〜0081,7,12〜
薄暗い空、大地から日が昇るにせよまだまだ地平線がほんのりと明るい程度の街…、人々が眠りに落ちているそんな時間。
突如として…、地響きが周囲を揺らす。
ダッーン
パパパ
パパパパ
そんな軽い音が周囲に木霊し、土砂が空を舞う。
掘り返された大地には、枝にしては太く短い物が宙を舞い…ボトリと地に落ちる。
そんな光景を誰も彼もが無関心に目もくれず、ただ目の前の惨状にのみ意識を駆られる。
緑・青のサイクロプスと紫の巨人、其れ等が大地を駆け街を襲い…炎が大地を滑る。
巨大な閃光と、それを逃げ惑う人々。
やっとの思いで築かれた生活が、一瞬の出来事で焼かれる光景を見て…、誰が何を思うのか?
そんな最中、サイレンが鳴り響く。襲撃に気が付いたにしては俄に遅い、だが致し方のない事なのかもしれない。
こんな街中に、これらの事象に対処できる者など限られている。
何より……、まだここは民間居住区である。こんな所を襲って何になるのか、6機のモビルスーツ達はそんな事構いもせずに、一直線で目標地点まで駆けていた。
「こちらマイク、連邦の動きはまだなのか?」
「こちらピーター、まだ見られない。どうも様子がおかしい、反撃が散発的過ぎる…重要拠点ではないのか?士官学校だろうに。」
「2人とも慌てるな…今ならば連邦の白い奴を叩くチャンスだ。ジオンの為に…、奴がいたならばそれは目障りだ。」
無線の傍受など一切気にかけることもなく、ただ街を突破しつつハバロフスク士官学校へとゆっくりと進んで行くその者達の目的は何か?
そう、連邦軍モビルスーツパイロット達の象徴であり広告塔となっているアムロ・レイ。ただそれ討つことだけを考えて突き進む。
ジオン公国軍残党…、それは先の大戦において敗北を喫したジオン公国軍人が主体となっている者たちである。
彼等は、本来であれば本国であるジオン共和国へと帰還しなければならないのだ。
にも関わらず、彼等は地上へと未だに縛られているのは偏に帰りたくない理由があるからだった。
例えば、戦時中南極条約に批准しなければならない捕虜に対する虐殺行為を行った者であったり。
現地において、離れられない間柄の人が出来てしまったり。
ジオン公国が負けた事を信じられなかったりと、言った1種の意地によって等々多岐に渡る。
特に、すんなりと武装解除を受け入れた北米の部隊とは対照的に、東アジア方面ではそれに反抗する者たちがそれなりにいた。
ただ…、そんな彼等ではあるが、果たして今此処でアムロ・レイを討たなければならないのか?
そんな事をして彼等に、一体何の利があるというのか?あまりにもその計画は投機的である。
はっきり言って片道切符なのだから、こんな事をしたところで意味など無いのではないか?と言うところだろうか?
しかし、人間という生き物は合理的な判断で生きているだけではない、寧ろ本能の赴くままにやりたい事をやる事もまた、人間の生き方ではあろう。
地球へと取り残されている時点で、彼等の腹積もりは決まっている。そう…戦場で潔く散りたい、この襲撃に関わっている人間はそう思っているのだろう。
そんな死兵となった相手に対して、ここハバロフスクの守備隊はあまり効率良く防戦を行ってはいなかった。
いや、寧ろこんなにも奥地に侵攻してくる敵がいるという、そんな想定は端からなされていなかったのだから、防備は脆弱と言っても良いだろう。
そもそも、ハバロフスクと言う都市は一年戦争時に於いて、一度たりともジオン軍の勢力圏に入った事のない街である。
確かにジオンの地球降下作戦によって、極東の街の一つであるペキンが早々に陥落はしたものの、極東方面では損害の少なかったこの都市は、見事に戦線を膠着させる事に役立っていた。
特に、沿岸部がコロニー落としによって被害が大きかった事に対し、内陸部の街であったここは、大損害を被った東京や上海とは違い、充分な防御を構築できていたことが大きい。
また、陸路での攻略というジオン軍が尤も苦手とした分野の為に、その防衛線は非常に強固であった。
そんな街のど真ん中、いつの間に侵入したとも分からないモビルスーツが突如として現れれば、住民は勿論のこと軍部も恐慌状態に陥ってしまった。
どれだけ強固な防衛線を張っていたと言っても、それは外部からの攻撃に強いと言うこと。つまりは、内部からは非常に脆い。
例えばそう、要塞線を迂回されたマジノ要塞線のようなものだろうか?
