白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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第99話

宇宙世紀0085年、冬。

 

北米大陸に位置するオーガスタにも、例年になく厳しい冬将軍が到来していた。

本来であれば比較的温暖な気候であるはずのこの地域だが、現在の気温はマイナス5度。かつてであれば珍しいほどの冷え込みである。

 

一年戦争時、ジオン公国軍によって引き起こされた「コロニー落とし」や、大規模な大量破壊兵器の使用による甚大な環境破壊。その余波は、戦後数年が経過した今もなお、目に見えない病魔のように少しずつ、しかし確実に地球の気候を蝕んでいたのである。

 

だが、そのような過酷な時代の爪痕の中にありながらも、オーガスタの施設は奇妙なほどの静けさと温もりに包まれていた。

 

吐く息が真っ白に染まる冷たい空気の中、中庭では保護された孤児や子供たちが、色とりどりの毛糸の帽子を目深に被り、モコモコとしたウールの服を着込んで、雪の積もった庭を駆け回っている。彼らの無邪気な笑い声は、大人たちが作り出した戦争の影をひととき忘れさせてくれる、確かな希望の響きであった。

 

その子供たちの輪から少し離れた日だまりのベンチに、フォウ・ムラサメの姿があった。

 

「フォウ、寒くない? 温かいココア、持ってきたよ」

 

「……ありがとう、ロザミア」

 

温かいマグカップを差し出すロザミア・バダムの言葉に、フォウは薄く微笑んでそれを受け取った。

ムラサメ研究所での強化プロセスにおいて、フォウへの薬物の投与量はゼロやドゥーといった他の被験体と比較して少なかった。

 

そのおかげか、オーガスタでの懸命な治療により、彼女の薬物離脱症状は他の者より早く安定期に入り、今では施設内での一定の自由行動が許されるまでになっていた。

だが、肉体的な安定とは裏腹に、彼女の精神には別種の「症状」が現れ始めていた。

 

過去の記憶を完全に奪われ、自分が何者であるかという土台(アイデンティティ)を持たない彼女にとって、目覚めているすべての時間は、漠然とした恐怖と焦燥感との戦いであった。そのため彼女は、無意識のうちに自らを守る防衛本能として、真っ先に自分に優しく寄り添ってくれたロザミアに強く依存するようになっていたのだ。

 

フォウはココアを両手で包み込みながら、少しでも不安を感じると、ロザミアのコートの袖をきゅっと掴む。ロザミアもまた、そんなフォウの危うさを受け入れ、まるで本当の姉妹のように彼女を庇護していた。

 

同じように作られた記憶に苦しんだ過去を持つロザミアにとって、フォウの存在は決して他人事ではなく、二人でいることで互いの心の欠落を埋め合わせるような、良いコンビとなっていた。

 

一方、彼らと同じようにムラサメ研究所から保護された他の者たちの戦いは、まだ深い雪の中にあった。

 

強固な洗脳と、偽りの記憶操作を施されていたフィフスことジル・ラトキエ。

彼は隔離室の窓から外の雪景色を眺めながら、ふいに頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

『ミリーを助けなきゃ……ジオンの悪魔が……!』

 

薬が抜けた今でも、脳の海馬に深く刻み込まれた偽のトラウマが、突発的な幻聴となって彼を苛み続けている。だが、以前のように暴れ狂うことはなくなった。

 

幻聴が響くたびに、彼は自ら両耳を塞ぎ、「これは嘘だ、嘘なんだ」と必死に自分自身に言い聞かせる戦いを続けていた。カイ・シデンが呼び起こしてくれた「真実の記憶の欠片」だけを命綱にして、彼はゆっくりと、しかし確実に自らの心を取り戻そうと足掻いていた。

 

そして、かつて「真のニュータイプ」と嘯き、他者を見下していたゼロ・ムラサメ。

彼もまた、薬効が完全に切れ、安定期を迎えていた。しかし、彼を襲っているのは幻聴でも身体的な苦痛でもなく、底知れぬ「悔恨」であった。

 

