キラの言葉を聞いたサザーランドは即座に反応し、すぐ横に居るアズラエルへと顔を向けた。
「アズラエル様!」
「あぁ……僕にも聞こえたよ。しかし、ZAFT? しかも見た事のないモビルスーツ……。どういう事だろうね。これは」
「連中に利用されているという事でしょうか」
「可能性は高いね。もしかしたら洗脳とか、されてるのかもしれない」
「まさか……!」
「あり得るさ。あの小島での戦闘も、その為の襲撃だったって可能性もあるしさ」
アズラエルは腕を組みながら、思考を巡らせて一つの結論を出す。
「とにかくこのままってのは良くないね。アレ、捕まえようか」
「承知いたしました」
「でも、あの三機だけじゃ不安か……ちょうど良い、アレを呼ぼう」
「よろしいのですか?」
「あぁ。どちらにせよオーブは要らないからね。あの子を捕まえて、オーブは消す。それは変わらないよ」
「承知いたしました。通信を繋げ! 『デストロイ』を投入する! 全艦に通達! デストロイの攻撃に巻き込まれるなよ!」
アズラエルとサザーランドの指示により投入されたモビルスーツは、遠目からでも分かるほどに巨大なモビルスーツであった。
四機の輸送機に運ばれて、オーブと連合軍のちょうど間に落とされたそのモビルスーツの影響により津波がおき、両陣営の艦隊を巻き込みつつ、オーブの陸地部分へと波が押し寄せた。
だが、そんな被害はすぐに気にならなくなる。
何故なら落ちてきたその巨大なモビルスーツが超高エネルギーのビーム砲をオーブ本土へ向けて放ったからだ。
その威力により、区画の一部は消失。
また発生した衝撃波により火災が発生し、戦場は一気に地獄と化した。
「なんだよ! アレ!」
『シン! 離れろ! 近づけばムラサメでは持たん!』
「でも! だけど! あんなの放置したらオーブは!」
『分かっている! 軍本部! 軍本部! 聞こえるか!? くそっ! 駄目だ! 今ので通信がやられた!』
「そんな!? カガリさんは!?」
『分からん! だが、このままという訳には……っ!?』
「どうしたんだよ。レイ!」
レイは現れた兵器によって生まれた戦場の空白に、ある懐かしい人の気配を感じてそちらへと飛んだ。
そして、空中で静止している白いモビルスーツに触れて通信を繋げる。
『ラウ!』
『む? レイか? 何故モビルスーツに……いや、今はそんな事を言っている場合では無いな。すぐに逃げろ。アレは危険だ』
『駄目だ! ラウ! オーブには……友達が居るんだ』
『友……そうか。分かった。イザーク。無事か?』
『はい! 隊長! しかし、今の攻撃で味方が……!』
『巻き込まれたか……ならば仕方ない。我らでアレを落とすぞ』
『……! 分かりました!』
『レイ。アレは私達が落とす。君はその友達と逃げなさい』
『駄目だ! 俺だって、戦える力を手に入れたんだ。だから!』
『そうか……わかった。無理はするなよ』
『うん!』
『……レイ!』
『シン。アレを落とすぞ! 兄さん達が協力してくれる』
『レイのお兄さんが!?』
『あぁ! だから、やれる!』
『分かった!』
まだ若い……いや、幼いと言っても良い二人のやり取りに、クルーゼは小さな笑みを浮かべながら現れた黒いモビルスーツ……デストロイへと向かう。
無論、それをただ黙って見ているという様な事はなく、連合軍も再び攻撃を開始するが、とびぬけた実力を持つ四人の前には、障害にもならなかった。
しかし、四機が連携しながら連合軍の壁を突破し、デストロイへと攻撃を向けても、その厚い装甲に弾かれてしまう。
『チィ! フェイズシフト装甲か!』
「ビームも弾くなんて!」
『これでは……!』
『皆さん。下がってください。その機体は僕が対処します』
『キラか!?』
クルーゼの叫びに応える事もなく、キラは無感動のまま連合軍の機体を切り裂きながらデストロイへと流星の様に向かい、その表面をビームサーベルで切りつけた。
無論それで落とせる事も無いが、無数に装備されているデストロイのビームを器用に避けながら、削り取る様にデストロイへとビームサーベルを向けるのだった。
