白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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第64話

〜0079年12月30日 ソロモン〜ア・バオア・クー中間宙域

 

一瞬にして光が宇宙を駆けると、幾つもの火球が出現し宇宙を彩る花火のように咲き乱れた。

少しずつ時間が進むにつれて、光が終息すると共にその花火の花弁から多くの物が…零れ落ちていく。

 

ジリリリリリリリ

 

チカチカと灯る赤色灯、緊急事態が起きたのだと誰もが思い、艦内から外を見ようと乗り出している。

プカプカと浮かぶ、人であった筈の何か多くの人間が一瞬の内に蒸発したのだ。

 

「おい隊長!!何があったんだ!」

 

ベルナルド・モンシアは、何が起こったのか?と自らの所属する第四小隊の隊長であるサウス・バニングに問いかけた。

 

「分からん…、ただジオンにしてやられたと言うことだけは確かだ!!」

 

バニングは珍しく慌てていた…。いや状況の理解に四苦八苦していたといったほうが良い…。

連邦軍艦隊を襲ったものは何なのか?果たして何が起きたのか?事態の終息は?進軍は?戦闘はどうなるのか?

 

それだけを把握するのは至難を極めた。

 

「我々の艦は、第二艦隊第十三独立部隊を中心に再集結し、ア・バオア・クーへと向かうようだ。」

 

バニングのその言葉に、部隊員はもとより周囲の者たちは絶句した。それは、退路なき道であることを想像できたからである。

 

「俺たちゃ死にに行くのか?」

 

「いいや、それにしちゃあの艦の姿を見ろよ。」

 

損傷艦が応急修理を二個一、三個一になって行っている傍ら、変わらぬ姿でそこに有ったのは、他でもないホワイトベースであった。

その姿に、誰もが希望を見出そうとした。

彼奴等がいれば、勝てるかもしれない…。彼等は死兵となって、ア・バオア・クーへと突撃する覚悟を決めた。

 

 

 

 

そして、時は来たる。

 

ア・バオア・クー攻略戦、先陣を切るのはホワイトベース隊。モビルスーツ隊の最前列には、今や連邦軍の旗印とも言える大戦果を上げるモビルスーツ。

 

RX78-2 ガンダム

 

その姿があり、そのすぐ近くに2機のガンキャノン。

そして、制宙権を担わんと、コア・ブースターがそのノズルから、青白い尾を引く…。

 

元々Sフィールドに集結していた部隊は、壊滅に近い被害を受けたティアンム艦隊の残存兵力を、レビル大将麾下に再集結した精鋭艦隊であった。

その精鋭艦隊の内の生き残った者たちが、Sフィールドから雪崩込む。

 

ギレンは決して分からないだろう。

戦争とは数の戦いではあるが、決して数が多い正面が主攻勢方面とは限らない。

 

地球連邦軍にとって、Nフィールドは捨て駒でありSフィールドこそが本命である。

そんな本命の中で、第四小隊はホワイトベース隊の後ろにいたのだ。

 

ホワイトベース隊は、彼等は残存艦艇部隊の中でも特に、最精鋭部隊ともいえる。

このSフィールドの真正面の敵を引き付けるための、最高の戦力である。

 

第四小隊の面々も、その腕に自信が有った。だが、現実とは非情なものである。

 

ホワイトベース隊、その戦いは凄まじいものであった。

 

敵の大型モビルスーツのメガ粒子砲は、味方艦を次々に血祭りに上げるに対し、ガンダムがそれを引き付ける。

圧倒的火力を、まるで未来でも観ているかのように躱し、戦っているのだ。

 

それだけではない、ガンキャノンもコア・ブースターも宇宙を縦横無尽に駆け巡り、モビルスーツ大隊がア・バオア・クーに辿り着くまでの間、その血路を切り開いている。

 

結果、第四小隊の面々はそんな最中、敵の本拠点であるア・バオア・クーへと取り付いたのだ。

 

ア・バオア・クー地表の攻防は苛烈を極めた。

 

ア・バオア・クー攻防戦において、地球連邦軍のその損害は参加した戦艦・巡洋艦の約64%を喪失。投入されたジム等のMSのうち、約83%が未帰還となった。

 

