宇宙へと無事脱出したクサナギとアークエンジェルは、地球軌道上に留まりながらクサナギを宇宙艦仕様にしていた。
『ハルD、距離200、ハルC、距離230、軸線よろし』
『ランデブー軸線、クリアー、アプローチ、そのまま、調査機偏差を修正する。ナブコムをリンク。各員退去。アプローチ、ファイナルフェイズ。ローカライズド、確認します』
『全ステーション、結合ランチ、スタンバイ』
そして、カガリとキラはブリッジから自室へと移され、二人の代わりに指揮を取っていたキサカがアークエンジェルから移動してきたマリューやムウと言葉をかわす。
「クサナギのドッキング作業は終了した」
「キラちゃんとカガリさんは?」
「だいぶ落ち着いたがな、今は泣きつかれて眠ってしまったよ。どれだけの経験をしていようが、まだ子供だ。父親とあの様な別れをして、泣くな。とは言えんよ。誰もな」
「……そうですわね」
「結局、ウズミ様はどうなったんだ?」
「分からぬ。ニュートロンジャマーの影響で地上とは通信が繋がらないからな。無事を祈りたいが……こればかりはな」
そうか、と言葉を漏らしながらも、ムウはキサカへとマリューと共に再び言葉を向ける。
「しかし、問題はこれからだな」
「えぇ」
二人の言葉に頷き、キサカは二人をそのままブリッジへと案内する。
「……! アークエンジェルと似ているわ」
「アークエンジェルが似ているのだ。親は同じモルゲンレーテだからな。宙域図を出してもらえるか?」
「はい」
「エリカ・シモンズ主任!」
「こんにちは、少佐。慣れない宇宙空間でのモビルスーツ運用ですもの。私が居なくちゃしょうがないでしょ?」
「現在我々が居るのはここだ。知っての通り、L5にはプラント、L3にはアルテミス」
宙域図を出しながらキサカは説明を行ってゆく。
まずはやるべき事と、やらねばならない事の説明だ。
「現在我が艦には数人のZAFT兵が乗っていてね。彼らをプラントへ送り届けなくてはいけない」
「坊主たち以外にも居たのか!?」
「あぁ。オーブでの戦いで戦力が足りないだろうとセナ様がZAFTと密約を交わしていたんだ。オーブ軍人としてオーブ防衛を手伝う代わりに、プラントへと彼らを送り届けるという契約さ」
「なるほど……」
「既に地上のマスドライバーはオーブしか無い物ね。プラントに帰る為に彼らも協力してくれたという事ね」
「という訳だ。地球連合軍であった君たちには申し訳ないが、我らはまず、その契約を果たさねばならん」
「もう私達は地球連合軍ではありませんから、あまり気にしないで下さい」
「そう言って貰えると助かるな。しかし、アークエンジェルは流石にプラントへ行く事は出来ないだろう? ここからは一度別行動という事になるな」
「そういう事でしたら、私達はまず月基地へ向かいますわ」
「ほう? しかし、危険では無いか?」
「まだ私達の裏切りは地上の軍しか知りませんもの。月基地へ情報が届くのはマスドライバーを連合が手に入れてからでしょう? それまでにキラちゃんとセナちゃんの味方を連合内部に増やしておきます」
「……わかった。ではそちらは任せよう」
そして、キラとカガリがプラントへ行くという事で、父親と話がしたいというアスランもまた、クサナギへと移動した。
二コル達は、まだ戻れないとアークエンジェルと共に行動する事を決め、そのまま二つの艦はそれぞれの目的の為に別行動を始める。
「じゃあ、アスラン。キラさん達の事。任せましたよ」
「怪我させるんじゃねぇぞ!」
「あぁ。任せてくれ。そっちも、アークエンジェルは任せる」
「任せとけ」
「上手くやってきますよ」
「じゃあ、また。無事に会おう」
