白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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ゼロ

〜0084年7月下旬

 

アムロたちC・Lの面々が、30バンチ事件の後始末に追われている頃、セイラやクリス等オーガスタ研究所でも一つの事態が進展していた。

 

その日は突然やってきた。

 

ゴウゴウ

 

と轟音の鳴り響く、モビルスーツ滑走路とそこから加速していく、オレンジ色の機体。

20世紀の人間が見上げれば、その姿は正しく空飛ぶ円盤であるとすら言われるだろうその機体、アッシマーの先行量産試作機の最終試験の日であった。

 

アッシマーに搭乗するのは、ブラン・ブルターク大尉。

1年戦争以前から航空機・航宙機を操縦するバリバリのパイロットであり、モビルスーツに機種転換を行い成功した一人でもあった。

特徴的なもみあげと、リーゼントのような金髪を手で梳かしながら、彼は今日も空を飛んでいた。

 

「機体の追従性は良好だ。このムーバブルフレームというものは、やはりアッシマーの為の技術とも言えるな。」

 

本来の歴史であればアッシマーは、セミ・モノコック構造を使用して製造されたモビルスーツであった。

その為、その可変にはマグネット・コーティングを用いる摩擦の低減と、装甲強度に依存するという力業によって機体の可変を行っていたのだ。

 

しかし、ムーバブルフレームを導入したことにより、同じくマグネット・コーティングを施されているものの、駆動はよりスムーズに且つ機体重量の低減と共に航続距離が延びるという副次効果を受けていた。

 

そのアッシマーの横を、SFS(サブ・フライトシステム)ベース・ジャバーと、その上に機体を乗せるように一機のモビルスーツの姿があった。

 

フライトアーマーを着込んだジムⅡである。

 

(

【挿絵表示】

ガンダムℵフライトアーマー)

 

その機体のゴーグルが鈍く光ると、アッシマーのコンソールに気が強そうな女の声が響いた。

 

「ブルターク大尉、コレより教導飛行試験に移ります。くれぐれも無茶の無いように。」

 

「無茶をするのが、テストパイロットの仕事だろうぅ?マッケンジー少佐。」

 

ベース・ジャバーに乗るジムⅡ、それに搭乗するのはクリスチーナ・マッケンジーである。

前線の部隊から離れ、彼女はやはり自分の毛色が合う技術者とテストパイロットとして、アッシマーの飛行試験に追従していた。

 

「ご機嫌な加速ね…。」

 

と、クリスが溢す次の瞬間ブルタークの乗るアッシマーが、急加速していく。

あっという間に、ベース・ジャバーを置き去りにするほどの加速性能に、改めて自分達が今開発しているものがゲームチェンジャたり得る存在かを思い知らされつつも…、戦場が遠くなっていく時代において果たしてそれが必要なのかどうかと、改めて自問する。

 

「クリス、アッシマー最高速度マッハ3に到達。急旋回してそっちに戻って来るわ。」

 

ジムⅡのコンソールからは、クスコの声が聞こえてくる。彼女もまた、機体の調整に付き合っていた。

パイロットとしてではなく、ニュータイプとして技術者へのアドバイス要員である。

 

実際、マッハ0.8の速度で飛行するベース・ジャバー。その上に乗るジムⅡの索敵範囲よりも遥かに遠方に位置する、アッシマーの状況を彼女に伝えているのだから、もはや機械以上の信頼性である。

 

「ブルターク大尉、コレより戦闘を開始します。」

 

「了解!」

 

という言葉とともに、クリスはフットペダルを強引に踏み込むと、フライトアーマーの2基の熱核ロケット/ジェットが青白い炎を吐き出しながら、ジムⅡを空中に静止させる様に浮上させた。

 

このフライトアーマーは、元来モビルスーツの空中での運動性を向上させるために開発された戦術飛行ユニットであり、エンジン出力の可変と翼によって、機体を強引に空中へと誘う物である。

所謂、力技の飛行というわけだ。

 

そのおかげか、ノーマルのジムⅡとは比較にならないほどに空中での機動性は上昇していると言っても良いだろう。

しかし、そんな事をお構いなしにブルタークの駆るアッシマーは、途轍もない速度で直線運動を続けて迫ってくる。

 

互いに模擬戦用のビームを放ち、すれ違いざまにクリスはジムⅡを反転させ背後に向けて撃つのだが、アッシマーはその丸いフリスビーの様な姿とは思えない程の運動性で的を絞らせない。

 

そうこうしているうちに、距離はぐんぐんと離れていき。再び一撃離脱をするつもりであるのが、容易に見て取れる。

ベース・ジャバーが、スルリとジムⅡの足元に戻りフライトアーマーのエンジンの加速を、それに付け加えながらベース・ジャバーは速度を上げる。

 

設計上強度的には音速を超えられるものの、だからと言ってマッハを出す為の機体ではないベース・ジャバーからは悲鳴が上がる。

互いに一挙に距離が詰まり、互いに一射ずつ放つ。

 

