白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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星の輝き4

円筒状のスペースコロニーは、その構造上大きなリスクを伴う物がある。

例えば、複数の核パルスエンジンによる推進によって、これらが前方へと進むと過程を踏んだうえで、数基のエンジンのうち一つでも、出力やタイミングがズレる場合スペースコロニーは歪を生むこととなる。

 

一基でも出力が数%低下、あるいは点火がコンマ数秒遅れただけで、推進力の中心が重心から外れてしまう。巨大な円筒にとって、これは後方から「ひねり」を加える力となり、中央接合部に巨大なせん断応力を発生させ、破断を招くだろう。

 

〜0083年11月12日

 

セイラと共に、核パルスエンジンの防衛を担っている、シーマ艦隊の一部ではあるが、その防衛は実質的に成功したと言えるだろ。

シーマの駆るガーベラ・テトラは、その推力と彼女の巧みな操縦によって、周囲を飛び回るビグロマイヤーを撃墜する事を達成し、同じく背を預けていたセイラも、ニュータイプ的な予測によってそれの撃墜に成功していた。

 

デラーズの戦力は、所詮は一個艦隊程度に過ぎない。

例え、アクシズの過激派グループが参加したところで、その数はそんなにも増えたりはしないのだ。

特に、シーマ艦隊の表帰りという、完全な奇襲に浮き足立っていた彼等は、成す術はそれ程多くなかった。

 

現に、核パルスエンジンを見事にシーマは守り抜いたのだから。

 

「残り30秒……、いやぁ長かったねぇ…。」

 

と彼女は柄にも無く、安堵の声を上げた。

これまでの緊張とは打って変わって、作戦がもう少しで終わるというところにあって、プロフェッショナルとは思えない言動である。

それもコレも、隣にいる機体ブロッサム・ミデンのパイロット、セイラ・マス=アルテイシア・ソム・ダイクンのおかげであるのだ。

 

これで、自分たちは苦労から救われるのだろうという、そんな安堵が彼女に安心感を与えていた。

しかし、戦場で気を緩めるのは全てが終わったあとが良いだろう。それが糠喜びになる可能性も無きにしもあらずなのだ。

 

そして……、それは現実のものになろうとしていた。

 

 

 

駆ける駆ける駆ける、飛ぶ飛ぶ飛ぶ、チリはガスは流れ、それはさながら流星の如く。

ガンダムℵを駆るアムロには、事態が大変な方向へと進む事が予見できていた。

 

いや、出来てしまったと言ったほうが正確なのだろう。

 

彼は本当であるならばガトーの生命を刈り取ろうと、銃口をノイエ・ジールへと向けたのだ。しかし、どうだろうか引き金を引く直前…妙な声が脳裏を駆けた。

 

『このままではまずい……壊れる』

 

そんな誰のものともとれない囁きを、彼は(みみ)にした。

その言葉は、とてもではないが良い響きでは無かった。

そしてアムロは、その言葉に導かれるかのように、コロニーの方を向いて、スラスターを全開に吹かしたのだ。

 

「間に合ってくれよ!!」

 

フルバーニアンとしての全開、全力の加速。

周囲の情景の中には、デラーズ・フリート周辺を巡る戦いも、佳境に差し掛かりたった一機のヴァル・ヴァロが、獅子奮迅の戦いをしている。

 

「僕だって、俺だって!!ガンダムのパイロットなんだ!!」

 

そんなウラキの自らを鼓舞する声も、宇宙には消えていく。

Gp01Fbの動きは、まるでじゃじゃ馬の様なものだが、ウラキは自身の全力を出して戦っているのだと。

その直ぐ傍らには、それを援護するアルビオン隊とクリスの姿がある。

 

そして、セイラと共に宇宙へと上がったゲラート少佐のザク・パワードは、デラーズのグワジンの目の前に立ちその銃口を艦橋へと突きつけていた。

 

「降伏を受け入れよ、さもなくばこの引き金は貴様の生命を刈り取ろう。」

 

