白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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幕明け(造語・誤字にあらず)


幕明け

〜0080年 ベルファスト 

 

ゴウゴウと鳴り響くエンジン音

地球連邦軍の輸送機、ミデアが今なお食料品等を運びつつ人々の生活を支えている。

 

1年戦争も終わり、次第に周辺に日常が戻りつつあったこの街に、一人の男が降り立った。

少しやさぐれたような風貌ではあるものの、その瞳には確かな使命感と覚悟が宿っていた。

 

「新しい人生、気をつけていけよカイ・シデン!ご苦労さま。」

 

「おう…!そっちこそ、上手くやってけよぉ!」

 

と、軽々しい声と共にカイは連邦軍の基地から私服で外へと歩みを進めていた。

カイの足取りは一つの方向を向いて、自らが課す目的地へと向かって進んでいたのだ。

 

そこは彼にとっては意外に見慣れた場所である。ホワイトベースクルーであった彼は、昨年もこの場所へと立ち寄った事を思い出しつつ、付近の景色を楽しみながらも足取りは少し重かった。

 

進んでいく事に、目的地は近付いていく。海が少し見えて行く一軒家、その場所は確かに懐かしく……しかし、

 

「おい……、こりゃどういう事だよ!!」

 

と、叫んでしまった。

 

カイが思い浮かべていたのは、この家に住んでいた筈の二人の兄妹。嘗て、ホワイトベースに密航してしまった、哀れな一人の少女、その家族がここに住んでいる筈だったのだ。

しかし、現実は非情である。

 

ガランとした家は、あちこちに傷みが入り始めていて、強盗でも入ったのか?それとも戸口を薪にでも変えられたのか、外から家の中が丸見えとなっていた。

 

「おいっ!!ジル!ミリー!」

 

彼は叫ぶ、その家に住んでいた筈の彼等の姿を思い浮かべながら。しかし、虚しいかな声が返ってくることは無かった。

 

「クソっ!薄々分かってたんだ、なのに今更……」

 

彼は後悔の海に沈もうとしていたが、フッと顔を上げると直ぐに駆け出した。

家の周囲、多くの人が暮らしているであろう街…、周辺に暮らす人々…多くの人に必死になって聴き取りをした。

 

しかし、返ってくる事はただ一つ。

 

「さあ…、皆困窮していたからな…子供たちは気の毒かもしれないが、気にしている余裕等なかったよ。」

 

と、冷たい言葉である。

 

拳に力を込めて、目一杯の力を込めて何かを殴りつけたい衝動に駆られながらも、彼は理性でそれを押し留めた。

そんな最中である。一人の挙動不審な男が目に入ったのは、決して偶然ではなかった。

いや、寧ろ必然とも言うべきか。

 

カイがその男を見ると、男は不意に視線を反らし明後日の方向を向いて無視を決め込もうとしたが、彼には分かった。この男は何かしらを知っているのではないか?と。

 

「おい……、そこのアンタ。ちょっと、話を聞かせてもらおうじゃないの。」

 

カイのその言葉に男はギョッとして、逃げ出そうとするがさあ遅い。

軍隊にいたカイからすれば、男の足など遅すぎた。

 

「まっ!待ってくれ!俺は…俺は別に悪いことをしたわけじゃなくて…善意で。」

 

「ほぉ…善意で、善意で他人を何処かの施設に送るほど余裕がアンタにはあったって言うのかい?」

 

カイの頭には血が登っていた。自分が冷静でないことなど分かっていたが、柄にもなく怒りが頭を通っていく。

 

「あの子達には偶然会ったんだ!!お、同じ仕事をしていた仕事仲間だったから、後を付けてみて…そしたらあの家に長女が入っていったのを見てそれで……でも、もう帰ってきてなかったみたいだし…。それで、兄妹がいたのも見えていたから…それで……」

 

男は、カイが記憶に残る少女ミハル・ラトキエの事を知っていた様であった。もっとも、その知っているという部分が果たしてどういう事実であるのかを、カイはなんとなく理解した。

要するに目の前の男もミハルと同じく、ジオンにスパイの真似事をやらされていたというのだ。

 

しかし、ストーカー気質を持っていたからこそ、この家に辿り着いた。

 

「わ、悪かった!悪かったから!!」

 

「えぇ?おい、2人は何処にいるってんだよ!!」

 

問い詰めると、男が口走ったのは地球連邦が運営する孤児院の存在と、そこに2人を送ったという言葉だけである。身寄りのない子供達を収容する施設である。

 

登っていた血の気が徐々に降下し始め、次第にカイも冷静になっていった。

 

「す……すまねぇ、親切心でやってくれたのか?」

 

「いや……戦争が終わってコッチ仕事も減って食い扶持に困っていたから…、俺だって下心があった。」

 

男はそれを認めつつ、カイは男を離した。

カイは男に聞いた施設へと赴くために、足を進めていった…。だが、事態は良い方向には進まなかった。

 

行けども行けども、その施設に辿り着くことはない。

そんな施設は何処にもないと、誰もが言葉を突っぱねる。ある者はまた別の場所に、またある者はまた別の場所とグルグルグルグルと、堂々巡りに盥回し。結局は元いた場所に戻っていく。

