白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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ティターンズ

〜0084年5月下旬 

 

サイド1 30バンチコロニー政庁の前には、多くの人だかりが出来ていた。

彼等の掲げる横断幕にはサイド1の政庁旗が掲げられ、それを中心にまるでそれを護るかのように立ちはだかっている。

 

中心に存在するその旗、更にその近くにある講壇には幾人かの人間がパイプ椅子に座っている。

一人が立ち上がり、講壇に立って叫んだ。

 

「我々サイド1の在住者一同は、地球連邦政府に幾つかの要求をする!

一つ!住民への重税を軽くすること!

一つ!サイドの自治権の拡大!

一つ!我々サイドの者に、議員への出馬と選挙への参加権を保障すること!

 

以上の3つを陳状として、ここに掲げる!!」

 

 

彼等は熱に浮かされていた。

サイド3ジオン共和国の、限定的独立を皮切りに次第に醸成されていった、各サイドでの連邦への要求は次第にエスカレートしていた。

 

特にサイド1と呼ばれるこのコロニー群は、地球連邦が最も古くに建設をスタートさせたものであり、多くの市民が暮らす宇宙にあって最も人口の多いサイドである。

従って、地球から宇宙へと移民を開始した第1世代〜地球を知らない第3世代まで幅広い層がここには住んでいた。

 

その為、コロニー内での政情は比較的安定していたものの、このサイド1と言うものに愛着を抱くものが多かった。

特にこのコロニーで生まれ育った人数が多い事によって、地球連邦からの統制が行き届きにくくなっているのも現実である。

 

特にここ数ヶ月の間は、この政庁前で行われるデモ運動の規模は以前と比べた場合、数倍の規模となっていた。

ストライキにボイコット、工場は動きを止めてこの前にいるのだ。

 

彼等のその動きが活発化した原因は、主に3つあった。

 

一つはジオン公国軍残党の武装蜂起

コレに触発されたもののうち、親ジオン派であった人間はより強烈なインセンティブを齎された。

 

2つ目は、アムロとセイラにも関係のある、アルテイシア・ダイクンの存在である。

アルテイシア・ダイクンは先のデラーズ紛争時、地球連邦との直接的パイプを持って幾つかの政治的譲歩を引き出した。と言う噂が、実しやかに囁かれている。

 

3つ目、地球連邦軍は決して無敵ではないと言う事実である。

どれだけ連邦軍が力を増大化させようと、地球圏全体を守護するには、人員も規模も足りずに未だに海賊等が多かった。

各サイドは、自治の為にある程度の武装を可能とされていたが、それでも未だに不十分であった。

少しでも輸入が途絶えれば、待っているのは飢餓地獄となることは自明の理である。

 

其れ等の影響とより細かな物が降り積もり、現在30バンチコロニーで行われているデモへの影響は計り知れないものであった。

このUC0084年〜87年の間の期間というものは、そういうものが増大した期間である。

 

直接的原因は戦後の混乱というものであるが、しかしここ0084年5月下旬の30バンチに於いては、あまりにも出来過ぎていた。

まるで、『誰か』がそれを扇動しているかのように………。

 

 

同年6月上旬

 

シャイアン航空宇宙港に3隻の軍艦、即ちクレール・ルクスの外征戦力である。

此等の艦隊は通常、ここシャイアンにて整備と点検、非常時の出動の待機を行いつつ訓練の日々が続いていた。

 

幾つかの小さな事態の収拾と実戦を行いつつ、この日も待機命令の下に作業を行なっていた。

 

しかし、そんな彼等の戦力とは別に数機の輸送機の姿がそこにあった。

 

「なんなんですかあれは?」

 

その日もモビルスーツの整備を行なっていたクライドであるが、やって来た輸送機から降りてきた幾人かの人影を見た整備兵のロッソン伍長から、質問を投げかけられた。

 

「アレは…」

 

パイロットであるクライドは、その良く訓練された動体視力を持って機体側面に描かれていたマークを見た。

鷹のような意匠を三角の中に封じ込めた、特徴的なエンブレム。

 

それは、クレール・ルクスとは双璧を成す。

 

「アレはティターンズか。」

 

騒乱の幕開けであった。

 

 

シャイアン基地司令部兼クレール・ルクス司令本部

司令室にて、幾人かの人間が対面する様に座していた。

 

クレール・ルクス側は大きな鼻と顔に疲れたような皺を作った、筆ヒゲが特徴的な司令コジマ准将と、実動部隊隊長のブライト大佐が。

 

対するは、威圧的な雰囲気を醸し出す異様に高圧的な男。

ティタースの司令ジャミトフ・ハイマン准将とその副官であるより大柄な男バスク・オム大佐

 

