白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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後処理

〜0084年2月下旬

 

デラーズ・フリートの武装蜂起から、既に三ヶ月が経とうとしていた。

結局のところ、コロニーアイランド・イーズは地球に落ちることはなく、半分は地球落下軌道から完全に反れる形で、宇宙デブリへと姿を変え、もう半分はソーラ・システムの強烈なエネルギーによって見事に蒸発していた。

 

しかし、事態は終われどもその後の収拾は、それ程簡単に事が運ぶことは無かった。

 

第一に、今回の事件の発端となったガンダム試作2号機の強奪事件。

コレは、事態の大きさに対してその導火線的役割を果たした為に、この問題を連邦軍は重く受け止めていた。

 

まず、地球連邦軍としては外部委託の業者、特にジオンと関わりの深い業者。特に、月面のアナハイム・エレクトロニクス社のような、ジオニック社等の旧ジオン系企業を吸収した大企業に対して、大規模な行政執行を敢行した。

 

コレは、今回の事件の発端である試作2号機開発者の中に、ジオンの息がかかったスパイが潜り込んでいた事に対する、徹底的な懲罰の意味も兼ねていた。

多くの技術者の家宅を捜索し、ジオンに特に今回のデラーズに加担した者、深く関わったとされる人物に対しては、重い処罰と罰金刑を与えた。

 

コレは有事の際の戦争犯罪にも適用されるものであり、アナハイム・エレクトロニクス社はこの影響によって、地球連邦軍での特にモビルスーツ分野に於いては、信頼を失墜させる事となった。

特に、グラナダ工場に関して言えば、よりジオン側に近いということも有り、地球連邦軍による重度の監視体制が敷かれることとなる。

 

コレは後に大きな問題へと発展するのだが……、ここでは割愛しよう。

 

 

 

さて、話は戻り

次に問題となったのは、強奪事件の際。ジョン・コーウェン中将の判断である。

事件後、既に更迭状態となっていた彼であるが、より徹底的にその身辺調査が行われた。

 

彼に関しては、アナハイムとの癒着が疑われていたが……、その線は白であった。

しかし、現場指揮官としての彼の判断は非常に赦されざる事であった。

 

自軍の、しかも核兵器を搭載するユニットを強奪され、剰えそれを奪還しようという、下心があったのだ。

実際、撃墜命令があれば連邦軍全体として動いて、徹底的に叩き潰す事も出来たのだが、当時コーウェンはこれ等の判断を握り潰し、何としてでも奪還を行おうとした。

コレが後の火種となって、特別観艦式において多くの連邦軍艦艇が撃沈されるという事態に発展するのだから、その罪は重い。

 

ジョン・コーウェンは、軍籍剥奪の上禁錮刑、後に軍事法廷によって裁きが下され銃殺刑となる。

彼は一切の申開きも無く、ただ粛々と己の判断ミスを受け入れ、この法による裁きが実行された。

 

なお、彼の直近の部下であったエイパー・シナプス大佐は、

軍務上の職務遂行

試作2号機が核兵器搭載機であった事による、撃墜リスクの管理、職務上の不運と処理され無罪となる。

しかし、コーウェンの派閥の一員であった彼であるが、これによって大佐以上への昇格は事実上不可能となった。

 

 

 

 

第三に問題となったものは、試作2号機を単に発したこのデラーズ・フリートによる星の屑作戦。

それを阻止しようと動いた…、ジオン・ダイクンの忘れ形見。

 

アルテイシア・ソム・ダイクン

 

その人物の処遇に関してである。

 

アルテイシア・ソム・ダイクン

その名はスペースノイドであれば、ある程度学のある人間であれば薄っすらと知っている、言わずと知れた人物である。

嘗て、ジオン・ダイクンには子供がいた。

 

兄であるキャスバル・レム・ダイクン

妹であるアルテイシア・ソム・ダイクン

 

である。

 

この二人は、嘗てジオン公国となる前の、サイド3内部においてジオン・ダイクンが死した後に、行方不明となっていた者達である。

一節によれば、ザビ家による暗殺等が囁かれていたが…、そんな人物の片割れが、このデラーズの動きに対して声明を出したのだ。

 

それ以前から、戦後間もない頃からアルテイシアの名を語り、元ジオン兵への投降を呼びかけるようにとの声明を出していたが、デラーズに対してはより強烈にそれを非難した。

そして、同時に当の本人が現実に姿を現し、最前線のど真ん中でデラーズと事を構えたのである。

 

当初、ワイアット大将は彼女の正体がホワイトベース隊のセイラ・マスであることを知っていた。

 

それは、連邦軍の重鎮であるゴップの庇護下にて、彼女は活動を行なっていたからであった。

どれ程大きな派閥を持っていようとも、ゴップの影響は凄まじく…彼女を無下には出来なかった。

 

そもそもゴップであるが、彼はジャブローのモグラと蔑称される男ではあるが、モグラは土竜と書くように、このゴップという男がどれだけの力を行使できるのかと言う意味でもある。

