白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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光立つもの
生命とは……


〜0084年3月上旬 シャイアン

 

チュン…チュンチュン

 

と鳥の囀りが響き、太陽の木漏れ日が部屋の中を照らす。

レースカーテンを透過したその光は、少し広めのベッドルームに横たわる。二人の姿を照らし出す。

ベッドは乱れ、僅かにだが湿り気を帯びている。

 

豊満な胸を、男へと押し付けるように腕を抱き枕にしている、女…セイラ。

そして、更にそれを抱き抱えるように眠る男…アムロ・レイがそこにはいた。

 

互いに身体には、僅かにだが鬱血したような跡がある。

しかし、それは決して内出血のそれではなく、僅かに小さな物が秘部を含めて点々とあるのだと。

 

「ゔぅう……」

 

日の光が、アムロの目元を照らすとそれに呼応するかのように、彼は僅かに身動ぎすると、目を薄っすらと開く。

腕の中で静かな寝息を立てるセイラの姿を確認して、僅かに力を入れて抱きしめると、

 

すぅ〜……

 

と、その朝日に黄金に輝く髪を吸い込む。

嗅ぎ慣れた、フローラルな香りが彼の鼻腔をくすぐり、彼はゆっくりと口を耳元に持っていき、囁いた。

 

「おはよう…セイラ…。」

 

彼のその言葉に、彼女はピクリと身動ぎすると…ゆっくりと、その青い瞳で彼を見つめる。

 

「おはよう…」

 

というと、彼女は直ぐに彼の唇を奪う。

互いに数十秒とも、数分とも思える長い接吻をしたあと、二人はベッドから立ち上がり、女と男を確認するかのようにガウンを羽織ると、互いにシャワー室へと向かった。

 

少し長いシャワーの時間、終えると二人は身なりを整えキッチンへと向かった。

 

 

 

ジュウジュウと、何かが焼けるような揚げているようなそんな音がキッチンの方から聞こえてくる。

 

シャイアンのアムロの邸宅は広い…。

それこそ住人である二人がいたとて、到底全てを管理できない程度には広い。

それは見方によって監獄であったが、二人にとっては…良いプライベート空間であった。

 

アムロはキッチンの棚から幾つかの木製深皿と磁器の平皿を取り出し、3人分(・・・)並べていく。

 

キッチンのコンロにはセイラがおり、その手に持ったスキレットには、オリーブオイルに焼かれているパン。

もう一つの鍋には、大豆と玉ねぎとトマトから作られたベイクドビーンズ。

幾つかの良く焼かれてカリカリとした、ベーコンと目玉焼き。

 

其れ等が、平皿へと並べられていく。

 

そして深皿には、今朝庭先で採られた野菜達が、オリーブオイルとパルメザンを振りかけられたサラダが、姿を現していた。

 

「アムロ、そろそろ。」

 

「ああ、呼んでくるよ。」

 

邸宅の2階への階段を登り、居候を起こしに行くのだ。

部屋の前に辿り着くと、

 

コンコンコン

 

と、三度扉を小突く。

 

返事は来ない

 

「おい、朝食はいらないのか?」

 

と、アムロが少し声を大きくして言うと

 

ドタっ!

 

と、何かが落ちるような音が響き、部屋の鍵が開く。

 

軋むことも無く、ただスーっと開いていく扉…。

中から現れたのは、ピンク色の髪をボサボサにしたままの、クスコ・アルの姿があった。

彼女は寝間着とナイトキャップを被りながら、眠い目をして彼に言った。

 

「おはよう……。昨日は楽しめた…?」

 

眠気眼でありながら、そんな方向に声をかけたのは…おそらくは筒抜けだった可能性がある。

いや、三者がニュータイプであると言うことはつまり……、壁の防音が機能していても、きっとたぶん恐らくはそうなのだろう。

 

「茶化さないでくれ…、それよりも朝食だぞ?」

 

アムロは恥ずかしげもなく、淡々と話た。

 

