メンデルより急ぎ帰投したクルーゼは整備員に機体を任せてから、通信をでブリッジのアデスに繋げた。
「アデス。状況はどうなっている」
『ハッ! 現在、地球連合軍とエターナル、足つき、オーブ艦の戦闘が行われておりますが……地球連合軍艦の攻撃が激しく、コロニーにも被害が出始めております』
「やはり連中か……! このまま見ている事は出来んな。ヴェサリウス発進する! モビルスーツ隊出撃用意だ。ホイジンガーとヘルダーリンにも打電しろ」
『はっ! しかし、よろしいのですか!?』
「このまま黙って見ているという訳にもいかんだろう? 地球連合軍に姫君達を渡すワケにも、あの機体を渡すワケにもいかんのだ」
『しょ、承知いたしました!』
クルーゼはアデスに指示を出してから格納庫の中へと視線を戻す。
どうやら優秀な整備員たちは既に出撃の準備を進めている様で、ZAFTの新型モビルスーツである『ZGMF-600:ゲイツ』はすぐにでも出撃出来る状態となっていた。
「隊長! 出撃というのは!」
「聞いた通りだ。イザーク」
「しかし、我らは何と戦えば……?」
「目標は変わらん。地球連合軍だ。しかし……可能であればフリーダムを鹵獲。また戦場にホープが現れた場合にも同様だ」
「フリーダムの鹵獲、ですか!? しかし、キラは」
「キラが乗っているのはフリーダムだ。間違いない。見誤るなよ?」
「承知いたしました!」
イザークに指示を出したクルーゼは白く塗装されたゲイツへと向かい、コックピットに入る。
そして、操縦桿を握りながら深く息を吐いた。
「まさか……セナまで現れるとはな。しかもあの目……。私が思っているよりも厄介な事になっているかもしれん」
『隊長! 出撃可能です!』
「あぁ。ラウ・ル・クルーゼだ! ゲイツ! 出るぞ!」
そして、宇宙へと飛び出しながらも、クルーゼは思考を続ける。
これから先、一つたりとも計算を違える事は出来ないと。
あの小島での戦闘の様に、万が一にでもキラとセナが傷つく様な事になってはいけないのだ。
「やはり……あの機体を動かす必要があるか。サイコフレーム。厄介な物を生み出してくれたものだ」
そして、クルーゼ達ZAFTが戦場に参加し始めた頃。
エターナルではZAFTの信号をキャッチしており、艦長であるバルトフェルドへと報告がされていた。
「熱源感知! モビルスーツ来ます! 熱紋照合、ジン12、デュエル、ゲイツ、ブルー22、マーク18デルタ!」
「さらにその後方にナスカ級! 距離30、オレンジ14、マーク33から87、チャーリー!」
「チィ! クルーゼめ! 嫌な時に嫌な位置に!」
『バルトフェルド艦長!』
「ナスカ級はエターナルとクサナギで迎撃する。アークエンジェルは連合軍を頼めるか!?」
『わかりました!』
『了解!』
「転進!イエロー17、マーク25アルファ、推力70!」
『……ぼくも、出撃します!』
「キラ!?」
「なんだと!?」
「まだ怪我が治ってはいないのでしょう!?」
『でも、この状況じゃ……戦力は一人でも多い方が良いですから……!』
キラは冷や汗を流しながらも、出撃を願う。
傷も確かに治りきってはいないが、それ以上に今、キラを追い詰めているのは精神的な問題だ。
メンデルで受けたビジョンは間違いなくキラの心を蝕んでいる。
欲望と、怒りと憎しみと。
ドロドロとした世界の底に渦巻いていた感情に、何の準備もなく触れてしまったのだ。
心が負っているダメージは見た目以上に深い。
だが、それでも行かねばならないのだ。戦争を、止める為には。
「お願い。ラクス」
『……どうか、無理はなさらないで下さいね』
「分かってるよ。ありがとう。ラクス」
キラはモニターに映るラクスに礼を言い、そして、大きく息を吐きながらフリーダムで出撃位置へと移動した。
これから初めて動かす事になる機体……だが、不思議とキラは初めて触れた様な気がしなかった。
「なんでだろうね。酷く懐かしい様な気持ちになるよ……君に乗っていると」
そして、フリーダムの計器に触れながら微笑み、小さく頷いた。
ジャスティスに乗っていた時とは違い、どこか優しい気配と、あたたかな感覚。
まるで何かが優しく包んでくれている様な感覚に、キラは傷の痛みを忘れて頷いた。