V作戦しかり、ビンソン計画しかり、彼の尽力無くして連邦軍の再建は不可能である。

 

今回の事件、セイラ=アルテイシアへと、アナハイムの機体が横流しされたのも、彼が如何に恐ろしい男であるか?という事でもあった。

 

何にせよ、その庇護下にあるアルテイシアに対して、何の落ち度も無いのにも拘らず、罰則を下すことは難しい。

 

唯一の汚点があるとすれば、ジオン残党を纏め上げ、アルテイシア・ジオンを掲げて現れたことだろう。

コレは立派な私兵組織であり、連邦軍と言えど個人が所持する範疇を超えているのではないか?という、結論があった。

 

そこで、ワイアットは一考した。

 

アルテイシア・ジオンは、アルテイシア・ソム・ダイクンの名義で創り出された、謂わば民間軍事会社であり、実戦へと参加はあれど、それは連邦軍との契約内容の範疇である。

 

という事である。

 

現状、主流派となりつつあるワイアットであるが、それだけの事をやる価値は充分にあると確信していた。

アルテイシアを擁立、認めると言うことは即ち、宇宙移民者へもある程度配慮する人物である。と言う、印象操作でもあるのだ。

 

本人達からなんと思われようとも、それは構わない事であった。

 

また、戦後アルテイシア・ジオンの解体も速やかに行われた。一次的な共闘、アルテイシアは武力は行使するものの、弾圧には加担しないという、そう言った姿勢の表れとしても、プロパガンダ的に用いられた。

 

総評として、アルテイシアはお咎めなし。寧ろ論功行賞ものであるが、連邦軍人ではないためそれを受け取らないという、どちらとも筋を通した形である。

 

 

 

第四に、デラーズ・フリートに加担したものの、アルテイシアと裏で通じ、最終的に失敗したにせよ、多くの犠牲を払ったシーマ・ガラハウ等の処遇である。

 

彼女らシーマ艦隊の立場は、極めて複雑であった。

一年戦争時における「ブリティッシュ作戦」という消えない大罪。そして今回の星の屑への参加。表向きには、彼女らはA級戦犯として極刑を免れない存在である。

 

しかし、彼女らは地球連邦との裏取引に当初から応じており、さらにはアルテイシアと共にコロニー落着阻止のために命を懸けて奔走した。

 

実利主義者であるワイアットにとって、汚れ仕事を完璧にこなし、かつジオンの過激派から蛇喝の如く嫌われている彼女らは、連邦の暗部を担う手駒として非常に使い勝手が良かった。同時に、現場で共に戦い、彼女らの境遇を知ったアルテイシアからの「恩赦」の要請も、ゴップの意向が絡む以上、無視できない要素として働いた。

 

結果として、地球連邦軍の公式記録上、シーマ・ガラハウ中佐以下の海兵隊残存部隊は、連邦軍との会談と、一年戦争時の証言とダイクン派の尽力により、A級戦犯の取り消しと連邦軍監視の上、地球連邦軍の新設する外郭部隊(実質的懲罰部隊)へと編入されると言う処理が為された。

 

かつて汚れ仕事を押し付けられ、故郷を奪われた彼女たちは、数奇な運命を経て再び連邦の軍服を纏うこととなった。しかし今度は、自らの意志で結んだしたたかな契約と、アルテイシアという新たな庇護者のもとで、その十字架を背負いながら生き抜く道を選んだのである。

 

 

 

第五に、デラーズ・フリート参画者、その実行者達の処分である。

 

数少ない生き残りであった、ケリィ・レズナーとアナベル・ガトーに下された判決は、実に奇妙なものであった。

 

まず、ケリィ・レズナーに関しては、連邦軍との交戦は行ったものの、連邦軍側としての損失は実質的に0であり、寧ろコウ・ウラキや、クリスチーナ・マッケンジー等の脱出に寄与した事により、お咎めは無し。

連邦の監視下に置かれるものの、そのまま生かされると言う結末であった。

 

そして、アナベル・ガトーに関しては……、書類上の処刑の後、新たなる身分を与えられ、有る特定の場所への戦災復興作業への従事を言い渡された。

ガトーの送られた場所は、一年戦争によって蒸発したオーストラリア大陸シドニー。

 

そう、コロニー落としの落着地であった。

 

彼にはそこでの復興作業を、生涯を通して行うように命令が下されたのだ。

 

判決の当初、ガトーは身震いを覚えた。彼にとって死というものは、自らの真の償いの形であると考えていたからだ。

 

ケリィに関しては、寧ろ安堵していたようだが……。

 

この判決には、ジオン側、アルテイシアの言葉が反映される形となっていた。

ジオンの軍人は、軍人というよりも武人という側面が強い。

それ故に、死そのものを名誉と重んじる者がいる。

ならばと、その逆こそが彼らにとって最も重い罰なのだろう。と言う事であった。

 

