白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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星の屑

〜0083年11月10日 午前12時 コンペイトウ基地

 

地球連邦軍宇宙艦隊が、観艦式に向けて着々と陣形を整えている頃、この艦隊を指揮するグリーン・ワイアット大将は、旗艦バーミンガムの司令室にて、特務に出ていたトロイホースからの通信を受け取っていた。

 

「……なんだと? トロイホースからの緊急暗号通信?」

 

旗艦バーミンガムの艦橋で、グリーン・ワイアット大将は不機嫌そうに眉をひそめた。

目の前には、地球連邦軍の威信をかけた大艦隊が整列し、その壮観な眺めに酔いしれていた最中である。

 

「はっ。発信元は第13独立部隊、および……アナハイムの技術顧問連名によるものです。

『デラーズ・フリートの真の狙いはコロニー落としにあり。核による強襲の恐れあり。直ちに艦隊を散開させ、対核防御シフトへ移行されたし』……と」

 

ワイアットはその通信文に思考を巡らした。

地上のゴップからある程度の情報を受けていた彼であったが、ここまでの情報をゴップ自身も想定はしていなかった為に、この事態に即応しなければならないからだ。

 

「馬鹿な連中だ…、みすみす自分達の首を絞め上げる、核を使うなどと…、南極条約を違反すればどうなるか、分からでもなかろうに。」

 

ワイアットは、第13部隊に借りがあった。

いや、彼の隷下であったのだから問題は無いのだろうが、この通信に対して一定の信頼を感じていた。

 

「……提督、如何なさいますか?」

 

「……無視するには、寝覚めが悪い情報だ。

全艦に通達! 観艦式の隊列を解除! 第1、第2戦隊は扇状に展開し、対空監視を厳となせ!

各艦、対ビーム・対実弾防御、最大戦速で散開せよ!!」

 

彼の判断は早かった。

彼の号令とともに、艦隊は徐々に散開していく…。

しかし、大小数百とも言える艦艇がひしめく観艦式においては、『散開』という命令は、僅かにしろ混乱を招く。

整然と並んでいた艦列が、慌ててスラスターを吹かし、互いの航路を塞ぎ合いながら広がり始めた。

 

動きは比較的穏やかだった…ゆっくりとではあるが、しかし確実な動きであった。

しかし、全艦艇が対核防御シフトを敷くには、俄に多すぎる。

中央部が僅かに拡がり、索敵範囲が拡がる最中、事態は急激に動き出す。

 

時刻にして午後1時、対核シフトが大凡三分の二を終了したと言えるその時であった。

 

「熱源感知! 方位2-7-0、距離20000! ……急速接近!」

 

レーダー手の絶叫と同時に、ソロモンの暗い海から、重厚な緑色の機影が躍り出た。

ガンダム試作2号機サイサリスである。

 

「……見つけたぞ、連邦の腐った根っこを!!」

 

アナベル・ガトーは、眼下に広がる光景を見て、僅かに目を見開いた。

 

「気づかれたか!」

 

本来であれば、密集している連邦軍艦隊に対して核攻撃を行う

手筈であった。しかし、そんな物を気にしていられるほど、彼には余裕など無い。

蜘蛛の子を散らすように、その間隔は刻々と拡がり始めている。

 

艦隊から幾機かのジムが躍り出る。

それを、彼の護衛機である高機動型ザクIIが対応している間に、サイサリスは急速に艦隊の中を突き進む。

 

濃くなっていく弾幕、しかしそのスレスレを機動力を持ってして、強引に突破していく。

 

「小賢しい!!」

 

これ以上は難しいと、彼は判断する。と機体を急激に艦隊の密集する場所へと辿り着く。

 

「――ゔァぁぁ!!」

 

ガトーは叫びと共に、アトミック・バズーカの照準を合わせる。

狙うは、まだ回避運動を取りきれていない、艦隊の最も濃密な中心部――旗艦バーミンガムを含む主力戦隊だ。

 

「多くの英霊たちの死が……無駄死にでなかったことの証のために!」

 

 

「……迎撃しろ! 弾幕を張れぇッ!!」

 

ワイアットの怒号が飛ぶ。

散開しつつあったサラミスやマゼラン級から、無数のビームとミサイルが放たれる。

 