薬物によってもたらされていた全能感が剥がれ落ちた今、自らがどれほど傲慢で、周囲の人間(オールドタイプと見下していた者たち)を傷つけてきたかという事実が、重い十字架となって彼の心を押し潰していた。暗い部屋の片隅で膝を抱える彼の目からは、かつての狂信的な光は消え失せ、自らの弱さと向き合う一人の青年の深い苦悩だけが影を落としていた。

 

さらに、最も重篤な状態にあるのが、ドゥー・ムラサメであった。

 

彼女の肉体は、度重なる過剰な薬物投与と肉体強化の代償により、内側からボロボロに崩壊しかけていた。極限まで酷使された内臓の至る所に、まるでゴマをまぶしたかのような無数の肉芽腫が形成され、彼女の小さな身体を恒常的な痛みと機能不全で苦しめているのだ。

 

もし旧世紀の医療技術であれば、とうの昔に見放されていた状態だろう。しかし、幸いなことに宇宙世紀の高度な再生治療技術が、彼女を死の淵でギリギリ引き留めていた。余命宣告こそなされていないものの、長期にわたる絶対安静と、気の遠くなるような再生治療の継続が必要不可欠であった。

 

病室のベッドの上。

 

厚手の毛布に包まれたドゥーは、車椅子に乗せられ、静かに窓の外の粉雪を見つめていた。

 

「……雪。しろいね……」

 

酸素マスク越しに漏れる彼女の声は、かつて戦闘中に上げていた狂気に満ちた笑い声とは似ても似つかない、ひどく物静かで、か細いものだった。

 

そこにあるのは、破壊と殺戮を楽しむ化け物ではなく、ただの儚く、傷ついた年相応の少女の姿である。

 

彼女たちは今、連邦のモルモットとしての死ではなく、一人の人間としての長く厳しい「生」を歩み始めたばかりなのだ。

氷点下5度の厳しい寒さの中、オーガスタの空からは静かに、ただ静かに白い雪が降り積もっていく。

 

それは、彼らが背負わされた凄惨な過去の傷跡を優しく覆い隠し、これから始まる新しい未来への歩みを、そっと見守っているかのようであった。

 

中庭でフォウやロザミアたちが束の間の冬の穏やかさを享受している一方で、その輪の中にゲーツの姿は無かった。

彼が孤立してしまったわけではない。彼は今、オーガスタ研究所の管理棟の一室にいた。

 

アンティーク調の落ち着いた調度品が並ぶその部屋で、彼が対峙しているのは、数週間後にティターンズからの牽制による『作戦行動の自粛(謹慎)』が解け、再び宇宙へと戻っていくアムロ・レイと、この施設の事実上の経営者であり彼らの保護者であるセイラ・マスの二人であった。

 

温かいハーブティーの香りが漂う中、ゲーツは意を決したように、真っ直ぐに二人を見据えて発した。

 

「来年、軍に士官しようと思っている」

 

その唐突な、しかし確固たる意志を持った宣言に、アムロの眉がピクリと動き、セイラはティーカップを置く手を止めた。

 

「……僕は、いつも周りの人たちに助けられてばかりだった。アムロ大尉にも、セイラさんにも、そして施設のみんなにも」

 

ゲーツは、膝の上で両手を強く握りしめながら言葉を継いだ。

 

「強化処置の呪縛からいち早く抜け出せた僕は、今あそこで苦しんでいるあいつらを……フォウやゼロやドゥーたちを守るべき『兄』という立場にある。それなのに、今の僕には、誰かを守るための力も、術も何もないんだ」

 

ゲーツの胸の奥にあるのは、純粋な無力感と責任感だった。

軍の身勝手な都合で人生を狂わされた彼らにとって、自分たちを本当に守れるのは自分たちしかいない。そして何より、彼らを救うために泥を被り、政治と暴力の矢面に立ってくれているアムロやセイラの負担を、少しでも分かち合いたいという強い思いがあった。