 

このおかしな現象を、カイはどう仕様もない胸糞の悪い感覚を覚えたまま抱えざるおえなかった。

 

しかし……生きねばならない。

2人を探す傍ら、夢となっていたジャーナリストを諦めきれず、ベルファストの大学に入学する事となった。

 

座学を抱えつつ、フィールドエージェントとしての仕事を講師と共にこなそうとした頃……、一報が入った。

 

〘アムロ・レイが地球連邦軍の士官学校に入学するらしい〙

 

一瞬の驚愕の後、直ぐに理解した。

 

アムロも止まらずに前に進もうとしている…と。

 

 

 

〜0084年7月中旬

 

大学も最後の年代である。

カイはフィールドワークでの実績と、数々の論文や記事を発行しその道では割と有名人となっていた。

 

元軍人、しかもあのホワイトベースのパイロットでアムロ・レイと肩を並べた男……。そのレッテルは、カイに貴重な取材経験を与える為のより良い道具として機能していた。

と、同時に何処までも付き纏うその影に鬱陶しさを感じつつも、納得はしていた。

 

丁度この頃、彼はベルファストの大学の一室にいた。

研究室と言うにはせせこましく、資料ばかりのこの部屋に彼は一人だけだった。

 

コンコン

 

誰かが古びた扉をノックする。

 

「入って良いぞ、どうせ俺一人だからな。」

 

と、軽々しく言う彼は入ってきた人物の姿を目にした瞬間に…嫌な予感がしていた。

 

「お久しぶりです。」

 

「おやおや、セイラさんの手の人ですか…。何か仕事が?」

 

カイにとってのセイラは、現在進行系でパトロンであった。セイラ・マスは、ここ数年の間に財力を着けてきた新興の実業家と言う側面を持つ。しかし、やはり周囲への目なども有るため。自らの目となる人物を欲していたのも事実であり、カイはそれに名乗りを上げたのだ。

だから、カイにとっては戦友でありパトロンであった。

 

「仕事では…ありませんが、一つご報告をと…機密事項ですのでコレを。」

 

手渡されたのは、封筒である。

今どき古風な紙媒体、しかしそれは防諜と言う観点から見れば最強の物理カードである。

 

カイの目はキッと鋭くなった。嫌な予感の正体、それが今当に目の前に入っているのだろう。

封を切り、中身を数枚ペラペラと捲ると…カイは額に手を着いて深い溜息を入った。

 

「思っている以上に大変な事か……」

 

既に使いの者はおらず、ただ一人彼の声だけが一室に虚しく響く。

カイの目の先、彼の手に持つ用紙に貼られたその写真には幾人かの写真とともに、仏語英語が入り混じったナンバリングがあった。

 

「fifthか…、連邦軍もなりふり構っていられなかったってか?それだけアムロが怖いかよ…。」

 

fifth、その写真には男の子の姿があった。

それもカイの良く知る少年ジル・ラトキエ、その面影が確かに存在したのだ。

 

カイはその紙を片手にシュレッダーに掛けると、粉々になった其れ等を出して一つ一つを水に溶かした。

そして一つの決心をする。

今の自分には権力も無ければ、周囲からの支持も無い。であるならば、ここから導き出される唯一の手段は彼の武器である…ジャーナリズム。

 

ジャーナリズムとは、言ってしまえば身勝手な個人的正義である。その正義が大衆の支持を得られるか、それとも見放されるかはそのジャーナリストの腕にかかっていると言っても構わない。

 

幸いな事に、カイには既に非常に大きいとは言えないもののバックが着いている。

しかも、戦時中の戦友と言う非常に心強い味方だ。であるならば、遠慮する必要などない。堂々とただ淡々と、取材と確証を得る為に動けばいいのだと。

 

そうして、カイの戦いは幕を開けた。決して終わりの見えない、暗闘の始まりであった。

 

 

 

〜0084年10月 アステロイドベルト

 

小惑星アクシズその一室

 

品の良さそうな調度品が立ち並ぶ、其れ等全てが一見すれば歴史の重みを持っていそうに見えるが贋作である。

等ということを気にする人間は、このアステロイドベルトにいるはずも無い。

教養も無く、ただ自らのアイデンティティを確立する為だけに造られた此等のものが、献上品として飾られる。

 

その部屋の中央にはベッドが置かれていて、2つの寝息が時折重なり、男女の時間があった事を語っていた。

 

ベッドの左側に眠る金髪の偉丈夫は、目蓋を開くとその額の傷をなぞりつつ、虚空を覗くように天井を見上げている。

そして徐に右側を向けば、同じように寝息を立てて寝ている、華奢な女性の姿があった。

 

年相応に女としての魅力が出てきている彼女のその、ピンク色がかった髪はシットリと汗で濡れていた。

同時にその肢体は何処か華奢であり、こんな身体で良くも政務を続けていけるのだと感心しながらも、自らが身体を重ねたことに対して、背徳があった…。

 