対するデラーズは、睨むようにその姿を前にして立ち上がる。

 

「我らの崇高なる意志を、貴様等如き志を保たぬ者達に明け渡すつもりは毛頭ない!!」

 

その傍らに、それを護衛するかのようにクスコ・アルのザク・パワードが周囲の警戒をして…、そして戦場全体がセイラのアムロの側に傾いていることを、アムロはバイオセンサーを通して全てを把握していながら、コロニーの危機的状況を感知するのが遅れていたのだ。

 

人は神のように万能ではない。

逆立ちしたって、神様に変われるわけではない。カイのその言葉が脳裏を過ぎる。

 

キィーン

 

という甲高い音を見ていた、ブースター・ポッドはその音を消し

プロペラントタンクは底をつく。

アムロは間髪入れず、其れ等をパージするとガンダムℵはセイラの下へと急いだ。

 

しかし……間に合いはしなかった。

 

 

一瞬、

 

パッ

 

と明かりが点ると次の瞬間、コロニーの最後尾に巨大な光球が3つ出現した。

しかし……、その中の1基僅かに0.秒のズレが生じていた。

 

たったそれだけ、ただそれだけの時間であるが人間が僅かに知覚できるギリギリの時間。

確かに遅れたのだ。

 

コロニーの加速は僅かなズレによってコロニー外壁に歪みを生じさせた。

 

 

コレがもし一年戦争の時の、アイランド・イフィッシュの様に、地球降下に確実にする為に、外壁強度を外科的に強化、装着していれば歪みもそこまで問題にはなっていない。

しかし……、今回は全くと言って良いほどに強度を上げていないのだ。

 

歪みは、深く深く、より大きくなっていき……そして、破断の時が来た。

ミシミシミシミシ、という大きな地鳴りと共にコロニーの中央部分から亀裂が入り、内側へ外側へとコロニーは自らを自壊させていく。

 

多くの残骸が飛翔し、周囲に陣取っていたデラーズのモビルスーツを襲う。

敵に討たれて死ぬのならば本望で有ろうが、何たることか単に物体に当たって死ぬのだから、介の無い。

 

「クソ!!間に合わないか!!」

 

アムロは己の判断の遅さを恥じた、しかしそれだけならまだ良い。

核パルスエンジンを起動したシーマの直轄の部隊と、セイラは今当に退路を封じられているのだ。

 

「まだ、助かる…だが!!」

 

時間は刻一刻と近付いていた。

 

 

一方、アイランド・イーズ攻略を外から見学していたワイアット等、連邦軍艦隊の本隊は事態が動いた事をハッキリと認識し、コロニーがどのようになったのかを、外から理解した。

 

しかし、地球連邦軍旗艦、マゼラン級のブリッジは、かつてない混乱に包まれていた。

 

「コロニー後部、離脱! ……ですが、前部ブロックは依然として落下コースを維持しています!」

 

コロニーの動静を逐次確認していた監視員が、叫び声を上げるかのように、報告を上げた。

 

「照射だ! すぐにソーラ・システムを起動しろ! 今撃たねば手遅れになるぞ!!」

 

パニックに陥り、意味のない叫びを上げる士官たち。

 

「黙れ!!」

 

しかし、その喧騒を切り裂いたのは、煤けた軍服に身を包み、頭に血の滲んだ包帯を巻いた老将、グリーン・ワイアットの静かな、しかし重い一言であった。

 

「……確実を決っせよ。生半可で撃てば、元の木阿弥だ。全力を尽くせ」

 

ワイアットは、焦りを見せる周囲を尻目に、どっしりと司令官席に構えていた。 

 

そもそも、地球連邦軍の発足の理由の一つには、地球外からやってくる、隕石の迎撃という任務も含まれていた。

特に、発足時に限りなく近い世代であるワイアットにとって、この時点でのコロニーの動きも、マニュアルの内である。

 