その中でも、Sフィールドの損害は群を抜いて高く、生き残った部隊は、その戦果故に多くの勲章等を授与されている。

 

 

 

〜0083年11月5日

 

アルビオン艦橋での、作戦と戦闘行動の共有を行っている最中、ブリーフィングとして駆けつけた、アルビオンのモビルスーツ隊の隊員達は、その作戦行動に対して疑問を持っていた。

 

作戦での動きは大まかに以下の通りである。

 

―――

 

まず、トロイホース隊からアムロ機及びアルテイシア機が出撃、敵哨戒線を突破し、速やかに敵を混乱に陥れる。

 

その間に、他の部隊が開かれた活路を押し広げながら、敵を分断。

 

混乱する敵を、散々殲滅する。

 

―――

という流れのようである。

 

ただ、ここで一つ疑問が浮かんで来たのだ。今更であるが、流石にたった2機で敵中を突破し、混乱に陥れることが果たして出来るのだろうか?

 

二人に負担が集中しすぎている、もっと部隊を大規模に動かした方が良いのではないか?と…、概ねそのような意見が飛び交った。

 

「言いたいことは分かります。僕らも、色々と考えたんですけれど、やっぱりこの方法が一番動きやすいと…結論付けました。」

 

アムロがそういうと、周囲が2人を見る。

アムロ・レイ、その戦果は知らぬ者はいない伝説的な戦果の数々を挙げている人物である。

彼ならば或いは、可能なのかもしれない。

 

しかし、しかしだ。

アルテイシア・ソム・ダイクンに、果たしてそんな事が可能なのだろうか?

 

と…そんなところで一人が声を上げた。

 

「やれやれ、オタクら俺達を舐めてるのか?それとも、凄く舐めているのか?馬鹿にしてんじゃねぇぞ!!」

 

いきなりキレたのは、アルビオン隊のパイロットの一人ベルナルド・モンシアであった。

 

「俺達不死身の第四小隊は、確かに昔あんたらのホワイトベース隊に恩があると言えるが……。

あんたらの実力は、ア・バオア・クーで良く知っている。どれだけの死戦を潜り抜けて、どれだけの敵を相手に戦ってきたのかも…。

噂が眉唾なんじゃないかって?そういう連中も中には居るだろうが、俺たちはあんたらの動きをよく知っている。正直尊敬するよ、あんたたちの力には…、だがそれとこれとは話が別だ。」

 

モンシアが何を言いたいのか、それは当然彼の目の前にいるアルテイシアに向けての言葉であった。

 

 

「俺はな……、スペースノイドが、特にジオンの人間が大嫌いでね?

スペースノイドが何をしてどうしようが別にどうでも良いが、アンタ等がジオンの人間だってだけで、俺は信用できないね。

 

大尉もアデルもベイトも…よく知っているでしょう?あの日あの時、ジオンが和平に現れた直後、良いタイミングでコロニーレーザーが照射された。

地上で水爆を使おうとした事は、まあ現場のやり取りなんかだろうと…当時は思っていたよ。

だがな、あんな騙し討ちをするような連中を信じろと?

 

アムロ・レイ、君が凄いのはよく知っている。

だが、ジオンだけは信じられねぇ!!」

 

モンシアの怒号が、ブリーフィング・ルームの空気を凍りつかせた。

それは単なる反抗心や差別意識ではない。死線を潜り抜けた者だけが抱える、拭い去れないトラウマと、散っていった戦友への慟哭だった。

 

ソーラ・レイ

 

あの光が、デギン公王ごとレビル将軍を、そして第4小隊の仲間たちを含む多くの連邦将兵を蒸発させた瞬間。

和平の可能性すらも焼き払った「ジオンの卑劣さ」は、モンシアの心に焼き付いて離れない呪いとなっていたのだ。

 

「……モンシア中尉」

 

沈黙を破ったのは、糾弾された当事者であるセイラ・マス――アルテイシア・ソム・ダイクンだった。

彼女は、モンシアの射るような敵意から目を逸らすことなく、一歩前へと踏み出した。

 