更に言えば、現状は戦時ではなく平時でありそんな大それた事をやって退ける様な、組織的抵抗力がジオン残党軍にあるとは思われていなかったのも大きい。
それ故に、たった6機のモビルスーツは目的を達する為に、前進を続ける。それを、停められるものはいないかに思われた……。
ビビビビビ
とけたたましく鳴り響くアラート、俄に何かがターゲットロックオンをかけてきたのだと、マイクはそう判断し機体・ザク2を物陰に隠したその瞬間…
ガガガガガン
と言うけたたましい地鳴りと共に、先程いた場所へと何発もの至近弾が到達する。
それはどう見ても、反撃でありその速射性能を持った兵器を、彼は良く知っていた。
「へっ……、後期生産型のザクマシンガンか…だとすると、連邦もザクを使ってやがるな…。
おい!ザックス!」
その声を発すると共に、共に行動し物陰へと隠れていた1機のドムが、巨大な無反動砲=ジャイアント・バズをやや上方に傾けて射撃し、牽制射撃を開始する。
弾着角度から予想された、敵位置に対するその迫撃は確かに効果的に地面を抉り、隠れていたそれの姿を彼等に下す。
「頂いた!!」
各機のスピーカーから、野太い女の声が響くとそんな敵機が1条のビームの元貫かれる。
華奢な機体、大型のバックパック…長大なビームライフルを構える、ザクスナイパーが撃ち抜いたのだ。
「ヒュー…やるなアン…、前進を続けるぞ!」
「了解、チャップマン少佐!」
チャップマンと呼ばれる男の乗るグフは、僅かに灰色がかったその体色と巨大な脚部によって、機体を滑るように加速させた。
市街地の中を突き進み、時折現れる敵を迎撃し続け目的を達成しようと。
各機の連携の取れたその動きは、教本書のお手本の如きその隊形まさにベテラン達と思われる。
互いにフォローしあっている、とても練度が高い。
対する迎撃部隊は、これに成す術無くすり潰されようとしていた。
元来、連邦軍の地上での戦い方と言えば、後方支援のガンタンクからの援護射撃と、前面を盾を持ちながら前進するジム部隊と、それを中距離支援する61式戦車からなる、1個の混成部隊として本領を発揮するものである。
そして、そう言ったセオリーに対して戦場と言う場を支配するように、軍官僚達は前線を押し上げる方策を取ると言う…そんな流れで、戦場を支配した。
だが、知っての通り連邦軍内部でモビルスーツの経験というものはあまり多くはない、何より混戦に陥った部隊の損耗率は高く、その経験は未だに反映されているとは言い難かった。
また、迎撃側の運用するモビルスーツにも問題は多かった。
本来、ジムを想定した作戦を鹵獲して数量外となったザク。
それを、連邦用の操縦席に対応するように改造して創られた、訓練用ザクを使用してでの戦闘は、お世辞に言っても上手く行くとは思えない。
実際問題、初期訓練用とは優れていたザク・トレーナーは、戦闘に対しては、限定的な動きしか出来ないでいた。
「ったく、なんつー戦いだよ…駐留軍の留守を狙うなんてな…。しかし、妙すぎるぜ!!」
連邦のP.レイヤー大尉はそう愚痴るように一人言葉を紡ぐと、牽制を兼ねて敵の脚を停めるようにマシンガンの引き金を引き、直ぐに物陰へと隠れる。
訓練生の為に、機体の挙動を調べていた彼等は偶然にも戦闘に生き延びていた。
「総員!!動き続けろ!」
そう声を張り上げながら、彼が指揮する部隊に声が届くようにと願う。
教官となって1年も経っていない、だがそんな彼は戦場を前線を良く知っていた。だからこそ、そんな判断に優れた。
決して派手では無い戦いは、誰の命令で防衛を行っているのか。
ハバロフスク防衛駐留軍の抜けた穴を、防衛を指示しているのは教官の中で尤も階級の高い、コジマ大佐であった。
彼は各個に命令を飛ばした…遅滞戦闘に努めよと…、それは彼なりの気遣いか?或いは、打開策が有るのか…。
連邦軍の懸命な阻止線により、チャップマンは部隊の動きが阻害されている事に気がつくと、次に出来ることを指示しようとして……、彼は妙な感覚に襲われた。
ゾクゾクと背筋に刺さるような、そう例えば死戦の中に有ったあの射殺す様な感覚が、脳裏を過ぎると咄嗟に機体を翻す。
それは、敵に姿を晒す様な事へとなるのだが、そんなものは構わない。幾つかの銃撃を受けながらも、機体は浮き上がり敵弾を反らしながら、遮二無二フットペダルを全開にした時、それは起きた。