不規則に回転しながら落ちていくコロニーの前部ブロック。今、慌てて照射すれば、エネルギーは分散し、地表に降り注ぐ「死の散弾」を増やすだけに終わる。

 

彼は、全エネルギーを一点に集約し、その巨塊を文字通り「消滅」させるための、唯一の勝機を待っていた。

 

 

一方、コロニーから少し離れた位置に船体を同期させていたトロイホースと、アルビオン、ニヴルヘイムの3隻はと言えば、あまりの出来事に理解が追いついていなかった。

 

「コロニーが粉砕しただと…、状況どうなっている!!」

 

トロイホースにて、ブライトは状況確認に勤しんでいた。

現状、モビルスーツ同士の戦闘に母艦が突っ込む事は、自殺行為に他ならず、結果援護射撃をするに留まってていたのだ。

 

そんな折、核パルスエンジンに火が着いたかと思えば、コロニーが凄まじいデブリと共に、半ばから折れてしまったのだから始末に負えない。

 

「デブリ更に増大、近づいた場合本艦にも被害が多少出るでしょう。」

 

ブライトはその言葉を聞いたが、寧ろ素直に判断を下した。

 

「本艦はコレより、僚機の回収に当たる。

総員、対ショック体制を取りつつ周囲の警戒を厳となせ!」

 

ブライトの判断は非常に早い。即断即決の意思である。

 

『ブライト少佐、貴艦の損傷のリスクがある。即刻中止せよ。』

 

シナプスがブライトへとそう命令するが、ブライトはそれを聞いて意見を曲げなかった。

 

「我々は、戦闘をしに行くのではなく、道義的見地に基づいて人命救助に当たるのです。

何を心配する必要があるのですか?」

 

と、まるで開き直ったような言い草であるが、シナプスは目頭を抑えながら、ブライトの真っ直ぐな物言いに一利あると考えをまとめた。

 

同じく、プロホノウ船長もまたニヴルヘイムの船橋で、判断を下した。

オッゴを連邦軍艦隊中枢にばら撒くのと、デブリを掃除しながら、モビルスーツを回収する事。

難易度は前者が遥かに大きかった。

 

 

 

コロニーの断片が宙を猛烈な勢いで飛んでいく中、ヴァル・ヴァロのパイロットである、ケリィ・レズナーは事態が動いた事を理解した。

自分達は負けたのだ、しかし作戦である星の屑。

それは今、半分完遂されようとしている…。果たして、こんな形でそれがなされてしまっても良いのだろうか?と。

 

デラーズ・フリートに勧誘された時、彼は自らの死に場所を得たと、心底喜んだ。

今片腕の無い自らが、生き恥を晒して生き永らえても良いことはないのだと、そう言い聞かせて。

 

アルテイシアを名乗るものが戦場に出た時、彼は迷った。起動が成ったヴァル・ヴァロの中にあって、彼はデラーズの行いが本当に正しいのかと、そう思わずにいられなかった。

 

今ならば、まだ間に合うかもしれない…。

ラトーラとは別れを済ませた筈だったのに……、よもや今更思い出すのだ。彼女のその顔が…。

 

『ゔぁぁあああ!!』

 

という、情けない声を上げているのが、自分と相対して互角に戦える腕を持つモビルスーツのパイロットだとは、とても思えない。何とも、青い男の声である。

対して、その男をサポートしているキャノン付きは、適確にこちらの隙を狙ってくるのだから、中々に厄介であった。

 

そんな彼らも、デブリと成りつつあるコロニーの破片にはたまらず回避に専念しているようだった。

ヴァル・ヴァロ程硬くはないのだから、仕方が無いと言えばそうだろう。

 

「おい、そこのガンダムのパイロット。それと、そっちのキャノン着きのパイロットもだ。良く聴け。」

 

ケリィは口を開いた、その口振りはぶっきら棒であったが、決して嫌悪感のあるものではなかった。

 

「今からお前等の仲間をここに集めろ。離脱するのを手伝ってやる。」

 

『何のつもり…』

 

