白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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箱庭の中で…

地球圏において、アムロ・レイ率いる『クレール・ルクス』やカイ・シデンたちが、地球連邦軍という巨大な組織の底に蠢く「ムラサメ研究所」の闇、ひいてはティターンズやビスト財団といった怪物たちと血みどろの暗闘を繰り広げていたのと同じ頃。

 

宇宙世紀0085年。

 

地球から遥か彼方、火星と木星の間に位置するアステロイド・ベルト。

 

極寒と静寂に包まれた岩塊の要塞『アクシズ』の内部においても、歴史の歯車を大きく回す、一つの決定的な「儀式」が執り行われようとしていた。

旧ジオン公国軍の残党たちが逃げ延びたこの閉鎖空間は、長らく「烏合の衆」と呼ぶべき状態にあった。

 

一年戦争の敗北から逃れてきた彼らは、ギレン派、キシリア派、あるいは純粋な軍人上がりや、単なる生活のために逃げてきた民間人など、その思想も背景もバラバラであった。彼らを辛うじて繋ぎ止めていたのは「いつか地球圏へ帰還する」という漠然とした郷愁と、連邦への恐怖だけであった。

 

マハラジャ・カーンの死後、その実権を握ったのは若干二十歳にも満たない彼の娘、ハマーン・カーンであったが、古参の将官たちから見れば、彼女はただの「小娘」に過ぎなかった。

そんな危うい均衡の上にあるアクシズの巨大な中央議事堂で、その日、ハマーン・カーンは全将兵および居住区の代表者たちを集め、重大な布告を行った。

 

「我々はこれより、旧来のジオン公国という殻を破り、新たな体制へと移行する。……正当なるザビ家の血を引く唯一の継承者、ミネバ・ラオ・ザビ殿下を絶対的な旗頭(頂点)とし、ここアクシズを本拠地とする『ネオ・ジオン』の結成を、摂政であるこのハマーン・カーンの名において宣言する!!」

 

議事堂の壇上。豪奢な玉座にポツンと座らされた、まだ五つにも満たない幼い少女、ミネバ。その傍らに立ち、凛とした声で宣言を放ったハマーンの言葉は、議事堂を埋め尽くした数千の群衆に、文字通り爆発的な動揺を引き起こした。

 

「ふざけるなッ! 小娘のままごと遊びに付き合えるか!」

 

「ミネバ様が正統な後継者であることに異論はない! だが、まだ五歳の幼児ではないか! そんな子供を神輿に担ぎ上げて、連邦という巨大な敵とどう交渉し、どう戦えというのだ!」

 

「ハマーン摂政! 貴様、幼い殿下を傀儡にして、このアクシズを完全に私物化するつもりか!!」

 

怒号と野次が、ドーム状の議事堂に反響し、暴動一歩手前の熱狂を生み出していく。

無理もない。彼らは一年戦争という地獄を生き抜いてきた歴戦の敗残兵たちである。大人の、それも酸いも甘いも噛み分けた軍事・政治のプロフェッショナルたちが、まだ言葉も覚束ない幼児に命を預け、忠誠を誓うなど、理性で受け入れられるはずがなかった。

 

「……静まらんか、貴様ら」

 

ハマーンが鋭い一瞥を群衆に投げかけるが、一度火のついた不安と不満の渦は、簡単には収まらない。

アクシズが、完全に真っ二つに割れようとした、まさにその時だった。

 

「――摂政の言葉が聞こえなかったのか。それとも、敗北の惨めさが、貴公らの耳まで腐らせたか」

 

議事堂の最前列から、マイクも通さずに、しかし場内のすべての喧騒を刃のように切り裂いて、一つの声が響き渡った。

群衆の視線が、一斉にその声の主へと向けられる。

金髪をオールバックに撫でつけ、赤い軍服の上に格式高いマントを羽織った偉丈夫。アクシズにおける最大の武勲の持ち主であり、一年戦争における生きる伝説。

 

シャア・アズナブル大佐であった。

彼はゆっくりと壇上へと続く階段を上り、ハマーンとミネバの前に立つと、振り返って数千の群衆を見下ろした。その双眸には、一切の迷いも、怯えもない。ただ、冷徹なまでの覇気だけが満ちていた。

 

「シャア大佐……貴官からも言ってやってくれ! このような体制では、我々は地球圏へ帰還する前に、内側から自滅する!」

 

古参の将校の一人が、すがるようにシャアに声を上げた。

だが、シャアは彼を一瞥することもなく、議事堂のメインマイクを引き寄せた。

 

「……私の素性について、アクシズの内部でも長らく様々な噂が囁かれていたことは知っている。今日、この場において、その真偽を明確にしておこう」

 

シャアは、自身の赤い軍服の襟元に手をやり、ゆっくりとその言葉を口にした。

 

「私、シャア・アズナブルの真の名は……キャスバル・レム・ダイクン。かつてジオン共和国を創設し、宇宙市民の独立を説いた、ジオン・ズム・ダイクンの遺児である!!」

 

――ゴウッ!!

