白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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第56話

0083年 4月上旬

セイラがシーマの下へと向かう、ちょうど5日程前の事、様々な問題に直面したトロイホースと、その乗組員達はいよいよもって、サイド6からの出航の日が近づいていた。

 

その日、クリスは実家での荷造りを始め、その手伝いをするというアルと共に、エレカへと荷物を運んでいた。

 

「よいしょっと、これで全部ね。ありがとうね、アル。そうだ!お礼にお茶でも飲まない?

お菓子も余ってるし、今日は雨も降らない予定でしょ?」

 

「ありがとうクリス…、でも盗まれたりしない?」

 

ジュニアハイスクールに通う彼は、先の出来事からサイド6内が俄に騒がしく動いている事を、ミリオタと言う人種であるが故によく理解していた。

 

「大丈夫大丈夫!アレは別に取られても困らないものだから、大事なものはもう船にあるしね!」

 

「なら……良いんだけどさ。」

 

再びクリスの家の中へと戻っていく2人、お茶菓子と紅茶が出てくるのは、クリスの家では当たり前である。

ベリークッキーの味は、素朴で寧ろ風味良く別れを惜しむには、少し甘味が足りない。

 

「ねぇクリス、クリスはさ…なんで連邦軍を続けてるの?」

 

アルは聞きたかった。あんな機体を操縦して、色々な仕事をして、そして戦いに巻き込まれて、いつ死ぬとも分からない。

そんな仕事を続ける彼女に、疑問を投げかけた。

 

嘗ては、このコロニーが襲われたらどうするかと聞き、一人になりたくないから戦うと返した彼女が、今度は何故今も尚続けているのかと気になったということもある。

 

彼女は殆どが地上勤務で、守るべき両親は宇宙に居る。にも関わらず、彼女は今も連邦軍に居るのだ。

 

「また、難しい質問ね。う〜ん、そうねぇ。

例えばさ、昔一緒に働いていた人のソレこそ息子さんがいるとするでしょ?

勿論その子には直接の面識はないし、深い関係もない。その働いていた人が突然、いなくなってしまいました。その子は、孤独に闘っています

そうなった時、アルならどうする?」

 

逆に質問を返されて、アルは暫く考えた。恐らくはこの話は殆どが真実なのだろうと、ではその人が誰なのかと…。

 

「それって実話?」

 

「そこはノーコメント。」

 

やはりそうだ。だとすれば、その子の名前も自ずと見える。アムロ・レイの事なのだろう。

クリスは、昔ガンダムのテストパイロットだった。

アルはその事を良く知っている。

あの日見たことを、忘れた事など片時もない。

 

「僕だったら…、助けたいと思う。」

 

「そう…、良かった。私もね?助けたいって、そう思ったのよ。

勿論、その子には恋人もいたし支えてくれる仲間もいた。

けどね、とても頑張り屋なんだけれど、何処か足りない部分もあるの。

そう言うのを、昔の恩返しとして私は返しているって訳。」

 

「それが終わったら?」

 

アルは間髪入れずに問うた。 

 

「終わったら終わったで、その時はまた自分で考えるんじゃないかなぁ。

だってそうなったときくらいしか、考えないでしょ?」

 

「確かに…そうだけれど。」

 

アルは後悔の中に生きている自分を、その言葉に重ねた。果たして自分は、バーニィと同じ事を誰かにしてあげられるだろうか?

ただ、皆には出来ないかもしれない。では1人に対しては?

 

「さてと…そろそろ行かないとね。」

 

グイッと紅茶を飲み干す彼女の姿が目に写り、立ち上がって後ろを振り向こうとする。

 

「クリス……、クリスに話さなくちゃならないことがあるんだ。」

 

いつ会えるのか分からない、もしかしたらもう二度と会うことは出来なくなるかもしれない。

あんな戦いとかが有れば、きっと彼女が帰って来なくなる事だって有るだろう。

なら……、少しでもいい勇気を振り絞るべきだ。

 

「バーニィの事で…、話があるんだ。」

 

バーニィ、その名前を聞いたクリスはゆっくりと振り返る。その顔には無意識に期待の色があった。

 

「ええ?あの人と連絡取れたんだ…元気にしてるの?」

 

「それがね…クリス、もうバーニィとは二度と会えないんだ。」

 

悲しげにするアルの姿を見て、クリスは察する。その姿は何処か、何時ぞやの戦争の時の友人を見ているようで…。

そう、親しい間柄の人が亡くなった時のそれだ。

 

「そう……、どうして?」

 

「バーニィは…、バーニィはもう…この世にいないんだ。

パイロットだったって話したろう?この前、一年戦争の死亡者リストが届いたんだ。そしたら…、そしたらそれにバーニィが載っていたんだ。」

 