 

「だから、軍に入る。力を身につけて、今度は僕がみんなを助けたいんだ」

 

「……反対だ」

 

ゲーツの熱を帯びた言葉を、アムロの静かで、しかし氷のように冷たい声が遮った。

 

「大尉……」

 

「君の気持ちは分かる。だが、軍隊という組織は、誰かを守るための盾であると同時に、誰かを殺すための剣だ。……君は今、大切な人たちを守る手段として軍を選ぼうとしているが、軍に入れば、君がまったく『やりたくもない仕事』……無関係な誰かを傷つけ、命を奪う命令が必ず下される。それが軍人になるということだ」

 

アムロの言葉には、彼自身が一年戦争から今日に至るまで、その身に刻み込んできた血の匂いと重いトラウマが宿っていた。大切なものを守るために引き金を引くたびに、自分の魂が削られていく感覚。それを、ようやく自由を手に入れたばかりのこの青年に味わわせたくはなかった。

 

「……分かっていますよ。そんなこと」

 

ゲーツは、アムロの厳しい視線から目を逸らさずに言い返した。

 

「アムロ大尉がここへ来る度、どんなに笑っていても、その顔がどれほど疲れ切って、難しい顔をしているか……ずっと見てきましたから。大尉の手が、綺麗なままでないことくらい分かっています」

 

その指摘に、アムロは息を呑み、言葉を詰まらせた。

自分が隠し通せていると思っていた心の摩耗を、かつて戦場を強要された強化人間であるゲーツは、あまりにも敏感に察知していたのだ。 

 

二人の息詰まるようなやり取りを横目に、セイラは深い沈黙を保ったまま、ゲーツの横顔を静かに観察していた。

 

彼の瞳にあるのは、作られた好戦性でも、洗脳による狂気でもない。ただ純粋に、自分の意思で誰かの役に立ちたいという、人間として最も真っ当な感情だった。

 

セイラは、そんなゲーツの姿に、かつての『アルテイシア・ソム・ダイクン』であった自分自身の境遇を重ね合わせていた。

ダイクン家の遺児として、ジンバ・ラルの庇護の下、地球で身分を隠して生きていた少女時代。周囲の大人たちに守られ、安全な籠の中で生かされながらも、自分では何も選ぶことができず、何も成すことができないという強烈なもどかしさと、窒息しそうな無力感。

 

彼に「ここにいれば安全だから」と押し付けるのは、かつて大人たちが自分にしたことと同じではないのか。

 

「……ゲーツ」

 

セイラが静かに口を開くと、部屋の空気がスッと変わった。

 

「自分のやりたい様に、やりなさい」

 

「セイラ……!?」

 

驚いて顔を向けるアムロを片手で制し、セイラは真っ直ぐにゲーツを見つめた。

 

「ただし、忘れないで。……自ら選んだ道で、後悔するかしないかは、すべてあなた次第よ。誰もあなたの代わりに責任を取ってはくれないし、あなたの痛みを代わってあげることもできないわ」

 

それは、ただの許可ではない。一人の自立した大人として、彼を対等に扱うというセイラなりの最大限の敬意と、厳しいエールであった。

 

与えられた安全よりも、傷ついてでも自らの足で歩くことの尊さを、彼女は誰よりも知っていたからだ。

ゲーツの顔に、パッと明るい光が差し込んだ。

 

「はい……! ありがとうございます、セイラさん」

 

アムロは、セイラのその凛とした横顔を見て、小さくため息をついた。

 

「……セイラ、君は彼に甘すぎる。……いや、厳しすぎるのかな」

 

アムロは少しだけ反論を試みたが、結局のところ、セイラがそういう判断を下した以上、そしてゲーツの覚悟が本物である以上、無理に引き止めることはできないと悟っていた。

アムロは頭を掻き、観念したようにゲーツに向き直った。

 