ガトーはフレキシブル・バインダーを駆使し、嵐のような弾幕を紙一重で回避する。

左肩の装甲が弾け飛び、シールドが焼ける。

だが、ソロモンの悪夢は止まらない。

 

「再びジオンの理想を掲げるために!」

 

艦隊直掩のジムがその言葉を遮るように、急速に近づく。

それを損傷した、ザクが間に入って自爆する。

 

「星の屑成就のために!」

 

サイサリスは構える、安全装置が解除されたアトミックバズーカが、その光を明滅させる。

 

「……ソロモンよ、私は帰ってきた!!」

 

ガトーは、トリガーを押し込んだ。

MK-82核弾頭が、真空の海へと解き放たれる。

 

「対空砲火! ミサイル迎撃だ! 落とせぇぇッ!!」

 

多くの気迫とともに、ワイアットの言葉は艦内を震わせる。バーミンガムの対空機銃が火を吹き、周囲の艦艇からも迎撃ミサイルが殺到する。

 

だが、放たれたのは「悪夢」そのものだった。

 

――カッッ!!!!

 

宇宙に、二つ目の太陽が生まれた。

強烈な閃光が、カメラのフィルターを焼き切り、全ての色彩を白一色に染め上げる。

爆心地に近い艦艇は、装甲が融解する間もなく瞬時に蒸発した。

衝撃波と熱線が、広がりつつあった艦隊を飲み込んでいく。

 

「……ぅ、ぬぅおおおおおッ!!」

 

ワイアットは、耐ショック姿勢を取ったまま、旗艦が激しく揺さぶられるのに耐えた。

散開命令を出していたおかげで、バーミンガムは爆心からわずかに外れていた。

だが、それでもブリッジの窓ガラスには亀裂が走り、計器類が次々と爆発する。

 

光が収束し、静寂が戻った時。

そこには、無慈悲な現実が広がっていた。

艦隊の約半数 数百隻の艦艇が、鉄屑と化して漂っている。

 

しかし、旗艦であるバーミンガムとそれを含む第一艦隊は、その半数は傷つきながらも生き残っていた。

 

「ぐっ…クゥゥゥ…。被害状況知らせぇ!!」

 

いつもなら落ち着き払っていただろう彼が、怒鳴り散らすように周囲に問いかける。

ワイアットのその額からは、血が流れていた。

痛みを和らげるという行為にもまた、声を荒げたのだろう。

 

「提督!第三,第四艦隊壊滅!!…ですが、残存艦艇は大凡4割!その他の、大小損害有れど、機関無事な艦も多数!」

 

報告を聞きながら、ワイアットは次の1手を模索していた。

知らされている核弾頭は、大凡1発のみ。であるならば、既に試作2号機の役割もまた、終わっているだろうことを。

 

「モビルスーツ隊に、あの狂信者を落とせと伝えろ…、忌々しい。」

 

艦隊の直掩に着いていたジム、その中でも身動きの取れる者たちは、直ちに2号機の下へと駆けていく。

 

「―――私はまだ大義を成さねばならぬ。こんなところで、落ちる訳には行かんのだ!!」

 

ガトーは恥も外聞も気にすることなく、スラスターを全開にして宙域からの離脱にかかる。

それを阻止せんと、ジムが追いすがるものの、スラスター推力は圧倒的に2号機に部がある。

 

それ故に……

 

「勝負は一度きりだ!各機、肝据えろ!!」

 

真正面からの銃撃と、ビームサーベルを振りかぶるジムの群れ。

 

「ぅぅぅぅうううぉぉおぉぉ!!!」

 

雄叫びと共に、ガトーは己の身に振りかかる強烈な加速に頬肉を引き攣らせするが、その手は操縦桿を握ったままである。

 

「……ガトーと言ったか。貴様の核は、確かに痛打であった。だが、致命傷には至らんぞ!」

 

ワイアットはマイクを掴み、生き残った全艦に向けて放送した。

 

「全艦、聞け! 我々は核の炎をくぐり抜けた!

敵の狙いは、この後の『コロニー落とし』にある!

傷ついた艦は救助に回れ! 動ける艦は私に続け!