ジムⅡはベース・ジャバーを盾にするように、一挙に90度に上昇させるとそこに命中判定が与えられ、ベース・ジャバーは破壊される。

しかし、ジムⅡはそれを盾にしたことによって、精密な照準を可能とする時間が僅かに出来ていた。

 

「もらった!!」

 

クリスがそう叫んだ瞬間、引き金を引くもののアッシマーは急激に速度を落とした。

そう、それはつまり照準が狂うと言うことであり同時に

 

「可変というものは、こうして使うんだよ!!」

 

ほんの僅かな瞬間で、アッシマーは変形しモビルスーツ形態へと変貌を遂げ、クリスのジムⅡへとそのライフルを向けていた。

 

「双方そこまで!……、第1回戦はアッシマーの勝利です。次に第2回戦に移ります、双方戦闘距離から離れてください。」

 

クスコの無機質な声が、二人のコンソールから聞こえてきてクリスは自らが負けた事を悟った。

そして同時に、この機体ではやはりアッシマーには空中戦で劣ることを再認識した。

 

「コレで、63戦48敗か…負け越しが増えるわね。」

 

独り言のように呟いているが、それはフライトアーマーの開発者にもきっと響いている事だろう。

 

 

 

同日

 

クリスがアッシマーの性能試験を行なっている最中、オーガスタのニュータイプ研究所の方では、セイラが他所から来た者達の対応に迫られていた。

 

「ですから、私達は非合法な方法でのニュータイプの研究を、即刻に辞めろと言っているのです。

子供を使用した人体実験など、あまりにも倫理に破綻しています。」

 

セイラのその言葉にの先には、二人組のスーツを着た研究者の姿があった。

しかし、その首元から掛けられている所属組織の名札には、オーガスタではないマークと名称が書かれていた。

 

〘ムラサメ研究者〙

 

そこは、地球連邦軍に属するニュータイプ研究所の一つ。地球の日本という連邦に所属する大きな島国。その中にあると言われている。連邦の秘密研究所である。

 

オーガスタ研究所が、セイラが着た後周辺住民などに周知され難民の子供達の斡旋に使われているのと比べて、このムラサメ研究者というものはあまりにも得体の知れない存在感を放っていた。

 

「ですから、我々はニュータイプ研究所として政府より資金を頂いており、決して非合法な手段には手を染めているつもりはありません。

貴方方の研究が遅々として進んでいない現状を、連邦も憂慮しての我々からの警告です。」

 

地球連邦の議員の中には、ニュータイプという存在への懐疑論者

の他に、強い警戒感を持っている人物も多くいる。

そう言った人間の後押しによって、ムラサメ研究所等には資金が回ってきているのだ。

 

しかし、オーガスタ研究所は全く別系統からのバックが存在する。どちらかと言えば、連邦軍の穏健派からの支持を受けて予算を振られている分、同じ連邦系の研究所としては軍事色がかなり強い。

 

それ故に、あまり黒い事を行って予算を削られたくないという、そんな連邦軍の考えともオーガスタ研究所はマッチしていた。

 

そして、ニュータイプ研究所としての軋轢がここに存在するのだ。

 

セイラは所長と共に、ムラサメ研究所からの訪問者を出迎え今こうして、対談していた。

 

「研究データの共有は可能です。ですが、それは患者としてのカルテであって人体実験の様な過激な行いの産物ではありません。」

 

と、ムラサメ研究所の人間は言うのだが……。その資料を目に通すセイラの目には、目の前の人間達がそれこそ悪魔の様に見えていた。

 

戦時中ならいざ知らず、

 

〘戦後に於いて子供達を半ば誘拐に近い形で研究所に送り、非人道的な行いがなされている可能性が高い。〙

 

セイラがカイ等と共に独自に調べ上げた結果がそれである。どう見えても、黒にしか見えなかった。

いや、セイラには実際に見えているのだ。残酷な行いを意図も容易く行うことの出来る、純粋な狂気を。

 

『コレでは、ジオンと変わらない。寧ろ、純粋な分質が悪いとすら言える。』

 

内心のそんな彼女の葛藤をいざ知らず、堂々と研究の自慢をする彼等に対して思えることはただ一つ。

 

外道

 

そのひと言に尽きた。

 

所変わって、施設の孤児院ルームに於いてもムラサメ研究所からの訪問者の姿があった。

いや、どちらかと言えば待機命令をなされていると言っても過言ではない。

 

緑髪を流し、あたかも自然にそこにいるように言われた彼は、周囲からは遥かに浮いていた。

確かに地球連邦軍の軍服を纏ってはいたものの、その浮き様は軍服に似合わぬその余りにも幼く見えるその顔からだろう。

 

そもそも、軍人としての年齢は果たして幾つなのだろうか?

 

アムロ・レイですら、15〜6歳で異常とも言える。

しかし、彼はどうだ?当時のアムロと同じくらいの年齢ではないのか?