寝息を立てる彼女の髪を優しくあやす様に、その濡れ髪を梳く。まだまだ子供なところもある、そんな彼女に女を感じる事も少しはある。

 

元より自らよりも歳下に手を出すなど、正直に言って良い行いではなかった。特に、歳の多少離れた兄妹の様な間柄であると認知していた彼女に手を出すなど…考えたことも無かった。

 

 

 

だが、彼にはそれをするだけの理由があった。

 

 

 

時は、デラーズ・フリートによる〘星の屑作戦〙それが、アムロ・レイ等の活躍によって失敗に終わった頃から変わった。アクシズの内部、特に過激な一派の追い出しに成功したハマーンとシャア一行は、再びアステロイドベルトの静寂の中にあった。

 

地球圏とは違い、少し寒い感覚のあるこの場所において実しやかに囁かれる噂話。

 

〘アルテイシア・ソム・ダイクン率いる一派が、デラーズ・フリートと交戦してその作戦を瓦解させた〙

 

という、そんな噂である。

実際、此等の出来事は事実でありその問題が波及するのは、決して難しい事ではなかった。

 

ダイクンの遺児がザビ派、特に急進的であったギレン派の多いデラーズ等と袂を分かつという事がどういうことか…、アクシズには大きな波紋であった。

 

もしも、この噂話が真実であるのだとしたら、ザビ家の遺児であるミネバ・ザビを擁立するこのアクシズの正統性が疑われるのではないか?という、意識が増えていった。

 

それは、ある種の恐怖から来るものであった。

もしも、この現象のまま推移した場合、このアクシズという勢力がダイクン派からは見棄てられ、それどころかスペースノイドからの支持すら失う可能性があるということだ。

 

アルテイシアが、ギレンの思想と真っ向からぶつかったと言うことは、それ即ちアルテイシアはザビ家を許さない。

それは、地球圏のジオンの人間にも大きな影響を及ぼす所である。正当性を失ったが最後…、アクシズは補給も難しく最悪の場合、

 

宇宙の墓標

 

となる。

 

それだけは避けたいと、そう考える者達もアクシズには大勢いる。そんな人間が、もしもこのアクシズの宰相であるハマーンの事を襲撃したら……、そう考えた時シャアはとても恐ろしくなった。

 

そもそも、自らが心を許したナタリー・ビアンキ、その妹分であり親友でもあったハマーンである。

今やナタリーは故人であるが、アクシズでシャアが心を多少なりとも許せる相手とすれば、今ではハマーンだけであったのだ。

 

ナタリーを救えなかったとは言え、ハマーンは精一杯ナタリーの事を想い、最後まで付き添った。

シャアとしては恨む相手ではなく、寧ろ残された彼女を今は支える時期であるとそう考えた矢先の事である。

 

もし、彼女に何かあれば最後、シャアは自身がどうなってしまうのかと考えた。

護るべきものも守れず、また失うだけ失って今度こそ取り返しのつかない事になるのではないか?

そう考えただけで悪寒が走った。

 

せめて、ナタリーの残した彼女だけは生かさねばならない、そしてハマーンが庇護しているミネバもまた、庇護しなければならないと…。

と、そこまで考えてシャアはある一つの決心をした。

 

シャア自身の周囲、アクシズ内部にあるもう一つの噂話。

 

〘シャア・アズナブルは、キャスバルではないか?〙

 

と言う、そんな噂話…。

それを下地に、今自分が何をすべきか何が出来るのかと言う事を再度考えに考えて……、彼は公言した。

 

「私、シャア・アズナブルに対するとある噂話に関する真偽にお答えしよう。

私は嘗て、ザビ家によって追われた過去を持つ。しかし、それは過去の出来事である。私は、今こうしてザビ家の正当なる後継者と共に並び立ち、その宰相たるカーン宰相共親しい間柄である。

私には過去の遺恨というものは無く、寧ろ今を生きる美しいこの生命にこそ価値を見出している。」

 

要するに、公言を控えたものの

俺はザビ家には恨みはあったけど、個人には特に恨みは持ってないし、寧ろこのまま2人を支えていくよ。

そして、ハマーンは俺と親しい間なんだ

 

と、示した。

 

アルテイシアと不確定ながらキャスバルは、コレによってアクシズ内部での二人の印象は形作られた。

 

アルテイシアは、ザビ家への憎悪を抱き復讐すら厭わない。対して、キャスバルは過去を清算したザビ家には、協力を惜しまない。と見えたのだ。

 

そして……、最後の一押しとしてどれだけハマーンと自らが親密であるのかを対外的に示すように…、彼はハマーンに迫った。

こんな形である。

当に政略結婚の様な形ではあるが、それが2人を護るシャアなりの最善手であった。

 

自らのトロフィーとしての価値を上手く利用しようとしたのだ。

 

そしてハマーンからすれば、お節介の無理強いであるが……シャアの全力の庇護である。彼の行いを、彼女は無碍には出来なかった。

 

そして……0084年の10月へと至った。

 

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。

なお、こちらも是非、隔週更新です。
https://syosetu.org/novel/410694/
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