白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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星の輝き 2

 

〜0083年11月12日 アイランド・イーズ 近郊

 

デラーズ・フリートは、その艦艇郡をアイランド・イーズのすぐ近郊に取り付くように、ゆっくりと前進していた。

 

巨大な円筒形のコロニー、その行末は前方にある巨大な青い星、地球へと向かっているのだ。

 

デラーズは、その光景に恍惚としていた。

いや、外面的に見れば別に変わったところは無いのだが、それでも彼の心のなかでは、この世の春が来たとばかりに打ち震えていた。

 

コロニー落とし、それも嘗てジオン本国の艦隊が総力を結集して行った、大規模な攻撃。

それを自らが擁する、たった一個艦隊がやり遂げようとしているのだから、この事実に高揚するなというのも無理な話であった。

 

これで、宇宙移民者即ちジオンの理想を、ギレンの理想を継ぐことができるのだと。一人、胸中で騒いでいたのだ。

 

進行方向にある地球、その少し左側にポツポツと白い小さな物が、白胡麻をまぶしたかのように展開している。

それは地球連邦軍の艦隊であった。

 

その後ろには、巨大な十字架のような大きな物体〘ソーラ・システム〙が展開しているのを、その目で見ながらも今回の作戦において、それが失敗するのを確信していた。

 

 

アナベル・ガトー、彼が奪取した試作2号機による核攻撃は、地球連邦軍艦隊に大きな打撃を与えたものの、しかし完全なものではなかった。

当初の計画であれば、観艦式において密集している艦隊に対する核攻撃によって、その大半を消し炭にした後、悠々と事を進めるはずであったのだ。

 

しかし、状況は違った。

連邦軍艦隊は、対核防御を行い完全な打撃とは言えない状況であったのだ。

多く見積もって、参加していた連邦軍艦隊の大凡半数は無傷のまま。こちらへの攻撃に、その艦隊からも戦力が振り分けられているのも当然だろう事が分かっていた。

 

故に、事態は急を要する事になった。

シーマ艦隊に連絡を入れ、計画を前倒しする事によってコロニー落としの時間を早める。

これによって、連邦軍の動きを制限し確実に物事を完遂するという、修正プランである。

 

「進捗はどうか?」

 

デラーズは逐次報告を聞いた。

それはそうと、事態の推移に対しては人一倍敏感であった。

 

「はい、事態の推移に関しましては、予定の8割を完遂しております。いつでも、アイランド・イーズ発射可能です。」

 

その言葉に彼は一人満足していた。これで、全てのピースが揃いつつあるのだと。

後は、コレを目の前の青い大地に落とすのみ。

 

「ただ、一つ懸念があります。

シーマ艦隊の動きが芳しくありません。」

 

「何?あやつらが?」

 

シーマ艦隊・シーマ・ガラハウ中佐が率いる元海兵隊の者たちである。

今回の作戦において、最も重要な役割を担う彼女等の存在は、デラーズにとっても無くてはならない存在であるのだ。

それが、芳しく無い動きをしている…。

 

元々、シーマ艦隊はキシリア隷下の部隊である。

それが、ギレン派であったデラーズと手を組むのは些か、不信感があったのだ。

 

あの時、キシリアが総帥を討たなければ、今頃我々はこんなところにいる者ではないのだと…。そう胸に秘めながら、我慢していた。

それがどうだ、不審な動きをしているというのだ。

 

「はい、どうも艦艇の整備をしたいと…そう言っております。

禊をしておきたいとのことで…。」

 

その言葉に対しても、彼は不信感を拭いきれない。

しかし、今はあの女を信じる他無かった。

 

 

デラーズが、シーマへの不信感を積もらせている頃、同じくアイランド・イーズ近郊に付いてるシーマ艦隊は、デラーズ・フリートとは少し離れた位置にいた。

コロニーのコントロールセンター、その近くに陣取った彼女の艦隊。

 

ザンジバル級リリー・マルレーンと、7隻のムサイ級が並び防御陣形をとっていた。

 

そんな傍らに、何機かのゲルググMの姿があった。

その片手には、何やらスプレーガンのようなものがあった。

 

「とりあえず……、こんなもんか?」

 

 

 

本来、ムサイ級の艦種には国籍識別マークとなっている、ジオン公国のマークが取り付けられてる筈である。

しかしそこにあったのは

 

 

【挿絵表示】

 

 

純銀に輝くマークであった。

 

「これで……撃たれないよな?」

 

『わかりゃしねぇよ、まあ?船体の横にもきちんと塗っといたから、上手く見つけてくれりゃ万々歳さ。』

 

「禊(みそぎ)」という名目の、命懸けの「衣替え」は終わった。

 

シーマ・ガラハウは、リリー・マルレーンのブリッジで、艦船の横腹に白銀に輝く「銀の鳳凰」の紋章 を見つめ、自嘲気味に口角を上げた。

 

