白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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第57話

〜0083年4月下旬 宇宙 衛星軌道

 

元連邦首相官邸ラプラス、その傍らに居座る、ザンジバル改級リリー・マルレーン。

その直ぐ傍ら、カタパルトの開閉基部に丸々収まらない状態で係留されているコア・ブースター。

 

それを取り囲むかたちで、ゲルググMが2機周囲を警戒していた。

 

「たった一機の監視にしちゃあ、豪勢なもんだぜ。」

 

「言うなよ、用心…要人?なんだってよ。」

 

既に開閉基部は閉じられていて、外部から内部を窺い知ることは出来ない。しかし、モビルスーツ・ハンガーにはシーマを中心に、シーマ艦隊の幹部たちが顔を出していた。

 

手を上に上げながら、連邦の黄色いパイロットスーツに身を包んでいる者の正体。

それをシーマ以下、艦の幹部連中は警戒しつつもある意味では歓迎していた。

 

最も、パイロットスーツの相手の拳銃をとり上げて手を上に上げさせながら、銃を突きつけるという行為が、歓迎と言うならば恐らくは用心深いだけだろう。

 

「まさか、本当に一人で来るなんてとんだ馬鹿か…それとも。豪胆か?」

 

パイロットスーツにある胸に僅かな膨らみは、その人物が女である事を示している。

そして、それなりに身長は高いものの、シーマ達からすれば彼女はとても身長は低かった。

 

コロニーに住んでいる者たちの内、重力ブロックにしっかりと住んでいないと、成長過程で身長が良く伸びる。

だから、シーマ艦隊の面々は比較的身長が高いのだが、目の前のパイロットスーツの人物はその兆候がない。

しっかりと重力のある場所で育った証拠だ。

 

「顔を見せな。」

 

目の前に降り立った彼女の姿を一目見ようと、乗員は暇な者だけ集まり人集りが出来ている。

 

まず最初に、ヘルメットのカバーが外れると顔が覗く。美女と言う物がいるのなら、恐らくはこう言う顔をしているのだろうという、まるで人形のように端正な顔立ち。

そして、隙間からわずかに覗く金髪の艷やかなこと。

 

次にヘルメットを完全に外すと、その顔の全貌が現れる。

無重力と通風孔の風に靡くその髪は、金細工のように煌めくとお伽噺に出てくるようなそんな姿をした、聖女を思わせる。

 

ピュ〜〜

 

と誰かが口笛を吹く、その姿に感心したのだろう。

 

へへへ

 

と言う笑い声も何処からか流れてくるが、シーマのいる傍ら襲う訳にも行かない。

何より、そんな事をする奴等はこの艦にはいない。

元は低賃金労働者、しかし誠実に仕事をしていた者たちである。そんな事をしても、無意味だとよく理解していた。

 

「はじめまして、私はアルテイシア・ソム・ダイクンです。貴女が、シーマ・ガラハウ…。

連邦から戦犯と言われている人達を纏めている者達の、首領ですね?」

 

シーマの目の前に立つと、そう言って自己紹介と共に、煽り言葉を言い放った。

この状況、特に銃を突きつけられているにも関わらず、そういう事を言えるのは、とてもじゃないがまともな神経をしていない。誰もがそう思った。

 

「言うじゃないか、そうさ。私がこのリリー・マルレーンの艦長兼、シーマ艦隊を束ねるものさね。

しかし、ジオンのお姫様がノコノコと今更現れるなんて……、本当に本物かい?

 

良く言うじゃないか、アルテイシアとキャスバルは死んだってね。本国じゃ持ち切りだったよ?あんた等の葬式でね。」

 

煽るようにシーマが言うが、それを気にしていないかのように、アルテイシア…セイラはそれを涼しい顔で受け流す。

彼女にとってそれは、想定内の事なのだろう。

 

「そうですか、ではそれは間違いということです。

それよりも、こんなところで立ち話をするのは疲れませんこと?何処か、部屋に案内してくださるかしら?こちらは、貴女方の招待を受けた言わば来賓なのですよ?

