白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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旅立ち

 

クリスがアムロに士官学校を勧めてから24時間後、シャイアン基地にてアムロはクリスに対して決意を固めたことを通達した。

その事に対してクリスはやけに早い決断に舌を巻き、そして同時に、目の前の青年がどれだけの修羅場を潜り抜けてきたのかを、改めて思い知らされる事となった。

 

即断即決、その思考の速さは戦場においてはどれだけ必要であろうとも、身に付くものは稀である。

どの様な選択が用意されていて、どんな結末を迎えてしまうのか、そんな事を想像することに長けた人間ですら今後の人生に対して不安を覚えるはずである。

にも、関わらずその結論を出すのは余りにも早すぎた。

 

そして同時に、アムロを含めたホワイトベース隊がどれ程の選択に迫られていたのか、そしてその思考はどれだけの苦境であったのか。

どの様な環境でも耐えられる精神力を持っていたのか、彼等がどれだけ特別だったのかを示しているのだ。

 

「は、早いわね。もう少し悩むと思ったのだけれど…、そんな焦らなくても良いのよ?」

 

「問題ないです。どうせこんな生活が続くんですから、もっと生産的な生活をしたいと思うのは当たり前じゃないですか?それに、僕だけではあんな事考えもしませんでしたから…、ありがとうございます。」

 

そう言われてしまっては、クリスも引き下がることは出来ない。

 

さて、そんな事でアムロ・レイが地球連邦軍士官学校への入学を希望する事となったのだが、ここで一つの問題が生じた。

 

アムロは、高等教育を受けていない身であるというところだろう。

最低でもハイスクールを卒業し、優秀な成績を収めていなければ士官学校へと応募する資格を持てるものではない。

それは連邦軍以前、それこそ前身となった組織の中でも特に軍事力の大きかった合衆国、その構造を手本としたものであったからだ。

ただ、抜け道が無いと言うわけでもない。

 

士官学校への入学は、高等教育以外にも幾つかの道がある。その中で、アムロただ一つだけ道を通ることを許されている。

それは、現役武官である彼の身の上だからこその方策。将官、もしくは幹部つまりは佐官クラスからの推薦が必要となるところだろうか。

 

その唯一の道を行くために現役将校からの推薦状は必ず必要となるため、コレを如何にして手に入れるのかが問題となった。

 

無論のこと、クリスもその部分に対して考えていない訳でもない、まず一人からの推薦状は確定的に担保されている。

例えばそう、このシャイアン基地の基地司令。マッキンゼイ中佐からの推薦状である。

 

彼は元々は中央司令部に配属されていた人間であるが、先の大戦による人員移動と、これからの軍縮の波に備えてシャイアンへと左遷されてきたという経歴を持つ。

特別優秀という訳でもなく、平凡な佐官であり可もなく不可もない男である。

だが、そんな俗人である彼は出世欲が無いという訳でもなかった。

 

アムロからの士官学校への入学願い、それはそんな彼にとってのまたとないチャンスとなる。

アムロは、端的に言えば英雄だ。それも、連邦を勝利に導いた立役者、その一人である。戦略的価値は計り知れないし、彼がいなければ、モビルスーツ・ジムもあれ程の性能を示すことはなかった。

 

そんな彼であるが、正規の軍人であるかと言われれば、単なる現地徴用兵であって連邦の正規の訓練は受けている身ではない。

そういう意味では、彼という人間を扱う事は非常に難しいのだ。

 

何せ、いつ何処に配属されても必ず命令に従うような、そんな男ではないと言われているようなものだからだ。

最悪の場合、敵になるのではないか?という、そんな疑いもある。

だからこそ、シャイアンの様な戦略的価値の薄い基地に軟禁されているだが…、だからこそこれが活きる。

 

敵か味方か、それはさておきアムロ・レイという特異な存在が、地球連邦の士官になりたいと言われれば、それこそ良い広告塔になるだろう事は想像に難しくない。

そして、そんな彼を軍の犬に出来るチャンスを逃そうと思う者はそうそういない。

 

勿論使い勝手が悪くなるという者も中にはいるだろうが、それよりも今は連邦軍の予算が減らされるのを何とか防ぎたい時であるのだ。なら、その広告塔が自分で大手を振って現れてくれるのならと、それで推薦した人間の評価も上がる。

 

そういう意味で、マッキンゼイは両手を挙げてアムロの推薦状を書くだろう。

ここまではクリスの思惑だ。後は、マッキンゼイよりも上の立場の人間、其れ等からの推薦状を如何にして貰うかだ。

 

レビルが生きているならば、アムロが士官したら必ず推薦してくる事間違いないが、そんな人はこの世にはいない。

では、誰がいるかと言えば…ジャブローの連邦軍の長達の登場である。

 