「ジオンでもない、連邦でもない……。あたいらが行き着く先が、ダイクンの娘の『私兵』たぁね。……笑っちまうよ」

 

彼女が選んだのは、偽りの理想に殉じる死ではなく、泥にまみれて明日を掴む生だった。

その紋章は、バーミンガムで交わされた、アルテイシア・ソム・ダイクンとワイアット大将の「約定」の証。これこそが、味方であるはずのデラーズ・フリートから撃たれ、かつての敵である連邦軍から守られるための、唯一の免罪符である。

 

彼女等の賭けが始まった。

 

 

 

〜数刻後

 

 

アムロとセイラ、ガンダムℵとブロッサム・ミデンが、トロイホースのメンバーと、アルテイシア派の元ジオン兵のザク、アルビオン隊が、機体を発進させた頃…デラーズ・フリート。並びに、アイランド・イーズに奇妙な現象が起こっていた。

 

「なんだ!!何が起こっている!!」

 

デラーズは、珍しく声を荒げた。

ブリッジの大型モニターには、一人の女性が映し出されていた。

パイロットスーツを着ているのだろう、後ろにはモビルスーツの所謂『棺桶』と呼ばれるコックピットよりかは、僅かにゆったりとして見えるものの、そんな物は中央にいる女性の姿にかき消されて、脳に入らない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だが、その顔に見覚えがあるものは、シーマ艦隊の面々を置いて他にいない。

 

いや………、一人だけこの顔に見覚えがある人物がいた。

 

そう、誰を隠そうエーギユ・デラーズはこの顔を知っている。

いや、知っている顔はこの顔よりも遥かに幼い顔であった筈である。忘れもしない…、ジオン・ダイクンが暗殺されたあの日、ジオン・ダイクンの傍らにいつも控えるようにいた、2人の子供とアストライア・ダイクン。

 

その顔は、アストライアの面影を残しながら、幼い子供の片割れアルテイシアのそのものであったのだ。

 

デラーズは、その顔を見て目を見開く他なかった。

いや、握り拳を作り歯を思い切り噛んだ。

 

『皆さん…はじめまして。私の名は、アルテイシア…。アルテイシア・ソム・ダイクンである。

私は、今貴方方の前に立つ、地球連邦軍の艦艇と協力関係を結んでいます。

無謀な諍いを辞め、投降しなさい。』

 

アルテイシア・ソム・ダイクン、陰謀論と片付けプロパガンダと決めつけて、本当にそれが存在し自分達の目の前に出でて来るなどと、夢にも思わない。

 

「アルテイシア・ソム・ダイクン…、だと!!そんなバカな話があるものか!!……おのれ、連邦の……! どこまで我らを愚弄すれば気が済むのだッ!!」

 

デラーズの咆哮が、グワデンのブリッジを震わせた。その顔は怒怒と困惑、そして認めがたい真実への恐怖によって、赤黒く変色している。

 

彼にとって、ジオン・ダイクンは「神」であった。そしてその意志を継ぎ、形としたのがギレン・ザビであると信じて疑わなかった。だが、今、モニターの中で語る女性の瞳には、かつて彼が遠くから仰ぎ見たジオン・ダイクンの、あの人を射抜くような鋭さと、すべてを包み込むような慈愛が、残酷なほど鮮明に宿っていた。

 

「……偽物だッ! あれは連邦が用意した、精巧な作り物の偶像に過ぎん!!」

 

デラーズは、自分自身に言い聞かせるように、そして動揺し始めた周囲の士官たちを威圧するように叫んだ。

 

「見よ! 奴らは我々の『大義』を恐れるあまり、死者の名を、血の記憶を、泥にまみれた手で掘り起こしたのだ! あのような言葉に耳を貸すな! あれは、スペースノイドの魂を抜くための、連邦の卑劣な魔笛であるッ!!」

 

だが、彼の言葉とは裏腹に、ブリッジに流れる空気は重く、淀んでいった。

アクシズから合流したばかりの将兵の中には、呆然と画面を見つめる者、あるいは無意識に敬礼の姿勢をとろうとする者さえいた。彼らにとって「ダイクン」の名は、ザビ家以上に神聖で、不可侵な響きを持っていたからだ。

 

一方、その通信は、先陣を切って加速するガトーのノイエ・ジールにも届いていた。

 

「アルテイシア様……だと?」

 

ガトーの指が、一瞬だけ操縦桿の上で止まる。

彼は「武人」であり「忠臣」であった。デラーズへの忠誠、そしてジオン公国への誇り。それが彼のすべてだった。だが、もし、眼前の「白い流星」に乗る者が本物のダイクンの遺児であるならば、自分の振るうこの刃は、誰に向けられたものになるのか。

 

「……いや、違う! 私の道は、デラーズ閣下と共に……死んでいった戦友(とも)たちの無念と共にこそあるッ!」

 

