白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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人形

〜0084年6月上旬

 

クレール・ルクスの艦隊の姿は宇宙にあった。

宇宙拠点となるサイド1へとシャイアン基地を発った彼等は、何の不調も障害もなく、悠々とスウィート・ウォーターへの入港に成功していた。

 

しかし、彼等とは別にセイラに付き従っていた多くの元ジオン兵の姿もそこにはあった。

 

「次!グズグズするな、軍艦が投錨している時間は短いからな!」

 

と、大きな声を上げながら、彼等は自らが入れた荷物を、コロニーの中へと搬入していく。

それを遠巻きに、アムロはグラニの艦橋から見降ろしながら、ブライトとコジマとの会話を思い出していた。

 

「無垢なる野心……か……」

 

自らがジャミトフに対して評した言葉、それは対面する二人にとっては意外性を持って受け入れられた。

野望を持つものは得てして欲深いというが、ジャミトフに対する私見がそうであるように、何処か諦めにも似た空気を、アムロはジャミトフから感じたのだ。

 

軍の上へと上り詰める人間には大なり小なり欲があり、コジマにせよブライトにせよ、何かしらの志という欲を持つ。

であるならば、ジャミトフにもそれはあって然るべきであり、その志がブライトやコジマのように言い得て妙であるが、澄んでいるのだ。

決して、復讐心に駆られている人間の醸し出す、どす黒いそれとは違う。

 

「何をしようって言うんだ。」

 

アムロの呟きは虚空へと消えて行った。

 

 

 

一方、入港後のゴタゴタを行っている面々。特に、リリー・マルレーンから降りてきた、面々は疲労と緊張に悩まされていた。

そもそも、コロニーからの監察官はこの艦隊に対して、非常に大きな警戒感を示していたからだ。

 

難民コロニー、その実態は当に『ジオン公国の被害者』で形成されているのだから当然である。

特にジオン海兵隊の旗艦であったリリー・マルレーンは、それだけ警戒の対象になっても仕方のないものである。

乗員が、連邦軍服を纏い連邦の士官学校を卒業した人間であったとしても、罵声の対象となることだろう。

象徴とは全くそれでいいのだ。

 

「完全なアウェーだね、まったく。」

 

図らずも、己等のやった行いがどれだけの憎悪の対象とされているのかを、改めて気付かされると言う意味でも、シーマの身に染みていた。

例え、毒ガスの散布という行動が意図的でなかったとしても、やったと言う事実に変わりはないのだから…。

 

コロニー円筒低重力区画である、シャフト。その窓から港湾を見渡す事ができる場所がある。

シーマはなんとは無しにその窓辺へと視線を向けると…、見覚えのない少女が、ジッ……と彼女を見つめているのが見えた。

 

その少女の姿が、なぜだか良くわからないがとても気持ち悪いものに見えて、目を逸らす。

自らが、言い知れぬ恐怖に駆られている事にシーマは気が付いていた。

その手は、何かに震えている。それを悟られないように、彼女は搬出の指揮を続けた。

 

数日の内に、元ジオン兵等のコロニーへの移動は完了し、宇宙空間での完熟訓練を行うという、軍隊としては非常に理想的な『暇な時間』が続いていた。

作戦と作戦の間の空白、彼等彼女等にとっては至福の時とも言えるだろう。

この後に待ち受ける、ティターンズとの合同作戦、ソレが行われる前の。

 

 

数日後、シーマの姿は町中にあった。

連邦軍人としての制服に身を包み、連邦軍人として振る舞う彼女の堂々たる姿は、周囲に連邦軍の軍人であるという事をマザマザと見せつけていた。

 

ジオン海兵隊、部隊の名を知るものは多くいるにせよ、彼女の姿を知るものは案外少なかった。

その名と姿を知らないものからすれば、彼女の姿も相まって立派な連邦軍の軍人であるのだ。

 

しかし、珍しくも彼女は一人で歩いていた…。いや、一人で歩きたかったと言った方が正確なのかもしれない。

チラチラと避けていく視線の先にあるのは、何であろうか?