という、言葉にならないどよめきが、議事堂を物理的に揺るがした。

噂としては存在していた。だが、本人の口から、全軍の前で正式にそれがカミングアウトされたことの破壊力は、計り知れなかった。

ジオン軍の兵士たちにとって「ダイクン」の名は、絶対的なイコンである。ザビ家の独裁に不満を持っていた者たち、純粋なスペースノイドの自治を求める者たちにとって、それは「神の帰還」に等しかった。

 

「おお……ダイクン様の御子息が! 生きておられたか!」

 

「ならば話は早い! ミネバ様など退位させろ! キャスバル様こそが、真の我らの指導者だ!」

 

「キャスバル様を総帥とし、真のジオン再興を!!」

 

先程までのミネバへの反発は一瞬にして消え去り、今度は狂信的なまでの「ダイクン万歳」の熱狂が議事堂を支配し始めた。これでアクシズはまとまる。誰もがそう確信した。古参の将校たちも、新体制のトップが一年戦争の英雄にしてダイクンの正統な後継者であるならば、喜んで命を預ける覚悟だった。

しかし。

 

「――愚か者どもがッ!!」

 

シャア……いや、キャスバル・レム・ダイクンの腹の底から絞り出された怒声が、群衆の歓喜を冷水のように打ち据えた。

 

「私を担ぎ上げれば、すべてが解決するだと? 笑わせるな。……ジオン・ズム・ダイクンは死んだ。彼が掲げた高潔な理想も、ザビ家という名の暴力装置によってとうの昔に死に絶えているのだ!」

 

キャスバルは、眼下の将兵たちを一人一人射抜くように睨みつけた。

 

「よく思い出してみろ。貴公らは、ダイクンの理想のために戦ったのか? 違うだろう。ギレン・ザビの演説に熱狂し、ドズル・ザビの武に惹かれ、キシリア・ザビの謀略の手足となり、ザビ家が掲げた『ジオン公国』という旗の下で、地球連邦という敵と血みどろの戦争を繰り広げたのではないのか!」

 

議事堂が、水を打ったように静まり返る。

彼らの胸の奥に隠されていた、最も痛いところを、キャスバルは容赦なく抉り出していた。

 

「私は生きているが、政治的な『ダイクン』はすでに死んでいる。……いいか、貴公らは自らの意志で、あるいは流されて、ザビ家の戦争に参加したのだ。その結果として、数多の同胞を失い、この冷たい石ころに逃げ込んだ。……ならば!」

 

キャスバルは背後を振り返り、玉座に座るミネバ・ザビを指し示した。

 

「貴公らが自ら選んだ『ザビ家』という十字架を、こんな幼い子供一人に押し付けて逃げ出すというのか!

状況が苦しくなったからといって、都合よく死んだダイクンの亡霊(わたし)を引っ張り出し、自分たちの責任を放棄する。

……そのような覚悟なき烏合の衆に、どうして地球連邦という狡猾な巨獣と対等に渡り合うことができるというのだ!!」

 

圧倒的な演説だった。

キャスバルの言葉は、言い訳を許さない正論であり、彼らの誇りを直接叩き切る刃であった。ザビ家の旗を掲げて戦った以上、最後までその旗に殉じる覚悟がなければ、連邦との交渉など不可能である。それが、軍人としての、そして敗者としてのケジメであると。

その熱弁を背後で聞きながら、ハマーン・カーンの胸の奥では、激しい鼓動が早鐘を打っていた。 

 

(……ああ。なんて堂々たる、そして恐ろしい男だ)

 

彼女は、表情こそ氷のように冷徹な「摂政」の仮面を被っていたが、その頬は、薄い化粧の下で微かに紅潮していた。

このキャスバルの告白も、群衆への一喝も、すべては事前に彼と彼女の間で綿密に打ち合わせられていた「台本(シナリオ)」であった。

 

もしハマーン一人で強引にミネバを即位させれば、必ずアクシズは割れる。だが、最大の対立候補となり得る「キャスバル・レム・ダイクン」自身が、群衆の面前で自らの神格性を否定し、あえてザビ家(ミネバとハマーン)の正統性を後押しする。この劇薬のようなショック・セラピーこそが、烏合の衆を一つの「国家」として鋳造するための唯一の手段だったのだ。