「近頃、話題になっているそうですな…あのホワイトベースの少年が、ガンダムのパイロットが連邦軍に士官したいらしいですよ?」

 

ジャブローの地下司令部、その椅子に座る多くの将校達の中心にいるゴップは、そんな噂話をし始めた男…ワイアット少将の言葉に耳を傾けた。

 

無論、その噂話の出処もその内容もゴップは既に承知済みであり、静観する事を決めていた。

 

そんな話に周囲がざわつく中、ワイアットは話を続けた。

これからの連邦軍のあり方、そして戦いのあり方等持論を展開しつつ、自らがかの少年をいたく気に入っていることも。

 

「私は彼を支援しようと思っています。

同じ戦場を駆けた身ですし、何よりこれからの連邦軍には彼のような人間も必要でしょう。

所詮、我々はモビルスーツに関しては素人です。知見を入れるには、そう言った人事も必要だと…。」

 

その言葉に同調するのは、故レビルの同期たち。

 彼等もまたレビルの気に入らないところも、気に入るところもあるが、勝利の立役者には、相応に褒賞が必要だと考えてのことだった。

 

だが、敢えて言おうその言葉は上辺だけで、所詮は利益の為の餌だとワイアットは思っている。勿論そんなこと口に出すことはない。

 

しかし、彼は大局を観ることの出来る人間であるから、建前を大々的に言ってある人物を牽制していた。

 

ジーン・コリニー、所謂保守派と言われる人間である。

タカ派であるワイアットは、過激な行いもあるがそれこそ理性的な物である。

実利の為には何でもやる姿勢が、ワイアットであるならば、より堅実に悪く言えば固執した存在であるのがコリニーである。

 

それ故に、二人の仲は極めて悪い。

 

「だが、それは少年兵の徴用と何が違うというのか?連邦法を曲げてでも行う事か?」

 

「連邦法か、それこそ現役武官であるあの男は我々の手の内にある。ならば、向こうの意向を示してみせるのも、我々将校の務めではないか?」

 

連邦軍の席に座る者たち、そんな彼等の内輪揉めも見ている分には可愛いものだ。

ゴップは静観しつつ、この現象を引き起こした一人の女性士官、クリスチーナ・マッケンジーに対して高い評価を下した。

将来、どの様な将校になるのか楽しみであるように。

 

 

……

 

見知らぬ連邦軍の将官から信任状が届き、めでたくも士官学校への入学試験を受ける事が決定したアムロではあるが、当初はその迅速な動きに驚愕していた。

 

何せ彼は、まだまだ16歳の子供であり世間の大きさを知らない。そして、世界を取り巻く所謂派閥とか言うものの存在を。正直言って馬鹿らしい、内輪揉めをする為の組織という何とも本末転倒な、そんな様式の利点というものを理解しかねた。

 

「よいしょっと、コレでだいたい揃ったわね。筆記試験の対策は出来てるし、技能試験も君なら大丈夫でしょ。体力考査をやってみたけど、基準値以上だしね。」

 

「こんな簡単に物事が進んで良いんでしょうか?まるで、何か舞台の上で踊らされてるような、そんな気分です。」

 

「そんなんで良いのよ。ほら、主役はどれだけ大立ち回りしても、だいたいは許されるものよ?ね、セイラちゃん。」

 

「え?…まあ、そうね。ただ油断は禁物よ?どれだけ練習しても、本番でボロが出ては行けないわ。」

 

アムロの試験対策は着々と進み、遂にその時が訪れようとしていた。全世界の各大陸主要都市で開かれている、地球連邦軍の士官試験は、ここ北米大陸でも開かれる。

故に数日の間は、その場で暮らさなければならない。

幸いな事は、アムロは給金には困っておらず、その金を使って、ホテルを用意することが出来ることだ。

 

「懐かしいわ…、私も貴方くらいの時は1人で行ったものよ?コロニー在住だったから、あの時は不安でいっぱいだったけれど。あ、勿論試験はコロニーだったけれどね。

士官学校は地球にしか無かったから…、独りぼっち寂しいものだったわ。」

 

「そうなんですか…、じゃあ僕と同じですね。」

 

和気藹々とした日々も、終わりを迎えようとしている。

 

 

試験会場へは1人で赴き、そこで様々な試験を受ける。アムロは筆記試験を難なく突破し、直ぐに体力試験が始まる。

周囲からの奇異の目があったにせよ、彼は年齢以上の高い成績と身体能力を発揮し、結果としてそれは上位であった。

 