 

 

第六に、今事件、並びに阻止作戦におけるニュータイプ戦力の評価と、アムロ・レイに関してである。

 

コロニー落としに対して、連邦軍側に着いたニュータイプの人数は、確実性を求めた場合3名の人員が存在していた。

 

一人は、連邦軍所属。第13実験部隊、モビルスーツ隊隊長のアムロ・レイ。

アルテイシア・ジオン所属、首魁アルテイシア・ソム・ダイクンと、旧ジオン軍所属、現在アルテイシアと共に連邦軍の監視下に置かれている、クスコ・アル。

この3名である。

 

不確定ながら、ブライト・ノアも該当者ではないか?とされているが、実質的な脳波の測定の結果彼はニュータイプでないことは確認済みである。

 

現在、地球連邦の認識におけるニュータイプの定義は、特殊な脳波を所持するもの。

モビルスーツ戦闘において、高度な操縦テクニックを所持するもの。肉体を使った格闘戦等における、人体の操作能力の高さ…、等が上げられる。

 

上記3名は、このいずれの成績も高く、特にアムロ・レイ中尉に関しては、他の2人を遥かに凌駕するものである。

また、そのほかに確認されているジオンでのニュータイプの情報を加味した場合…、クスコ、アルテイシア両名は標準的なニュータイプであると断定される。

 

今作戦においても、二人はそれなりの活躍をしておりエースパイロット並みの挙動を当たり前に行うなど、ニュータイプという存在は危険であるが、今までの想定を下方修正しなければならない。

 

特筆すべきは、アムロ・レイという人物に関しての評価である。

 

アムロ・レイ中尉は、その戦闘センスは決してニュータイプであるから…という訳では無いという結論である。

彼個人は、身体能力も精神力も人並み外れて高く、常人の範疇を超えている。また、モビルスーツや様々な航空機による耐G訓練に対して、並みのパイロットとは思えないほどの記録を持っている。

 

其れ等を加味した場合、現在各地の研究施設で行われている強化人間プロジェクトに対して、一定の緩和を行わざるを得ないと結論に至る。

アムロ・レイ並みのパイロットを創り上げるには、それこそ天文学的な数値を注ぎ込まねばならない可能性が高く、現状彼は個人的に強いだけである。

 

との結論が多数を締めている。

 

 

――――

 

0084年2月下旬 シャイアン

 

事態の収拾後、セイラの居場所は以前と何ら変わりはなかった。いや、一つ語弊がある。

それは、アムロと共に暮らしている事実にもう一つ、このシャイアンという街に、幾人かの人物が暮らし始めたという事実であった。

 

「全く……、こんな服装に身を包むことになろうとはねぇ。」

 

シャイアン基地の一つの区画、そこには人相の悪い百数十人の連邦軍人の男達と、一人の連邦軍士官の服に身を包んだ、それなりに身なりの良い服装をした、美しい女性の姿があった。彼女の襟元には、少佐を意味する階級章が光る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

全員に共通しているところがあるとすれば、真新しい服装である事だろう。

 

彼女等が、この基地の所属となったのはついひと月前のことである。

辞令によって、この辺境の地へと飛ばされてきたものの、この基地の司令官は、何処かへ転属となり実質的に幹部は、半ば新設された部隊員ばかりとなっていた。

 

ちょうどこの日は、新たな基地司令の着任の日である。日課となりつつあった、重力下でのトレーニングも程々にそろそろ一行が到着する…、と言ったところであった。

 

黄色い巨大な機体、ミデア輸送機だ

 

が、滑走路へと進入し見事なランディングを決めた。

降りてくるのは、幾人かの連邦軍将校と資機材。

 

女の士官は一歩前に出て、その人物に敬礼をした。

 

「出迎え感謝する…、と言っても私も将官となったのはつい最近なのでね、気安く頼む。」

 

少し疲れが見えるような昼行燈的な雰囲気を漂わせている、眼鏡の筆ヒゲの男。

しかし、女士官には分かった…。この男は、叩き上げの存在であると。

 

「今日から、このシャイアン基地の司令となったコジマ准将だ。

君等の部隊も、私の指揮下に入る。よろしく頼むぞ、シーマ・ガラハウ少佐。」

 

「ハッ!こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

見事な敬礼をするシーマである。

それに応えるように、コジマもまた見事な敬礼を返した。

 

「さて…、ブライト・ノア『大佐』は、まだ到着していないのかな?まあ、艦の受領が遅れていると聞く、それまではこの地を充分に満喫するが良い。」

 

新たなる部隊、『第13外郭独立艦隊クレール・ルクス』の門出であった。

 

「既にそうさせてもらっています。」

 

シーマは大きく溜息を吐いた。これから何が起こるかなど、彼女に分かる事など無い。

しかしながら、せっかく拾った生命だと可能な限り償いをする覚悟は出来ていた。

 

 

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