白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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ゼロ2

ゲーツはセイラと共に、騒ぎの中心から離れ再び施設の中へと戻って行った。

この後、セイラからのお叱りの言葉が飛んでくるとこの時のゲーツは想っていたが、セイラからの第一声は全く異なった毛色であった。

 

「どうして、あんな事をする事になったのかしら?説明して頂戴?」

 

セイラの言葉は、ゲーツに理解したいという想いが確かにあった。そして同時に、ゲーツはその言葉に困惑した。

 

「そりゃあ……、馬鹿にされたからさ。」

 

短く言葉を返す彼に、セイラはため息交じりに先ほどの相手を思い出す。

ゼロ・ムラサメ、ムラサメ研究所で現在行われている、人工ニュータイプ計画の所謂『強化人間』と言う者の一人である。その成功例と言うのが、彼らに対するムラサメ研からの見解を、セイラは聞いていた。

 

と、同時に成功例であるとすれば極端な話失敗例もいると言うことであり……、それがどうなったかなど想像したくもなかった。

 

「そう……、でもね。どれだけ相手にムカついたからと言って、相手は曲がりなりにも連邦軍の少尉、軍人よ?最悪の場合も想定出来るって事は、理解しているわね?」

 

諭すようにそう言う彼女の言葉に対して、ゲーツは難所を示した。どうやら、彼女のその言葉が気に入らないようである。それは、嘗ての強化の影響か?それとも、単に彼が若いからなのか?何れにせよ、彼には受け入れ難い言葉である。

 

「軍人だからって、貶すような相手を殴っちゃ悪いんですか?アムロだって、同じような事をしたって……専らの噂ですよ。」

 

ゲーツのその言葉の信憑性はさておき、アムロという人間には武勇伝が付き物で、良いも悪いも多かれ少なかれ噂されていた。

その言葉を盾に、彼はセイラに対して真っ向から意見をぶつけた。

 

「彼は彼よ、貴方とは違うわ?貴方は戦場を渡り歩いたことがあって?あの中で、擦り切れていた頃の彼とは理由が違う。」

 

「アムロをかばうんですか?そうですよね、フィアンセですものね。」

 

露骨に挑発する彼の態度に、セイラは呆れていた。いったい誰に似たのだろうか、ここまで礼儀正しく育ってきたと思っていたのだが、どうやらかなりお冠に来ているのだと察した。

 

「それは関係ないわ。何故もっと上手く立ち回れなかったの?と、聞いているの。貴方には幾つかの選択肢があったのよ?」

 

はて?何のことだろうか?とゲーツなりに考えてみるものの、実際彼には何のことか分からなかった。

 

「良い?貴方は一応民間人という括りにある。でもね、相手は軍人…ここまでは分かるわよね?」

 

「だからなんです?力で捻じ伏せられろと?」

 

「話は最後まで聴きなさい!軍人には軍人のルールがある。特に、彼らの様な特殊な存在にはそれなりに大きなルールが。

軍人が見境なく民間人の、それも研究所の人間に手を出したと…誰かが公表したら、それは品位と信頼に直結するの。」

 

セイラはここ数年の間に学んだ事がある。どれ程武力に優れていようと、どれ程金を持っていようと、その力や金を奮う為には必ずと言って良い程に、信頼関係というものが必要であるという事を。

そして、それは特に軍人という暴力装置の力を抑え込むには、余りにも効果的な物であると。

 

もしもシャアが彼女のその姿を見たら、きっと汚い政治家の様な物を感じてしまうだろうが、彼女として見ればどれだけ高潔な志を持っていてたとしても、それを使えるだけの信頼を地球で築くにはそれだけ大変な事であると啖呵を切るだろう。

 

そして、ゲーツはその言葉にハッとした。

そう、もしも研究所の強化人間が民間人を傷付けるなど、そんな事をしても見ろ。

そんな危険でコントロールの難しい存在が、果たして軍事的にコントロールが可能なのか?と、資金を切られる可能性が高くなるのだ。

それは汚いオトナのやり方だと、そう言ってしまえばそうなのだが、そういう所が彼の甘いところであった。

 