 

自分やミネバを守るため、自らの出自という最大のカードすら惜しげもなく切り、泥を被ることも辞さないこの男。亡き親友、ナタリー・ビアンキの遺志を継ぐように、彼が不器用ながらも自分たちに向けようとしている絶対的な庇護。

ハマーンにとって、そのシャアの姿は、政治的な打算を抜きにして、女として抗い難いほどの魅力を放っていた。

 

「……だが、それでも納得がいかないという者がいるのであれば、良いだろう。私が貴公らに、かつての公国には存在しなかった『選択の自由』を与えよう」

 

キャスバルが、静まり返った議事堂に、最後にして最大の爆弾を投下した。 

 

「堂々と、選挙を行うがいい。このアクシズの舵取りを、ハマーン・カーン摂政とミネバ殿下に託し、『ネオ・ジオン』として連邦に抗い続けるか。……それとも、ダイクンの名の下に、この私、キャスバル・レム・ダイクンに全権を一任するかをな」

 

「選挙……? 我々が、代表を選ぶのか?」

 

ざわめきが再び広がる中、キャスバルは口角を冷たく吊り上げた。 

 

「ただし、よく考えてから投票するのだな。……もし、貴公らが私を総帥として選んだ場合、私は直ちに連邦政府との無条件降伏交渉に入る。アクシズを地球連邦に明け渡し、全軍を武装解除させ、ジオンという国家を歴史から完全に抹消する!!」

 

「なッ……!!? なにを莫迦な!」

 

「降伏だと!? 我々の今までの戦いはなんだったのだ!!」

 

「本気か、キャスバル様!!」

 

絶叫に近い声が飛び交う。

当然である。彼らは連邦に復讐するため、あるいは独立を勝ち取るためにこの極寒の地で耐え忍んできたのだ。

だが、これこそがキャスバル……シャア・アズナブルの仕掛けた、逃げ場のない「罠」であった。

 

強硬派や不満分子が求める「強力な指導者」。その最強のカードであるダイクンの遺児が、「私を選ぶなら、戦うことを諦めろ」と宣言したのだ。 

 

戦いたければ、そして独立を維持したければ、自分たちが散々見下してきた「小娘」であるハマーンと、五歳のミネバを戴くしかない。ザビ家への忠誠を拒むということは、イコール「ジオンとしての誇りを捨てて連邦の犬になる」と同義にされたのである。

 

キャスバルは、微動だにせず、ただ群衆の葛藤を見下ろしていた。彼がどう思われようと構わない。この極端な二者択一を突きつけることでしか、彼らの腹を括らせることはできないと知っていたからだ。

 

「……キャスバル殿の提案、摂政たる私もこれを支持しよう」 

 

完璧なタイミングで、ハマーンが一歩前へ進み出た。

彼女の声には、先程までの少女のような響きは微塵もない。数千の荒くれ者たちを束ねる、真の指導者としての圧倒的な威厳が備わっていた。

 

「ダイクン家の真意は示された。あとは、貴様ら自身の誇りの問題だ。……連邦の軍門に降り、飼い犬として余生を過ごすか。それとも、ミネバ殿下の下に結束し、宇宙市民の真の独立を勝ち取る『ネオ・ジオン』の戦士として死線を潜るか。……各々の魂に問いかけ、己の意志で決断せよ!!」

 

ハマーンの凛とした叫びが、議事堂の空気を完全に支配した。

もはや、反論する者はいなかった。彼らの目からは迷いが消え、代わりに、後戻りできない道を選ぶ者特有の、暗く、重い熱狂の火が灯り始めていた。 

 

 

宇宙世紀0085年、秋。

 

独裁国家であったジオン公国の残党が集うアステロイド・ベルトの果てにおいて、歴史上極めて皮肉なことに「初めての民主的な選挙」が行われた。

 

結果は、語るまでもない。

 

圧倒的な多数で、ミネバ・ラオ・ザビを旗頭とする新体制が信任された。キャスバル・レム・ダイクンに投票した者は、連邦との融和を望むごく一部の穏健派のみであった。

こうして、烏合の衆であった敗残兵たちは、シャア・アズナブルによる命懸けの政治的ブラフと、ハマーン・カーンの見事な統率によって、一つの強固な意志を持つ軍事国家『ネオ・ジオン』として新生したのである。

 

「……見事な手際だったな、ハマーン」

 

すべての儀式が終わり、執務室へと戻ったシャアが、マントを脱ぎながら短く労った。

 