一つ言えることは、彼女の素性を知ったが最後嬲り殺しにあっても何の不思議も無いということだった。

 

ただ纏う軍服が違うだけ、にも関わらず人々は彼女の事を余所者としてのみ受け入れる。

ソレが、彼女の罪の意識を上乗せしていた。

 

暫く歩き、空き地となっている区画へと彼女は迫る。

抜本的な解決がなされず、急遽造られた居住区で工事が進まずにそのまま残されたその区画は、誰の手も入らないそんな場所になっていた。

 

「自殺願望か…、相変わらず変わらないね。」

 

今の自分を見て、裁いて欲しいと言うそんな期待が無かった訳では無い。だが、誰も彼女に関心を示さなかった。

一人、その場で座り込み天井を見上げる。

2つの円筒が歪に繋がった美しくない、コロニーの傷だ。

 

何時間か?或いは何分か?時間はわからない、彼女はボーっと空を眺めていると…小さな足音が聴こえた。

瞬間、彼女の良く訓練された身体は条件反射的に臨戦態勢に入って……、程なく緊張が落ち着いた。

 

10歳或いはもう少し小さいか?そのくらいの歳の女の子が、そこに立っていた。

ボロボロになった人形を片手に、彼女は何の感慨も無くただシーマを見つめていた。

 

シーマにはその姿が見覚えがあった。一昨日、リリー・マルレーンの艦橋から見た少女にそっくりだった。

 

少女はジッとシーマを見つめた後、ゆっくりとシーマに近づいてくる。

シーマの背中には、じっとりと汗が流れ始めた。

この少女の事が、何よりも怖かった。

 

少女はシーマの眼前に迫ると歩みを止めて、またシーマをジッと見上げる。

 

「な…なんだいアンタ。」

 

シーマがそう問うたところで、少女は何も喋らない。ただ、ボロボロの人形をギュッと握りしめているだけだ。

何分か経った頃だろう、少女がシーマに近づいて手を広げて抱き着いてきた。

彼女のへそより少し上あたりしかない身長で、シーマに抱き着いてる。

 

シーマの高身と比べ、少女はなんとも小さいものだ。

栄養が足りていないのかもしれない。

自然とシーマの手は、少女の頭へと伸ばされた。

 

「お前はいったい何処から来たんだい……」

 

彼女は少女の頭を優しく撫でる、なぜ少女がこんな所にいるのか?なぜ自分の場所に来たのか等、わけの分からない事しかなかった。

それでも

 

「まったく…」

 

と言いながら、シーマは手を止めなかった。

暫くすると、少女はボロボロの人形をシーマに渡す。シーマはそれを受け取ると、何か直感めいた物を感じで人形の中身を空けてみた。

 

「なるほどねぇ、アンタの保護者も中々に良い奴じゃないか。」

 

中には、この子の住所が書いてある紙片があった。

 

「さてと……、手、離すんじゃないよ。」

 

と、シーマは少女と手をつなぎゆっくりと、該当する住所の場所へと歩み始めた。

その間にも、少女はひと言も話すことなくただ淡々と歩き続ける。

時折、強く握り返されるのでシーマはその度に立ち止まり、少女に目をやる。

 

その度に、少女は指で何かを指し示してシーマをその方向に進ませながら、その道を行く。

 

やっとのことで到着したのは、コロニー内の電源が昼から夜へとシフトする2時間程前になった頃だった。

 

「ここがアンタのお家かい、随分とまあ」

 

寂れていた。確かに人の営みはある。なければ困るのだ、そこは確かに孤児院なのだから。

シーマはいたたまれなかった、少女もまたシーマ達のせいで人生を狂わされているのだから。

 

インターホンを鳴らすと、中から孤児院の職員が姿を現した。

 

「ありがとうございます。普段はこんな事をする子では無いのですが、警察への届け出は下げさせます。

ほら、ありがとうは?」

 

少女は職員にくだされると、ゆっくりと頭を下げる。やはり、口を利かない。いや、恐らくは…

 

「この子は言葉が?」

 

「ええ、戦争が終わっても回復することはありませんでした。」

 

孤児院の職員は、戦争中からずっと子供達の世話をしていたという。スウィート・ウォーターに移住する前から、少女との面識もあった。

 

「アストライア基金からの支援が無ければ、ここまでは続けられませんでした。」

 

「そ、そうかい。そりゃあ」

 

きっと…アルテイシアが裏で動いていたのだろうと、シーマは感心した。自ら名を出さず、ひっそりと動くことも時には大切なのだろう。

 

「それじゃあ、私は帰らせてもらうよ。あの子には、私は帰ったって言っといてくれないかい?」

 

そう言葉を残して、孤児院の外へと歩み出したとき院の外に軍の車が止まっていることに気がついた。

乗車している人の姿を確認して、思わず苦笑いをした。

 

「なんだい?嫌に気が利くじゃないさ」

 

「俺の意思ではないです。アムロ大隊長が、ここにいけと言われたので。」

 

クライドが迎えに来ていた…。

 

「それで、なんでこんな所に?」

 

「さあ、なんでだろうねぇ?私にも分からないよ、ただまぁ…自分を見つめ直す事は出来たかもしれない。」

 

普段とは違う、そんな言葉で濁すシーマにクライドは黙して聞き流す他なかった。

 

翌日、クレール・ルクスの艦隊はスウィート・ウォーターから出撃し、サイド1、30バンチコロニーへとその道を行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は短め
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