クスコは、眉間に皺を作るような難しい顔をしつつ、一階へと降りると、そこには待ってましたとばかりに、

 

イングリッシュ・ブレックファスト

 

が出来上がっていた。

直ぐ横には、アムロとセイラには紅茶が、クスコの席にはブラックコーヒーが置かれている…。

セイラが気を利かせたのだろう。

 

クスコは溜息を吐いた。

 

「二人とも元気よね〜、昨夜あんなにも」

 

「それ以上は言わない約束よ?それよりも…、今日の予定なのだけれど。」

 

セイラが彼女の言葉を遮り、アムロに予定を聞いた。

彼はナイフとフォークに手を着けようとして…、少し止まった。

 

彼は勝手に食べ始めようとしていたのだ。

セイラはそれを見て声をかけた、そう…彼は抜けている。

ただ、彼女は咎めようとして声をかけたのだが、実際予定も聞いている。

 

「あ、ああ……悪い。つい、いい匂いだったから…。」

 

彼のこの行動は癖だった…、いや癖になってしまっていた。所謂職業病というものだが、繰り返した戦時下の出撃と軍での忙しい日々は、彼から日常というものを拭い去っている。

 

セイラは「仕方ないわね」と言わんばかりの慈愛に満ちた眼差しで見つめていた。

 

「いや…そうだな。久し振りの長期休暇だし…、いやあまり考えてなかったな。」

 

二人とも、仕事ばかりであった。

ここ最近のゴタゴタ、そしてその後の書類仕事や査問会等々、そういったものばかりで、休みが無かったのだ。

 

「ワイアット提督が気を利かせたのか、或いは監視を根付かせたいのか…。何れにせよ、俺がまた宇宙に上がるのは、2週間は後だ。」

 

「新しい部隊、『クレール・ルクス』だったわよね?何を白日の下に晒そうというのかしら?」

 

第13実験隊は解散命令が出ていた。

もっとも、その人員は軒並みその『クレール・ルクス』へと編入になったのだが、これに更に元ジオン軍人やコロニー出身者が多く入れられたのだから、確実にそう言う部隊なのだろう。

 

「大方、そういうものさ…と。

それよりも予定だけれど」

 

と、アムロが言いかけたところで

 

「ちょっと待って!一つ言わせてもらうけれど、私は行かないわよ?」

 

と、クスコが否定した。

その言葉に、アムロもセイラも仕方ないと言う気分であった。

 

「そうね、貴女には別の予定があるのよね?」

 

「ええそう、だって羨ましいじゃない?当てられっぱなしは癪でしょ?」

 

と言うクスコは、用意されたブラックコーヒーをグイッと一気に飲み干すと、不味そうに顔を歪ませた。

 

「と言うことだから、お二人はゆっくりと考えてね。」

 

と言う彼女は、テーブルに着く。

 

「そうね。じゃあ取り敢えずいただきましょう?」

 

と言って、セイラは両の手の指を組み合わせ、妙に様になった様子で祈りを捧げた後、アムロにウィンクを飛ばした。

それを見てアムロは、少し申し訳なさそうな顔をすると、今度こそナイフとフォークを手に取り食事を始めた。

 

そんな彼等が食卓を囲んでいる間も、邸宅の周囲には数十人の連邦軍兵士が潜んでいる。高性能な集音マイクや望遠鏡が、この平穏な朝食の風景を逐一記録していた。

 

 

クスコは、さっさと食事を済ませ、片付けを済ませたら幾つかの手荷物とキャスターを伴い、家を出発していく。

いつ用意したのか、タクシーを呼び付けていた用意周到なその手際。

 

監視の目の幾つかは、邸宅から離れ彼女の方を追っていった。

 

 

アムロとセイラはそのまま、邸宅の庭先の植物達を戯れに触れ幾つかの野菜を摘み取る。

その行いは、有史以来人類が続けてきたもの、それを感じるには余りにも小さな行いであるが、彼らにはそれは大いなる息抜きであった。

 

暫く、土を触っている二人であったが、ふとセイラが言葉を投げかけた。

 

「ねぇ……、欲しい?」

 

その言葉に、アムロは一瞬固まると自らの土に汚れた手を見て答えた。

 

「欲しくない…と言えば嘘になる…けれど」

 

と言う彼の手は、僅かに震えていた。そして、その先に何か見えないものでも写っているのだろうか?