「大佐の無茶な芝居のおかげです。……ですが、これで彼らも後戻りはできない。連邦に一矢報いるための、最強の剣が鍛え上がった。」

 

「だが、無茶は禁物だ。引き際を間違えれば、死へと向かう。」

 

ハマーンは、デスクに置かれた真新しい『ネオ・ジオン』の紋章を見つめながら、静かに微笑んだ。その瞳の奥に、密かな慕情と、絶対的な権力者としての氷のような決意を同居させながら。

 

 

熱狂と怒号、そして狂信的な歓喜に包まれたアクシズの中央議事堂。その最も高い場所に設えられた豪奢な玉座の上で、ミネバ・ラオ・ザビは小さな両手を膝の上で固く握りしめ、眼下でうごめく大人たちの波を静かに見下ろしていた。

 

まだ五つにも満たない幼子である。キャスバル・レム・ダイクンが放った政治的な爆弾の意味も、ハマーン・カーンが宣言した「ネオ・ジオン」という国家の重みも、言葉として正確に理解できているわけではない。

 

だが、彼女のその大きなエメラルドグリーンの瞳は、年齢に似合わぬほど聡明に、この空間を満たす「感情の正体」を正確に見抜いていた。

 

ハマーンは優しい。忙しい政務の合間を縫って自身の髪を梳いてくれるその手は、いつも少し冷たいけれど、確かな愛情に満ちている。

 

シャアも優しい。時折ふらりと現れては、地球の美しい景色や旧世紀の童話を聞かせてくれる。彼ら二人が自分に向けてくれる眼差しには、打算を超えた、純粋な庇護の温もりがあった。

 

しかし、それ以外の大人たちの「(まなこ)」は違った。

 

将校たち、政治家たち、そして議事堂を埋め尽くす群衆。彼らがミネバを見つめる時、そこに「一人の幼い少女」を見ている者は誰一人としていない。彼らの瞳に映っているのは、死んだ父親(ドズル)の幻影であり、ジオンという国家の「正統性」という名の便利な記号であり、自らの野心を満たすための神輿でしかなかった。

 

媚びへつらいながらも、心の奥底で舌を出しているような冷たい目。あるいは、狂信的すぎて、ミネバの小さな身体がその重圧で押し潰されそうになるほどの重い目。

 

(……みんな、私のことなんて見ていない)

 

ミネバは、大人たちのその空虚な眼差しが、どうしようもなく嫌いであった。分厚いドレスに身を包み、背筋を伸ばして玉座に座っていると、自分がまるで命のない作り物の人形にでもなってしまったかのような錯覚に陥るのだ。

 

だが……、この冷たく暗い岩塊の要塞での生活も、決して悪いことばかりではなかった。

 

熱気と権謀術数が渦巻く政治の舞台から一歩退き、立ち入りが厳重に制限された居住区の奥、人工の太陽灯が照らす小さな庭園。そこへ足を踏み入れた瞬間、ミネバを縛り付けていた「ザビ家の威光」という重い鎧は、魔法のように解け落ちる。

 

「あ! ミネバ! お帰りなさい!」

 

パタパタと軽い足音を立てて、一人の少女が駆け寄ってくる。茶色いショートヘアに、快活な笑顔。 

 

「ミネバ様を走ってお迎えするなど、はしたないですよ。……あ、お帰りなさいませ、ミネバ様」

 

その後ろから、同じ顔、同じ背格好、同じ声をしたもう一人の少女が、少しツンとした表情で歩み寄ってくる。

 

さらに庭園の奥を見渡せば、花壇の世話をしている者、芝生の上に寝転がっている者、追いかけっこをしている者……数え切れないほどの少女たちが、そこにいた。

 

その数、およそ12人。あるいは、もっといるのかもしれない。

 

彼女たちの顔のパーツは、恐ろしいほどに似たり寄ったりであった。まるで精巧に作られたビスク・ドールを、寸分違わず複製したかのように。

 

彼女たちこそ、かつてアクシズの過激派が「人工的なニュータイプ」として極秘裏に培養し、シャアの介入によって保護されたクローン少女たちであった。

 

周囲の大人たちは、彼女たちを気味悪がった。同じ顔をした子供たちが無表情に連れ立って歩く姿を「呪われた実験の産物だ」「不気味な人形どもだ」と囁き、決して近づこうとはしなかった。ハマーンでさえ、彼女たちの扱いに細心の注意を払い、居住区を厳重に隔離している。

 

だが、ミネバにとっては違った。

 