ガトーは激しく頭を振り、迷いを断ち切るようにスロットルを押し込んだ。

 

「たとえ本物の姫君であろうと、ジオンの再興を阻むというのなら、私は……私は、修羅となって貴女を討つッ!!」

 

緑の巨大な影が、ノイエ・ジールの推進力を増し、アムロとセイラの待つ宙域へと突進していく。

 

その光景を、リリー・マルレーンの艦橋から見ていたシーマは、冷めた目で鼻を鳴らした。

 

「へっ、どいつもこいつも『血』だの『大義』だの、重苦しいねぇ。……おい、お姫様。あんたの言葉、あの頑固なハゲ頭には一滴の薬にもなりゃしないよ」

 

デラーズが各艦に向けて信号を飛ばす姿を一蹴し、シーマは扇子を広げ、優雅に、しかし冷酷に指示を下す。

 

「いいかい、野郎ども。説得で終わるようなら、あたいらの出番はない。……予定通り、コロニーの核パルスエンジンを狙うよ。

あの『理想という名の病気』にかかった連中が、自分たちのしでかした事に気づく前に……あたいらで、この悪夢を終わらせてやるんだよ!」

 

白銀の鳳凰を掲げたシーマ艦隊が、デラーズ本隊の混乱を突くように、アイランド・イーズの基部へと急速に接近を開始する。

 

 

 

一方で、連邦軍艦隊旗艦をマゼラン級へと移譲したワイアットはその滑稽な様子を、腕組みしながら見ていた。

 

「しかし、良く考えたものだな。レーザー通信でコロニーを中継点とし、そこから間接的にデラーズの艦隊へとレーザー通信を行うか…。

内部犯がいなければ成立しない…。フッ、なかなかにやり手か。」

 

セイラの、元ジオン軍等の手際の良さに感心しつつ、自らはその光景を観客として見守る、

よしんば危機に陥れば艦隊を動かせば良し、そうでなくても連中で勝手に潰し合いをしてくれる。

唯一誤算があったとすれば…。

 

「『我々には独自裁量権があります』か…、大きく出たものだな。ジャブローからの紙切れを、上手く使う。

戦後の自らの立場を考えられぬ者達よ…、だが嫌いではない。」

 

トロイホースは、本来であれば艦隊に組み込んで胡座をかかせるつもりであった。

虎の子である、ペガサス級強襲揚陸艦は連邦軍にとっても貴重な戦力。

しかも、一年戦争の英雄が乗っているとなれば、本来広告塔としての役割を十善に果たしてもらうつもりであったのだが…。

 

トロイホースの艦長である、ブライト・ノア少佐は、ワイアットを相手に通信越しで、啖呵を切った。

 

ワイアットは、それを思い出し僅かに微笑んだ。若いというものが、どれ程向こう見ずなことか…。

 

宇宙空間に響くセイラの声、デラーズ・フリートは勿論の事、その声は連邦軍艦隊にも響いていた。

セイラの声は、アルテイシア・ソム・ダイクンとしての力を持ち、彼女にセイラ・マスとしての終焉を齎す力を持つ。

 

救いがあるとすれば、ワイアットの機転かそれとも状況をコントロールする為か、連邦軍艦隊の艦艇には声のみが届いていた事だろう。

声の主の、その姿を見なければいないも同然。

百分は一見しかずという言う諺があるが、これもまたそれだろう。

 

 

 

宇宙に響き渡った「アルテイシア」の名は、死に瀕した兵士たちにとっての福音となるか、あるいは退路を断つ絶望の響きとなるか。

その答えが出る前に、物理的な破壊が先行した。

 

「……アムロ、行くわ。この『声』が届かないなら、私たちの『力』で分からせるしかない。」

 

彼女としては、少し悲しいという思いと、当然の帰結であるという2つの感情があった。

ここ1年の間、地球でそして数ヶ月の間宇宙での呼び掛けの結果、呼応した者は数えるほどしかいない。

それほどまでに、ザビ家のジオンを信奉する者達が生き残っている。或いは、戦争に取り憑かれているのだろう。

 

ブロッサム・ミデン のコクピットで、セイラ・マスは手を強く握り込み、スロットルを押し込んだ。純白の機体が、青白い噴火を上げて暗礁宙域を滑走する。

 

「了解した。……各機、合図と同時に突入! シーマ艦隊の『鳳凰』 を射線に入れるな。ターゲットはあくまで、コロニーの核パルスエンジンと、それを守るデラーズ本隊だ!」

 

ガンダムℵFb のコクピットで、アムロ・レイ は全天球モニターを凝視していた。簡易サイコミュを通じて機体から伝わる「圧」が、彼の鋭敏な感覚を戦場全体へと拡張していく。

 

背部の巨大な可動式ブースター・ポッドが咆哮を上げ、ガンダムℵは物理法則を置き去りにするような加速で、デラーズ・フリートの防衛網の隙間へと滑り込んだ。

 

 

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