白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

81 / 91
始動

〜0084年5月上旬 

 

 

地球連邦軍第13外郭独立艦隊『クレール・ルクス』の初陣は、部隊編成の余韻が冷めやらぬうちに唐突な幕開けを迎えた。

 

標的となったのは、北米大陸の重要拠点である旧カリフォルニア・ベース近郊の補給施設。鬱屈した情念を燻らせていたジオン残党軍の一個中隊規模による、武装蜂起とも呼べる奇襲攻撃であった。基地守備隊の防衛線が半壊し、陥落の危機が迫る中、シャイアン基地より緊急発進したペガサス級『グラニ』を旗艦とする特務艦隊は、驚異的な速度で現場空域へと到達する。

 

荒涼とした大地と土埃が舞う戦場に、連邦の威信を背負う最新鋭機と、泥水を啜り生き延びてきた者たちの異形の機体が同時に舞い降りた。

 

そこに展開されたのは、従来の連邦軍の教義には存在しない、極めて特異で洗練された蹂躙劇であった。最新鋭の火器管制システムを最大限に活かした若手・中堅パイロットたちによる正確無比な制圧射撃が、残党軍の進軍ルートを面で封殺する。そして、その弾幕によって生じたごくわずかな死角の網目を縫うように、旧海兵隊を中心とする元ジオン兵たちの部隊が、音もなく敵機の懐へと潜り込んでいく。

 

統制された連邦の組織戦術と、本能的なジオンのゲリラ戦術の完璧な融合。

 

かつてグランドキャニオンの底で反発し合った二つの異なる戦意は、実戦という極限状況下において、一つの巨大で精密な「暴力の歯車」として噛み合っていた。

 

混乱する残党軍が指揮系統を立て直すよりも早く、機動部隊の先頭を駆けるアムロ・レイの白い機体が、次元の違うスラスターワークで敵陣の中枢を正確に射抜き、戦局を完全に決定づける。

 

反撃の隙すら一切与えられない、圧倒的な武力と計算し尽くされた速攻。

基地の防衛隊が事態を把握する間もなく、テロリストのモビルスーツ群は次々と四肢を断たれ、あるいは駆動系を破壊されて機能停止に追い込まれていった。

 

カリフォルニア・ベース近郊に吹き荒れた動乱は、文字通り瞬く間に鎮圧された。

 

後に『クレール・ルクス』という名を地球圏の表裏に轟かせることになるこの苛烈な初陣は、彼らが単なる寄せ集めの部隊などではなく、いかなる火種をも一瞬で踏み消す、地球連邦最強の「実力行使部隊」として完成したことを、冷徹な戦果をもって証明していた。

 

それと同じ頃、オーガスタ研究所でも一つの騒動が起きていた。

 

「連邦上層部は、いったい何を考えてるの!せっかく、ジムⅡの生産が軌道に乗ってきたというのに、ティターンズ用にザクⅡパワードの設計図を、アナハイムに譲渡しろって!!」

 

クリスチーナは、額に青筋を立てながらプリプリと怒っていた。

流線型の外殻と黄色と緑が特徴的な双眼の機体、其れの足元から姿を現した彼女は、文句を言いつつも作業を続けていた。

 

本来地球連邦軍の正式、次期主力量産機とされていたジムⅡである。その性能は折り紙付きで、コストも既存のジムとの1部部品の互換性を担保させつつ、生産ラインにムーバブルフレームを組み込むだけで、安定した生産を可能とする設計であった。

 

実際に地球連邦軍の上層部はそれに納得し、次期主力量産機用の生産ラインの予算は既に通っており、順次工場は稼働を行なっており、初期生産ロットは納品を待つばかりである。

 

そこに来て、横槍があったのだ。

 

地球連邦軍 独立治安維持部隊ティターンズ

 

宇宙移民者、並びにジオン残党の動きを監視し、地球連邦内部の騒乱を未然に摘み取るための特殊部隊。

その活動は幅広く、クレール・ルクスとも一部被るところがあるのだが、クレール・ルクスが実働武力行使部隊であるのに対して、警察権を有し、平時においても非常に強固な思想のもとに動く、法執行部隊である。

