、誰を指しているのかと、クリスにも理解出来ていた。
が、それ故にその言葉がチクリと胸を刺す。
「アレはあの人達の選択よ、だから…もうああなってしまったら、どうしょうもないの。」
「そうなんだろうねぇ。でもさ、皆誰かの事を考えて亡くなっていったよ。それってさ、可哀想な事だよね。」
純粋だった、それ故に危険性を孕んでいる。純粋という事はつまり、染まりやすいということだった。
何か危険なことに好奇心で突っ走る、そんな危うい側面もある。それはクリスとて、若い頃に経験がある。
特に、連邦軍に入隊して皆を護りたい、なんて言う青臭い言い訳を持っていた彼女にとっても、とても眩しいものだった。
「そうね…。」
だからだろうか、真摯に向き合おうとした。
「私たちにも落ち度があるかもしれない。あの人たちがどうしてそこまで追い詰められなければならなかったのか?連邦がどんな動きをすれば、彼らも護れたのか。それは私たちの課題なの。
だから、それ以上は言えない。」
クリスのその言葉を聞いて、アマテは少しニンマリとした。その笑顔が何なのか、クリスには理解し難かった。
クリスが病院へと赴いている頃、アムロは手早く書類仕事を終えると、一人の少年のもとを訪れていた。
それは、副艦長であるガディ大尉からの言付けであるが、曰く。
『この少年にはとても良いものを感じるから、是非とも君の手で口説き落としてくれまいか?』
ということである。
ようは、彼の行動がとても肝が据わっていて、尚且つ良く物事を観察している姿を見て、とても気に入った。
だから地球連邦軍にスカウトできないか?ということである。
アムロが会う少年の名は、アルフレッド・イズルハ。
艦橋にいた一般人の中で、誰よりも冷静に誰よりも情報を分析出来ていた人である。
共に似た髪型の2人は、サイド6リボーコロニーのとある広場の下にその少年の姿はあった。
「すまない、気を遣わせてくれたみたいだね。」
「別に大丈夫ですよ。こっちだっていろいろ立て込んでて、学校が休校になったんです。暇だったし。」
どうやら一人のようであった。
普通この年齢の子であれば、誰か連れと一緒に遊んでいてもおかしくはないのだが、何処か大人びている。
いや、大人にならなければならなかったのか?と、アムロは直感した。
「単刀直入に言うけれど、地球連邦軍の士官学校の課程に進んでみる気はないか?ということなんだが、君はたぶん進まないんだろうな。」
「どうしてそう思うんです?」
アルはベンチに座り、横に腰掛けたアムロに対して問いた。
対するアムロは上を見ながら、コロニーの外を眺めている。
「君は迷ってるんだ。誰かに……、いやいろんな事を皆に隠してる。どれもこれもが、皆が、荒唐無稽に思えるようなそんな事実を……、こんなところかい?」
その言葉に、信じられないものを見たかのように目を見開くが、次第にその瞳も、力を失っていった。
「だとして、それがどうして僕が連邦軍に入らないという選択をとると思うんです?」
「それはそうだろう?君はたぶん、マッケンジー大尉絡みの事が、重点的に気になっているんだ。
話すべきか、それとも隠し通すべきか?それが、君を連邦軍から遠ざける。
正義とか悪とか、そんな物を超え先の何かを君は見てしまっているから。」
アムロのその言葉は、非常に曖昧でとてもではないが、説明としては良くないものである。
しかし、アルはその言葉に納得を示した。隠し通せる相手ではないと。
「貴方になら、秘密を話して良いかもしれない。たぶんもう色々と知ってるんでしょう?」
「知らないさ。ニュータイプは決してエスパーなんかじゃない、こうやって何かを相手に伝えたいときは、話すしかないからね。」
その言葉を聞いて、彼はポツポツと一言一言話し始めた。
戦争の終わり頃の話。
籠の外より来た、戦争と一人の青年兵士との出会い。そして、別れを…。
アムロはその言葉を聞いて、彼は良い人間になる事を確信した。
「君はジャーナリストに向いてるんじゃないか?いろんな事を聞いて、見て自分で考える力がある。
だからそうだな…、学校を卒業してもし何か縁があるのなら…この人を頼ってみて。」
アムロはポケットから1枚の名刺を取り出すと、アルに手渡す。その人物の名前と、連絡先が記載されている。
「良かったら数年おきに、君のところに届けるよ。彼は風来みたいなものだからね。
それと、もし彼女に全てを打ち明ける気になったら、思い切り言うことだ。
人は一瞬は弱いけれど、なんとなく理解していると思うからね。」
アムロはそう言って彼のそばから離れて行った。
その後ろ姿は、決して語られる英雄のそれではなく。寧ろ、アルは自分と同じように、何かを背負っているようにそう思えていた。