強烈な砲撃が彼の乗機を巻き込んだ。
「チャップ!!」
僚機であるドムのザックスは、咄嗟に叫んでいた。幸いなことだが、グフの左腕は吹き飛んだものの誘爆の危険性はない。
しかし、それだけでは終わらなかった。
一拍置かれて、ザクスナイパーがコソコソと動きながらターゲットを絞ろうとした瞬間…、1発の砲弾が降り注ぎその機体を粉砕した。
「アンーー!!何処から撃って!?」
そんな言葉をつく余裕もなく、次々と僚機を飲み込む砲撃。一機…また一機と砲撃に飲み込まれていった。
そんな光景を、チャップマンは成す術無く見るしか出来なかった。
それを、士官学校の臨時司令室とした部屋から戦況報告を受け取るコジマは…、ひっそりとただそれを聞いて一人ごちた。
「正確すぎるな…これが、ニュータイプとでも言うのか?はたまた、彼の実力か…。後者と思いたいものだな。」
横目にモニターに映る、その機体。ザク…長距離砲である連邦の180ミリカノンを、その砲身を有らん限りの角度で上方に向けていた。
〜襲撃より数時間前〜
アムロは眠い目を擦りながらうっそりと起床すると、未だに眠っているカールを起こす事無く、制服を着替えてその部屋を後にした。
決められた起床時間よりも早くに彼が起きたのは、この日彼は早朝から仕事が決められているからであった。
士官学校の中でも特殊な立ち位置にいる彼は、既に集結していた教官団等に顔を合わせると、軽く挨拶を済ませ問題の有るものを見ていた。
「しっかしなぁ…、君は本当に良いのかい?こんな細かいセッティング、見たこと無いぜ?俺だって戦場を駆けたんだ、やり過ぎにも見える。」
マスター.P.レイヤー大尉、戦術教導として今日付けでここに配属されたばかりの彼は、目の前で調整を行っている人物…。
戦場伝説の中でも特に燦然と輝く、ガンダムのパイロットのその姿に驚愕しつつも、気安く語りかけた。
「このくらいにしないと、機体の反応が僕に着いてこれないんです。オーバーヒート限界ギリギリで、通常のザクよりも3割増程度しか出力は出せませんけど…、シャアに出来た事です。僕にだって出来ると思います。」
「赤い彗星か…あの。そんな機動をするのか、たまったもんじゃないな。と、俺の機体はあっちで良いんだよな?」
指差す方向には、何やら白い犬のようなエンブレムが描かれたそれが特徴的な、ザクが鎮座していた。
「部隊は解散しちまったが、愛着ってものは捨てきれない、そうは思わないかい?」
「……ん?まあ、そうですね。僕の場合、エンブレムとかそういう物は疎いですけど…、もし良いのが有れば教えて下さい。」
整備兵に紛れて作業を進めるアムロの姿を見ながら、レイヤーは乗機の方へと歩き出し徐ろにコックピットへと入っていった。
朝早くから、こんなものの手入れをしなければならない。連邦軍も予算が足りないと見えた。
「結局戦場からは逃れられないか…、早く帰りてぇなぁ。」
と、そんな事を呟いていると。
何処からかこんな音が聞こえた。
ズズズズズ
と言う、鈍い地鳴りのような音だ。
その音に聞き覚えのあった彼は、急いで機体を起こし始める。
それを聞いてなお、アムロは作業を止めない。いや、寧ろ顔は険しく、より効率的な動きに努めた。
館内放送が
ウー
と鳴り、続いて総員起床の音と共に号令がかけられた。
「戦闘員は配置に付け、候補生達は安全の為指示に従い各々の配置に就くように。」
緊急を知らせるそれは嫌に冷静で、冷淡で、ただ指示のみを的確に行う。コジマと言う男は、速やかに事態の収拾を号令したのだ。
「パイロット教官は直ちに機体にて迎撃態勢を整えよ!」
言われなくとも、幾人かは既に格納庫へと集結しつつ有り、その中で階級の最も高かったレイヤーは、即席の小隊を創り上げた。
「おい!アムロ・レイ!サッサと避難しろ!」
「僕は独自裁量が認められています。それに、これの調整が済み次第出撃します!!」
その声は単なる反抗ではなく、より強い意志を帯びた物に感じられたのか、レイヤーはそれを聞いて考えを改めた。
「なら出来るだけ早くすることだ、連中は待ってくれない。」
「言われなくても!」
時間稼ぎの為に、彼は死地に赴く覚悟が出来ていた。それはこの空間にいる誰もが、戦場を駆った者達全てが、それを意識していた。
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