互いに牽制し合うかのように、顔色を伺っていた。

 

「我々と共同作戦を行いたいと?何故直接ここに来たかと思えば……、それはジャブローからの指示なのかね?」

 

コジマはジャミトフの目を見て切り出した。

ティターンズの行う治安維持活動の一環である、ジオンの残党狩り。それを手伝え、と言うのが話の大筋である。

 

「我々は独自に行動が可能なのだ、貴官等と同様にな。何より特殊性の高い案件である、ジャブロー等から通信を行えば忽ち、ジオンに筒抜けだろう。

我々としても、そのような事は回避したいと思っているのだ。

無論、ジャブローからの信任状はここにある。」

 

手渡された指令書には、確かにクレール・ルクスとティターンズの共同作戦の概要が示されていた。

サイド1宙域に位置する30バンチコロニー。

現在、反地球連邦運動が大きくなりつつあると言う、そんな噂のあるコロニーである。

そこに対して、軍事的示威行動を行おうと言うのが、地球連邦軍の総意である………、と指令書からは読み取れた。

 

『果たして、あの打算的なワイアット大将がこのような過激な行いを、実行させるのだろうか?』

 

ブライトの脳裏には、あの狐のように狡猾な男の顔が過ぎり、大きな違和感を覚えていた。

 

「お言葉ですが、一介の現場指揮官でしかない我々に要請するなどと、上層部は何を?」

 

ブライトのその言葉を待っていましたとばかりに、ジャミトフはゆっくりと口を開いた。

 

「ジーン・コリニー大将の作戦命令である。我々は軍の意向に沿ったままに動く他ない、所詮は実働部隊であるからな。

作戦に於いてはこの、バスク・オム大佐に立案が一任されておる。」

 

ジャミトフは彼の横に座る大男をそう言って紹介し、バスクは席から立ち上がってテーブルの上へと、ブライトの方に向かって手を伸ばした。

 

「お初にお目にかかる、ティターンズ参謀長兼副官を務めている、バスク・オムだ。

貴官の戦績は聞き及んでいる、共に連邦軍人として作戦に従事出来る事を光栄に思う。」

 

心境はどうあれ、バスクのその姿は表面上ブライトを軍人として尊敬しているように見える。

対するブライトは、バスクのその態度に一抹の不信感を抱きつつ、突き出されたその手を握り返した。

 

「こちらこそ、我々は貴官等の作戦に参加するという形だが…、どのような作戦行動を取るおつもりで?」

 

互いに手を離し、バスクは問われた質問に対して嫌に饒舌に作戦を語りだした。

 

「まず、知っての通り我々ティターンズは治安維持活動が主な任務であり、貴官等クレール・ルクスはジオン残党の武装蜂起に際した、実力行使が任務である。

互いに補完し合う、我等であるが役割が重複する部分も多々ある。という認識は、持たれていると思う」

 

バスクのその言葉に、コジマは首を縦に振る。実際、実力行使とは言うものの短期間の治安維持は確実に行わなければならず、その場合はエコーズやその他陸戦隊を指揮下に置かなければならない事も多い。

 

「そう言った意味では、我々は似た者同士というわけだ。話を続けさせてもらうが、今回の主任務はサイド1,30バンチコロニーに置いて活発化し始めている、反地球連邦運動の監視、並びに武装解除が目的である。」

 

「武装解除?あのデモは一般市民が中心となっていると、そう聞き及んでいるが?」

 

実際に軍内部としての30バンチコロニーへの武力行使は、憚られていた。

平和裏なデモ活動を武力によって鎮圧するという行為は、周囲のサイドに対して悪影響を及ぼすとの判断であった。

実際問題、声を上げるだけならば不快追及は御法度である。

 

しかし、状況を良いものとして見るものがいる一方で、このコロニーが声を上げるということに対して、嘗てのジオン公国…サイド3で行われた独立運動と重ねる者達がいた。

そう言った彼等は、また戦争が始まるのではないか?という危機感の下で行動を起こすことがあり、実際クレール・ルクスやティターンズは、そう言った声に押されて組織化されたとも言える。

 

「我々ティターンズは、現状各コロニーに置いて実質的な耳を幾つか持っている。

彼等からの情報から、30バンチコロニー内での元ジオン兵による物資の横流しが散見されているとのことだ。」

 

バスクがそう伝えると、それに乗る形でジャミトフが後押しする。

 

「コレは由々しき事態である。戦争が集結し、紛争が解決した一方で、このような不法な行いが目立つとなれば、そのデモ活動すら平和的な思考の下で行われているとは、果たして言えるのだろうか?コジマ准将、貴官はこの状況をどう捉える?」