それとも、客に対して椅子を貸す事も出来ないのですか?」

 

シーマの言葉に小言をチクチクと言うセイラの姿に、シーマは馬鹿らしくなったのか…

 

 

「ハハハハハハ、良いじゃないか。気に入ったよ、こっちに来な。」

 

と言って、自ら部屋に誘導する。

その姿を見て、群衆と化している要員に対してコッセル大尉は言い放った。

 

「おい、さっさと持ち場に戻れ!」

 

その言葉に蜘蛛の子を散らすように、各々の場所へと彼等は戻っていった。

 

セイラをエスコートするシーマ、その後ろを着いていくセイラ2人はひと言も喋らずに、艦内の空いている一室に止まった。

艦内は正直に言えば、あまり良い空気ではない。長い間、染み付いた汗と埃の臭いが僅かに漂っている。

セイラはそれに不快感を見せずに、扉が開くのを待った。

 

「入りな。」

 

シーマが扉を開け、2人でその中へと入る。

シーマは筋を通したのだろう、監視を置かずただ部屋のマイクスイッチを入れて、話を始めた。

 

「さて、何から話し始めようかねぇ。アンタの正体からなんてどうだい?」

 

「正体…ですか。良いでしょう。と言っても、私はアルテイシアであり、それ以上でもそれ以下でもありません。もちろん、もう一つの名前を言えと言われれば、セイラ・マスと答えますが。」

 

話をしているシーマの耳には、小型のイヤーホンが取り付けられている。

骨伝導で鼓膜を震わせるこれにより、外部からの言葉をフィードバックしようというのだ。

 

「案外正直ものなんだねぇ…それとも、ブラフかい?」

 

『セイラ・マス……出ました。テアボロ・マスの養子です。兄弟に、エドワウという兄がいます。』

 

「ブラフなもんですか、私もこれでも苦労して生きてきましたから。刺客に追われ、静かに暮らせず。ただ、私達を生かしてくれた方々には感謝しかありません。

兄の行方を聞こうとしても無駄ですよ、あの人は勝手に出ていって今頃、宇宙の何処かにいるはずですから。」

 

シーマが聞こうとしたことを、セイラは先手を打って答える。エドワウの事を出して、真偽を問えばやりやすいと思ったが、一筋縄では行かないとした。

 

「私は答えましたから、今度は貴女方の事について尋ねたい事があります。良いですね?」

 

「おやおや自分の立場をお忘れかい?」

 

「ええ、私は来賓です。それとも、まさか私を捕らえて利用しようとなさる?それだったら、貴女方のは根っからの悪党となるでしょうね。」

 

この部屋に隠されている監視カメラから、艦橋員は映像を見ていた。

 

「言ってくれるな……、艦長この感じたぶん全部お見通しって感じだ。心拍数も上がってない。」

 

『ほお……、そりゃ面白いことを言うねぇ。良いだろう。こちらも海兵隊としての意地ってものがあるからねぇ、何を聞きたい?』

 

シーマが問いかける。時間はそれ程用意されていない、さっさと話を始めたほうが良いだろうという判断もあった。

 

『ええ、そうね。では、一年戦争で貴女方が関わった汚れ仕事、それの全貌を教えてくださるかしら?』

 

セイラのその言葉に、モニター越しに彼等は息を呑んだ。

 

「良いだろう。教えてやるよ、アタシらが何を命じられ、何を為したのかを…。」

 

シーマは語る。

自分達の故郷マハルと、己等海兵隊が恵まれぬ産まれの者達で結成された所謂愚連隊である事。

嘗ては、それでも誇りを持って任務に従事しようとしていた事…。

そして…、戦時中の毒ガス事件、アサクラ大佐という直属の上司からの裏切り、ブリティッシュ作戦の顛末。

 

そして、ジオン本国だけでなく、多くの残党達からも忌み嫌われるという、過酷な運命。

それだけに飽き足らず、故郷であるマハルのソーラ・レイへの改造と、事実上の消滅。

帰る場所のない自分達の行く末等々、永遠と彼女は語った。

 

それを聞いて、セイラは顔を渋くした。

 

「貴女達も大変でらしたのね…。それを貴女は悔いている。純粋で何より実直なのね。」

 

「アタシが実直だって?そりゃ、笑える冗談だよ。実直なら、こんな事やってないだろう。」

 

シーマは手を拡げて自分を誇示する。それはセイラには、あまりにも滑稽に見えた。

 

「実直でなければ、貴女は自分の立場を理由に逃げ出す選択肢もあったはずです。それを投げ出さず、彼らと共に有ろうとする。それだけでも、貴女にアムロが何を感じたのか何となく理解出来ます。」

 

「そうやって、いつもいつも上から目線でアタシ等を扱き使った連中も、同じ様に答えた。

アンタも同じ人間かい?」

 

煽るようにシーマは顔を近づける。それに対して、セイラは決して目を逸らさずに、堂々と瞳を射貫いている。

 

「同じ様に見えるのならそうでしょうね、私は貴女を利用しようとしています。

どれほど高潔な理想を掲げようとも、力を持たなければ何を成すことも出来ない。

今、私が成そうとしていることは、時間が非常にかかることです。

是非とも、貴女方にもお力を借りたいと、そう申し上げておきます。」

 

暫くの間、ジッと見つめ合う二人であるが、先に音を上げたのはシーマの方であった。

 

「面白い女だねぇ、本心で言っているなら何か見返りでもあるって言うのかい?

