それぞれがそれぞれの思惑で動いている頃。
エターナルとクサナギは無事、コロニーメンデルに到着し、キラを治療が出来る場所へと運び込んだ。
そして、その間にもメンデルの内部に残されていた物資で補給を始める。
「えぇ!? キラちゃんが撃たれた!?」
『あぁ。プラントでな』
「でも……なんで、プラントでもキラちゃんは特別な人っていう扱いをされているんでしょう?」
『らしいが。アスランとその父親の親子喧嘩に飛び込んだらしい。それで撃たれてって事だってよ。まったく妹が無鉄砲だと姉としてはいつもヒヤヒヤだ』
呆れた様なカガリの言葉に報告を受けたマリュー達は何とも、どう反応したら良いか分からないとでもいう様な顔で頷いた。
そして、それはそれで……と、物資搬入やらの指示をしようとしたのだが……。
「接近する大型の熱量感知! 戦艦クラスのものと思われます!」
「え!?」
「つけられたのではないですか!? 艦長! だから私はもっと早く撤退するべきと」
「そう言っても仕方ないでしょう? 交渉が長引いたんだから! それよりも! ナタル! 戦闘準備!」
「分かっています!」
軽い言い争いをしながらも、ナタルはCICへと飛び込んで戦闘準備を行ってゆく。
「艦の特定! まだか!」
「距離700。オレンジ11、マーク18アルファ、ライブラリ照合……有りません!」
「ライブラリ照合なし……?」
「嫌ね。こんな時に新型艦だなんて……とにかくここに居ても狙い撃ちにされるだけだわ! アークエンジェル発進! 港の外へ出る!」
「敵の砲撃に気を付けろ! 既に射程圏内かもしれないぞ! 動きには常に注意しろ!」
マリューとナタルの鋭い指示に、ブリッジクルーは的確に応え、アークエンジェルは歴戦の猛者という様な空気を纏いながらメンデルから外へと出撃した。
『ラミアス艦長』
「クサナギの状況は?」
『出られる。大丈夫だ』
『エターナルはまだ最終調整が完了していない!』
「分かりました。では港の中で待機を。敵がザフトか連合か分かれば、狙いも多少は見えます」
『解った! すまん!』
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「イーゲルシュテルン、バリアント起動! 艦尾ミサイル発射管全門装填!」
そして、戦闘準備は万全とアークエンジェルはメンデルを離れ、宙域を進み……遂に、敵艦の姿を光学映像で捉えた。
「艦長、敵艦の光学映像です」
「これは!」
「アークエンジェル!?」
「……同型艦か」
「アークエンジェル級より、モビルスーツの発進を確認! 熱紋照合! オーブで目撃された新型モビルスーツと思われます!」
「モビルスーツ部隊発進! それと同時に艦を前進! デブリに気を付けて! 特に、テザー用のメタポリマーストリングは危険よ!」
「はい!」
「ローエングリン起動! 照準! アークエンジェル級!」
アークエンジェルは黒いアークエンジェル級を見据えながら一気に加速し、敵アークエンジェル級からの攻撃を見据えながら滑るように動き、それと同時にモビルスーツを出撃させてゆく。
『ったく。ゆっくり休む暇もねぇな! ストライク! 出るぞ!』
『ストライクルージュ。出るわ!』
『バスター、行くぜ』
『ブリッツ! 出撃します!』
『ドレッドノート! 出す!』
『例の新型が相手だ! あんまり無茶すんなよ!』
『オーケー!』
『分かりました!』
『カナード! そういう事ですから、あまり前には出ず……!』
『問題ない! ドレッドノートは宇宙でこそ! 本領を発揮する機体だ!』
カナードは二コルの忠告をサラッと流し、背中に搭載された赤いバックパックを切り離して向かってくる三機の第二世代GAT-Xシリーズ、及びその背後から迫ってくる連合軍の量産型モビルスーツ、ストライクダガーへと向けた。