 

コジマにその言葉を向けるということは、ある種踏み絵のようなものだろう。連邦軍の主流派、或いは治安維持に於いて果たして彼が適任であるかと言うことを示す、重大な判断材料だ。

 

「私としては、確かに危険な行為であるという事は承知しよう。だが、だからといって実質的な武力を伴った行動がない以上、我々が動くことは権限上難しいものだろう。

何より………、この資料が本当であるならば、君の立案する作戦というものには、些か短慮なものがあると思うがね?」

 

と、コジマがバスクに突きつけたのは、確認の為にコジマに渡されていた、作戦の概要であった。

ブライトがそれを観るのは、ここに来るまで初めてであったが、コジマから手渡されたそれを僅かに目を通して、絶句した。

 

「コロニー内部に、催眠ガスを使用するだと!!コレは、明らかに鎮圧等よりもたちの悪い行いだ!」

 

ブライトは、まくし立てる様にそう言ってバスクを睨み付けるも、バスクは涼しい顔をしてさも当然であるがごとく振る舞った。

 

「我々とて、このような手段に頼るような事はしたくない。実際に武装を施された民衆が存在しないと、そう判断出来れば使用する必要もない。

だが、万が一億が一モビルスーツ等出てきてからは遅い事もあるのだと、それだけ今の我々の置かれている状況は良いものでは無いのだ。それに…」

 

バスクがそこで言葉を切ると、ジャミトフが口を挟んだ。

 

「別にコロニーを地球へと落とすわけでもない。我々は所詮は治安維持部隊だ。そちらの元海兵隊員には申し訳ないが、我々はジオンとは違うのだよ。」

 

その言葉がシーマ達の事を言っているのだと、暗に示していた。確かにその経歴は決して褒められたものではないが、彼女等の置かれた状況下において、最善の判断をするならば自分であればどうしただろうか?と、考えるのであれば同情の余地はある。

であるならば、ブライトとしてはここで反論しないわけには行かなかったが、コジマがそれを制した。

 

「我が部隊員か、そのような事を行ったのは事実であろうが、彼女等とて嬉々として其れ等に及んだ訳でもない。

コレは軍としてではなく、一人の人間として言わねばならないが、誰よりも高潔な物を持っているとそう思う。

故に、彼女等に対する認識は改めてもらいたい。」

 

コジマとジャミトフは同格である、それ故にジャミトフも強くは言えない。

 

「分かっているつもりではある。だが、元ジオン兵であるのは事実だ。もしも何かがあれば、真っ先に疑われるものだとそう認識していて欲しいものだな。」

 

ジャミトフとコジマは、互いの認識の齟齬を認めつつ深く互いを牽制する事はしなかった。

 

「我々としても、部隊を手広く運用する故に監視に穴が空くことがある。

作戦遂行上、モビルスーツ部隊の穴を埋める為に、貴官等の力が必要となる。

期待させてもらいたい。」

 

と言って、ジャミトフとバスクは頭を下げるのだ。捏造された訳でもない命令書と、その作戦立案と実行者がそういう行動をするのだから無碍にも出来ない。

 

「分かった、我々としても軍民の関係を維持する以上、貴官等に全てを押し付けることは憚られる。

部隊の展開を了承しよう。」

 

と言って、コジマはジャミトフに手を出し、ジャミトフはそれをゆっくりと握り返したところで……ブライトは、ジャミトフの口角が僅かに動いたようなそんな気がした。

 

 

会議を終え、またもや疲れたような顔をするコジマとブライトが部屋へと残されて、ジャミトフとバスクは再び輸送機で、シャイアンを後にする。

沈黙が部屋へと流れる中で、部屋の外からノック音が響いた。

 

コンコンコン

 

「失礼します。」

 

現れたのはアムロであった、そしてそれを呼んだであろう張本人であるブライトは、コジマを交えてあの二人の第一印象と経歴を話し合った後、アムロに問うた。

 

「あの二人には、どんな感覚を覚えた?」

 

それは、ニュータイプとしての直感をアムロに聞きたいというブライトの意思と、第三者的立ち位置での視点を聞きたいという、コジマの言葉であった。

 

「バスクという人には、どす黒い復讐心のようなものがあると思う。

経歴から見れば、大凡スペースノイドを憎んでいるのだろう。

問題は、ジャミトフ准将の方です。」

 

アムロは一拍置いた。

 

「あの人からは邪悪な物を感じなかった。いや、寧ろ無垢で純粋な、何か大きな使命感のようなもので動いているかもしれない。」

 

アムロのその言葉に両名は、怪訝そうな顔をしてそれを判然とした。

 

 




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