地球連合軍が宇宙要塞ボアズへと進行し、それを壊滅させていた頃。
ボアズと月のちょうど中間あたりに居たエターナル、クサナギ、アークエンジェルの三隻は、地球連合軍とZAFTの内通者から地球連合軍のボアズ進行の情報を受け取った。
そして、すぐに艦を動かしたのだが。
『全艦発進準備。各艦員は至急持ち場に就け。全艦発進準備。各艦員は至急持ち場に就け』
「ラクス! 地球連合軍が動くいたの!?」
「月艦隊のボアズへの侵攻というのは……!」
「いいえ……事態はもっと早く、そして最悪な方向へ進んでしまいました」
「「っ!?」」
エターナルのブリッジへ飛び込んできたキラとアスランが聞いたのは、絶望的な情報だった。
「こっちのルートからさっき入った情報だと、ボアズはもう落ちた。地球軍の核攻撃でな」
「まさか! そんな! だって、アズラエルさんは、話し合いの準備をしてるって言ってたのに!」
「それ自体が私たちを動かさぬ為の罠だった。という事でしょう」
『ごめんなさい。私のミスだわ。もう少し早く情報が入っていれば』
『しょうがねぇさ。第八艦隊の連中にも情報が伝わって無かったんだろ? 大規模侵攻作戦の情報はさ』
『そうですわね……でも、まさか、こんなに早く……しかも核だなんて』
『あんま驚きゃしないけどね。連中は元よりそのつもりだったんだし』
『しかし、だからと言って、このまま黙って終わるのを待っている等と言う事は無いでしょう? 艦長。キラ様』
「うん。もう交渉だなんだって待っている時間はつもりは無いよ。このままじゃプラントがまた……」
「……キラ」
「だから、守ろう。僕たちで」
「あぁ!」
『えぇ!』
「そうですわね」
そして、三隻は最大船側で次に戦闘が予想される場所、ヤキン・ドゥーエへと艦を急がせた。
プラントへ向けて進行する地球連合軍に対し、宇宙要塞ヤキン・ドゥーエ及びプラント本国の防衛部隊が前面に展開し、地球連合軍の進行を止めるべく戦闘を開始した。
エターナル、クサナギ、アークエンジェルからなる平和を求める三隻同盟は、これを阻止するべく宙域へと突入し、モビルスーツ及び戦艦三隻による戦闘停止を狙う。
「ねぇ……アスラン。プラントも核、撃ってくると思う?」
『父が正気なら、まさかと思うが……今は、判らない』
「そうだね……うん。ごめん。変な事聞いちゃった」
『いや良いさ。目標は共有しておいた方が良い。それに』
「それに?」
『いざとなれば俺が父上を止める。今度こそ、な』
「……アスラン」
『すまないな。キラには悪いが……これは俺の役目なんだ。俺がやらなければならない』
「……分かったよ。ごめん」
フリーダムとジャスティスに乗りながら、その時を待っていたキラとアスランが交わす言葉を聞きながら、ラクスは小さく呟いた。
かつての世界でも同じ様に言葉として落とした、絶望の中で希望を見つけ出すという覚悟を。
「また……私たちは、間に合わなかったのかもしれませんね」
『キラ・ユラ・アスハ! フリーダム! 行きます!』
『アスラン・ザラ。ジャスティス、出る!』
「ミーティア! リフトオフ!」
「システム正常に起動を確認。フリーダム、ジャスティスとのドッキングを行います。以降、システムをフリーダム、ジャスティスへと譲渡します」
「平和を叫びながら、その手に銃を取る。それもまた悪しき選択なのかも知れません。でもどうか今、この果てない争いの連鎖を、断ち切る力を!」
その言葉が再び、希望へと繋がる事を信じて。
ラクスは、ただ前を向き、平和へと繋がる道を求め、叫んだ。
そして、キラ達が戦場へと飛び込む少し前。
既に地球連合軍はプラントへ向けて核ミサイルを放つ準備を終わらせていた。
『ピースメーカー各隊、発進を開始する』
『はああああ! 抹殺!』
『オラオラオラ!』
『てぇぇい!』
『邪魔だぁぁあああ!!』
三機の第二世代GAT-Xシリーズと巨大モビルスーツ『デストロイ』の猛攻で、ZAFTの防衛部隊は切り崩され、圧倒的な物量で押し寄せる連合の量産型モビルスーツに押し込まれていた。
数の少ないコーディネーターにはどうしても苦しい現実がそこにはあったのだ。
それでも、とイザークは必死に抗っていたのだが、第二世代GAT-Xシリーズの相手で手一杯になっていた為、核ミサイルを通してしまう。
『くそっ! コイツ等!! く……アレは!? 核か!?』
イザークは必死に戦いながらも通信を繋いで叫んだ。
『あのミサイルを落とせ! プラントをやらせるな!!』
しかし、迎撃に向かったモビルスーツはことごとく第二世代GAT-Xシリーズの前に破壊されてしまう。
もはや核ミサイルの前に障害はなく……放たれたミサイルは吸い込まれる様にプラントへ向けて走り出した。
いつかの様に。
ユニウスセブンが破壊された時の様に。
多くの核ミサイルは、あの時以上の悲しみと絶望を世界に撒き散らすだろう。
だが!
まだ!
まだ終わりではない!