「ありがとう。じゃあ、行こう。一緒に付いてきて。フリーダム」
『フリーダム。発進どうぞ!』
「キラ・ユラ・アスハ。フリーダム! 行きます!!」
エターナルのカタパルトから勢いよく飛び出したフリーダムという白と蒼を纏った機体は、真っすぐに宇宙を駆けながら蒼い軌跡を宇宙に描く。
そして、ビームサーベルを抜くと、目の前に現れたジンの頭部パーツを通り過ぎながら斬り落とすのだった。
『な!?』
『この動きは!?』
「次!」
ZAFTの士官学校に置かれた古びたシミュレーター。
それには伝説が刻まれていると言われている。
それは、かつてプラントで……いや、世界で最も強いと言われたパイロットのデータだ。
暗い宇宙に白い軌跡を残しながら、人には出せない速度で、全てを破壊する圧倒的な実力。
それが今、シミュレーションよりも遥かに超越した力で、現実に蘇っている。
ジンのパイロットたちは、何度やっても勝てなかった伝説を今目の前にしながら、必死にマシンガンを撃つが、かする事すらなく、全てすり抜けてしまうのだった。
そして、超速で接近してきたフリーダムによって、全ての武装が破壊されてしまう。
戦闘と呼ぶにはあまりにも圧倒的なソレに、イザークはもはや笑う事しか出来ないのであった。
『だが! それでも俺は、あいつ等の為に! お前を止めるぞ! キラ!』
「っ!? デュエル! イザークか!」
『キラぁぁああ!』
「だから……前にも言っただろ? 君は、大振りすぎるんだって」
キラは接近してくるデュエルの腕を左腕で弾きながら、デュエルの右肩にビームサーベルを突き刺した。
それだけでデュエルの右腕は動かなくなり、咄嗟に肩のレールガンや頭部バルカンなどをフリーダムに向けて放つが、キラは既にスラスターを吹きながら上昇して、離脱していた。
それでもイザークは諦めずキラを追うが、上から振り下ろしてきたビームライフルがデュエルの武装を破壊してしまう。
『うわぁぁあああ! くそ……!』
『下がれ、イザーク。私が相手をする!』
『隊長!』
「新型……! この感じ! ラウ兄さん!?」
『そうだ。キラ! あの状況では退く事しか出来なかったが、私はまだ諦めてはいない!』
「っ! 兄さん!」
キラのフリーダムと、クルーゼのゲイツは互いにビームサーベルをシールドで受け止めながらぶつかり合う。
そして、二人は機体だけでなく、想いもぶつけ合うのだった。
「兄さん! 世界を恨む気持ちは分かるけど! それでも! 引き金を引いた先には悲しみしか無いよ! それじゃこの戦争が終わっても、また次の戦争が始まってしまう!」
『だからこそ、全てを滅ぼす必要があるのだ! 争いを生み出す根を!』
「争いを生み出す根って……まさか!」
キラはクルーゼの言葉に、世界の中心にある物を思い出した。
地球。生命を生み出し、育んできた母なる惑星。
「地球に住む人を……全て滅ぼすつもりなの!?」
『そうだ。地球が人の住めぬ場所となれば、人々はプラントに頼らなくては生きていけなくなる! その時はじめて、世界は平和への道を歩む事が出来るのだ!』
「そんな方法で平和を手に入れても! 意味ないよ! 手を取り合えない世界じゃ! 小さな世界でも争いは起こる」
『起らぬさ! コーディネーターは種としての限界を迎えている! 限界を超える為には鍵が必要だ!』
「だから、どうだって言うんだ!」
キラはゲイツから離れ、ビームサーベルでゲイツの武装を破壊しようとする。
が、クルーゼは驚異的な操縦でそれら全てをかわし、逆にフリーダムの武装を破壊しようと迫るのだった。
『鍵とは……君とセナの事だ』
「は……?」
『皮肉な事であるが、ユーレン・ヒビキの作り出した最高のコーディネーターという存在は、種としての限界を超える為の鍵となった! 君は、君たちは新たなる世界での神となるんだ!』
「僕は! そんなモノに、なりたくはない!」
キラは、叫びながら、フリーダムの全武装を展開し、高速移動を繰り返しながらゲイツを撃つ。
その攻撃に片腕を吹き飛ばされながらクルーゼは叫んだ。
『望まぬとも! 君が神となれば争いは終わる! 誰も逆らえん! それが最も幸福な世界となるさ!』
「そんなの……! 僕は!」
