〜0084年3月下旬 シャイアン
アムロの邸宅、その一室でセイラとアムロは互いに目を覚ました。
互いに確認のキスをした後に、アムロは軍服にセイラは外向きのスーツ姿に着替えると、寝ぼけているクスコを叩き起こし、朝食をとった。
カマリアとの一件は、恐ろしく進展が少なかった。元々、母親というものに幻滅していたアムロと、自らの欲と考えをアムロに理解して欲しいというカマリアの言葉は、どこまで言っても平行線だったのだ。
特に問題となったのは、母と連れ添う間男の存在である。父親の安否を気にもせず、そうやって生きてきたと言う、ある種許し難い事であるが、父と母の間が冷え切っていたのは、テムの性格のせいであったのかもしれない。
特に機械好きというか、機械馬鹿とも言える性格だ。大方、熱が冷めたからこそ、カマリアは不倫という選択をしてしまったのだろう。どこまで言っても、人というものは欲に正直であったのだ。
しかし、そこで話は終わらなかった。
セイラは一つの提案を二人にした。
定期的に連絡をすること、手紙でも電話でもなんだって良い。少しだけでも近況を報告し合う事によって、少しでも家族としての繋がりを繋ぎ止めたいというのが、彼女なりの言葉であった。
カマリア自身はその言葉に乗り気であったが、アムロは渋った。面倒くさいと言うところもあるが…、果たしてそれがどれだけの効果があるのか?と、そう思うところがあったからだ。
しかし、セイラは頑なで…結局アムロは押し切られた。
今朝の朝食の間も、アムロは蟠りを持っていた。
「やっぱり、不満かしら?」
「不満…ね。確かに、不満かもしれない。正直言って納得したくない…」
モグモグとしているクスコの横で二人が、そんな会話をしているのを尻目に、クスコが声を上げた。
「そんな事言って、この子がジオンの娘です!って言うことも言えなかったんなら、同じ事じゃない?私だったら、相手の出自を出してそれでなお、態度が変わらなきゃそれでおしまいにするわ。
それが、貴方は出来てない。そういうところが、臆病なのね。」
「言ったところで何になる!生命を狙われるのが、オチだ。」
アムロのその反応に、セイラは満足していた。例え疎遠で、心が離れていたとしても、結局はカマリアの事を『家族』と認識して護ろうとするのは、彼らしいと言えばそうなのだろう。
「アムロ……、私貴方のそういう所嫌いじゃないわ。」
セイラは正直に言葉を吐いた。
朝食の後に、彼等はシャイアン基地へと向かった。そこでは拡張工事と宇宙艦艇用の乾ドックの設営が行われていた。
未だ完成ではない、終わるのは来年だろうその規模は、シャイアンと言う1地方の小基地が立派な、一つの部隊の本拠地となることを示していた。
シャイアン近郊部には、嘗て対核戦争用に建設された核シェルター司令室が存在している。
その基地機能を刷新し、内部機材の搬入を行いながら周辺の山々をすり鉢状に露天掘りしているのだ。
それだけ連邦軍は、ワイアット大将は、クレール・ルクスと言う部隊に本気で取り組んでいるのだろう。
「俺達を単なる遊撃部隊で、終わらせる気は無いらしい。」
アムロはその光景を見て目を細めた。
これ程までの拡充を行うということは、本格的な戦闘に対応する為の設備であるのだ。
そして、それは同時に決して『ジオン残党』程度の相手との戦闘を見据えてのものではないのは、明らかだ。
「何を企んでいるかにせよ、俺達はもう止まれないところに来たのかもしれない。」
アムロは目を伏せ、そして大きく見開くと歩き始めた。
「取り敢えずは機体の受領が先決だ、そろそろガルダ級が来る頃合いだろう。セイラ、君は向こうについたら」
「ええ、オーガスタの子供達のカウンセリング、それが私の役目だもの。」
二人の後を、クスコは気まずそうに歩くのだった。
暫くすると、ガルダ級が一機シャイアンの空港へと降り立った。
その巨大な船体は、航空機と言うレベルを遥かに越えた戦略的なペイロードを誇る。
そんな機体が、態々迎えに来るなどとそれはコレに大きな力が働いている証拠であった。
ガルダは3人を乗せ、オーガスタへと向かった。
〜同日、オーガスタ基地
オーガスタ基地は忙しなく動いていた。
モビルスーツ工区では、組み立て上げられた機体が駐機場に並び、移動を今か今かと待ち構えていた。