ジオンの娘が、まさか連邦と裏で繋がっているとでも?」

 

「残念ながら、私はこれでも虜囚の身です。出来ることなら、貴女達の汚名を雪がせて上げたいものですが、如何せん私もそれ程自由が効く身ではないのです。」

 

正直な話なのだろうと、シーマはその瞳を見て思った。嘘つきならば、バツが悪いのなら目を逸らすだろう。

 

「だったら、なんだってあの男はアタシ等にこんな物を送りつけるんだい?」

 

「単に私と連絡を取ってほしかっただけだと思います。きっと、分かってくれる相手だと、私の為になる人達だと…そう判断したのだと…。そういうお節介なところも…ありますから。」

 

そう口にするセイラの口元は僅かに緩んでいる。要するに惚気ているのだろうと、シーマはそれを見て呆れた。

 

「連邦の英雄に恋するジオンのお姫様ねぇ……、ダイクン派の連中が聞いたら何ていうかねぇ?」

 

「地上にいる彼等には既に説明してあります。彼等もまた、贖罪をする気で私に着いてくると言ってくれましたから。

ですが、彼等が宇宙に上がるには未だ準備が足りない。

ですから、貴女方には私の宇宙での目になってほしい。」

 

その言葉に、イヤホンの奥も絶句していた。全くと言って良いほどに、シーマ艦隊に見返りがないのだ。

それでも……、不思議と嫌な感じがしていない。寧ろ、きっと嘘は言っていないという、そんな猜疑心に対抗を示す心が、彼らにもあったからだろう。

 

「おととい来な……、と言いたいところだが、アンタがこうやって宇宙に上がって来られている時点で、ある程度連邦にはコネが効くみたいだねぇ…。

後ろ盾には誰がいるんだい?」

 

「そこまでは明かせません。ですが、かなり強力な人との協力関係があるとは申し上げておきます。」

 

シーマはその言葉に対して思案し始める。このままジリジリと海賊を続けていても、ジリ貧である事に変わりはない。

時代が進めば進むほど、自分達の機体性能も直ぐに陳腐化するだろうことは目に見えている。

ならばと…賭けに出るのも悪くはない。

 

「連邦もジオンも信頼に値しない、アンタ自身のことも信じている訳じゃないけどね。

ただ、アンタのその言葉嫌いじゃない。正直者は良い目を見るべきだ。

何か在れば連絡してやる、それで便宜は図れるんだろう?」

 

シーマのその言葉に、セイラは僅かに微笑む。

 

「ええ、私の全力を持って出来るだけの事はします。」

 

張り付いたような笑顔であったが、それでもジオンのあのアサクラの顔なんかよりも、遥かに信頼できる。

 

「それとだ……、もう一つ良いかい?アサクラ大佐がいたら、アタシ等に引き渡しな。それが一番の条件だ。」

 

「ええ、それも覚えておきます。」

 

その言葉の後、2人は手を出し合い固く握り合った。

その後多少の他愛のない会話をすると、シーマは声を上げた。

 

「野郎ども、飲み物を持ってきな。少々荒っぽいが、アタシ等なりの、歓迎だよ。」

 

「ありがとう。喉渇いていましたから。」

 

2つのドリンクが運ばれてくる。2人はそれを互いに飲み合い…、少しの間の時間が流れる。

 

セイラは再びハンガーへと戻ると、ヘルメットを被り外へと飛び出して行った。

人間用のエアシャフトを出ると、ゲルググに警護されたコア・ブースターが、彼女を出迎える。

 

『迎えは誰が来るんだい?』

 

コア・ブースターに辿り着けば、シーマから無線が届きそれにセイラは答えた。

 

『貴女も良く知っている人よ。』

 

リリー・マルレーンの艦橋では、椅子に深く座っているシーマが遠ざかって行くコア・ブースターを見送っている。

 

「良いんですか、捕らえておいたほうがジオン側には顔になりますよ?」

 

コッセルがそういうも、シーマは扇子で手を叩きながら答えた。

 

「フッ…約束を破ってみろ。我々は、アサクラと同じ、汚物になってしまう。それだけは胸糞悪いのさ。」

 

シーマのその言葉に、皆が賛同した。どれだけ飢えようとも、あんな屑と同じ土俵に落ちたくはなかった。

 

「レーダーに感アリ、大型艦……、ペガサス級です。」

 

コア・ブースターの向かったその先には、一隻の白亜の艦艇の姿がある。

それに対してシーマは、静かにしかし確かに敬礼をしていた。

 

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