「もしも、本当にムカついてどう仕様もないのなら……、貴方も軍人になって相手を殴りに行けば良いのではなくて?それなら、貴方もそして相手の彼も、充分に対等でいられるわよ。」

 

セイラは、彼が軍人になる事を決して否定しない。寧ろ、自分が行きたいことを見つけられるなら、彼が何になるのだって手伝うつもりである。勿論、それは犯罪者以外はという条件付きではあるが。

 

「わかったのなら、次は上手くおやりなさい?皆を想う気持ちは、貴方の良いところなのだから。」

 

彼女のその言葉に、彼は進む道を考えていた。

 

 

そして、問題のもう一人。ゼロ・ムラサメの方は、一室で同行していた研究者達から嫌味をダラダラと言われていた。

やれ、政治的な問題があるだとか、資金の凍結がとか…それこそセイラの話すような事を、真剣に話していたのだ。

 

そして、そんな彼等の周囲にはもう一人ゼロの他に白髪の女の子がいた。

 

「お前、問題起こしたんだ。僕らの事を肩身の狭いものにしないでよ。」

 

「うるせぇな、ちびっ子。」

 

余りにも貧相な身体、余りにも貧相な肢体。折れそうな程に細い腕をしながら、その瞳には確かに狂気が宿っていた。

 

「長男がこんなんだってのは、本当に参っちゃうよ。早く、僕等の身体が欲しいのに。」

 

ゼロはそんな事を言う少女をジッと見下ろす。

そばかすのある顔に病的な肉体は、彼よりも遥かに多くの人体的な強化が施されていると言う。

ゼロ、彼の後に実験されたアンの肉体限界、そのデータを流用された彼女、ドゥー・ムラサメ。

彼女は四六時中、口と鼻を覆うマスクを付けて薬剤を常に嗅いでいる。

それは、筋弛緩剤の役割を担わせ限界まで強化された彼女が、自らを破壊しないようにする為の一種のセーフティであった。

 

ゼロは、そんな少女の姿を見て一瞬ではあるが、自らとそして兄妹達への行いが果たして善行であるのかと迷う事は有れど、それをまやかしと自分に言い聞かせている。

 

そもそも、ムラサメ研究所の人間がここに来ているのは、ここオーガスタ研究所に運び込まれた、サイド3から提供のあったサイコミュを、その研究結果を共有する為の物である。

そのために、実用試験の終わった強化人間がデータを取るために、ここに来たと言う事もあった。

 

同じ連邦軍、しかしその思想の大きく違ったニュータイプの研究は、この時初めて交わった。

 

 

〜スウィート・ウォーター

同日 アムロたちC・Lの面々は、30バンチ事件の後始末に奔走していたものの、その中で暇人となっている人物がいた……。

シーマ・ガラハウである。

 

彼女は、自らの乗機であるジムⅡが破壊されたがために、その身体の検査を行う為C・Lの宇宙拠点である、スウィート・ウォーターの軍病院に検査入院する事となってしまった。

実際、彼女は戦闘当時は肉体的な影響は然程大きくは無かったが、時間が経つごとに腕の痛みが拡がっていた。

 

リリー・マルレーンに所属する軍医が言うには

 

『コレは……、疲労骨折寸前ですな。本当に今まで良くコレで持っていましたね、いやコレはコレで……。当分は軍務は控えて下さい。書類仕事はやっても構いませんが、しっかりとカルシウムと栄養を補給してください。当分の間、左腕には仕事を控えさせてください。』

 

と、ドクターストップがかかっていた。

現在は戦時下ではない、と言うことはつまり軍務を誰かに代替する事は別に、悪いことでは無い。

寧ろ、現段階ではそれをやらねばならぬ時だ。

 

幸い?な事に、C・Lと言う部隊は実動部隊である。

急な報せが無い限り、訓練訓練の日々であるのは言うまでもない。シーマが羽根を伸ばしたのは、この前のスウィート・ウォーターの時程度で、それ以外は基本仕事仕事であった。つまり……、なるべくしてなったと言うことである。

ワーカーホリックというものだろう。

 