その戦い方は非常に苛烈で、殺意に満ちた……あまりにもキラらしくない戦い方であった。
『君たちは、間違えている! 正義とは! 人を傷つける事では無いんだ!』
そして、キラを捕獲しようと、連合の新型も三機近づいてくるが……強い殺意をまとい戦うキラに、あくまで傷つけぬ様にと捕獲しようとする三機では相手にならず、一機、また一機と無力化させられていった。
そして、キラは三機を全て撃退してから、再びデストロイへと向かう。
そんな今までのキラらしくないあまりにも激しい戦い。
相手を殺しても構わぬという様な猛攻に、今までのキラを知っている者達からすれば言葉を失ってしまう様な状況であった。
が、一部の者達はキラの行動におかしな所があると気づいていた。
「妙だ……キラが、まるで何かに操られている様に見える。あの……機体を覆う黒いモヤはなんだ」
『アレは人の意志だ』
「人の意志?」
『そうだ。敵を全て滅ぼしたいという意思が、あの機体に宿っている。このままでは彼女も取り込まれるぞ!』
「なら、どうすれば良い!」
『破壊するか……あの機体に搭載されているサイコフレームとガンダムのサイコフレームを共振させれば、あるいは』
「分からないが、やってみるしかないか!」
オルフェは近くに居たストライクダガーをビームライフルで撃ち抜いてから、キラへと向けて真っすぐに飛んだ。
最初に現れた時よりも、ジャスティスを包む黒いナニカは濃くなっており、オルフェは焦りを募らせながらスラスターを全開にして、ジャスティスにぶつかった。
ちょうどデストロイを切りつけて海へ落とした瞬間であったキラは、オルフェの技量もあり、避けきる事が出来ずに直撃を受けてしまう。
だが、フェイズシフト装甲とニュートロンジャマーキャンセラーにより、ジャスティスは何も変わらず振り返ってオルフェを見やった。
『……なに?』
「キラ! 正気に戻れ!」
『僕は、正気だよ!』
「以前のお前はそうじゃなかったはずだ!」
『それは、前の僕が正しくなかったってだけの話だろ! 今の僕は、正しいんだ!』
キラの力は圧倒的であり、今までどれだけ力を抑えて戦っていたのかがよく分かる。
ガンダムに宿る意思の力を借りて、ようやく対等に戦えるという様な状況だ。
「くっ! 早い!」
『オルフェ! 背中にも目をつけるんだ!』
「無茶を言ってくれる!」
空中に飛翔出来るジャスティスと違い、ガンダムは空中を飛び続ける事が出来ず、その違いが決定的なモノとなり、オルフェはキラに蹴りつけられて海へと叩き落されてしまった。
しかし、オルフェはこれで終われないと再び海上に上がり、キラの駆るジャスティスを見据える。
時間が経つたびに、ジャスティスを……キラを覆う黒い闇は広がっている様に見えた。
このままでは! とオルフェが再びキラに向かおうとした時、一機の中破したムラサメがジャスティスに向かって突撃してきた。
『キラ!』
そして、そのムラサメはオープンチャンネルでキラに呼びかけるのだった。
その声の主に、オルフェは目を見開いた。
「アスラン・ザラか! 何をするつもりだ!?」
『キラ! その機体から降りろ! その機体は危険だ!』
『アスラン! また君は僕の邪魔をするの!? 僕はただ平和を作りたいだけなんだ! 今度こそ! 正しいやり方で!』
『以前のお前が間違っていたとでも言うつもりか!』
『そうだよ! 君だって言っていたじゃないか! 僕はずっと間違えて……!』
『間違っていたのは!! 俺だ!!』
『っ!?』
「……」
アスランの叫びに、オルフェは動きを止める。
そしてキラも……動きを止めた。
『何を……言って』
『俺はずっと憎しみだけで戦ってきた。世界の平和なんて、どうでも良かったんだ! ただ、奪われた事が悲しくて、取り戻したくて、銃を手にしていただけだ!』
『アスラン……』
『お前の事は全てカガリから聞いた……本当は! 俺は、お前の話をちゃんと聞くべきだったんだ!』