大人たちが気味悪がるその「同じ顔」を持つ少女たちは、ミネバを護るための忠実な近衛兵であり、同時にどうしようもないほどに大切で、大好きな「遊び相手(お姉さまたち)」であったのだ。

 

「ミネバ、お花! 今日は特別に綺麗に咲いたんだよ!」

 

一番の姉である『エルピー・プル』は、ミネバの小さな手を無邪気に握りしめ、花壇へと引っ張っていく。

プルは、誰よりも感情が豊かで、いつも太陽のように笑っていた。彼女の手はとても温かく、ミネバに向けられるその瞳には、大人たちのような打算や記号を見るような冷たさは一切ない。ただ純粋に「可愛い小さな妹」を愛しむ、無垢な光だけが宿っている。

 

「♪キラキラ、お星さま……お花と一緒に、ねんねしな……」

 

プルは、ミネバを芝生に座らせると、自分も隣に座り、楽しそうに歌を歌い始める。旧世紀の童謡だろうか、シャアが教えてくれたというその歌を、ミネバも舌足らずな声で一緒に口ずさむ。

同じ顔の姉妹たちが、二人の歌声に誘われるように、わらわらと集まってきた。

 

「プル、ミネバ様を土の上に直接座らせるなんて、ドレスが汚れてしまいます! 摂政様に叱られるのは私たちなんですよ!」

 

眉根を寄せて口やかましく注意してくるのは、姉妹の中でも一際気が強い『プルツー』だ。

彼女は、他の姉妹たちよりも少しだけ感情の起伏が激しく、戦闘訓練の影響か、常に気を張っているようなところがあった。ミネバのことも、絶対に「様」付けで呼び、恭しく接しようとする。

 

「プルツーも一緒に歌おうよ!」

 

「わ、私は歌など……! そういう子供じみたことはしません!」

 

顔を真っ赤にしてそっぽを向くプルツー。だが、ミネバがちょこんと立ち上がり、プルツーの服の裾を小さな手でキュッと掴んで上目遣いで見つめると、彼女の態度はすぐに崩れた。

 

「……っ。し、仕方ありませんね。ミネバ様がどうしてもとおっしゃるなら……」

 

不器用な言い訳をしながら、プルツーはミネバの隣にしゃがみ込む。 

 

「その代わり、歌が終わったら鬼ごっこです! 私が鬼をやりますから、ミネバ様は全力で逃げてくださいね! 捕まえたらくすぐりの刑ですから!」

 

言葉遣いこそ硬いが、その提案は完全に年相応の活発な女の子のものだ。プルツーは、一度遊びが始まると誰よりも本気でミネバを追いかけ回し、人工の庭園を所狭しと駆け回ってくれる。大人たちに囲まれて窮屈な思いをしているミネバにとって、息を切らし、髪を振り乱して笑い合えるその時間は、何にも代えがたい宝物であった。

 

「あはははっ! 待って、プルツーお姉さま!」

 

「逃がしませんよ、ミネバ様!」

 

「あー、プルツーずるい! 私も混ぜて!」

 

12人を超える同じ顔の少女たちが、笑い声を上げながら人工の緑の上を駆けていく。

 

大人から見れば、誰がプルで、誰がプルツーで、誰がその他の妹たちなのか、まったく区別がつかないだろう。事実、容姿は寸分違わぬクローンなのだから。

 

しかし、ミネバの目には、彼女たちがはっきりと「違う色」を持って輝いているのが見えていた。

 

プルの温かい声。プルツーの不器用な優しさ。プルスリーのおっとりした仕草。プルフォーのいたずらっぽい笑顔。微かな声のトーンや歩き方の癖で、ミネバには彼女たちの個性が手に取るように分かった。

 

血の繋がりなど関係ない。作られた命であるかどうかも関係ない。

 

外の世界では、連邦という巨大な敵を打ち倒すため、大人たちが血みどろの政治劇を繰り広げ、ミネバを「ジオンの象徴」として祭り上げている。いつか自分も、その冷たい玉座から立ち上がり、彼らを率いて戦争という地獄へ向かわなければならない日が来るのかもしれない。

 

だが、今だけは。

 

この温かな小さな庭園で、自分と同じように運命に翻弄されながらも、今を無邪気に生きようとしているこの「同じ顔をしたお姉さまたち」に囲まれている間だけは。

 

ミネバ・ラオ・ザビは、一人のありふれた、笑顔の似合う幼い女の子でいることができた。

 

「みんな……だぁいすきっ!」

 

ミネバの弾けるような笑い声が、冷たい岩塊の要塞の奥底で、小さな希望の光のように優しく響き渡っていた。

 

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