白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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士官学校編
教官


 

〜0080年12月

 

ガタガタと硝子を叩きつけるような風が吹き付け、寒々とした凍結した世界。小さな街の中にある、大きくも閑散とした鉄筋コンクリート造の施設。

古くは旧世紀からあるらしいその建物は、今尚地球連邦軍の施設として使用されている。

 

「C判定だ……、この理由がわかるかね?アムロ君…。」

 

冷たい眼差しが、アムロを射抜いていた。

教務室の中、椅子に座りながら窓を背に威圧するような格好で、アムロに宣言するのは、極東管区ハバロフスク連邦軍士官学校の教官である、コジマ大佐であった。

 

コジマ大佐、彼は一年戦争当時、地球連邦極東方面軍に所属していたバリバリの現場の人間であり、どちらかと言えばアムロ寄りの人材であると言える。彼は戦争当時、自らの上官と対立しその上で生き残った。

 

戦場の常ではあるが、そんな人間が組織の中で良い立場に立てるかと言えば、立てないだろう。戦後直ぐ、彼は自らの率いる部隊に対して最後の命令を出し、そして更迭された。

そして、極東管区の士官学校へと配属されたという、そんな経歴を持つ。

 

そんな彼が、アムロに対する評価を下した時それはまあまあと評価した。

 

この点は、決してアムロの総評が悪いというものではない。寧ろ、学術も運動も誰よりも努力している。

きっと、早く何処かへ帰りたいというそんな思惑が、アムロにはあったのだろう。そんな彼であるが、ただ一点において致命的な部分があった。

 

「なぜかって…それは…。」

 

「まあ、君の思うところはわからんでもない。確かに、君達ホワイトベース隊は敵地を横断し、死地を駆け抜け誰よりも戦線を移動したのだろう…。そこは評価するし、同情もしよう。だからこそだ…。」

 

コジマは非情な男ではない、確かに官僚的な部分もあるが、寧ろ感情を持って他者へと配慮しつつ、上司に対しても異を唱えることのできる、そんな決意を持った人物だ。

そんな彼が、アムロに対して同情するのはある意味では、慰めであったのだろう。

 

コジマも軍人であり、窮地に陥った事もある。だが、目の前にいる青年は元はと言えば軍人ではない。

何よりも、そんな彼が軍人として戦地を歩きその歪な経験をして、正しい軍人としての動きを引き出せるのか?と言われれば、無理だったのだろう。

 

アムロは事あるごとに教官たちとぶつかった。特に実戦に際しての部隊の運用や、作戦行動。部下に対する接し方etc、その内容は多岐に渡り、同時に前線をその目で見ていた彼だからこその視点を持っていると言える。

普通の学校などであれば、そのような行動は容認され尚且つ、受け入れられるだろうが…、ここは軍隊なのだ。

 

基本的に上官からの命令と言うものは非常に重いものであり、それに対してあからさまな反抗という物は容認され得ない。

特に、彼のような元現地徴用兵は無駄に戦闘を知っているからこそ、新たに入った士官候補生達には良い影響を与えないのだ。

 

言っていることは真艫だし、何より戦争の実態を知っているからこそ、その言葉は周囲に悪影響を与え、候補生達の心構えなどを乱していく。

 

だからこそアムロの評価は、落第も良いところだったのだ。

 

「納得行きません……。」

 

「ふん…、そうだろうな。君ならば……或いは、君たち(ホワイトベース隊)ならばこの戦場を潜り抜けるのはなんてことは無いのだろう。」

 

そして、アムロがC判定を受けた理由と言うものは、決して彼の事を過小評価しての事ではない。寧ろ彼等の戦闘は非常に評価され得るものだし、尊敬され得るものなのだろう。

だが、それが行けないのだ。

 

アムロ達の駆けた戦場と言うものは、本来のそれとは余りにもかけ離れた所謂特異な環境である。

それこそ、戦場を宇宙から地上に戻りまた宇宙に上がる…。そんな経験をした彼等からすれば通常の、例えば遅滞戦闘を行っていた地域は、分からない。

そう…、例えば草臥れてアムロの元々の家に酒浸りで隠れていた連邦の兵士のような気分がどんなものかを。

 