ドレッドノートから飛び出した赤い兵装は、ドラグーン・システムという名前の遠隔操作システムを用いて、本体から分離した四つの攻撃端末がそれぞれカナードの意思に従って、自由に動き回り攻撃を始める。
それぞれが意思を持ちながら動き回る四つのビーム砲台は、それだけで相手を翻弄する兵器であり、攻撃端末に意識を向けなければ撃ち抜かれ、意識を裂き過ぎれば、本体に狙い撃ちされるという圧倒的な性能で戦場を支配していった。
しかし、どこに隠れていたのか、アークエンジェル級の背後からアガメムノン級が数隻現れ、新たなストライクダガーが次々と出撃してきてしまうのだった。
既に戦闘を始めているアークエンジェルに追いつくべく、クサナギはカガリの指示に従って、クサナギを発進させた。
「出港後、最大戦速! アークエンジェルの左舷に付く!」
しかし……。
「厄介なのはアークエンジェル級だ! エンジン部を……うわ!」
「なんだ!?」
「解りません! いや……何かケーブルの様な物が船体に!」
「ええ!?」
「引きちぎれ!」
「出来ません!」
「アサギ、船体に何か絡んだ。外してくれ」
『了解!』
クサナギは港を出てすぐのところで、テザー用のメタポリマーストリングに掴まってしまい身動きが出来なくなってしまう。
それに気づいたマリューは急いでクサナギの援護に行こうとしたのだが、それにナタルが待ったをかけるのだった。
「アークエンジェルをクサナギの前に……!」
「艦長!」
「どうしたの!? ナタル!」
「この状況ではローエングリンで狙い撃ちにされます! 私に策があります!」
「分かったわ! お願い!」
「ありがとうございます! ミサイル発射管、1番から6番、コリントスの終端誘導を自律制御パターンBにセットして装填。照準、オレンジアルファ17から42まで、5ポイント刻みの射角で発射せよ! 同時に転進、進路インディゴ13、マーク20チャーリー、機関最大!」
「っ! そういう事ね! なら! ムウにクサナギの援護を! 同時にゴッドフリートでアークエンジェル級の前方に砲撃! 相手の注意を引くわ!」
アークエンジェルから放たれたゴッドフリートが黒いアークエンジェル級の前方を貫き、前進を止めたアークエンジェル級はアークエンジェルへと目標を切り替えて突撃してきた。
が、その動きを察知していたナタルの仕込んだミサイル群が、アークエンジェル級に襲い掛かった。
イーゲルシュテルンやコリントス等で迎撃しようとするが、迎撃は間に合わず、大きな被害を受けてしまう。
「追撃だ! ゴッドフリート! ローエングリン! 照準! てぇー!」
「クサナギの状況は!」
「まだ動けない様です!」
「分かったわ! アークエンジェル前進!」
ナタルとマリューは交互に指示を出しながらその場の最適な行動を二人で導いてゆく。
連合軍に所属していた頃には出来なかった連携が、何もしがらみのない状態となる事で出来るようになっていた。
その連携は既に並の艦では勝てない領域に到達しており、黒いアークエンジェル級はその猛攻を前に後退する事しか出来ないのであった。
だが、アークエンジェルが押し始めた戦場で、ストライクに乗っていたムウは何かの気配を感じてメンデルの方を見る。
『この感じ!? まさか!? 艦長! すまん! 後は任せられるか!?』
「え!? 何が!?」
『ZAFTが居る!』
『俺も行く!』
「えっ! ちょっと!? カナード君! ムウ!」
マリューの返答を聞かず、メンデルへと飛び込んでいったムウとカナードに、マリューはもう! と怒りを向けるが、二人の代わりに自由となったクサナギと、クサナギに搭載されたモビルスーツ。
そして、ジャスティスとガンダムが参戦してきた為、十分に連合軍と渡り合う事が出来る状態となった。