「……分かった。君の意思を尊重しよう」

 

「大尉!」

 

「だが、一つだけ絶対に守ってもらう『条件』がある」

 

アムロの顔が、再び厳しい指揮官のものに戻る。

 

「ロザミアやフォウたち……施設のみんなに、自分の口からきちんと説明をすることだ。君を慕っている彼女たちに、嘘をついたり、何も言わずに黙って出て行ったりすることは絶対に許さない。……それが、君が『兄』として果たすべき、最初の責任だ」

 

アムロのその言葉は、かつて自分が何も言わずに宇宙へ上がってしまったことで、残された者たち(フラウやカツたち)にどれほどの寂しさを背負わせてしまったかという、彼自身への自戒でもあった。

ゲーツは一瞬だけハッとし、そして、深く、力強く頷いた。

 

「はい。……必ず、僕の口からみんなに伝えます」

 

冬の冷たい風が窓を揺らす中、一人の青年が、大人の庇護という温かい毛布を自ら脱ぎ捨て、凍てつくような自立への第一歩を踏み出した。

その背中を見送るアムロとセイラの胸中には、一抹の不安と、それを上回る確かな祈りが交錯していた。

 

―――

 

〜同時刻 北米シャイアン ブライト・ノア邸

オーガスタで若者たちが自立への一歩を踏み出していたのと同じ頃。

北米シャイアン基地からほど近い、連邦軍の将官用住宅街。その一角にあるブライト・ノア大佐の邸宅では、外の凍てつくような冬の寒さとは無縁の、暖かな湯気と賑やかな笑い声がリビングを満たしていた。

 

「よし……火加減はこんなものか。ミライ、出汁の引き方はこれで良かったか?」

 

「ええ、完璧よ。昆布を引き上げるタイミングもバッチリ。ブライト、本当に腕を上げたわね」

 

エプロン姿のブライトが、真剣な顔つきで菜箸を握りながら鍋の中を覗き込んでいる。その傍らで、幼いハサウェイとチェーミンをあやしながら、妻のミライ・ノアが優しく微笑んでいた。

ティターンズからの牽制による『作戦行動の自粛(謹慎)』期間。

 

このおよそ2ヶ月という、軍人にとっては持て余すほどの暇な時間にあって、ブライトはジャブローやダカールでのドロドロとした派閥争いや政治的駆け引きに首を突っ込むことを徹底して嫌った。代わりに彼が選んだのは、これまでの長きにわたる戦生活で蔑ろにしがちだった「家族との時間」を埋め合わせること、そして、ミライから料理の手ほどきを受けることであった。

 

ヤシマ家のルーツである極東の島国。そこで古くから受け継がれてきた『和食』に、ブライトは挑戦していた。

 

西洋の料理が、ソースやスパイスを幾重にも重ねていく「足し算の美学」であるならば、和食は素材の雑味を削ぎ落とし、素材そのものの旨味を引き出す「引き算の美学」である。

 

最初は勝手が分からず、不器用な手つきで塩や醤油を足しすぎてはミライに苦笑されていたブライトだったが、持ち前の生真面目さと、艦隊指揮にも通じる「状況(温度と時間)の徹底管理」を料理に応用し始めたことで、この2ヶ月間で飛躍的にその腕を上達させていたのだ。

 

「艦長の料理が食えるなんて、謹慎処分も悪くないですねぇ」

 

リビングの大きなダイニングテーブルから、楽しげな声が飛んでくる。

テーブルを囲んでいるのは、C・Lの旗艦『グラニ』の主要な艦橋要員たちだ。厳しい軍規と閉鎖的な艦内生活を共にする彼らにとって、司令官の自宅でのホームパーティーは、何よりの息抜きであった。

 

そして、その和やかな宴席の中で、ひときわ周囲の注目(というより、格好のからかいの的)を集めている二人の姿があった。

 