勿論、年齢差から来るアドバンテージがあったにせよ、彼の総合成績は上から数えて5番目ほどである。

周囲からは流石は英雄だと、そんな目で見られたりしたものの、そんなものは気にしなかった。

基本的に厄介なファンという感じで、不快感を感じない事からも気にしない風にしたのだ。

ただ……誰からも声をかけられないのだが。

 

「本物だよ、お前声かけろよ。」

 

「なんで、お前がかけろよ。」

 

何ていう声が聞こえてくるものの、やはりと言うか大衆は彼の事を特別扱いするのだ。仕方の無いことである。

何せ、画面の向こう側にいた人間で何より連邦軍の庇護下に置かれていた人々にとって、彼はヒーローなのだから。

 

……

 

そんな試験も終わり、結果の通知も簡潔に合格査定を頂いて、アムロ・レイは正式に連邦軍の軍人になる道を歩み始める。

そんな彼を推薦したクリスは勿論彼の事を信用していたが、一年戦争からの付き合いであるセイラは、彼の事が心配だった。

空港にまで着いてきた彼女は、別れを告げるに勇気を出した。

 

「アムロ、偶にでいいから連絡を頂戴ね?私、貴方のこと…」

 

「大丈夫です。心配してくれるのはうれしいですけれど、セイラさんの方こそ、身体に気を付けて。立派な医者になって、みんなの生命を救ってください。」

 

対面する2人は、酷く絵になる。大衆はその姿を何とも思っていない、ただ通り過ぎた。

見送りの為に空港へと馳せ参じたセイラ。

その光景を温かい目で見つめるクリスは、アムロとセイラの距離感を感じていた。

 

「ええ、ええ!必ず、私は医者になります。だからアムロも、立派になってらっしゃい?」

 

「はい…」

 

身長差の殆ど無い2人の影が重なる。

大衆の面前、空港内で行われる愛の交換。周囲は一瞬それに釘付けとなるが、2人は構わずに唇を重ね合わせる。

 

「ゔっうん……、そろそろ時間よ?」

 

「わかってます。クリスさんもお気をつけて。」

 

「大丈夫よ、それよりもきちんと片付けは心がけてね。」

 

その言葉に、アムロは敬礼で答え。

クリスもそれに軽く敬礼し、アムロはセイラに再び向き直ると

その手を取った。そしてその手の甲にキスをしながら、彼はくるりと背を向けると、もう振り向かなかった。

 

その去りゆく姿に、クリスは一つ決意した。

 

「私も頑張らなくっちゃね。」

 

その言葉は彼女の今の巣であるシャイアン基地をどうしようかという、そんな考えから出た言葉だった。

 

 

……

 

小さな公園がある。その周囲には住宅街があって、人の営みがあると言うことが良くわかる。

空には青が良くわかり、小鳥の囀りが響く。

 

そんな中を、子供たちが公園の中を駆けずり回りあるものは転び、ある者は泣き…そしてある者は砂場で城を創っている。

 

そんな中、場違いのように一人の青年がベンチに腰を掛けていた。少し丸っこい顔、身長もそれ程高くはないがそれでもその服装は、それなりに裕福な証なのだろう。

 

「よお!お待ちになったかい?ハヤトくん!」

 

「こんなところに呼び出して、なんだよ急に…。」

 

「イヤー悪いね、ちょこっと話をしたい気分でさ…、最近どうよ。」

 

そんな青年・ハヤトに話しかけるのは、少し柄の悪い顔をした少し面長のコレまた歳が近い青年だ。

何処となく気安い関係なのだろうか、2人は別に警戒し合うようなことをしていない。

 

「別に?悪くはないさ、ただちょっと」

 

「住みづらい、そう思ってんだろ?ま、しょうがないさこんな生活息が詰まるってもんだ。フラウちゃんとは上手くやってるんだろ?なら良いじゃねぇか、一時の幸せを噛み締めておけよ。」

 

「言われなくたって…、ってそうじゃなくて!何のようだって、そう聞いてるんだよ!カイさん!!」

 

「そう怒んなって…まあ、なんというかね…風の噂で聞いたんだがな?アムロがよ…、連邦の士官学校に入学するらしいって話だ。」

 

「なんですって!」

 

ハヤトはカイのその言葉に驚愕し、ベンチから立ち上がるとカイを見下ろすように吐いた。

それこそ信じられないと言った風に、それは彼がアムロの人柄を知っていたからだろう。

 

「それでよ……、色々と有るらしいんだが…聞くかってそんな話さ。」

 

「僕は良い、ただフラウには話してやってくれないか?アレでも、アムロの事を心配してるみたいだからさ。」

 

そういう彼等は、何者なのか?公園にいる人々には、あまり関係のない話であった。

 

 

 




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