 

彼等にもその大きな役割の為か、幾つかの予算が優先して通された。

モビルスーツ、並びに宇宙艦艇や地上基地において、一部の優先使用権が認められており、行動範囲は多岐にわたる。

 

彼等にもジムⅡ等が譲渡される運びとなっていたのだが、ここで一つ大きな問題があった。

地球連邦軍がジムⅡのティターンズへの配備を、渋ったのである。

 

前文で書いた通り、ティターンズは治安維持部隊である。

つまり、通常一般市民等のデモ隊に対して、矢面に立つ仕事が多いのだ。

ここでジムⅡを配備したら、市民等はどう思うか?

 

『地球連邦政府は、自分たちスペースノイドを弾圧する。』

 

そんな考えが増えるのは当たり前で、ジムⅡがその象徴となってしまうのだ。

それでは、地球連邦軍が主力として配備されているジムⅡのイメージダウンに繋がってしまう。

 

であるならば……、そのヘイトを寧ろ嘗ての敵のほうへと向けさせよう。と、考え出されたのが、ザクⅡパワードの基礎設計を流用した機体の開発と生産(後にハイザックと呼ばれる機体)であった。

 

「予算だって無限じゃないのに…、こっちの開発資金をどうして出してやらなきゃならないのよ。」

 

クリスの今の仕事はオーガスタ基地守備隊のモビルスーツ部隊の隊長であり、オーガスタ研究所の試作モビルスーツ開発者の一人であった。

2足の草鞋というものだが、テストパイロットを兼任している彼女にとって、其れ等は決して苦痛ではなかった。

そんな最中に言われたのだから、頭に来たのだろう。

 

「そう怒りなさんなって、別嬪な顔が台無しですよ?マッケンジー少佐。」

 

機体のコックピットから見下ろすように、この開発が始まったばかりの機体のパイロット、その男がクリスを茶化すように言い放つと。

 

「ブルターク大尉、お世辞は良いの!」

 

怒りに任せて、彼女は口を開いた。

それだけ、彼女はアナハイムという存在に信用が無かった…と言えよう。

0083年の事件では、地球連邦に多大なリスクを背負わせたのだから、信用など皆無であるのは言うまでもない。

 

「貴方が持ってきたこの機体、その基礎設計と私たちのジムⅡの設計を組み合わせるのよ?

そんな時にこっちに事前の根回し無しにやられたら、たまったもんじゃないのよ。」

 

クリスに八つ当たり気味に言われている軍人、少し厳つい顔をした男、ブラン・ブルターク大尉は彼女の言葉を肩をすくめて反らした。

 

「そんなこと言ったところで、現状がどうこうなる訳でもなしに。」

 

クリスが足元から離れていく姿を見降ろしながら、この機体『アッシマー』のコックピット外装を撫でていた。

 

 

 

一方で同じオーガスタでも、孤児たちのいる施設ではセイラが、吉報を受けていた。

 

「そう、ありがとう。」

 

と彼女は自らのデスクの受話器を置いて、大きな溜め息とともに少しだけ微笑んだ。

 

「どうかされましたかな?」

 

彼女の直ぐ側には、ゲラート・シュマイザーが仁王立ちで、まるで警護をするかのような姿がある。更にソファには、クスコ・アルの姿もあった。

 

「ええ、少し進展した事が有りました。

先程、宇宙(そら)への切符が届いたそうです。」

 

そう言う彼女の言葉に、ゲラートは怪訝な顔をして顔を顰めた。

 

「お言葉ですが、私は今でも反対です。貴女を置いて、我々が宇宙に上がるなど…言語道断!我々は、貴女の側にいて仕事をしたいのです!」

 

彼は真っ直ぐにセイラの瞳を射抜いていたが、しかしセイラはそれに動ぜずに席から立ち上がった。

 