しかし、そんな彼女はジッとしていられる質ではない。その為、暇を持て余し件の少女の下へと歩みを進めていた。彼女に返すものがあるのだ。

 

一方でスウィート・ウォーターの施設にいるその少女であるが、シーマがこの場に来ることを彼女は知る由もないのだが…、物静かであるはずのこの少女はその日は何やらバタバタとして、孤児院の人々を困らせていた。

 

「本当に、いつもは静かなのに。」

 

と、愚痴を溢す彼等に少女はワクワクと言った様子で、扉の前に立ってジッとしているのだ。

と、そんな中でチャイムが鳴る、尋ね人が来た合図であった。

 

「失礼するよ……、アンタなんでこんな所にいるんだよ。まさか、私が来るのが分かってたんじゃないだろうねぇ?」

 

と、冗談混じりに言うのは連邦軍服ではなくスーツに身を包んだシーマの姿であった。

 

「本当にすいません、この子ったらずっとここに立ったままで言うこと効かなくて。」

 

「ほぉ…そりゃあ……。」

 

と、彼女の脳裏に走るのはとある化け物の姿である。アレは完全に戦闘向けの、シリアルキラーの様な存在であるが、この子供がそんな化け物と同じであるとは到底思えない。

 

「ま、ちょうどいい。アンタに返さなきゃならないものがあってね。」

 

と、ポケットの中から取り出したのは、ボタン。

それも、真っ赤なカラフルなそれである。

しかし、服に使われているものにしてはヤケに大きいものであった。

 

よく見れば少女のぬいぐるみの一部に、ボタンが無いではないか。

 

「やっぱりね…、ほらコレはアンタのだろう?どうしてか、ポケットに入っていてね。返すよ。」

 

と、シーマが取り出したそれを少女に返そうとするが、しかし少女はそれを受け取らず寧ろ首を横に勢いよく振ると、寧ろ。

 

「あ……ううん」

 

と言って、シーマに突き返すようにした。上げたのだから返さないでとでも言いたげであった。

 

「いやねぇ…、私がこんなもの持っていても仕方ないだろう?だいたい、それじゃあそのクマがかわいそうじゃないか。」

 

施設の人間が、シーマのその言葉に一瞬ポカンとする。

 

「なんで……クマってわかるんですか?原型も何も…殆どないのに。」

 

「は?そりゃあ………なんでだろうねぇ。」

 

少女の持っているぬいぐるみ、それはもはや原型を留めていない。辛うじて動物のそれだと思えるような、歪な形で幾つもの解れを直した形跡すらある。

名前が無ければ、テディベアであることすら分からないのだ。

 

「とりあえず、強情だねぇ。アンタもっ」

 

と言って、シーマはぬいぐるみに手をかける。

すると少女はニコニコと、笑顔になった。

 

「アンタが受け取らないっていうんなら、アタシがこのクマに返してやるよ。なあ、裁縫道具は無いかい?」

 

と言って、孤児院の奥へ奥へと入っていった。少女もその後を着いていく、まるでその姿は遠目から見れば…親子のようであっただろう。

 

 

 

〜オーガスタ

 

場所は戻って、オーガスタの孤児院。その一室であるセイラの執務室。

セイラは、一つの物に視線を落としていた。それは、ムラサメ研究所から受け取った、現在研究対象とされている人物、その顔写真である。

既に幾つかの写真には、死亡という文字が浮かんでおりその事実に、彼女は嘆きを覚えていた。

 

と、同時に一つの項目に対してその視線を釘付けにしていた。

彼女は机の呼び鈴を使って、秘書を呼ぶと徐に声をかけた。

 

「カイ・シデン……彼は今何処にいるのかご存知?」

 

「わかりません。しかし、連絡を取る手段は幾つかあります。何を?」

 

セイラは再び視線を資料へと伸ばすと、それを見つめながら秘書に言った。

 

「見つけたと…、ただそれだけで結構です。」

 

彼女の視線の先には、まだまだあどけなさの残る少年の写真と『fifth』と打たれた番号とか並んだ、味気ない資料があった。

 

 

 

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