『僕は……』
『お前が憎しみに囚われているというのであれば! 俺を殺せ! それでお前がまた元に戻れるのなら! 俺は構わない!』
『何を……?』
『このバカ!』
『っ!?』
アスランの叫びに反応して、一機のムラサメが二人の元へ突っ込んで来て、叫ぶ。
『なんでアンタはそう極端なんだよ! カガリさんに言われた事! 忘れたのか!? アンタがやるのは死ぬ気でキラさんに謝って……!』
『シン君! アスラン! 危ない!』
シンの叫びに正気を取り戻したキラは、アスランとシンを遠ざけながら海から再び浮上してきたデストロイへと目を向ける。
デストロイはあれだけ傷つけられたというのに、一切動きは鈍っておらず、キラの駆るジャスティスに向かって手を伸ばした。
ビーム砲が全ての指に付けられた手を……。
しかし。
キラは今までの動きから大きく変わり、かつて戦っていた時の様な繊細でしなやかな動きで、デストロイの手をかわしながら内側へと入り込んで、反転しながらビームライフル連射し、手を撃ち抜いた。
あくまでパイロットは傷つけず、武装だけを破壊した。
本来のキラの動きである。
そして、機体を急上昇させてデストロイからの追撃をかわしながら見下ろして一人、呟く。
『なんだろう……この感じは。あの機体のパイロット……知っている!』
『よくも……! よくも……! キラお姉ちゃんを! はぁあああ!!』
『これは! ステラか! なんでここに居るんだ! ……! この感じ! 呼んだのは、アズラエルさんか!』
キラはデストロイからの攻撃をかわし、多くの連合艦の中から一つの軍艦に向かって真っすぐに飛ぶ。
そして、ジャスティスのビームライフルを向けながら叫んだ。
『アズラエルさん! 戦闘を中断してください。オーブは中立ですよ!? なんだってこの国を攻めるんです!』
『……何があったか分からないけど、どうやら正気に戻ったみたいだね。キラ。しかし回答はノーだ』
『どうして……! 戦争なんかやっても儲からないって言ってたじゃないですか! こんな事は止めて、もっと違うやり方で……』
『残念だけどね。君との夢の話は全て終わってからだよ』
『全て……?』
『そう。裏切者のオーブ。そしてコーディネーター共を皆殺しにしてからだ』
『アズラエルさん!』
『全ては今更だ。もう引き金は引かれてしまった!』
『なら……僕は……! 貴方を討ちます! オーブを護る為なら!』
『君にそれが出来ると?』
『出来ますよ! これで、多くの民が……! 助かるのなら! 僕にだって!! 出来る!』
キラは覚悟を決めた様な声でアズラエルに告げた。
その光景をアズラエル以外の全ての者は固唾をのんで見守る。
しかし、アズラエルはそんなキラの言葉にフッと笑うばかりだった。
『……どうやら本当に洗脳は解けた様ですね。良いでしょう。なら、交渉は受けてあげます。ただし、その場所は月基地で。良いですね?』
『分かりました』
『サザーランド大佐。そういう事です。全軍撤退させて下さい』
『よろしいのですか?』
『えぇ。これでオーブも彼女の存在の大きさを理解するでしょうし。元々弔い合戦のつもりでしたからね。その対象が生きているのなら……まぁ、良いでしょう。今回だけは許してあげます。ここで無駄に戦力を削っても仕方ないですしね。我々の本命はあくまでプラントですから』
『承知いたしました。では、全軍撤退!』
『ただし、キラ。これは貸し一つですよ。僕らはオーブを滅ぼすだけの手をまだ持っていたんですからね』
『分かってます。ありがとうございます。アズラエルさん』
『いえ。では、また』
そして、それからアズラエルたちは今までが何だったのかという様に軍を撤退させて。
途中に伏兵を潜ませるという様な事もなく、真っすぐに大西洋連邦へと帰還していくのだった。
戦争は終わった。
だが、まだ多くの問題がオーブには残されていた。
そして、その問題の中心ともいえるキラがゆっくりとオーブへと機体を降下させた。