「だがな、戦場という場所はそんな華々しいところだけではない、と言うことだ。それを心に留めておけば…、この評価も覆るだろうと私はそう思う。」

 

「……わかりました。納得は行きませんけど、ありがとうございます。」

 

一言多い言葉は、コジマの気にすることではなかった。しかしながら、アムロが微妙な評価を受けているのはそう言った部分も、あるのかもしれない。

 

そう…アムロは問題児だったのだ。

 

 

9月に入学し、3ヶ月毎に考査の為の試験と総合評価を下され、改善点を提示される。それは努力次第でどの様なものとなるのか、基本的な学校と然程変わることはない。

ただ、軍人としての心構えはしっかりと持つようにと、そう送り出される。

 

アムロはその3ヶ月の間、基本的に1人で行動する事が多かった。と言うのも仕方のない事なのかもしれない、そもそも誰かと一緒に何かをするということが、この男は得意ではなかった。特につまらない事に対しては、とことん興味がない人物だから仕方がない。

 

ただ、そんな彼でも1人2人は友人?とは行かなくとも、それなりの関係を持つ人間が出来ていた。

 

「おいおい、そんな辛気臭い顔してどうしたんだ?ぇえ?英雄様。」

 

アムロの神経を逆撫でしてくる者も勿論いる。

それこそ、彼の事を英雄という者達はそれなりにおり、寧ろ大半の人間が彼の事を英雄と、心の何処かで思っていた。

 

「茶化さないでください…カールさん。」

 

「成績優秀なアンタがそんな顔するってことは、あんまり良いことじゃないって事だろ?」

 

そんな中で気安く話しかけてくる男がいた、名はカール。カール・マツバラ、生粋の地球生まれの男である。

地球連邦軍の勝利と、大々的な宣伝によって衆目の1人としてその勝利に酔った1人の青年は、その熱に浮かされたそのままに軍へと士官する道を選ぶ。彼はそんな1人であった。

 

宣伝されている事と、実際の人物と言うものは得てして違いが現れていくものである。

現にこの数カ月の間、アムロという人物に触れた彼の印象としては、単なるお調子者の自信家…というのがアムロに対する評価だった。

 

自分の考える事を頑として、上官に対しても食って掛かるそんな仕草、軍人に有るまじきその光景…。

そして何より、この学校にいる誰よりも幼く見えるその容姿だろうか?

 

アムロはその顔つきから、所謂童顔と呼ばれる物であり年齢よりも幾文か幼い印象を持たせる。

それが対面する相手に、どんな影響を与えるかと言えば威圧感は元より、迫力に欠ける。だから、侮られやすい。

 

「ま、本物の軍人からすれば俺たちみたいなヒヨッコとか?後は教官達のやってる事なんて、遊びみたいなもんなんでしょ?

なら、アンタのほうが正しいんじゃないの?」

 

「僕がそんなに正しく見えるかい?だいたい、正解なんて無いと思うんだけど…、それを教官たちは分かってくれない…。」

 

適切な戦い方なんて、アムロには分からない。ただその場で、死なない為に戦ってきただけである。

だから、彼は周囲からの英雄という色眼鏡を嫌に思っていた。

せっかくの経験なのだから、もっと討論する場所を求めていたという方が良いのだろう。

生徒としてはあまり宜しくない、教官はあくまでも教官であって論ずる事は、また別の者の仕事だからだ。

 

「英雄様も…面倒くさい性格してらっしゃる…。」

 

周囲はそんなものだった。

 

 

打って変わって教官達から見たアムロ・レイという人物は、お世辞にも扱いやすい相手…ではなかった。

特に、実戦経験豊富で何をするにしてもモビルスーツを扱ったそれに関しては、教官達よりも詳しいのだから始末に負えない。だからだろうか、教える側としては何を教えれば良いのか分からなかった。

 