「貴方の仰ることは、もっともです。あの光で多くの命が失われました。……信じろと言う方が無理な話でしょう」

 

「はん! 分かってるなら……」

 

「ですが!」

 

セイラの凛とした声が、モンシアの言葉を遮った。

その瞳には、恐怖も、憐れみもなかった。ただ、蒼い炎のような覚悟だけが宿っていた。

 

「だからこそ、私はここにいるのです。

父の名を騙り、ザビ家の亡霊に縋り、あのような悲劇を再び繰り返そうとする者たち……『ジオン』という名の呪いを、私自身の手で葬り去るために」

 

セイラは、モンシアを真っ直ぐに見据え、言葉を継いだ。

「貴方が信じられないのは『ジオンの人間』としての私でしょう。それは甘んじて受け入れます。

ですが、モンシア中尉。貴方はア・バオア・クーで見たはずです。

あの地獄のようなSフィールドで、ガンダムと共に血路を切り開いたコア・ブースターを。……あれに乗っていたのは、私です」

 

「……なんだと?」

 

モンシアが息を呑む。

彼の脳裏に、0079年の記憶が蘇る。圧倒的な敵の弾幕の中、青白い尾を引いて戦場を駆け巡り、友軍の盾となり矛となっていた航空機の姿。

あれが、目の前の「お姫様」だったというのか。

 

「私は、あの日から一度も降りてはいません。

……もし、戦場で私が裏切るような素振りを見せたら、迷わず後ろから撃ちなさい。背中は預けます。それが、私の覚悟です」

 

室内に、再び静寂が訪れた。

だが、先ほどまでの冷たい空気とは違う。重苦しくも、熱を帯びた緊張感がそこにはあった。

 

「……おいおい、後ろから撃てだなんて、とんでもねぇお姫様だ」

 

モンシアは毒気を抜かれたように、頭をガシガシと掻いた。

彼の怒りが消えたわけではない。だが、目の前の女が、ただ守られるだけの存在ではないこと、そして自分たちと同じ「地獄」を見てきた人間であることは、認めざるを得なかった。

そして、そんな2人を見てアムロは苦笑いをしていた。

 

「……アムロ・レイ、お前も人が悪いぜ。最初からそう言っておけってんだ」

 

「言う必要はないと思いましたよ。……彼女の背中を見れば、すぐに分かりますから…」

 

アムロは静かに、しかし確信を込めて答えた。

そして、彼は戦術モニターを指し示す。

 

「それに、僕とセイラさんが先行する理由はもう一つあります。

……僕たちの機体、ガンダムℵとブロッサム・ミデンは、全速で戦闘機動に入ると、味方との連携がかえって難しくなるんです」

 

「難しくなる?」

 

怪訝な顔をするコウ・ウラキに、アムロは苦笑交じりに言った。

 

「速すぎる上に、反応速度が『直結』していますから。

普通の編隊を組めば、僚機が僕たちの動きに巻き込まれて衝突するか、射線に入ってしまう。

だから、僕らが先行して敵の陣形を食い荒らし、撹乱されたところを、連携に長けた貴方たち第4小隊とアルビオン隊に掃討してほしいのです」

 

それは、遠回しな自慢などではない。

 

「自分たちは化け物として暴れるから、人間としての戦場の制圧を頼む」

 

という、役割分担の提案だった。

 

バニング隊長が、重々しく頷いた。

 

「……理屈は通っているな。先行する2機が囮となり、ハンマーとなる。我々はその残鉄を叩く金床というわけか」

 

バニングはモンシアに視線を向けた。

 

「モンシア、納得したか? 嫌なら降りてもいいぞ」

 

「へっ! 誰が降りるって言いましたよ隊長!