「いいえ、貴方方にはやっていただかなければならない事が山のようにあります。

それは償いだけではない、貴方方の生きる道を探す事に繋がると…、私は確信しています。」

 

睨み合う2人、それに対してクスコはソファに座りながら寛ぎつつ、その光景を眺めている。

そして時折、溜息を吐くのだ。

 

「好い加減諦めては?ゲラート大尉?そうなったら頑なだと、嫌というほど知ってるでしょ?頑固者のお姫様なんだから。」

 

「何?貴様は、自分がこのお方の側に仕えられると言うだけに満足しているのではないか?」

 

矛先がクスコの方へと向くも、クスコはケロッとしている。

 

「兎も角として、既に決定事項です。

文句があるのなら、到着してからお願いします。何分、不便をかけると思いますから…。」

 

「ではせめて、確約していただきたい。いつか必ず宇宙へと上がってくると。」

 

ゲラートは熱心だった、いや少しばかり狂気の色があった。セイラの瞳には、この姿は少し見覚えがあったような…、そんな気がする。そう、例えば自分たち兄弟に、ジオン・ダイクンの話を聞かせた、ジンバ・ラルの様な。

 

「確約は出来ません。ですけれど、5年10年後くらいには上がれるでしょう。連邦もまだ、私のことを恐れているみたいなので、監視を確実に出来ると判断できるまでは、地球に押し留めるつもりですから。」

 

ゲラートはその言葉を聞いて歯軋りをする。しかし、その事実はねじ曲げようのないものである。

 

「ですから、私が上がれるまでその土壌を作っておいて頂けません?ゲラート隊長。」

 

「……、わかりました。このゲラート、謹んで拝命いたします。ところで、その土壌というものは何処に?」

 

セイラは受け取った情報を机の上のタブレットに投影し、彼に見せる。

実に歪で、あり合わせと言う言葉が似合う。そんなコロニーの姿がそこにはあった。

 

「サイド1,コロニー・スウィート・ウォーター。

密閉型とオープン型の2つのコロニーを繋ぎ合わせた、あり合わせの産物。

今、居住しているのは戦争で家を追い出された難民…。彼等に私達が受け入れられるか、そこが課題よ?」

 

難民を創り出した側として、ゲラートの額には緊張が流れる。しかし、一つの疑問が生まれた。

 

「お言葉ですが、そのコロニー。彼等の宇宙拠点と言われている場所と、同じ名ですが…まさか?」

 

「ええ、アムロ達と共に貴方方も宇宙に上がるでしょう。コロニー防衛隊の席は未だ空白ですから、その腕を存分に奮いなさい。」

 

セイラのその言葉に、ゲラートは渋々と受け入れる他なかった。

 

 

 

〜0084年5月上旬 地球連邦軍本部 ジャブロー

 

太陽の光が届かない、堅牢な岩盤に守られた地下要塞ジャブロー。その最深部に位置する一室は、地球連邦軍における「もう一つの権力」が胎動する場所であった。

 

重厚なマホガニーのデスク越しに、二人の男が対峙している。

一人は、白い顎髭を蓄え、軍服の襟元まで隙なく整えた初老の男、ジャミトフ・ハイマン准将。

そしてもう一人は、黒地の制服に身を包み、赤外線センサー付きの異様なゴーグルを装着した大柄な男、バスク・オム大佐である。彼らの肩には、地球連邦軍の正規のエンブレムではなく、漆黒の猛禽類を象った『ティターンズ』の部隊章が輝いていた。

 

「……連中の『初陣』のデータが上がってきました。旧カリフォルニア・ベース近郊でのテロ鎮圧。……驚くべき手際ですな」

バスクは、デスクの上に無造作にデータパッドを放り投げた。

ゴーグルの奥の瞳は見えないが、その口元は不快感に歪んでいる。

 

「被害は基地施設の一部と、守備隊のモビルスーツ数機のみ。テロリスト側は、一個中隊がわずか30分で壊滅。……アムロ・レイの率いるモビルスーツ隊は、見事なまでに連邦の教義とジオンのゲリラ戦術を融合させていたと、報告にはあります」