この世界にはまだ希望が残されているのだ。
ラクスの言葉を受けながら、ミーティアという流星の名を冠したアームドモジュールを装備したフリーダムはジャスティスと共に戦場へと飛び込み、その火力を戦場にいる全ての者に見せつけた。
幾重にも重なるビームの輝く光で暗い宇宙を染め上げて、プラントへ向けて放たれた核ミサイルの全てを撃墜する。
フリーダムとジャスティスの攻撃で誘爆した核ミサイルが宇宙をまた光で染め上げる。
だが、それは何も破壊する事は無かった。
「もう二度と! あんな悲劇は、繰り返させない!!」
そして、フリーダムはミーティアの加速力で全てを振り切った後、反転し、急制動をかけてプラントを背にしながら地球連合軍へと銃口を向けた。
「僕はこんな虐殺を! 認めない!」
フリーダムから放たれた叫び声は、地球連合軍全体へと伝わり、その言葉で兵士たちに動揺が走る。
いくら目を逸らしていたとしても、こうして正面から叩きつけられてしまえば、その罪と向き合わねばならない。
彼らを救い、導いてきた少女の怒りと、悲しみを。
『地球軍は直ちに攻撃を中止して下さい』
『あなた方は何を討とうとしているのか本当にお解りですか?』
そして、キラだけでなく。
この場に飛び込んできたピンク色の戦艦に乗る少女『ラクス・クライン』もまた、キラと同じ様に言葉を戦闘宙域へ響かせる。
が、悲しいかなラクスの知名度は地球連合軍では絶望的に無い為、その声は届かず、彼女の声を受け取るのはZAFT兵ばかりであった。
しかし、それでも。
キラが地球連合軍に、ラクスがZAFT兵に呼びかけた事で、戦場に一瞬の空白が生まれた。
攻めるべきか。
攻めざるべきか。
誰もが上の者の命令を待ちながら、完全に止まってしまった戦場でジッと何かを待つ。
だが、その静寂はもはや狂気の海に落ちていた者たちにとって、ただの時間稼ぎでしか無かった。
もしかしたら平和に繋がったかもしれない時間は、憎しみを全身に宿した愚かなる者たちによって打ち砕かれる。
宇宙要塞ヤキン・ドゥーエ内部の指令室で、憎しみに支配された男パトリック・ザラはラクスの言葉を嘲笑しながら準備を進めていた。
かつて、ラクス・クラインが前の世界で見てしまった、おぞましき憎しみの光。
そして、アンドリュー・バルトフェルドとアイシャが『ホープ』という機体に乗った際に見てしまった終末の光。
それが今……世界に向けて放たれようとしていた。
「ラクス・クラインだと? ふん! 今更クライン派が何をしようと言うのだ。小賢しいことを。構わぬ、放っておけ! こちらの準備も完了した」
「ジェネシスは最終段階に入る。全艦、射線上から退避!」
「部隊を下がらせろエザリア! 我等の真の力、今こそ見せてくれるわ!」
パトリック・ザラの指示により、エザリア・ジュールは宙域の全モビルスーツへ警告を出す。
無論それは、フリーダムやジャスティスも同様であり、その指示を見たキラとアスランは、味方機に向かって叫んだ。
「ラクス! マリューさん!!」
『カガリ! 部隊を下がらせろ! ジェネシスが撃たれる!!』
そして、時を同じくして地球連合軍艦隊にも一つのメッセージが送られていた。
「艦長! セナ様よりメッセージです!」
「なに!?」
「全軍射線上より退避? ジェネシス!? アズラエル様!」
「艦を後退させろ! 全軍に指示を出せ!」
「ハッ!」
「ZAFT軍が撤退してゆきます!」
「急がせろ!」
慌ただしく移動を始める連合とZAFT。
その戦いの向こう側で、ここまで眠っていた一つの悪意が目を覚まそうとしていた。
『ジェネシス、照準用ミラー展開』
『起動電圧確保。ミラージュコロイド解除』
『フェイズシフト展開』
宇宙の暗闇に現れた灰色のソレは本来、外宇宙探索のための宇宙船加速装置であった。
だが、激しい憎悪がその様な物すら兵器として変えてしまっていた。
『ヤキン・ドゥーエ後方に巨大な物体!』
『あれが……!?』
そして……。
やはりというべきか。セナの指示もまた遅かったのだ。
もっと早く地球連合軍に警告を送っていれば良かったかもしれない。
しかし、圧倒的な物量で部隊を展開していた地球連合軍は、その分各部隊の動きも遅く、撤退に手間取ってしまった。
だから……。
『ニュートロン・ジャマー・キャンセラー起動。ニュークリアカートリッジを撃発位置に設定。全システム接続オールグリーン』
パトリック・ザラは逃げようとしている地球連合軍を見て、嘲笑い、モニターの向こうに殺意と狂気を入り混じらせた感情を放つ。
「思い知るがいいナチュラル共。この一撃が我等コーディネーターの創世の光と成らんことを!」
そして、パトリック・ザラは遂に……引いた。
「発射!!」
その引き金を。
この最終戦争が、どうあっても終わらない憎しみと憎しみをぶつけ合うだけのモノになってしまうであろう。
最後の引き金を。
そして、パトリック・ザラの指示の下、放たれたジェネシスという名の光は、ミーティアの比ではない光で宇宙を照らし出した。
どこまでも輝く様な眩い光で世界を染め上げて、新たなる怒りと憎しみを生み出す為に。
終わりの時は……もうすぐそこまで迫っていた。