遺族に対して送られる其れ等の手紙のうち、死亡者を特定するリストがある。

ただし、コレはアルの嘘であった。しかし、バーニィがいないことは真実なのだ。

 

「そう……、それは……残念ね。また、一緒にお茶したかったなぁ……。」

 

チクリと、クリスの胸に痛みが走る。

どうしてだろうか、胸が締め付けられる様に苦しく、それでいて悲しい。

ただ、いつかは必ずやってくる別れが、こんなにも唐突だなんて思わなかった。

 

「そう…、アルも辛かったのよね?ごめんなさいね、思い出させてしまって…。でも、どうして私に教えてくれるの?」

 

「だって…、また会いたいってあの時言ってたじゃないか。」

 

アルのその言葉に、地球へと戻らなければならなくなったあの日を思い出す。

 

「そう…、ありがとうね。でも、これで憂いは無くなったわ。

さあ、行きましょう?」

 

ただ、物事はアルの思い通りに行くほど甘くはない。

彼の想像は、きっとクリスも悲しんでくれるのではという、淡い期待があった。

 

しかし、そうはならなかった。

 

クリスは、いや戦場に戦争を当たり前のように生きて来た人間は、身近な人の死を感じすぎたあまり、残酷にもそれに適応し、彼女にしても同様の結果となっていた。

あまりにもサバサバとしたその返しに、アルは目を疑うしか無かった。

 

 

一方その頃、トロイホースの艦橋では、静かな緊張が漂っていた。

 

サイド6出航を目前に控え、乗組員たちは最終点検と進路確認に追われている。艦橋の中央モニターに、地球連邦軍本部からの暗号化された通達が届いた瞬間、ブライト・ノア艦長は眉をひそめた。

 

「進路変更……?」

 

ブライトは通信士から受け取ったデータを凝視し、声を低く抑えて読み上げる。

 

「地球低軌道上、ラプラス残骸付近への迂回航路……。理由は『特殊任務支援』。詳細は極秘扱い。出航後即時実行せよ、と。」

 

艦橋内が一瞬、静まり返った。乗組員たちの視線がブライトに集まる。

 

ブライトは苛立たしげにパッドを強く握りしめ、それを隠さずに呟く。

 

「特殊任務支援……? 今更何だ。サイド6から地球圏への直行ルートで問題ないはずだ。なぜわざわざ忘れられたデブリ帯を迂回させる? 連邦本部は一体何を考えているのか?」

 

彼の声には、明らかな不満が滲む。戦争終結から数年、トロイホースはもはや戦闘艦ではなく、輸送・支援任務を主とする艦であり、実験艦となっている。それなのに、突然の迂回命令は、乗組員の安全とスケジュールを脅かすものに他ならない。

 

 

「いい加減にしてもらいたいものだな。先のサイド3での一件と言い、航路も日程も大きく後ろにずれ込んでいるというのに。」

 

その時、艦橋の後方から静かな声が響いた。

 

「艦長……これは、おそらくセイラさんのためですよ。」

 

アムロ・レイだった。彼はモニターの端に寄りかかり、穏やかだが確信に満ちた視線をブライトに向けている。

 

ブライトは振り返り、驚きを隠せない。

 

「アムロ……お前は何か知っているのか?」

 

アムロは小さく頷く。

 

「いいえ、ですが突然の航路変更にそう言った心当たりがあるんです。特に…、ジオン関連で。」

 

艦橋の空気が変わった。乗組員たちが息を呑む。

 

ブライトは一瞬言葉を失い、ゆっくりとアムロに近づく。

 

「そんな危険なことを……なぜ君は黙っていた?」

 

アムロの表情は変わらない。静かに、しかし力強く答える。

 

「言えば反対するでしょう?危険すぎますし、それに言ったら言ったで、今度は色々と問題が発生する事もありましたから。」

 

「なら、俺くらいには相談くらいして欲しいものだな。そんなに信用がないか?」

 

ブライトは悲しげな顔をする。

しかし、それを見てアムロは悪気なく発した。

 

「信用しているから、後出しにするんですよ。だって、ブライトさんならわかってくれるでしょう?」

 

ブライトは一瞬、目を伏せた。やがて、苦笑を浮かべて肩をすくめる。

 

「……まったく。お前は昔から、そういうところがあるな。」

 

アムロは穏やかに頷き、視線を窓外の地球に向ける。

 

「艦長も、昔からみんなを信じてきました。だからこそ、僕たちはここまで来られたんです。」

 

ブライトは深く息を吐き、通信士に視線を移す。

 

「進路を修正する。……だが、もし何かあれば、即座にセイラを回収する。いいな?」

 

乗組員たちが頷く中、艦橋に再び静かな決意が満ちた。

 

 

 

 

 




風邪をひいたので今回はここまで……
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