……あのアムロ・レイと、ア・バオア・クーの生き残りが暴れるってんなら、特等席で見物させてもらうさ。ただし! お姫様、言ったことは忘れるなよ。怪しい動きをしたら、即座に蜂の巣だ!」

 

「ええ、構いません」

 

セイラは小さく、しかし力強く頷いた。

その横顔を見て、コウ・ウラキは震える拳を握りしめた。

伝説のエースたち。そして、過去の因縁を背負って戦う覚悟。

自分は今、歴史が動く瞬間に立ち会っているのだと、痛いほどに実感していた。

 

「よし! 作戦開始時刻まであと僅かだ。各員、直ちに搭乗せよ!」

 

シナプス艦長の号令と共に、ブリーフィングは解散となった。

それぞれの過去と疑念、そして覚悟を乗せて、アルビオン隊、そしてトロイホース隊のパイロットたちは、ハンガーへと駆け出していく。

 

しかし、そんな彼等の計画とは裏腹に、事態は少し深刻な方向へと進んでいる事に、ニュータイプであろうとも全てを見透す事は出来ず、当事者達は知りもしなかった。

 

 

 

〜0083年11月10日 午前8時

 

艦隊が、茨の園へと到着した時事態は既に動いていた…。

 

トロイホース艦橋で、ブライトは艦隊の目としてのレーダー手の言葉に疑問を呈した。

 

「ミノフスキー反応…芳しくありません…。これではまるで…」

 

「空き家とでも言うべきか?」

 

デラーズ艦隊の姿は既になく、そこに有ったのは単なるガラクタに過ぎなかったのだ。

 

それでも、先行偵察としてアムロとセイラがその宙域へと侵入する。

多くの残骸は散見されるものの、周囲は静まり返っていた…。

 

「気取られた…?だが、様子がおかしい。」

 

アムロはその空間にある意思を読み取っていた。

ここで死んでいった多くの人々の思念が漂う、この茨の園と呼ばれる暗礁宙域において、新たなる残照を感じ取れなかったのだ

つまり、内部での抗争ではなくここを放棄したという事実が色濃くのこっていた。

 

「だが…、なんだ?この違和感は?!」

 

彼の一瞬の閃き、何処からか攻撃が飛んでくるとそれを逸らして、反撃を一撃二撃。

戦いの意思を感じ取っての、直感的反撃は見事に敵機を撃ち落とし…、しかし更にもう一機の気配が彼等の前に姿を現すと…。

 

彼等は事態を把握した。

 

その一機は、ボロボロとした装甲を下しながらも、白旗を掲げていた。

彼の機体には、海兵隊のマークが着いていた。

 

「お~い待ってくれ、敵じゃねぇ敵じゃねぇ…、投降するからさ…。シーマ様からの言伝を貰ってるんだ。」

 

後続の部隊が到着し、そのザクを護送しパイロットのみを艦内に収容することとなった。

機体の許容量から、ニヴルヘイムへと着艦した各機は、そのパイロットの語る言葉に目を細めた。

 

「いや〜、助かりましたよ。何せ、取り繕ってたんですがね?奇襲する為に残れってんですわ。

これ幸いと思って残されたんですけれども、まあバレまして?

本隊に連絡される前に連絡機は撃ち落としましたが、武器が無くてですね、肝を冷やしていたってわけですよ。」

 

饒舌に事情を説明する姿は滑稽であるが、彼なりの信念があるのだろうか?きちんとしていた。

 

「それで、あの人からの言伝とはなんです?」

 

セイラが問いただす。

彼は、セイラがシーマと初の接触を図った時、コア・ブースターを管理していたザクのパイロットであった。

 

「おお、お姫様。大事な話だ。よく聞いてくれよ?」

 

男は語る…。試作2号機の強奪は始まりに過ぎない。

連中はコロニー落としを計画していると言うことを………。

 

「シーマ艦隊はコロニーの調達部隊だ。ただ、監視が着いてるせいで身動きが取れねぇ…。

最終加速用の燃料を多めにしてあるから、最悪の場合はそれに点火して突入速度を上げて、『アースグレイザー』させるつもりではいるが……。上手くいく保証はねぇ、だから連邦軍に準備を頼みたいんだ。」

 

男の瞳は鋭くも確かに物を見ていた。

誰も彼の言葉を偽りだとは断じようとはしない、そんな嘘を着くほど彼等に余裕など無いことを、誰もが知っていたから……。

 




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