 

「こんな人間が…、生命を育むことは赦されるのか…?」

 

アムロの震える手の上に、セイラは自らの泥に汚れた手を重ねた。

冷たい土の感触が、二人の体温を媒介にして混ざり合う。彼女の瞳には、アムロが抱える深い昏がりも、その奥にある怯えも、すべて見通しているような静かな慈愛が宿っていた。

 

「赦しを請う相手は、もうどこにもいないわ。……私たちの中以外にはね」

 

セイラは重ねた手に力を込め、アムロの震えを無理やり抑え込むのではなく、分かち合うように包み込む。

 

「一年戦争、そしてその後の動乱……。私たちは、生き残るためにあまりに多くを壊してきた。でも、アムロ。もし私たちが新しい命を否定してしまったら、私たちが守ろうとした『未来』には、一体誰が住むというの?」

 

アムロは顔を上げられない。

彼の脳裏には、かつてガンダムのコックピットから見た、閃光の中に消えていく命の断末魔がリフレインしている。ニュータイプとして鋭敏すぎる感性は、その罪悪感をも鮮明に保存してしまっていた。

 

「……僕には、自信がないんだ。この手が、子供を抱くためのものなのか、それとも……また誰かを殺すためのものなのか。連邦軍に監視されているこの現状で、親になる資格なんて……有るのかと…。」

 

「資格なんて、誰が決めるのかしら。あそこに隠れている連邦の兵士たち? それとも、歴史という名の無責任な傍観者?」

 

セイラは皮肉めいた笑みを一瞬だけ浮かべ、空を見上げた。青い空の向こうには、かつて彼らが駆け抜けた、残酷で美しい宇宙が広がっている。

 

「私たちは、ニュータイプという名の『道具』として扱われてきた。でも、ここで土をいじり、汗をかき、こうして迷っている瞬間だけは、ただの男と女なのよ。……私は、あなたとの間に『繋がるもの』が欲しい。それは罪滅ぼしでも、義務でもない。ただ、私が私として生きた証が欲しいの」

 

アムロはゆっくりと、自分の指をセイラの指に絡ませた。

泥だらけの手。けれど、その感触は驚くほど温かい。

 

「……セイラさん」

 

「セイラ、でいいと言ったでしょう?」

 

彼女は悪戯っぽく微笑むと、アムロの頬についた泥を指先で拭った。

その瞬間、遠くの茂みで集音マイクを握る兵士の耳には、二人の吐息混じりの沈黙だけが届いていた。彼らには、この沈黙がどれほど重く、そして切実な決意を含んでいるかなど、知る由もない。

 

アムロは深呼吸をした。肺に流れ込むのは、春を待つ土の匂い。

かつて戦場を支配した死の臭いとは、決定的に違う、生を謳歌する匂いだ。

 

「……少し、時間をくれるかな。今の僕に言えるのは、君と一緒にいたいということだけだ。クレール・ルクス……新しい部隊での仕事が始まったら、もっと外の世界が見えてくるかもしれない。自分が何をすべきか、何を守るべきか」

 

「ええ、待っているわ。宇宙へ上がるまでの二週間……たっぷり時間は、あるのだから」

 

セイラは満足げに頷くと、摘み取ったばかりの小松菜を籠に入れ、立ち上がった。

アムロもまた、震えの止まった手で地面を突き、立ち上がる。

彼は青々とした空を見あげ、そしてセイラを見つめた。

 

 

 

一方、アムロの邸宅から出たクスコ・アルはと言えば……

 