「あぁ!」
「では! アスランもお気をつけて!」
それから。
プラントへ向けて移動を始めたクサナギの艦内では、キラとカガリも時間をかけて落ち着きを取り戻し。
プラントに到着してからの行動について言葉を交わしていた。
「キラ。ジャスティスにまた乗るのか?」
「うん。だって僕が乗ってないと怪しまれるでしょ? それにさ。もう一度パトリックおじ様と話がしたいし」
「父上と、か」
「……このままにしたくないからさ。やっぱりもう一度、ちゃんと話がしたいんだ」
「なら、俺も行く」
「アスラン……?」
「俺もこのまま父上が憎しみのまま戦うのは見過ごせない。話がしたい。キラ。俺も一緒に行く」
「でも……」
「それはいい案! だな!」
キラの両肩を掴みながら迫るアスランに、カガリがさりげなくキラを奪い取りながら言葉を向ける。
「私の大切な妹だ。傷一つ付けるなよ」
「分かっているさ」
「キラも、必ず帰って来いよ。来なかったら私はこのままクサナギでプラントに突入するからな」
「あ、あはは……そんな事したら国際問題だよ?」
「なんだ。キラ。私がそんな事する訳が無いと思っているのか? 私は本気だぞ」
「……必ず帰ってきます」
「よろしい」
そして、キラとカガリが穏やかな姉妹の約束をしている頃。
クサナギはいよいよプラントの防衛要塞ボアズへと近づきつつあった。
その為、キサカはブリッジへとZAFTの部隊長を招待する。
「狭い所に閉じ込めて申し訳ないな。ラウ・ル・クルーゼ隊長」
「いや、構わないさ。我々は貴艦に邪魔している身だ。贅沢は言わんよ。食事も提供して貰えているしな」
「そのくらいは当然だ。姫様方はもっと良い待遇でお送りするべきなのではと気にされていたがな」
「ウワサに聞くキラ姫かね? プラント本国でもよく聞く御方だ」
「そうだ」
「出来れば、ここまでお送りいただいた感謝を告げたいのだがね」
「それは出来ん。貴国とはセナ姫との密約もあり、この様に便宜を図ったが決して友好国では無いのだ」
「それは残念だな」
クルーゼは顔の半分を仮面で隠し、口元に笑みを浮かべながらキサカに言葉を返す。
その怪しさにキサカは眉を顰めるが、外交の場である以上、それ以上の不快感は出さない。
プラントと戦争をするつもりは無いのだ。
「キサカ一佐! ボアズより通信です」
「繋げろ」
『接近中のオーブ軍艦に告げる。こちらはボアズ。貴艦は我がプラントの領域に接近中である。目的を明かせ』
「すまないが、クルーゼ隊長。任せても良いか?」
「あぁ。通信を私に……すまないな」
クルーゼは通信士からマイクを受け取ると、よく通る声で、ボアズへと返答した。
「こちらはラウ・ル・クルーゼだ。オーブ防衛の任を受け、その対価として本国までの航行中である」
『っ! クルーゼ隊長でしたか! これは失礼しました!』
「いや、構わん。任務に忠実なのは良い事だ。しかし、こちらの艦にはキラ姫様も御乗艦されている。撃つなよ?」
冗談の様に言ったクルーゼの言葉に、ボアズ側が激しく動揺するのが伝わって来た。
どうやら本当にプラントでキラの事は有名らしいとキサカは心の中で頷く。
『き、キラ姫様が!? 護衛の部隊を派遣する必要はありますか!?』
「いや、必要はない。私も乗艦しているのだ。何も問題はない」
『承知いたしました! では、本国までどうぞ、ご無事で!』
ボアズの司令官と思われる男の敬礼を受けながら通信は切れ、クルーゼは通信士にマイクを返した。
そして、また本国に着くまでは大人しくしていると言い残し、ここまでクルーゼと共に来たオーブ軍人と共に与えられた部屋へと戻っていくのだった。