 

ジャミトフは、手元の紅茶のカップを静かに置き、書類に目を通した。

 

「ワイアット大将も、思い切った手札を切ったものだ。……猛獣同士を檻の中で飼い慣らし、互いに磨き上げさせるとはな」

 

「飼い慣らすなどと! あの男は、分かっていないのです!」

 

バスクが突然、拳をデスクに叩きつけた。

 

「ジオンの残党……スペースノイドの血に染まった連中に、連邦の軍服を着せるなど言語道断!

奴らの本質は、我々アースノイドを絶滅させようとするテロリストだ!

アムロ・レイという特異点に惹かれている間は大人しくしているかもしれんが、必ず我々の背首を噛みちぎる日が来る!」

 

バスクの言葉には、一年戦争時にジオン軍の捕虜となり、過酷な拷問によって両目の視力を奪われたという、拭い去ることのできない深い憎悪が渦巻いていた。

 

「落ち着きたまえ、バスク大佐。……君の怒りはもっともだ。だが、政治とは感情で動かすものではない」

 

ジャミトフの静かな声が、バスクの昂りを抑え込む。

 

「今の連邦市民は、長きにわたる戦乱に疲れ果てている。そこに、ワイアットの掲げる『融和』という甘い言葉と、アムロ・レイという『英雄』の姿は、あまりにも魅力的だ。……今、我々が正面から『クレール・ルクス』を叩けば、反発を生むのは我々の方なのだよ」

 

「……では、このまま奴らが『連邦の正義』として振る舞うのを黙って見ていろとでも?」

 

その憎悪に満ちた顔がジャミトフに向けられる。

 

「誰が黙っていると言った?」

 

ジャミトフは、老獪な笑みを口元に浮かべた。

 

「英雄のメッキが剥がれる瞬間というのは、往々にして『守るべきものを守れなかった時』だ。……奴らがどれほど優秀な遊撃部隊であろうと、所詮は現場の兵隊に過ぎない。守るべき『大義』を我々が書き換えてしまえば、奴らはただのテロリストに墜ちる」

 

ジャミトフはデスクの引き出しを開け、一枚のディスクをバスクの前に差し出した。

 

「……サイド2。30バンチコロニー」

 

バスクがゴーグル越しにその名を読み上げると、ジャミトフはゆっくりと頷いた。

 

「現在、あのコロニーでは、ジオン・ダイクンの思想を信奉する過激派たちが、反連邦のデモを扇動しているという『報告』が上がっている。……放置すれば、第二のデラーズ・フリートを生み出しかねない、極めて危険な兆候だ」

 

「……デモの扇動。なるほど。それは、治安維持部隊である我々ティターンズが、優先して『処理』すべき案件と言うことですな」

 

バスクの口角が、残忍な形に吊り上がった。

 

「そうだ。だが、我々は寛容な連邦軍だ。……まずは、遊撃部隊である『クレール・ルクス』に、この暴動の『武力鎮圧』を要請しよう。

……もし彼らが、同胞であるスペースノイドに銃口を向けることを躊躇えば、それは彼らが反逆分子と内通している証拠になる」

 

「そして、我々が『後始末』をつける……と」

 

「その通りだ。……手配はついているな、大佐」

 

ジャミトフの冷たい視線に、バスクは深く頷いた。

 

「はっ。アナハイムから回させた新型の『ハイザック』一個大隊。そして……一年戦争の遺物である『G3ガス』のコンテナ。……すでに、極秘裏にサイド2宙域へと搬入を開始しております」

 

「よろしい。彼等がどのような行動に出るか、見定めさせてもらおうではないか。」

 

ジャブローの地下深くに、二人の冷酷な笑い声が響く。

宇宙世紀0084年5月上旬。

平和という名の薄氷の下で、ティターンズの毒牙は、確実に『クレール・ルクス』の首元へと迫りつつあった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。