ゲイツはもはや戦場に居続ける事は出来ぬとナスカ級へと帰還し、エターナルとクサナギの攻撃で傷ついていたナスカ級もまた、戦場に居続ける事が出来なくなり、ZAFTは戦場から撤退してゆくのだった。
そんな彼らの背を視ながらキラは、強い悲しみを抱えた声で叫ぶ。
「僕が欲しかったのは! みんなで、笑っていられる世界なんだ……! 僕は、ただ……それが欲しかっただけなのに! どうして!!」
キラの声はどこにも届かず、ZAFTとの戦闘が終わった宙域でキラはただ、フリーダムの中で涙を流していた。
しかし、ジャスティスからの通信が届いた事で、キラは涙を拭ってから通信に応える。
『キラ! キラ! 大丈夫か!?』
「アスラン……。うん。僕は大丈夫」
『そうか……良かった』
「アスランは? 怪我はない? 連合の新型モビルスーツと戦ってたんでしょ?」
『あぁ。何も問題はない。既に撃退した』
『キラさん!? キラさんが出撃してるんですか!? 駄目ですよ! まだ怪我してるのに!』
『シン! 黙っていろ! 今、俺がキラと話をしてるんだ!』
『ちょっとくらい良いだろ! キラさん! 俺が連合のモビルスーツを倒したんですよ! こう、ぐわー! ってやって!』
『お前は最後に無茶をしただけだろ。生きているから良かったものを。撃墜されてもおかしくはなかったぞ』
『はぁー!? 俺のお陰で奴らが撤退したんだから俺のお陰だろ!』
「……ふふ」
言い争いをするシンとアスランの声を聞きながら、キラは自然と笑みを零した。
まだ、まだ残っている。
希望も、ここに居たいと思える場所も。
『どうでも良いが。シン。バジルール中尉がお前とレイに話がある様だぞ』
『え? マジ? なんだろ。褒めてくれんのかな』
『何をどう考えたらそうなるのか分からないが、おそらくは説教だ。大人しく受けてこい』
『はぁー!? 説教!? なんで!』
『命令違反に独断専行。言いたいことは山ほどあるだろうな』
『そ、そんなぁ~。キラさん。どうにかなりませんか?』
「うーん。ナタルさんが怒っているのなら、難しいかな。でも、危ない事をいっぱいやったのなら、ちゃんとお説教聞くんだよ」
『はぁーい』
しょぼくれた子犬の様なシンを見ながら、キラは小さく息を吐いた。
戦いはきっと、これからも続いてゆく。
それでも……。
まだ、キラは諦めずに戦うことが出来る。
そう胸に想いを抱きしめて、エターナルへと帰還するのだった。
しかし。
そんなキラの決意はどこへやら。
帰還して早々に格納庫へ来ていたラクスに捕まって、キラはラクスの私室へと連れ去られた。
アスランは一応止める事も出来たが、ラクスの目が止めてくれるなと言っていた為、見なかった事にしてブリーフィングルームへと向かう。
そんなこんなでラクスの部屋に連行されたキラは、ラクスに押し倒されて、ムーっと睨みつけられていた。
「ラ、ラクス。そんなに怖い顔をしてどうしたの?」
「キラ。
「うん。よく分かるけど……」
「
「ご、ごめんよ。ラクス」
「どうして
「えと……なんだろう。ちょっとよく分からないんだけど」
「はぁ……」
キラの返答にラクスは深い、それはそれは深ーいため息を吐いた。
そして、ジッとキラを見つめたまま言葉を落とす。
「キラ。
「そんなことないよ! ラクスの事は大事に思ってる!」
「ならば。何故
「何も……って」
「何かお辛い事があったのでしょう?」
「それは……でも、僕は」
「キラ。強さは確かに美徳かもしれません。しかし、愛している方が傷ついている姿を見続ける辛さも、分かってください」
「……ラクス」
キラはやや俯きながら、ラクスから視線を外すが、ラクスはそんなキラの額に唇を落として再度語り掛ける。
「共に背負わせて下さい。貴女の、想いを。辛さも悲しみも。そして、喜びも……。それが私の喜びなのですから」
キラはラクスの言葉に、少しだけ勇気を貰って、ポツリポツリと語り始めた。
しかし、辛い想いはキラの心を強く揺さぶってしまい、キラの目には涙が溢れて止まらなくなってしまった。
そんなキラの悲しみを全て受け止めて、ラクスは平和の歌を歌う。
せめてキラの傷が少しでも癒えるようにと……ただ、平和を奏でた。
世界がどれだけ絶望に満ちていようと、この場所だけは……とラクスはキラの平穏を願うのだった。