クルーゼの姿が見えなくなってからキサカはふぅと大きく息を吐き、再び視線を正面に戻す。
ZAFT要塞の司令がたった一言で納得するほどのパイロットが乗っているという事実に。
そして、同じ艦にオーブの最も重要な姫君が二人乗っているという事実に。
強い緊張感を持ちながら艦長としての責務に心を削るのだった。
しかし、キサカの緊張は何だったのか。
クサナギはそれ以降何もトラブルが無いままプラント本国へと到着し、アッサリと港へと接舷する事に成功した。
そして、クサナギの内部をしっかりと見回りし、何ら異常が無い事を確認してからプラントを離れ、プラント近くの宙域で艦を止める。
それと同時にキラとアスランもジャスティスで出撃するのだった。
「じゃあ、カガリ。キサカさん。行ってきますね」
『気を付けてな! 後、アスラン! 分かっていると思うが!』
「あぁ。任せてくれ。キラは俺が守る」
『それもそうだが! 手を出すなよ! いくらキラが可愛いからと言って……!』
「あー、はいはい。通信終わり」
『こら! キラ! 話はまだ終わってないぞ! 士官学校で聞いたがな! 男はみんなオオカミだと……!』
「まったく。カガリはいつも口うるさいんだから」
「妹が心配なんだろ」
「アスラン!」
「うん?」
「僕が! お姉ちゃん。ね?」
「……あぁ、そうだな」
アスランは面倒事を避ける様に適当な顔で頷いた。
そんなアスランの反応に微妙な物を覚えながら、キラは宇宙空間を滑る様にジャスティスを前に進ませる。
そして、そんなキラを横から見ながら、アスランもコックピットから見えるプラントに目を細めるのだった。
「……父上」
「大丈夫だよ。アスラン」
「……キラ?」
「僕とアスランだって分かり合えた。きっとパトリックおじ様とだって、分かり合える。そうでしょ?」
「あぁ。そう……信じたいな」
笑顔でそんな希望を語るキラに頷きながらも、アスランはおそらく難しいだろうと考えていた。
パトリック・ザラは既に、踏み越えてはいけない一線を踏み越えてしまっているのだ。
ナチュラルとコーディネーターの間で始まってしまった戦争。
キラやセナやラクス。
平和を願う者たちの活動で、何度か世界は平和に向かう瞬間があった。
しかし、その全てを潰してきたのは他でもない、パトリックだ。
アスランは人生の目標として父親を常に近くから見上げてきた。
だからこそ見えている物もある。
他の誰にも見えなくても、息子であるアスランにだけは見えている物がある。
パトリックを今、駆り立てているのは狂気に近い程膨れ上がった憎しみだ。
ジャスティスに乗り、直接触れて、父親の感情をダイレクトに受け取りながらアスランは自分の考えを静かに心の中で整理する。
このままいけば、パトリックはまず間違いなくナチュラルを滅ぼすだろう。
第三世代コーディネーターの出生率を元にナチュラルとの共存を訴える融和派の意見など、キラやセナという存在だけで容易く無視できる。
新しい世代を生み出す鍵は、既に手の内にあるのだ。
コーディネーターの……パトリックが生み出す歪んだ正義の籠に閉じ込められている。
ならば、もはや何も遠慮は要らないと、更なる凶行に走る筈だ。
レノアの状態と反比例して増えてゆくパトリックの憎悪を思い出しながら、アスランは一つの決意をする。
それは……。
最悪の場合、父親を殺すという決意である。
アスランはキラ達の願う……。
そして、狂気と破滅へ進み続ける世界を止める為……懐に忍ばせてきた銃を服の上から強く握りしめた。
「あー。こちら特務隊。キラ・ヤマト。聞こえますか? ジャスティス帰投します」
アスランは強い決意と共に開かれていく格納庫を見据えるのだった。