ジオンの亡霊どもに、連邦軍の底力を見せてやるのだ!!」

 

「「「おおおおおッ!!」」」

 

死地を生き延びた兵士たちの咆哮が、通信回線を震わせる。

核攻撃という絶望的な状況下で、ワイアットの「事前の散開命令」が生死を分けた事実は、残存兵力の士気を異常なまでに高めていた。

 

ガトーはGP02を駆り、コロニーが待つ空域へと消えていく。

その後を、復讐の鬼と化したワイアット艦隊が追う。

 

それは、デラーズ・フリートが想定していた「混乱と壊滅」のシナリオが、崩れ去った瞬間でもあった。

 

 

 

〜同日 夕刻

 

地球圏より遥か彼方、漆黒の宇宙を漂う巨塊、アクシズ。

その深奥にある謁見の間は、重苦しい静寂に包まれていた。

 

「……報告は真実か?」

 

玉座の脇に立つ少女、ハマーン・カーンの声が響く。

まだあどけなさの残る16歳の容姿とは裏腹に、その双眸には年齢とは不相応な冷徹さと、隠しきれない動揺が宿っていた。

 

「はっ。先遣艦隊のユーリー・ハスラー少将より、緊急入電あり。

アナベル・ガトー少佐によるソロモン奇襲、および核攻撃は……実行されました。

しかし、連邦軍ワイアット艦隊の『事前散開』により、敵艦隊の壊滅には至らず。残存戦力は依然として脅威であります」

 

「そうか……仕損じたか。」

 

ハマーンは、そう口に出す。

しかし、彼女の脳裏には毛ほども興味の無い事柄であった。

正直に言ってしまえば、今デラーズ・フリートが行っている事は、アクシズを束ねる自分達にとっては良い傾向ではない事を、薄々と感じていた。

 

彼女は、敬愛するシャア・アズナブル大佐の言葉を聞いて、今一度物事を考えていたのだ。

果たして、武力に訴えることが本当にジオンの、スペースノイド全体の為になるのであろうか?

余計に、自分達の肩身を狭くするだけではないのか?と。

 

それもコレも、サイド3にてアムロ・レイ達と出会ったばっかりに、そんな迷いにも似た感情を抱くに至っていた。

 

「それと……もう一点。未確認情報ではありますが、デラーズ艦隊と交戦中の連邦軍部隊の中に、『アルテイシア・ソム・ダイクン』を名乗る人物が確認されたとのこと」

 

「なんだと…?!ジオン・ダイクンの遺児を名乗るのか!!」

 

ピクリ…、と彼女の肩が震えた。

 

「はい。しかも、彼女は連邦軍と共闘し、ジオン残党に対して『投降と平和』を呼びかけていると……。

一部のスペースノイドの間では、彼女を『正統なる後継者』と英雄視する向きもあるようです。」

 

ハマーンは、ギリリと奥歯を噛み締めた。

 

それは、彼女が最も恐れていたシナリオだった。

ザビ家の復興を掲げるアクシズにとって、ジオン・ダイクンの血を引くアルテイシアは、政治的に最大の敵となり得る。

 

もし彼女が「反ザビ・親連邦」の旗印として立ち上がれば、スペースノイドの支持は二分され、ザビ家の求心力は崩壊する。

 

そして何より

 

『もしもこの事が大佐の耳に入ってしまったら、あの方は何処かへと行ってしまうのではないか?』

 

そんな、淡い心が震えていた。

 

「摂政……摂政?…どうかなさいましたか?」

 

「あ……、いや少し考え事をな。それよりも、その内容外部には拡がっているか?」

 

「いえ……諜報部のみですが……。」

 

ハマーンはそれを聞き僅かに安堵する、それを悟られぬように顔を険しくもした。

 

「そうか…、ならばその事実隠し通せ。

連邦軍艦隊が健在であるならば、我々は今一度この地より離れなければならない。さもなくば…全滅を覚悟しなければなるまい。」

 

連邦軍に対して尻尾を巻いて逃げるという、そんな彼女の言葉に対して、何を思うか?