その移動作業を行うの中には、クリスの姿もあった。
「次、16号機搬入。ガルダが来る前に終わらせるわよ。」
彼女は、数日前に前乗りし機体の最終確認を行なっていたのだ。元々、其れ等の機体…特にガンダムℵの設計に関わった彼女である。
新しくロールアウトした機体と、その不備を観たかったというものもあった。
同時に、その機体が満足の行く出来である事を嬉々としていた。
「先行量産だけど、こうやって陽の目を観るのは感慨深いものが有るのよね。ジムⅡ」
ガンダムℵのデータから抽出された、フレーム構造の限界値より、セミモノコックを全廃したその機体は、既存のジム改修機よりも彼女には、非常に纏まりが良く見えた。
それが、ズラリと並んでいる姿は壮観である。
汗水かいて開発した、そんな成果が今実っているのだからそれはそうだろう。
そんな満足感をクリスが得ているのを、まるで計ったかのように、ガルダ級が姿を現した。
巨体を滑走路いっぱいに拡げて、着陸する姿はとても威圧的である。と同時に、連邦軍の技術力の高さを物語っていた。
ガルダ級からは、複数人の人影が現れるとその中には、アムロとセイラ、そしてクスコの姿があった。
3人は、呼んでもいないにも拘らず、クリスの側へと直ぐにやって来た。
「クリスさん、お疲れ様です。中々に壮観ですね。」
「そうでしょう?観なさいよこの子たち、皆私達の血と汗と涙の結晶なんだから、こういうの好きなのよ!!」
と、興奮している彼女に、アムロは同族感を感じながらもそのモビルスーツ達に目を泳がせた。
殺気も殺意もない、何の変哲もない
そもそも、ジムの顔がそれこそ殺意の無さそうな顔をしているのが、それに拍車をかける。
開発陣もまた、コレが人殺しに使われることの無いように祈りながら、戦いの為に平和の中準備をしているだけなのだ。
「二人とも、私たちはそろそろ良いかしら?」
セイラがその光景に声をかける。
セイラの仕事場は、オーガスタ研究所の元ニュータイプ研究施設。今は完全にカウンセリングと、孤児院を併用している施設。
そこが彼女の仕事場なのだ。
「あっ…、ごめんなさいね。セイラ、何かあったら連絡ね?」
「ええ、私からも…。身体の不調は直ぐに連絡して。」
と互いに挨拶替わりに言い合うと、セイラはクスコを連れて、そのままその場を去って行った。
その後姿を、アムロは少し笑って見送る。そんな姿を観たクリスはと言えば…
「何か、良いことがあったの?」
とアムロに訪ね
「まあ……、色々と。」
と、短く返し合った。
―――
アムロ達と離れたセイラとクスコ、二人が向かった孤児院と病院を担う施設に、二人が足を踏み入れると、直ぐに誰かが駆けてくる音が聞こえた。
タタタタタ
と、まるで素足で走っているかのようだ。
実際、音の主は院内を駆けるようにセイラ達の目の前に現れると、そのままセイラの胸に飛び込んだ!
紫の髪と、少し幼い顔を残した少女。セイラやアムロよりも、歳は下である。
「ちょっと…!いきなり飛び込むのは危ないわよ、ロザミー。」
セイラは少し怒るように言うと、飛び込んできた少女ロザミア・バダムは、少しバツの悪そうな顔をするが、下からセイラを覗き込む用に言った。
「だって、セイラお姉ちゃんと会うの久しぶりなんだもん。」
歳の頃は大凡14、5歳、だが彼女の言葉は年齢よりも幼い印象である。
「相変わらず貴女、セイラが好きね。私の事も、お姉ちゃんって呼んでも良いのよぉ?」
とクスコが、言う。
しかし、ロザミアはすっごく嫌そうな顔をしたあと、クスコに言い放った。
「アルちゃんは、お姉ちゃんじゃない。」
その言葉は、少し馬鹿にしているところもあるのだろう。実際はどうか分からないが、クスコはその言葉に呆れた様な顔をしつつ、どう怒ってやろうかと思案にふける。
どう言い負かしてやろうかと口を開きかけるが、ロザミアはセイラの背中にサッと隠れて、あっかんべーと舌を出した。
「……生意気言うじゃない。じゃあ何よ、私は? 悪役の魔女とでも言いたいの?」
「ううん、アルちゃんは『親戚のうるさいお姉さん』って感じ!」
「……あんたねぇ!」
クスコはわざとらしく腕まくりをすると、ロザミアはキャハハと笑い声を上げる。
セイラがここに初めてきた時の、あの陰鬱とした雰囲気は何処へやら、このオーガスタは比較的まともな空気が流れていた。