「しょうがないわ! ZAFTの事はひとまず二人に任せます! 私達は連合軍の迎撃を! ナタル! 全体の指揮を任せられる!?」
「了解しました! 全機! こちらの指示に従え! 例の新型は厄介だ。ルージュとバスターとブリッツは下がれ! ジャスティスとガンダムを中心として、迎撃に当たれ!」
『了解した!』
『わかったわ』
『オーケー!』
『分かりました!』
「M1部隊はクサナギとアークエンジェルの護衛! 及びストライクダガーの迎撃!」
『りょ、了解!』
『分かりました!』
『え!? 俺とレイはどうすれば良いんだ!? でーありますか!?』
「ムラサメはM1と共にクサナギの護衛だ!」
『俺らならやれます! シン・アスカ! 新型の迎撃に行きます! 行くぞ! レイ!』
『あぁ!』
「おい! 命令を聞け! くそっ! ブリッツはムラサメの援護だ! バスターの射線に気を付けろ!」
『分かりました!』
一瞬の遅れもなく、今できる最善の指示を出しながら、ナタルは戦場の全体を確認しつつ作戦を進めてゆく。
そして、そんな緻密に作り上げられた戦場を、マリューが幾多の激戦を乗り越えてきた勘で突き進み、敵の予測を上回って、圧倒し続けるのだった。
メンデル正面の戦闘はアークエンジェルらに有利な状況で進んでいる。
が、メンデルの背部から近づきつつある争いの根は、未だその正体を明かさぬまま暗闇に潜んでいた。
メンデルの内部を歩きながら、キラが寝ている場所へと直感によって進んでいた仮面の男、クルーゼは不意に飛んできた銃弾にすぐ物陰へ体を隠す。
「ラウ・ル・クルーゼ!」
「フン! まさかここでこうして貴様と会えるとはな! 私も嬉しいよ、ムウ!」
「くっ! 貴様! 何が目的だ!」
ムウも物陰に隠れながらクルーゼに向かって銃を撃つ。
が、それは当たらず、クルーゼもまたムウに向かって銃を撃つのだった。
「全てが私の思い描いた通りに進んでいる。やはり運命は私の味方の様だ」
「何を……!」
「ここがなんだか知っているかね? ムウ」
「知るか! この野郎!」
「罪だな、君が知らないというのは」
「おい! おっさん!」
「バカ! 何で来たんだ! お前は良いから戻れ!」
「でもよ!」
「どうやら生きていた様だな! カナード!」
「ラウ!」
「まさかここで君と再会するとは思わなかったな! やはり、世界はこのまま全てを闇に葬り去る事など望んでいないという事かな!?」
荒れたはてたメンデルの研究所にクルーゼの声が響き渡る。
近くではキラが休んでいる為、ムウやカナードには逃げるという選択肢は存在していなかった。
クルーゼを放置すればキラが狙われるかもしれないのだ。
「さぁ遠慮せず来たまえ。始まりの場所へ! カナード、君にとってもここは生まれ故郷だ。懐かしさを感じるのではないか!?」
「生まれ故郷……だと……?」
「簡単に引っかかるな! 奴の妄言だ!」
そして、ムウとカナードは警戒しながらも、ゆっくりと声のする方……。
研究所の奥。
人類が長い間封じてきた、闇へと向かって突き進んでゆく。
「何だ……ここは?」
「子供の……死体、か?」
「懐かしいかね? カナード」
「……はぁ……はぁ」
「おい、どうした。坊主! おい!」
「君はここを知っているはずだ」
「俺は……ここを、知っている……!?」
存在しない筈のいくつもの記憶がカナードの中を駆け回る。
それに激しい頭痛を感じながらも、カナードは周囲を見渡した。
見てはいけないと理解しつつも、ガラスの筒の中で、命を得られぬまま置き去りにされている赤子の死体を見やる。
「ここはいったい……なんなんだ」
「さぁ! 全ての真実を明るみに出そうじゃないか! 世界は全てを知りたがっているのだから!」
そして、暗闇の奥で、仮面の男、ラウ・ル・クルーゼは遂にこの時が来たのだと、怪しく笑うのだった。