 

彼の周囲には一見すると人集りが出来ていたものの、その光景は決して温和な物とは言い切れず、寧ろ警戒感の強いものとなっていた。

 

「お前はなんだ!お前は私達とおんなじ、でも違う!!」

 

最も神経過敏な、ロザミアはその男に対して警戒感を大にして声を荒げ、そしてその傍らにはゲーツが監視するかのような目つきで睨みを利かせる。

 

「俺は俺の役目を果たしているだけだ。後、お前じゃない。俺は、ゼロだ。

お前たちのような出来損ないとは違い、俺こそが真のニュータイプだ。」

 

「出来損ない……だと?それに真のニュータイプだと?

フッ……笑わせてくれるな…。所詮は借り物の力と、自己酔狂の産物だろう?その程度の事で笑わせてくれるなよ。」

 

ゼロの挑発に、ゲーツは言葉を切った。

そして、その言葉に対してゼロは怒りをあらわにしつつ、拳に力を込めた。

 

「ほぉ…言うじゃないか出来損ないが。良いだろう、貴様の言う借り物の力とお前の価値を賭けて、ここで手合わせでもしようじゃないか?まさか、逃げるとは言わないよな。」

 

「望むところだ………、ここではみんなの迷惑になる……表に行くぞ。」

 

ゲーツはゼロの言葉に乗った。

一応ではあるが、ゼロは軍人である。対してゲーツは軍人ではなく、単なる元強化人間。現在では、強化の度合いも鳴りを潜め比較的安定した精神と肉体強度となっており、肉体的スペックはゼロに劣っている。

 

ゲーツはそれを良く理解していた。

実際、この施設の誰よりも彼は成熟していて尚且つ、頭も切れた。だからこそ、彼は敢えて戦いを選択したのだ。

 

「ゲーツ……無理しないで!」

 

ロザミアが心配そうに声をかけるが、ゲーツは振り返らずに軽く右手を挙げただけだった。その瞳は、眼前の緑髪の少年――ゼロ・ムラサメから一瞬たりとも逸らされていない。

 

「さあ、来いよ。お前がどれほどの『完成品』なのか、見せてもらおうか」

 

ゲーツは両手を軽く下げた、一見すると無防備な構えをとった。

対するゼロは、その言葉に冷笑を浮かべ、低い姿勢から一気に踏み込んだ。

 

「遅いな!」

 

ゼロの動きは、確かに人間の限界を超えていた。薬物と神経調整によって限界まで引き出された瞬発力。放たれた右の拳は、空気を裂くような鋭い音を立ててゲーツの顔面へと迫る。

だが、ゲーツはそれを「見て」いなかった。

彼は、ゼロから発せられる暴力的な(プレッシャー)の流れを読み取り、拳が届くほんの一瞬前に、最小限の動きで首を傾けた。

 

「なっ……!?」

 

拳が空を切った直後、ゼロは自身の腹部に重い衝撃を感じた。

ゲーツが、回避のモーションのまま、ゼロの懐へと潜り込み、正確無比な掌底を叩き込んでいたのだ。

 

「ぐっ……この、出来損ないがァッ!」

 

ゼロは痛みよりも屈辱に顔を歪ませ、狂ったように連撃を繰り出す。蹴り、肘打ち、膝蹴り。そのどれもが致死の威力を秘めた「殺意」の塊であった。

 

しかし、ゲーツは水のような身のこなしで、そのすべての攻撃をいなし、そらし、受け流していく。

ゼロの攻撃は「力」としては圧倒的だったが、ゲーツから見れば、それはあまりにも単調で、感情のままに振り回されているだけの「暴力」に過ぎなかった。

 

「……それが、お前の言う『真のニュータイプ』の力か?」

 

ゲーツはゼロの蹴りを腕で受け止めながら、静かに問いかけた。

 

「他人の意志を無視し、ただ与えられた力を振り回すだけ。……それは『兵器』であって、人間じゃない」

 

「黙れッ! 俺は……俺は選ばれた存在なんだ! お前たちのような廃棄物とは違う!」

 

ゼロは絶叫と共に、隠し持っていたコンバットナイフを引き抜こうとした。

軍の施設内での、明らかなルール違反。

その瞬間、ゲーツの瞳の奥で、かつて「強化人間」として強制的に戦わされていた頃の、冷たく鋭い光がフラッシュバックした。

 

「……だから、お前は子供なんだよ」

 

ゲーツはナイフが抜かれるよりも早く、ゼロの腕の関節を正確に極め、流れるような動作で彼を地面へと投げ飛ばした。

背中から芝生に叩きつけられたゼロの喉元に、ゲーツの手刀がピタリと止められる。

 

騒ぎを聞きつけて、周囲の人間がワラワラと現れ始めていたのだ。

 

「お辞めなさい!それ以上の行いは、怪我では済まないわ。」

 

セイラの姿もそこにはあった。

ゲーツは踵を返して、これから待っているであろうお叱りを受ける覚悟である。

 

「待て!!まだ終わってない!!」

 

とゼロが声を張り上げるも、彼もまた周囲の憲兵によって取り押さえられたのだった。

 

 

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