筆記試験においては、基礎的な学力も有り尚且つその解答は即断即決、直ぐに結論を出すことも出来るし、現場での対応も可能だろう。

体力に関しても申し分なく、他の士官候補生達とも頭一つ抜けていた。特に泥に塗れると言うことに躊躇がなく、決めた事をやり遂げようとする高い決意が見て取れる。

 

正直に言えば、戦士としてはこれ以上にない逸材である。

 

だから教えることなど無いし、汎ゆる精神的な攻撃に耐えられるだろう強力な忍耐もあるのだから…、お手上げ状態だったのだ。

 

ただ、そんな中にあって1人結論に達した者がいた。

アムロと同じく現場からやってきた、コジマ大佐…。戦争当時は幾つかのモビルスーツ隊を率いて作戦を行った、大隊長の位を持った中佐であった彼は、アムロの様な人物に対して一つの正解を導き出した。

 

「皆済まないが、この件は私の一存で進めさせてもらって良いだろうか?」

 

教官団の中でコジマがそう口に出すと、周囲は少し驚いたようにしたあと、直ぐに居住まいを元へと戻すと肩の荷が下りたかのように冷笑した。

 

「あんな者どうするというのか?知っての通り、アレは一筋縄では行かないぞ?」

 

「無論だ。彼は候補生としては余りにも落第点が過ぎる…、だが候補生として見ればという点だけだ。」

 

そう言って立ち上がると、コジマは1人何かをするために席を外す。

 

「指導要綱からの逸脱は許されない!分かっているだろうな!!」

 

そんな後ろからの声も気にせず彼は歩く…

 

「我々はモビルスーツに関すれば素人も同じだ…。ならば、こんなにも良い見本を使わずして何たるか…。非常に対しては非常に徹するべしか…。」

 

彼はそう言葉を残し、その場を後にした。

 

 

数日後、ジャブロー本部にて一悶着があった。

 

「ほう…、またアムロ君の事で何かあったのかね?」

 

ジャブローの一室、そこで壺を磨いているゴップが、でっぷりとしたその体躯を起こしながら、自らに上がってきた報告を聞いてそう言った。

 

「はっ!ハバロフスク養成所のコジマ大佐からの上申であります。

アムロ・レイに対する特別教導方針に対する。許可願い、だそうで……。」

 

と言いながら紙をゴップへ渡すと、一歩下がる。そうしてゴップはそれを、左から右へと流すように読んでいくと、少し口元を綻ばせ愉快に笑った。

 

「いやはや、なるほどね。やはり手を拱いているようだが、成る程その手があるとはな…。

確かに、その方がやりやすいか。

私の方からも手を回そう。この方が予算を少なくしながら、身動きが取れそうだ。

 

君、このコジマと言う大佐だがね?面白い男だ、ジャブローに呼ぶ事は可能だろうかな?」

 

「本人の希望あらば。しかし、恐らくは希望しないかと…。空調が苦手のようでして。」

 

その一言にゴップはひとしきり笑うと、再び壺を磨き始めた。それは白磁の良い壺であった。

 

 

さらにそれから数日経ったある日、アムロは指導室に呼び出された。

不満そうな顔をしながら、その部屋に座るコジマに対して何か空気が変わった事を感じていた。

 

「君に辞令が届いている。読み上げよう。

『アムロ・レイ少尉、貴官は本日付けでコジマ大佐の補佐を務めるべし。

また、本稿を以って貴官の士官候補生としての役割は変わらず、教導と共に、より一層の勉学に励むべし。』だそうだ。」

 

「僕に教官をやれと…?ですが自分は色々と教わりに来たのですけど…。」

 

「分かっているじゃないか、だがな…。正直な話、我々が貴官に教えられる事などそれ程多くはない、故にだ。我々も貴官から色々と教わりたいのだよ。今後の為にも。」

 

異例な事であったが、コレは一年戦争の中に有った様々な事よりも寧ろ軽いものだった。

寧ろホワイトベース隊の方が異例だろうか?

軍の転換点にあって、時代に取り残されないようにと連邦軍自体も色々と変わっていく時期なのだ。

 

今だからこそ、それが可能だった。

 

 




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