どうやら、キャノン着きのパイロットは女のようである。しかし、気が強そうだ。

 

「今更言っても仕方ないだろうが、情けないガンダムパイロットを観ていて興が冷めた…、何より

俺たちは、死に場所を探していた。だが、こんな『壊れ方』を観るために魂を売ったわけじゃない。……あの情けないガンダムパイロットをこのままデブリにするには、俺の興が削がれすぎた。ただ、それだけだ。」

 

そう言うと、大型のクローを動かすと大きな瓦礫を外しながら、少しずつゆっくりと、コウとクリスの下へと動き始めた。

 

 

デラーズの座乗艦、グワジンを取り押さえていたゲラートであったが、状況に変化が訪れていた。

 

「クソっ、ドサクサに紛れて逃亡か。撃っておけば良かった。」

 

ゲラートが口走りながら、苛立ちを募らせる。

瓦礫が飛び散るなか、グワジンはスラスターを全開にしてコロニー前方に付き従うように、前進していったのだ。

ザク・パワードで追おうとするも、彼を引き止めたのはクスコであった。

 

「追っても無駄、それよりも今は生きてる他の人達を集めるのが先決。」

 

「分かっている。」

 

そう言う彼であるが、己の甘い考えと同時にデラーズという男の救いようのないものに、溜息を着いた。   

 

 

 

一方で、コロニー後部に取り残されたセイラとセイラ達はと言えば、一次的に避難を行う為に、シーマの座乗艦であるリリー・マルレーンの近くへと集まっていた。

多くの瓦礫が飛び交う中で、そこだけが唯一ポケットのように何もない空間であったのだ。

 

リリー・マルレーンの艦内へと戻ったシーマと、そこに居候する羽目になったセイラであるが、艦橋へとそれぞれが到着した。

 

しかし、時間は刻一刻と過ぎている。

 

「まずったねぇ……、コレは万事休すだ。」

 

艦橋に着くや否や、シーマはコンソールを弄りながら現状の把握に努めたが、その言葉はいつになく、シーマはナイーブであった。

自分達の計算ミス、コンマ1の打ち間違いでこんな事態に発展しているのだから、諦めも着くだろう。

 

「アタシらの盛大な葬式に付き合わせちまったみたいだね…。」

 

最早笑うしか無いのだろうか、シーマは苦笑いと共にセイラにらしくもない謝罪をしたのだ。

 

「まだ、終わった訳ではありません。アムロが…、きっと何とかしてくれます。」

 

そんな言葉に対して、セイラは決して諦めたわけではなかった。こんな状況である。

逃げ場のないデブリ帯の中、強行すればどうなるか分かったものではない。しかし、どうしたことかセイラの言葉には力があった。

 

周囲のリリー・マルレーンの乗組員は、決して彼女の言葉を一蹴することなく、固唾を呑んで待っていた……、奇跡を。

 

 

そんな彼女達とは裏腹に、当のアムロはと言えば機体をデブリに巻き込まれないように、止めていた。

ただ、目の前の現状に立ち往生してしまったかのように見えるだろうが…、彼は決して諦めていなかった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」

 

と息を整えている。

彼の目の端には、何とかデブリから逃げ出してきたシーマ艦隊のムサイ級、3隻が後に海兵隊の機体を引き連れてゾロゾロと出てくる姿がチラリと浮かぶ。

 

その直ぐ後には、真っ赤なモビルアーマーに白いザク達がしがみついて、デブリ帯から抜け出す姿も確認出来た。

 

しかし、そんなものに彼は決して目もくれない。ただ見据えるは1点のみ。

彼は息を整えて、自分に言い聞かせるように言った。

 

「あの時だって出来たんだ…、今度だって…」

 

彼は意識を集中させていた。そう、僅かながらに瓦礫の隙間から漏れてくる、セイラ達の気配を辿るために。

アムロのその意思に応えるべくか、コックピットの背面に取り付けられたバイオセンサーは、鈍い光を発していた。

 




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