「それで私の家に泊まろうとするのは、困るんだけど。」

 

クリスの家へと辿り着いていた。

 

「だって…、あんな空間にいたくないじゃない?取り敢えず…よろしく。」

 

クリスは、額に手を当てて髪を掻き上げると大きく溜息を吐いた…。

 

コッチだってまだ独り身だと言うのに、お熱い事だとそう思いつつ…、二人の行く末に一抹の不安を覚えていた。

 

「なに?取り敢えずどのくらい泊まる気なの?」

 

「1週間…。」

 

再び大きな溜息を吐く、2人分の食事を作る羽目になる。そう思いながら、まあ悪くはないと自分を納得させていた。

 

 

それから…3日後

 

アムロとセイラの姿は、空港にあった。

 

 

 

――――

 

〜0084年3月上旬 地球連邦軍本部ジャブロー

 

大会議室には、将官と官僚そして軍幹部がぐるりと椅子に腰をかける。

目出度くも、連邦軍主流派筆頭となったワイアット大将と、その後援の将官達は、新設される部隊に対して一定の予算を確実に通していた。

 

しかし…、そこに待ったをかけた者たちがいた。

ジーン・コリニー率いる、連邦タカ派急進勢力である。

 

そもそも、ワイアットが所属していた派閥は、タカ派と言っても穏健派…、というと語弊があるが政治的にはより柔軟な人物である。武官的な人物である彼は、利用出来る手駒が増えた事に一つの満足と、自らの手柄が増えた事を喜ばしく感じていた。

 

 

それに対して、ジーン・コリニー率いる者達は…嫉妬と目的を完遂するにワイアットが邪魔な存在となっていた。

元来、彼等は連邦政府の無能が白日の下に晒される事を良しとし、それによって軍が実権を握る事を画策していた。

 

 

ワイアットは、連邦政府の高官として

 

コリニーは、全く新しい勢力として

 

互いに力を着けようと画策していた。

そこに偶々、タカ派という器が存在していただけで、思想としては真っ向に衝突する間柄であった。

 

「新設された『第13外郭独立艦隊クレール・ルクス』、コレは非常に危険な存在である。

元とは言え、ジオン出身の人間が半数を占めるこの部隊は、いつ連邦軍に牙を剥くとも限らない。

彼らを停めるための、地球出身者によって構成される部隊が必要ではないか!」

 

と、提唱した。

 

その言葉に、誰かが否定するか?

いや、誰も否定する者はいない。

何故ならば、皆そう言う事は内心思っているからだ。

 

もっとも、この会議を他所から見ているゴップからしてみれば、心底どうでも良い事で言い争っている事だろう。

彼は、地球連邦という存在が存続出来るよう、地球連邦軍を操っているのだから。

この会議の成り行きですら、上手く利用しようとするだろう。

 

「して…?その部隊は具体的にどのような部隊となるのか?コリニー大将…」

 

ワイアットが、口火を切って牽制する。

対するコリニーは、ジオンの残党が如何に難しい相手であるか、如何に即応部隊を揃えようとも、それを凌駕する動きをされれば防ぎようがない。

ならば…、予防策としての部隊が必要である。

 

コリニーの言っていることは、決して辻褄の合わない事ではなかった。

その言葉に賛同するものは、比較的多く…。

寧ろ、ワイアットの懲罰部隊等よりかは、遥かに使いようの良い道具ではないかと…、そう言った空気が醸成されていった。

 

こうして、地球連邦軍には同時期に2つの部隊が出来上がった。

 

一つは、宇宙・地球上を行き来し、即応的に事態の収拾にあたる小規模な艦隊を運用する部隊

第13独立外郭部隊 クレール・ルクス

 

もう一つは、

地球連邦の不穏分子を、予防的に処理し治安維持、コロニー政府の監視を目的とする、比較的大規模な部隊

 

特殊部隊:ティターンズ

 

である。

 

 

 

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