「いやぁ、それにしてもお熱いことで! 外は氷点下だってのに、ここだけ春が来てるんじゃないの?」

 

「おいおい、見てみろよあの柄。完全に『ペアルック』じゃないか。シャイアンの街へ買い出しに行ったついでに、二人でイチャイチャ選んだのか?」

 

先輩クルーたちからの容赦ない冷やかしの嵐を浴びて、クライド・ハリソンは顔を真っ赤にして俯き、その隣に座るヴァーニラも、照れ隠しにジュースのグラスを両手でギュッと握りしめていた。

 

普段は戦場で命を懸けている彼らだが、休日の私服、それもなぜか見事に揃ってしまったお揃いのロゴ入りシャツを着ている姿は、ただの初々しい若者のそれである。

 

「べ、別に合わせたわけじゃないですよ! たまたま安売りしてたから買っただけで……」

 

クライドが必死に弁解しようとするが、その慌てぶりがさらに周囲の笑いを誘う。

 

「ふふっ、良いじゃない。若いんだもの、お揃いの服くらい着たって」

 

ミライがくすくすと笑いながら、出来上がった大皿をテーブルへと運んできた。 

 

「さあ、お待たせした。ブリ大根と、出汁巻き卵、それに季節の野菜の炊き合わせだ」

 

ブライトが、エプロンを外しながら自信作を並べていく。

見た目は決して派手ではない。だが、鰹と昆布の合わせ出汁がふわりと香り、大根には琥珀色の煮汁が見事に染み込んでいる。

 

「おおっ……! これは美味そうだ!」

 

「いただきます!」

 

クルーたちが一斉に箸を伸ばし、その味に次々と舌鼓を打つ。

 

「うまっ! 味がすっごい染みてるのに、全然しょっぱくない!」

 

「出汁巻き卵、ふわふわじゃないですか! 艦長、モビルスーツの操縦より料理の方が才能あるんじゃないですか?」

 

部下たちの無遠慮な絶賛に、ブライトは「余計な一言だ」と苦笑いしながらも、まんざらでもない表情を浮かべていた。

しかし、そんな賑やかなテーブルの端で、ただ一人、腕を組んで目を閉じ、口に含んだ大根の煮物を真剣な顔で咀嚼している男がいた。

 

かつてホワイトベースで激務の厨房を取り仕切り、現在はグラニのコック長を務めるベテラン、タムラである。

 

プロの料理人である彼の品評を前に、ブライトも思わず居住まいを正して息を呑んだ。

 

タムラはゆっくりと目を開け、箸を置くと、深く頷いた。

 

「……見事です、艦長。素材の臭みは完全に抜かれ、それでいて出汁の『旨味』だけが芯まで染み渡っている。何より……塩加減が、完璧だ」

 

一年戦争時、塩の不足に誰よりも頭を悩ませていたタムラからの「塩加減が完璧」という言葉は、これ以上ない最大級の賛辞であった。

 

「和食の引き算……まさに、無駄な力を抜いて部下の持ち味を引き出す、艦長の指揮そのものですな。これなら、私が倒れてもいつでも厨房を任せられますよ」

 

「よしてくれ。百隻の艦隊を指揮するより、タムラさんの後釜に座る方がよっぽど胃に穴が空きそうだ」

 

ブライトが肩をすくめて答えると、リビングは再びドッと温かい笑い声に包まれた。

 

外の世界では、ティターンズの暗躍、アナハイムの策謀、そしてオーガスタで苦しむ強化人間たちという、重く冷たい現実が横たわっている。いずれ彼らも、再びその過酷な嵐の中へと身を投じなければならない日は必ず来る。

 

だが、今この瞬間だけは。

 

丁寧に引かれた出汁の香りと、家族や仲間たちの笑顔に囲まれたこの小さなダイニングテーブルだけは、彼らが命を懸けて守り抜くべき「平和」の象徴として、確かな温もりを放ち続けていた。

 

 

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