しかし、彼女の言い分は尤もだろう。

仮に、この情報が確かだとして連邦軍艦隊と差し違えよう等という者達も現れる可能性は、充分にある。

それに……『傷付いた大佐に、気苦労を持ち込ませたくない』。

 

「ノイエ・ジールの譲渡の後、速やかに艦隊をアクシズへと帰還させろ。

彼等には残念であるが、死に場所を与えてやるしか他にない。」

 

「御意に…。」

 

報告を上げた男が下がると、ハマーンは大きく息を吐き出した。

未だ慣れるものではない、自分の未熟さと愚かさと浅はかさと…何より、女としての不治に葛藤する。

玉座に座る幼子を見て、自分の道化さを身に沁みる。

 

パンパン

 

彼女が手を叩く。すると、側仕えがやってくる。

 

「少し間を空ける、疲れが出たようだ。ミネバ様を頼む。」

 

そう言って彼女は、謁見の間を後にした。

ゆっくりと進む先、そこにはアクシズの内部の医療センターがある。数少ない、このアクシズでの静養所でもあり、多くの顔が疲れたものであった。

 

ただ、彼女の目的は決して疲れを取るために訪れたのではない。

 

とある一室、

 

ピッピッピッピッピッピッ

 

と奏でるのは心拍数の音だ。

そして、その場に力なく横たわるのは…。

 

「ナタリー、すまない。遅くなった。」

 

今や生きているとも、死んでいるとも思える。ナタリー・ビアンキの姿であった。

 

「今日も、私だけですまない…ごめんね。」

 

両の手を、横たわるナタリーの手へと被せるように包む。ピクリとも動かない彼女の姿に、ハマーンは哀しみを覚え同時に、自らを恥じる。

 

彼女がこうなったのは、3ヶ月前の事。

父であるアクシズの当時の指導者であった、マハラジャ・カーン総督、その死によって全権を委任されたのは、ハマーンであった。

 

当時、彼女は迷いに迷っていた。

 

父のように振る舞えるか?皆を率いることが出来るか?自分等よりも、シャア大佐のほうが皆良いのでは無いか?

そんな思考の過ぎりを持ちながら、アクシズを率いる決意を固めていた。

 

その日、ハマーンは友人とも姉とも言える、敬愛すべきナタリーと喧嘩別れした。

彼女が主戦派だった事、ハマーンをそちら側へと誘導しようとしたこと…シャアに色仕掛けをした事…。多くの事に対して、彼女はナタリーに強く当たった。

 

特にシャアに色仕掛けをした事に、当時の彼女は烈火の如く怒ったものの…後々になって冷静になった。

 

サイド3、あの時出会ったアムロ・レイは言っていた。

 

例えどれ程ニュータイプとしての素質が高くとも、話し合わなければ言葉が通じることは無い…と。

 

わかり会えないと言うことをわかりながらも、許容する道は示されているのだということを。

 

しかし、全ては間に合うことの無い使命なのか?

 

「私、今ではなんて言われてるか知ってる?冷徹だって…」

 

数少ない友人、それが今横たわる。

そんな彼女の下肢、胎のある場に指が行く。

 

「本当は大佐も一緒にって…、そう思ったんだけれど…公務忙しいみたいだから。」

 

本当は違う、シャアは恐れていた。自らの手の届くはずの生命が、零れ落ちる事を観ることが恐ろしいから。

 

「ごめんね…。本当に…」

 

そんなハマーンの言動を知るものは、医務官等だけであった。

 

 

 

……その日の夜

 

眠りに就くハマーンの夢に、ナタリーが現れて囁いた。

 

『大佐を…護って上げて。許してあげて』

 

ハマーンは彼女を追いかけて、目を覚まし、緊急医療センターからの通信を受け取る。

 

ナタリー・ビアンキは、処置の甲斐なく生命を落としたのだと。

ハマーンは一言だけ

 

「わかった」

 

と呟くように言った後、一人静かに泣いた。

 

〘どうして私の周囲の人達は、皆いなくなってしまうのか〙

 

と、そう心を落としながら。

 

一頻り泣いた後、決意を新たにする。遺言は単なる妄想なのか、果たして真実なのか?それは定かではない。しかし、確かな事は、このアクシズ、その中で諍いを決して起こしてはならないと言う決意と、シャアを見守り待とうと言う新たな決意だけであった。

 

 




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