「皆は今、何処にいるの?」
「う〜ん、今皆で勉強中。ゲーツ兄さんが、追いかけてこないのは珍しいけど。」
どうやら、彼女はそれから逃げ出してきたようだ。
「ロザミー、お勉強は大切な事なの。わかってくれる?」
「うん、でもねつまんない。」
その言葉にクスコがまた難しい顔をした。
「あのねぇ、勉強がつまんないのは当たり前、自分で楽しくなるように工夫してみなさいな。それも勉強よ。」
その言葉に、ロザミアはいやに素直な返事を返して、来た時と同じように廊下を走り去っていった。
「あの子も、だいぶ落ち着いてきたわね。ここまで来るのに、2年かかった。
来たときはそれはそれは大変だったから。」
「今の言動見ればそう思うわ、年齢にしてみれば幼すぎる。」
ロザミアは、嘗ての実験の最中精神を半ば壊していた。
人格の再形成と、記憶の固定化を行い無理矢理にニュータイプを、作り出そうとしたこのオーガスタ研究所の闇を彼女という存在は嫌というほどに象徴している。
「一度発現したものは、どうしても戻すことは出来ない。なら、私達に出来ることは、それを使いこなせる様にすることではなくて?」
「私達みたいな、戦争の道具としてのニュータイプじゃなくてって事でしょ?立派な理想だけど、まだまだ道は長そうだけどね。」
セイラ達の息のかかっているニュータイプ研究所は、今は此処しかない。
他の、例えば近郊のオークランド研究所等とは関係も深い故に、そちらの方も何かと方向転換を迎えているらしい。
と言う情報が入っているが、真偽は定かではない。その他の場所は、現状セイラの手も足も出ない場所ばかりであった。
「財界からの働きかけも出来るだけやってはいるけれど、政治は難しいわ。」
「お爺さん頼れば良いんじゃない?もっとも、長くは無さそうだけれど。」
セイラはその言葉に、老人を思い出す。しかし、同時にその顔を見て一人を思い出すのだ。
「兄がいれば、二人で手分けを出来たのだけれど…、今は無い物ねだりね。」
セイラは、キャスバルに力を借りたかった。基本なんでも出来る性格の兄であれば、色々なものへの根回しだとかそういうものだって出来るだろうと。
自分よりも優秀なのだから。
しかし、いない人はしょうがないのだ。
当の本人であるか兄キャスバルが、宇宙のアクシズで出来る事をやろうとしているのだという事を、セイラは知る由もない。
「取り敢えず、事態の前から仕事も溜まっているでしょうし、手伝ってくれるわよね?」
「勿論、そのために着いてきたんだから。」
二人は廊下を歩いていく、今日から忙しい日々が戻ってくるのだと。
〜同日 ジャブロー
とある一室
二人の男がいた。
一人はデスクに腰を掛け、書類を見ている。
対して、もう一人は直立不動であり、何かを待っているようだった。
「クライド・ハリソン少尉…20歳、地球生まれ地球育ち、シドニーか…、優秀な成績を残している貴官であるが、どうしてかの部隊への入隊を希望する?」
ジャブロー基地司令部付きの、迎撃部隊。その中にいるパイロットの一人が、直属の上司へと掛け合っていた。
クライド・ハリソン少尉、一年戦争で地球の故郷を焼かれた経験を持つ。真面目で正義感が強い性格を持っていて、やはりこの時代の青年には当たり前のように、アムロ・レイへの強い憧れで、連邦軍への入隊を希望した一人であった。
言ってしまえば美女?美男子?ティルダ・スウィントンと言えば話が早い。そんな彼である。
「サー!私は、地球圏の平和と秩序の為にパイロットとなりました。今の私の使命感に最も、合致した部隊であると愚考しました。」
彼のその言葉に嘘偽りはなかったが、しかしだからと言って直ぐに良い返事が返ってくるわけではない。
「他意は無いのか?言っては悪いが、かの『クレール・ルクス』と言う部隊には、君の仇とも言える相手がいるわけだが…?それにだ…。」
クライドの上司、彼の机の上には一通の封筒があってその中の資料には、濃紺の資料が入っている。
「彼等もまた、君を必要としているようだが…それを蹴るか?」
「はい…私は、かの部隊への配属を希望します!」
上司は深い深い溜息を吐くと、そこに判を押す。それは、彼の配属願いを、更に上へと上げるための第一歩だった。
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